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(どこだ、ここは? どっかの神殿?)
 薄く目を開いた桐畑は、ぼんやりと思考していた。燻んだ白色の天井ははるかに高く、石造りなのか、そこはかとなくひんやりとした感じがする。
(何だったんだ、さっきの神のお告げみたいな出来事はよ。……ブラム以外に悩んでる奴がいる? 誰かいたかよ)
 桐畑は不思議に思いつつ、ゆっくりと身体を起こした。そして自分が木製のベッドの上で、白い布団に包まれていると気付いた。
「やっと起きたなー。まさか、病院送りにしちゃうなんて思わなかったよ。そんなに強く蹴った覚えは、ないんだけど、もしかして、スランプ? って、気絶に、好調も不調もないか」
 気易い声の主は、ベッドの脇で立つエドだった。右手の人差し指で首の後ろをかりかりと掻いている。大人しめの顔は、呆れているようにも、申し訳なさそうにも見えた。
 桐畑は、エドの背後に視線を移した。
 バスケットボール・コートくらいの大きさの部屋いっぱいに、桐畑が使っている物と同じベッドがあった。天井と同色の壁のところどころには、かまぼこ型の窓があり、向こうには、青々とした芝生が広がっていた。
 数人いる白衣の看護士の胸には、ホワイトフォードのシンボル・マークがあった。桐畑は今いる場所が、ホワイトフォード校の敷地内にある病院だと予想を付ける。
「ほんと悪かった。俺のヘタレさのせいで、貴重な貴重な鍛錬の機会を一瞬で終わらせちまってよ」
 エドを見詰め返した桐畑は、心から謝った。詳細には知らないケントの経歴に触れぬよう、慎重に言葉を選んではいたが。
 桐畑の返事を聞くなり、右手を下ろしたエドは悪戯っぽく笑った。
「かなーり良いタイミングでのお目覚めだよ。もう二限目も終わって、結社の活動が始まる十五分前だし。あ、もしかして、寝たふりをかましてたとか? ケント、ちゃっかりしてんなー」
「俺は、んなせこい真似はしねえよ。けど、そんなに気絶してたのかよ。授業は楽しみだったし、なーんかどーにも、時間を損した気分だぜ」
 桐畑は即座に本音を漏らした。
「授業はしゃーないとしてもさ。このままだったらケントは、昼飯抜きで練習になっちゃうな。ひとっ走りして、取ってきてやろうか? ばっちりエネルギーを溜めとかないと、あの殺人練習には、耐えられっこないよな」
 真顔のエドから、軽い口振りで提案が来た。
「気遣い、サンキュ。でも遠慮しとくわ。腹は減ってないし、練習時間が勿体ない」と、桐畑は静かに即答した。
 すると、エドは裏表のない笑顔を浮かべた。桐畑のいるベッドに手を突き、身体を乗り出してくる。
「じゃあケントのやる気を大いにソンチョー(尊重)して、決死の断食練習と行っちゃいますか。準決も近いしちょっと変わった感じで練習して、ぐーんとレベル・アップしないとだしな。ま、俺はがっつり、食ったんだけどね」
 エドの燃えるような瞳には、熱い意志が感じられた。
(ここで訊かないと、ずるずる行っちまうよな)
 決心した桐畑は、小さく息を吸い込んだ。
「エド。俺はお前の過去について、知りたいことがある。できたら、正直に答えてほしい。話せる範囲で大丈夫だからよ」
 真摯さと優しさをめいっぱい籠めて問うと、エドは、笑顔のまま固まった。