たまきは東京の下町にある高校に通う、高校二年生。

 これと言って特徴のない彼女の唯一の個性は、悲しいほどに麺をすする才能がない、という事実だ。

 放課後、麺をすする修行と称して、友人である関本と週に数回、さまざまな麺類を食べ歩いているが、毎回すすれずに撃沈している。



 学校の昼休憩。たまきと関本は学食に来ていた。

 たまきが注文したのは醤油ラーメンだ。昼休憩たりとて、麺すすり修行は怠らない。今度こそ、麺を心ゆくまですすって見せる。たまきの野望は熱く燃えていた。

「あ、ちょっと待って」

 関本がどこからともなくハサミを取り出すと、たまきのどんぶりを奪い取り、ちょきんちょきんとラーメンの麺をハサミで短くカットしていく。

「ちょっと待って、なにしてんの」

「なにって、麺をカットしてるだけだけど」

「なっ……! わたしの楽しみを奪う気?」

「楽しみ? 毎回となりで咳き込まれてたら、こっちも気になって飯どころじゃないんだけど。いつ喉に詰まらせて死ぬんじゃないかって、気が気じゃない」

「死ぬって大げさな」

 たまきはとなりに座る友人が、軽快に塩ラーメンをすすっているのを、うらめしそうに見つめた。

「いいいから、このラーメンを食べなさい」

 たまきの前に戻された醤油ラーメンの麺は、すっかり短くカットされ、まるでベビースターのようになって、どんよりとスープに沈んでいた。