「……なあ。飲み会でさ、彼女居ないのかとか、結婚しないのかとか聞かれねぇ?」
「……、毎回聞かれる……」
「やっぱり。……あれ、めちゃくちゃしんどいよなぁ……」
「しんどい……世間の『正解』を押し付けないで欲しい。僕たちは、叶わなくたって、未来がなくなって……ただ彼女を愛してるだけなのに……」

 こんな恋は、周りには理解されないと痛いくらいわかっているけれど、仕方ないと割り切れることもなく、いつしか否定されるのが嫌で、飲みの席や友人同士の集まりで恋話を振られても曖昧に笑って誤魔化すようになってしまった。
 彼女への想いは恥じるべきものでもないのに、否定されたくないから秘めるしかない。

 そんな気持ちを唯一共有出来る相手が、恋敵でもある弥白だと言うのは些か複雑ではあるけれど。それ以上に特別で、得難いものだと理解している。
 こうしてこいつと話している間は、過去の想いではなく現在進行形の恋なのだと思えた。
 誰からも否定される彼女への愛を、彼の前でなら許される気がした。

「……僕ね、ずっと夢だったんだ。芽依菜と幸せな家庭を築くの……」
「はは、赤い屋根の大きな白い一軒家で、犬でも飼いながらってか? ベタだなぁ……」
「ちょっと、揶揄わないでよ」
「悪い悪い」
「……小さいアパートでも、何でも良い。彼女が居てくれたら、きっと幸せだった」
「何だよ……もう幸せになれないみたいに言うなよ」
「あ、いや……ごめん……そんなつもりじゃ……。……ほら、過去にもまだ僕の知らない芽依菜がたくさん居るしね! 思い出の中で、想像の中で、彼女には、いつだって会える……」
「ユウリ……」

 暗くなりかけた空気を戻そうと、僕は手元のアルバムをパラパラと捲る。
 弥白が持ってきた高校のアルバムの中、見慣れない制服姿の芽依菜はいろんな写真に映っていて、人望があったのだと自分のことのように誇らしくなった。

「……俺も、さ」
「ん?」
「あいつが居なくなってから、出口のない迷路に迷い込んだみたいで……幸せな未来なんて思い描けなくて、立ち竦みそうになることがある」
「え……弥白が?」
「なんだよ、意外か?」
「うん……弥白、コミュ強で友達多そうだし、会社もめちゃくちゃ良い所だし……芽依菜のことを除いても、十分幸せそうだなって」
「……俺さぁ、元々勉強も苦手だったし、人付き合いもそこまで得意じゃなかったんだぜ?」
「え!?」

 予想外の言葉に、僕は思わずまじまじと目の前の彼を見つめる。
 高身長で整った顔立ちをした、明るい声と笑顔が似合う男は、僕の反応に情けなく眉を下げてから、卒業アルバムの隅っこの写真を指差す。

「これ、一年生の頃の俺」
「……は!?」
「まあ、こんな酷かったのは一年の最初の頃だけだったけどな」

 そこに映っていたのは、皆が楽しそうに過ごす端っこで気まずそうに背を丸めて佇む、長い前髪で顔を隠すようにした大人しそうな少年だった。