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【一九十〇年 二月十日】
私の家に、自由はない。
大層な一族の血を引いているだとか、伯爵の位を受け継いでいるだとか、目には見えないモノを皆病気のように崇拝し、またそれに似合う者であれと誰に言われたわけでもない言葉を骨の髄まで染み渡らせ、無駄のない毎日を過ごすことに命をかけている。
父の笑った顔など今まで一度たりとも見たことはないし、母は姉と私を産んだときでさえ父が病室へ来ると知るとお産後すぐに化粧を施し、服装を整えたのだという。
家のしきたりというものは異常だ。
箸は三センチ以上汚してはならない、靴を汚してはならない、服にシワを付けてはならない、近い買い物であっても完璧な装いをしなければならない。
皆、どうかしている。
無駄な時間こそが至福のときであり、空気と共にご飯を流し込むことで本当に美味しいモノを感じることができ、服にシワを付けるなと言うのなら端(はな)から着るなと私は言いたい。
あぁ、ダメだ。日記の最初の一枚がこのようでは幸先が悪すぎる。
けれどもこれが、私、末広 花子の本音なのだ。
誰にも言えない、心の内に秘めた真の言葉たち。
今日から私は、ここにありったけの想いをぶつけようと思う。
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