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 ブラムとの会話を終えた桐畑は、サイド・チェスト上にあった、首元が空いた白色の寝巻に着替えた。周りを見ると多くの寮生が、すでに同じ服を身に着けていた。
 二十二時、寮の代表を務める教員、ハウス・マスターが寝室のガス灯を消し、寮生たちは寝床に就いた。入浴は週に二度しかなく、今日は風呂には入らなかった。
 カーテンは完全に閉じられたため、寝室は暗闇に近かった。仰向けで寝転がる桐畑は、現代のものに近い白のシーツの布団を被っていた。
 頭上に広がる天蓋を眺めながら、桐畑はぼんやりと思いを巡らす。
(朝波やダン校長は、フットボールで人は成長できるって主張する。ブラムも二人に近いもんがあるな。「人生を懸ける」なんて、俺じゃあ恥ずかしくて口には出せないっつの。
 つくづくみんな、色々考えてるよな。俺なんか、爪の先ほどはあった才能に任せて、テンション任せでやってきただけだってのに。その結果が、見るも無残な自主退部なんだけどな)
 己の過去を振り返り、桐畑は静かに悔いる。忍耐、熟慮、献身性。遥香たちに比べて己には、欠けた要素があまりにも多く、精神的な幼さが強く痛感された。
 桐畑はその事実を受け入れた上で、考えを進める。どうすれば、彼女たちに少しでも近づけるか。どうすれば、死に際に後悔せずに一生を終えられるか。
(……ここが俺の「自分を変えるチャンス」なんかな。ならちょっと、気合を入れて頑張ってみるか。俺に何を見てるのか知らんが、朝波たちも期待してくれてるみたいだし)
 静かに決意した桐畑は、目を瞑った。梟の長閑な鳴き声が、耳に優しく響いてきていた。