グミスリル鋼の騎士は、全身が青黒い。
ヨロイの表面を、怨念で固めているかのようだ。
青黒い騎士の周りには、冒険者たちの死体が転がっている。
ボスである騎士を、討伐しに来たのだろう。すべて、返り討ちにあったか。
「彼らの無念は、我が晴らす。キャル殿、手出し無用」
「うん。でも危なくなったら、こっちが勝手に動くね」
いくら使い魔といっても、死なれたらたまったもんじゃない。
「魔女を倒すまでの、契約だろうからな」
「違うって。ずっといっしょに、旅をするつもりだよ」
わたしがいうと、フルーレンツさんは一瞬固まった。
「永久的な、契約だとは。こういうのは、目的を果たすまでのものだと」
「いえいえ。剣術でも、参考になる点は多いからね。レベッカちゃんの助けになってよ」
「……御意っ」
ボス騎士と、フルーレンツ王子が対峙する。
両者、同時に動いた。
「ぐあ!」
インパクトの瞬間、フルーレンツさんが弾かれる。
相手はミノタウロスより、背が高くない。
だが、あんな巨人より腕力が強かった。
王子の一撃を、騎士は軽くいなす。
まさに、魔剣に操られていたときの王子を思わせた。
「ならば!」
王子が、戦法を変える。
両手剣を直し、ショート―ソードでの切り合いにシフトした。
円形盾で敵の攻撃を受け流し、懐に飛び込む。
「そこ!」
どうにか王子は、敵の顔面に剣を突き刺す。
「むっ!?」
すぐに、王子は相手から飛び退いた。
「こやつも、スケルトンか」
『だったら、炎が効くはずだよ! 喰らいな!』
レベッカちゃんが、わたしと意識を交代する。
炎をまとった魔剣を振るって、魔物に叩き込む。
『なんだってんだ!?』
「あれは、スケルトンではありませんわ」
たしか、デーモンっていっていたっけ。こんなに強いんだ。
『じゃあ、【ライカーガス】ってわけかい』
ライカーガスとは、「どこぞの国の王族」という意味である。
アンデッドの姿をとっているが、正確には魔族だ。
「来るよ!」
アンデッドになった冒険者が、わたしたちに襲いかかってきた。
「雷霆蹴り!」
ジグザグ状に、雷光が轟く。
アンデッド冒険者を、クレアさんが片っ端から破壊していた。
「ザコはこちらに任せて、キャルさんはボスをお願いします!」
「わかった! わたしが正面で相手をするから、フルーレンツさんは側面から!」
「うむ! この際、共闘する!」
フルーレンツさんが、こちらの指示通りに側面から敵に切りかかる。
サシの勝負にこだわっていたフルーレンツさんも、さすがに勝てないと思ったか。
二対一になっても、相手の優勢は変わらない。
こんなに、強いのかよ!
「さすがデーモン! やる!」
フルーレンツさんにとっても、相手にとって不足なしと言ったところなのだろう。
苦戦しつつも、高揚している。
「ドワ!」
真正面から、騎士に斬りかかられた。
おお。無事である。あってよかった、第三の腕。
「からの! 【ブレイズ】!」
相手の剣を持つ手を抱え込み、一緒に火だるまに。
『炎属性は効かないだろうけど、ずっと燃え続けて焼け死なないってわけじゃないだろうよ!』
ましてレベッカちゃんには、【原始の炎】がある。
黙っていても、ダメージが通るはずだ。
『しぶといね!』
いくら燃やしても、ライカーガスは倒れない。
「決定的な一撃が、足りないみたい」
『くそ! 面倒だねぇ!』
レベッカちゃんは、一旦魔物から離れる。
「グミスリルに、相殺されているのかも」
『そんな効果が、あるようだね』
グミスリル製の実力を、垣間見た。
たしかに、この防御力は凄まじい。
【原始の炎】さえも、軽減するとは。
本格的な防具の調節をされると、レベッカちゃんでも苦戦するようだ。
かといって呪い焼きなんてしたら、せっかくのグミスリルさえ破壊してしまう。
おそらくあのヨロイに、グミスリルは使い込まている。
魔女なら、それくらいの悪行はするはず。
「特にこれといって弱点もなさそうだし、動力がグミスリルなのはわかってるんだけど」
……っ!
