ダンジョンの壁には、魔法石が埋まっていることがあるらしい。

『キャル、ぜひ魔法石を食わせておくれ』

「あいよー」

 魔剣の切っ先を、魔法石に差し込んだ。

 魔法石が、レベッカちゃんの装飾に吸い込まれていく。

『おおお。これはすばらしい。久々に純度の高い魔力だぜ』

[魔剣【レベッカ】のレベルが、三に上がりました]

 レベッカちゃんが、また強化されたらしい。

 もらえたスキルは、【火球】と。文字通り、ファイアーボールだよね。剣の先から、炎が出るのだろう。飛び道具としては、オーソドックスだね。

『いいねえ。ここは採掘場だったのかねえ?』

「かもしれないね」

 魔剣が、保管されていたくらいだもん。ここで鉱石を採掘して、剣の材料にしていた可能性は高い。

 実験として、襲いかかってきたホーンラビットを火球で焼いてみる。
 おお、剣で鉄板焼きにしなくても、中までこんがり焼けました。
 さっき食べたばかりだけど、おやつとしていただきます。ごちそうさま。

「切れ味の方も、試したい」

『おあつらえ向きの敵が来たよ』

 現れたのは、スケルトンだ。手に棍棒や盾を持っている。盾がわずかに焼け焦げているのが、気になるなあ。

「うりゃ」と倒すと、レベルが【七】に上がった。

『スケルトンの数が、増えてきたね』

「なんか、骨も焦げ焦げな感じだったよ」

『嫌な予感がするよ。気をつけるんだ』

「うん。よし」

 また別のフロアにて、鉱石を発見した。

『他にも、レアな鉱石が見つかった。これは……おお、いいね』

 レベッカちゃんは、うれしそうに叫ぶ。

 わたしとしても、レベッカちゃんを立派な魔剣に育って、母心が湧きそ――おおっ!?

「わーっ!」

 突然、火球が飛んできた。

 わたしはとっさに、回避する。

 人間が撃ってきたものではない。遥かに大きなファイアボールだ。

『フロアボスだ!』

 どうやら、このダンジョンのボス領域に入ってしまったらしい。

 ボスは、口から炎の息を吐きながら現れた。全長五メートルほどの、巨大なトカゲである。四足歩行の足が地面を踏みしめるたびに、床にヒビが入った。

『ファイア・リザートだと!?』

 やばいって。詰んだよこれは。炎属性の剣に、炎なんて。

 リザードは、スケルトンの身体を踏み潰している。

 まさか、スケルトンの身体が焦げていた原因は。

『コイツのせいで、冒険者はやられていたみたいだね! 死んだ冒険者が、スケルトン化していたみたいだよ!』

 やっぱりーっ!

「ファイアボール!」

 試しに、ファイアーボールでけん制してみる。

 だが、やはり火球は炎をまとう皮膚にかき消された。

「だったら!」

 レベッカちゃん譲りの身体能力で、斬りかかる。

 それでも、刀身が硬い皮膚に弾かれてしまった。炎属性同士のため、ダメージも通らない。

「だったら!」

 跳躍して、回転の力を利用して。

「からの!」

 斬撃を見舞った。

 しかし、傷ひとつつけられない。

『くるぞっ、キャル!』

 尻尾による反撃が、襲いかかってきた。

 かろうじて、攻撃を受け止める。ノーダメージで受け切ることができた。しかし、大きくふっとばされる。ゴロゴロゴロ、っとわざと後ろ周りのまま後退した。

 リザードが、息を大きく吸い込んだ。火炎のブレスを放出する。

「おおおおお!」

 熱線に追いかけられながら、扇状に逃げる。

「ダメだ、レベッカちゃん! ビクともしないよ!」

『キャル! あっちに【セーフゾーン】がある! 退避するんだよ!』

 レベッカちゃんが、赤い光線を放つ。

 その先には、結界が張られた空間が。

 わたしは一目散で、セーフゾーンに駆け込む。滑り込みセーフ。

 ダンジョンのボス部屋には、こういったセーフゾーンという場所がある。一旦退却し、態勢を立て直すための場所だ。

 ボスの間には必ず、セーフゾーンが存在する。
 善良な高位存在……いわゆる神様が、お情けで設立したのではない。
 セーフゾーンがあるダンジョンに、その無尽蔵の魔力を求めてフロアボスが誕生するのだという。めんどくせえ。

