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 試合終了が近づいたが、スコアは変わらなかった。どちらも決定的なシーンはあったが、キーパーの好セーブに阻まれていた。
 センター・サークルの三mほど向こうで、味方の5番がボールを受けた。平行の位置の遥香に、ダイレクトでパスを出す。
 遥香は左足の内側で止めて、前方を見回した。
 右のライン際では、エドが、「アールーマー!」と、間延びした叫び声とともに疾走していた。
 気付いた遥香は、右足の甲のやや外側で、擦り上げるようなキックを放った。2番に付く桐畑は、思考を巡らせる。
(ホワイトフォードのほうが、消耗が激しい感じだな。同点で延長は、勝ち目は薄いか。うし、ここらでいっちょ、全員の予想を超えてやっか)
 腹を括って、全速力で上がり始める。後ろからは、2番が追走する力強い足音がしていた。
 山なりの軌道を描いたボールは、敵陣の深くに落下。強烈な右回転が掛かっており、跳ねながらエドへと戻ってくる。
「すっげー! 超テクニカル!」
 喚いたエドは、ゴール・ラインのぎりぎりでボールに追い付き、滑り込んでコートの中に残した。常識外れの俊足に、敵は誰も従いていけていなかった。
「エド! くれ!」
 ゴール前に走り込みつつ手を挙げる桐畑は、思いっきり怒鳴った。だが、2番もきっちり追ってきている。
 エドからのセンタリングが上がった。2番の肩に腕を乗せた桐畑は、フル・パワーで跳躍。2番の跳び上がる勢いを利用して上に行き、頭でボールを叩き付けた。
 ワン・バウンドしたボールは、ゴール・ポストの内側を通過した。歓喜の桐畑は、右手を胸の前に持ってきて、ぎゅっと握り込む。
 二対一。ホワイトフォードの勝ち越しだった。