「わかった。脆いところを狙おう」
『秘策を、見つけたんだね?』
「うん! フルーレンツさん!」
わたしは、フルーレンツさんに指示を送った。
「承知した!」
フルーレンツさんとライカーガスが、切り合う。
懐に飛び込めないほどの、激しい武器同士のぶつかり合いが続いた。
「今だよ、レベッカちゃん!」
『おう! おおおおお!』
レベッカちゃんが、騎士を背中から切りかかった。
ただ、相手の身体を斬るわけじゃない。
狙うのは、ヨロイとヨロイを結ぶ、魔力の繋ぎ目だけ。
さすがレベッカちゃん。慎重にスパッと、金色の装飾だけを剣先で切った。
それだけで、あれほどの猛威を振るっていた騎士の体勢が崩れる。
「フルーレンツさん!」
同じように、フルーレンツさんもショートソードをふるった。
魔力同士の繋ぎ目を、スパスパと切り捨てる。
二人の器用さがなければ、できない芸当だ。
騎士ライカーガスが、戦闘不能になる。
ヨロイをすっかり失った敵が、弱点の魔法石を露出した。
『トドメだよ!』
ドスン、と、レベッカちゃんが剣を魔法石に突き立てる。
どうにか、ボスを退治することができた。
『ところで、フルーレンツ。このヤロウは、知り合いかい?』
レベッカちゃんが、ライカーガスのカブトを剥ぎ取る。
「むう。やはり、デーモンの顔にしか見えぬ。我が配下や、敵の部隊にも、このような者はいなかった気がする」
『そうかい』
魔女イザボーラは、デーモンすらも操るのか。
*
「そんなに調べても、資料なんて出てこないでヤンスよ」
リンタローは、本の虫になったヤトに辟易する。
二人は未だに、港町ファッパに腰を据えていた。
魔女イザボーラについて、調べるためだ。
風魔法で一冊ずつ本のホコリを払い、そのまま魔法で本棚にしまう。
その度にヤトが別の本を棚から出すものだから、片付けが終わらない。
財団の書庫を片付けることを条件に、蔵書や資料類を借りているだけだと言うのに。
こちらがいくら整理しても、ヤトが散らかしてしまう。
「まって。もうすぐ出てくる。あんたは、魔女について調べて」
ヤトは、コーラッセンについて調べ物をしていた。
「魔女イザボーラの伝説なんて、ソレガシたち天狗でさえ知ってるでヤンス。エルフ界隈で、知らないヤツはいないでヤンスよ」
イザボーラは、エルフのハミ出し者だ。
自分の力を過信し、自らを「魔王をも超える最強の魔女だ」といい出し、里を飛び出したのである。イザボーラの故郷が宗教色の強い、閉鎖的な地域だったのもあるだろうが。
当時からイザボーラは、闇に魅入られた厄介オタクとして有名だったが、余計にタチが悪くなったようである。
魔剣の流通ルートなどの情報から、リンタローはおそらくツヴァンツィガーを狙っているのがイザボーラだと気づく。
ファッパの財団に聞いたところ、やはりイザボーラが各地で悪さをしていることがわかった。
本当にイザボーラは、魔王に取って代わろうとしているに違いない。
しかし、ヤトはもっと遡って、コーラッセンの情報を集めだしたのだ。
「どうしてイザボーラが、ツヴァンツィガーにこだわっているのか。どうしてあの王子を手下にしたのか、これでわかるかも」
本のページを、ヤトが指さしている。
勇者の特徴、剣術の内容などが、記されていた。
いずれも、フルーレンツと共通するものばかり。
となれば、なぜフルーレンツがあそこまで強かったか説明がつく。
「なるほど。フルーレンツ殿は、勇者の父親でヤンしたか」
勇者の強さは、フルーレンツ・コーラッセンの血を引き継いでいたいからなのだろう。
その血脈は、今も。
「たしかツヴァンツィガーには、小さい王女がいた。ツヴァンツィガーは代々、勇者の血族」
だとしたら、狙われるのは……。
リンタローとヤトは、資料庫を飛び出した。
ヨロイの表面を、怨念で固めているかのようだ。