「どうしよう。レベッカちゃん」

 レベッカちゃん譲りの剣術をもってしても、あの魔物は倒せない。属性が違いすぎる。

 なんとかできないか、レベッカちゃんの性能をもう一度チェックした。

【レアリティ:E、カテゴリ:C、クラス:A:六四七二】か。

 装備品のレアリティは、SからEまである。この自称レプリカ・レーヴァテインの最低ランクの【E】だ。

 品質は【Calc】、つまり石ころ並である。

 クラス、いうなれば『用途』は、【Academic】とあった。アカデミックってことは、訓練とか学問用途ってわけね。

 番号はたしか、六四七二番目に作られたっていう型番だったっけ。

「学問ってことは、このレプリカってのは、なにかの実験用品だったって意味じゃないかな?」

 例えば強化とか、錬成とか……錬成!

『そうだよ。錬成だっ!』

 レベッカちゃんが、わたしに問いかける。

「どうしたん、レベッカちゃん?」

『アタシ様を錬成すれば、アイツに対抗できるんじゃないか?』

「作り直したところで、わたしはポンコツだよ」

『違わない! あんたは聖剣を修繕したんだ! そんなこと、並の錬金術師にできるわけ、ないじゃんか!』

 レベッカちゃんが、わたしに言い返す。

「だよね。レベッカちゃんは、わたしをここまで連れてきてくれた」

 そんな魔剣が、ウソをつくわけない。

「もし本当にダメだったら、わたしの力が足りなかっただけだよね。やってみる価値はある!」

『キャル。お前さんって、本当になにも疑わないんだな? もし魔剣としてガチで覚醒しちまったら、あんたの魂を食っちまうかも知れないのに』

「構わない。ここまできたら、一蓮托生ってだけだよ」

 レベッカちゃんに精神を侵食されるか、リザードの胃袋に転居するか、ってだけ。

 こんなところで、終わりたくない。情けない人生だったなんて、思いたくないんだ。

 だったら、レベッカちゃんの言葉に賭ける。

「いいの? 錬成に失敗するかも知れないのに」

『うまくいくさ。だってアタシ様は、そのための【学術用品(アカデミック)】かもしれないだろ?』

 レベッカちゃんは、自ら進んで実験体になってくれると約束してくれた。

『方法は、ある』

 インベントリで確認する。

『さっき調べたら、これはレアの魔法石【紅蓮結晶】だった。あのリザードは、この魔法石を飲み込んだせいで、炎の力を得たらしい』

「ふむふむ……錬成素材としては、最適じゃん」

 この紅蓮結晶だが、錬成以外に別の用途がある。わたし自身が取り込めばいい。

 炎の加護がなくても、剣自体の強度が増して、わたしの身体能力も上がる。あのリザードだって、軽く倒せるようになるだろう。
 しかし、威力が強すぎる。モンスターの体組織ごと破壊するため、リザードからのドロップが減ってしまう。

『大雑把に、相手を倒すならこれだ』 

「調整が、難しいんだね」

『アタシ様が、制御したほうがいいね』

 レベッカちゃんの、いうとおりだ。これは、錬成に使おう。

「あ、そうだ。この魔法石をもらったんだった」

 わたしはアイテムボックスから、黒い石を取り出した。小さくて、黒壇のように艶がある。

『なんだい、それは……まさか! よく見せてくれ!』

「いいよ。【原始の炎:極小】だって」

『本物の、原始の炎か!?』

 レベッカちゃんの声が、うわずった。そこまで貴重なアイテムなんだ。

「そうだよ。すごいスキルが付与されるんだってさ。教頭先生からもらったんだ」

 魔剣を修復したお礼に、教頭先生がわたしにプレゼントしてくれた。「いつか、自分の相棒になるほどの魔剣に出会った時、これを使いなさい」と。

『間違いない。正真正銘、原始の炎だ』

「知ってるの、レベッカちゃん?」

『ああ。とんでもないスキルが手に入るよ』

 これなら、あのリザードを倒しても、アイテムが手に入れられるそうだ。

『さすが、魔法学校だね。ヤバいアイテムを所持してやがる』

「なんだろう、原始の炎の持つスキルって?」

 抽象的すぎて、わからん。さっぱりプーである。



『属性貫通だ』