町子はもともと大きな目をもっと見開いて、正幸の顔に穴が開くのではないかと思うほど見入っていた。

 確かに正幸が他の男性と比べて格好良い顔をしていることは認めるけれど、そんなに見つめてしまう程のものなのか、と花子は内心理解に苦しんでいた。


 彼女は彼の風貌よりも自由を求めて着いてきた身。

 したがって好みの容姿や面構えなどにはどちらかといえば無頓着であった。



 「花子こそ、どうしてこのお方のことを知っているの?」

 町子は正幸から目を逸らさないまま、言葉だけを花子に向けてそう言った。再び沸き起こった“なんと言って誤魔化そう”問題に、花子は正幸の力を借りるべく視線をそちらに合わせた。


 すると何かを読み取った正幸は、二ッコリと笑って言った。「ちょっと事情がありましてね」と。

 ホッと肩の荷を下ろして、あとは町子が何も追求せずに他の話題を振ってくれることだけをひたすらに祈った。今まで姉には何度も愚痴や相談を聞いてくれていたため、こうして誤魔化すことに若干の罪悪感も感じてしまう。



 「(ごめんなさい、お姉様。話せるときが来たらきちんと話すわ)」

 「……花子、こちらへ」

 「え?は、はい」


 すると、町子は花子の腕を引いて正幸から距離を取った。

 細く、白い腕がキュッと花子の腕を締める。



 「ど、どうしたのお姉様」

 「あのお方をどういう経緯で知ったのか話しなさい」

 「えっと、た、たまたま知り合いになっただけなの!お、お姉様こそ、どうしてお知り合いに?」



 町子の怒った様子に、花子は動揺を隠しきれなかった。

 姉の怒った顔を見たのは、これで二度目だった。

 一度は花子がまだ幼いころ、姉の勉強道具に落書きをしてしまったとき。そして二度目が、今だ。町子は普段から物静かな分、怒るとまた違った恐怖が浮かび上がってくるのだ。


 れど今回はどうしたものか。

 怒りの表情を見せた町子であったが、次の瞬間には目を伏せ、悲しみに暮れた顔を浮かべている。その感情に追いつけなくなった花子はいよいよ困り果て、姉を気遣うようにもう一度「どうしたの?」と声をかけた。

 すると町子は、おもむろに口を開いて過去のできごとを語った。
 

 「あのお方は、正幸さまは、私が人生で初めて好きになった方です」

 「……え!?」

 「花子にも秘密にしておいて、と言って伝えたことがあるでしょう?あのあと私は彼に気持ちを伝え、そしてはっきりとお断りされたのです」

 「そ、そんな……っ!」