青黒い騎士の周りには、冒険者たちの死体が転がっている。
ボスである騎士を、討伐しに来たのだろう。すべて、返り討ちにあったか。
「彼らの無念は、我が晴らす。キャル殿、手出し無用」
「うん。でも危なくなったら、こっちが勝手に動くね」
いくら使い魔といっても、死なれたらたまったもんじゃない。
「魔女を倒すまでの、契約だろうからな」
「違うって。ずっといっしょに、旅をするつもりだよ」
わたしがいうと、フルーレンツさんは一瞬固まった。
「永久的な、契約だとは。こういうのは、目的を果たすまでのものだと」
「いえいえ。剣術でも、参考になる点は多いからね。レベッカちゃんの助けになってよ」
「……御意っ」
ボス騎士と、フルーレンツ王子が対峙する。
両者、同時に動いた。
「ぐあ!」
インパクトの瞬間、フルーレンツさんが弾かれる。
相手はミノタウロスより、背が高くない。
だが、あんな巨人より腕力が強かった。
王子の一撃を、騎士は軽くいなす。
まさに、魔剣に操られていたときの王子を思わせた。
「ならば!」
王子が、戦法を変える。
両手剣を直し、ショート―ソードでの切り合いにシフトした。
円形盾で敵の攻撃を受け流し、懐に飛び込む。
「そこ!」
どうにか王子は、敵の顔面に剣を突き刺す。
「むっ!?」
すぐに、王子は相手から飛び退いた。
「こやつも、スケルトンか」
『だったら、炎が効くはずだよ! 喰らいな!』
レベッカちゃんが、わたしと意識を交代する。
炎をまとった魔剣を振るって、魔物に叩き込む。
『なんだってんだ!?』
「あれは、スケルトンではありませんわ」
たしか、デーモンっていっていたっけ。こんなに強いんだ。
『じゃあ、【ライカーガス】ってわけかい』
ライカーガスとは、「どこぞの国の王族」という意味である。
アンデッドの姿をとっているが、正確には魔族だ。
「来るよ!」
アンデッドになった冒険者が、わたしたちに襲いかかってきた。
「雷霆蹴り!」
ジグザグ状に、雷光が轟く。
アンデッド冒険者を、クレアさんが片っ端から破壊していた。
「ザコはこちらに任せて、キャルさんはボスをお願いします!」
「わかった! わたしが正面で相手をするから、フルーレンツさんは側面から!」
「うむ! この際、共闘する!」
フルーレンツさんが、こちらの指示通りに側面から敵に切りかかる。
サシの勝負にこだわっていたフルーレンツさんも、さすがに勝てないと思ったか。
二対一になっても、相手の優勢は変わらない。
こんなに、強いのかよ!
「さすがデーモン! やる!」
フルーレンツさんにとっても、相手にとって不足なしと言ったところなのだろう。
苦戦しつつも、高揚している。
「ドワ!」
真正面から、騎士に斬りかかられた。
おお。無事である。あってよかった、第三の腕。
「からの! 【ブレイズ】!」
相手の剣を持つ手を抱え込み、一緒に火だるまに。
『炎属性は効かないだろうけど、ずっと燃え続けて焼け死なないってわけじゃないだろうよ!』
ましてレベッカちゃんには、【原始の炎】がある。
黙っていても、ダメージが通るはずだ。
『しぶといね!』
いくら燃やしても、ライカーガスは倒れない。
「決定的な一撃が、足りないみたい」
『くそ! 面倒だねぇ!』
レベッカちゃんは、一旦魔物から離れる。
「グミスリルに、相殺されているのかも」
『そんな効果が、あるようだね』
グミスリル製の実力を、垣間見た。
たしかに、この防御力は凄まじい。
【原始の炎】さえも、軽減するとは。
本格的な防具の調節をされると、レベッカちゃんでも苦戦するようだ。
かといって呪い焼きなんてしたら、せっかくのグミスリルさえ破壊してしまう。
おそらくあのヨロイに、グミスリルは使い込まている。
魔女なら、それくらいの悪行はするはず。
「特にこれといって弱点もなさそうだし、動力がグミスリルなのはわかってるんだけど」
……っ!
「わかった。脆いところを狙おう」
『秘策を、見つけたんだね?』
「うん! フルーレンツさん!」
わたしは、フルーレンツさんに指示を送った。
「承知した!」
フルーレンツさんとライカーガスが、切り合う。
懐に飛び込めないほどの、激しい武器同士のぶつかり合いが続いた。
「今だよ、レベッカちゃん!」
『おう! おおおおお!』
レベッカちゃんが、騎士を背中から切りかかった。
ただ、相手の身体を斬るわけじゃない。
狙うのは、ヨロイとヨロイを結ぶ、魔力の繋ぎ目だけ。
さすがレベッカちゃん。慎重にスパッと、金色の装飾だけを剣先で切った。
それだけで、あれほどの猛威を振るっていた騎士の体勢が崩れる。
「フルーレンツさん!」
同じように、フルーレンツさんもショートソードをふるった。
魔力同士の繋ぎ目を、スパスパと切り捨てる。
二人の器用さがなければ、できない芸当だ。
騎士ライカーガスが、戦闘不能になる。
ヨロイをすっかり失った敵が、弱点の魔法石を露出した。
『トドメだよ!』
ドスン、と、レベッカちゃんが剣を魔法石に突き立てる。
どうにか、ボスを退治することができた。
『ところで、フルーレンツ。このヤロウは、知り合いかい?』
レベッカちゃんが、ライカーガスのカブトを剥ぎ取る。
「むう。やはり、デーモンの顔にしか見えぬ。我が配下や、敵の部隊にも、このような者はいなかった気がする」
『そうかい』
魔女イザボーラは、デーモンすらも操るのか。
*
「そんなに調べても、資料なんて出てこないでヤンスよ」
リンタローは、本の虫になったヤトに辟易する。
二人は未だに、港町ファッパに腰を据えていた。
魔女イザボーラについて、調べるためだ。
風魔法で一冊ずつ本のホコリを払い、そのまま魔法で本棚にしまう。
その度にヤトが別の本を棚から出すものだから、片付けが終わらない。
財団の書庫を片付けることを条件に、蔵書や資料類を借りているだけだと言うのに。
こちらがいくら整理しても、ヤトが散らかしてしまう。
「まって。もうすぐ出てくる。あんたは、魔女について調べて」
ヤトは、コーラッセンについて調べ物をしていた。
「魔女イザボーラの伝説なんて、ソレガシたち天狗でさえ知ってるでヤンス。エルフ界隈で、知らないヤツはいないでヤンスよ」
イザボーラは、エルフのハミ出し者だ。
自分の力を過信し、自らを「魔王をも超える最強の魔女だ」といい出し、里を飛び出したのである。イザボーラの故郷が宗教色の強い、閉鎖的な地域だったのもあるだろうが。
当時からイザボーラは、闇に魅入られた厄介オタクとして有名だったが、余計にタチが悪くなったようである。
魔剣の流通ルートなどの情報から、リンタローはおそらくツヴァンツィガーを狙っているのがイザボーラだと気づく。
ファッパの財団に聞いたところ、やはりイザボーラが各地で悪さをしていることがわかった。
本当にイザボーラは、魔王に取って代わろうとしているに違いない。
しかし、ヤトはもっと遡って、コーラッセンの情報を集めだしたのだ。
「どうしてイザボーラが、ツヴァンツィガーにこだわっているのか。どうしてあの王子を手下にしたのか、これでわかるかも」
本のページを、ヤトが指さしている。
勇者の特徴、剣術の内容などが、記されていた。
いずれも、フルーレンツと共通するものばかり。
となれば、なぜフルーレンツがあそこまで強かったか説明がつく。
「なるほど。フルーレンツ殿は、勇者の父親でヤンしたか」
勇者の強さは、フルーレンツ・コーラッセンの血を引き継いでいたいからなのだろう。
その血脈は、今も。
「たしかツヴァンツィガーには、小さい王女がいた。ツヴァンツィガーは代々、勇者の血族」
だとしたら、狙われるのは……。
リンタローとヤトは、資料庫を飛び出した。