『キャル、まずはドワーフのじじいを、どけるよ』

「うん。でもジジイって……」

 まずは、スパルトイ軍団を召喚する。
 で、ドワーフのおじいさんを回収した。

「離せい。ワシはまだ、戦えるワイ!」

 味方なのに、ドワーフさんはスパルトイたちを腕で払い除ける。

『黙って言うことを聞きな、ジジイ! 邪魔だってんだ!』

 最終的に、レベッカちゃんがわたしを使って、おじいさんを足蹴にした。

「そこまでしなくても」

『ああいうのは、わかりやすくやった方がいいんだよ』

 それより注目は、目下の敵だ。

 スパルトイが寄り集まって剣士に斬りかかる。

 だが、ガイコツ剣士はスパルトイを歯牙にもかけない。斬ろうともせず、ただ払うのみ。

 とはいえ相手からの気合だけで、スパルトイたちは腰を抜かし、退散してしまう。


「だったら、ゴーレムを召喚して」

『あいよ。来な、ゴーレム!』

 感情を持たないストーンゴーレムなら、止められるか?

 しかし、結果は同じだった。
 剣士の圧倒的な魔力の前に、ゴーレムが硬直してしまう。

「召喚士のいうことより、あちらの気迫に負けるなんて」

『どうも、違うみたいだね。雷属性のせいさ』

 電撃を地面に走らせて、ゴーレムの可動部を制御してしまったようだ。

『とんでもないやつだよ!』

「うん。でもさ」

 わたしは、魔剣の心臓部に注目する。

『呪いだね。手練の剣士が、呪いでムリヤリ動かされているんだよ、きっと』

「わたしも、同じ意見だよ」

 あんな使い方が、呪いにはあるのか。

『魔剣の持ち主は、相当に性格が悪いよ!』

「だろうね。まずは、あの剣士をなんとかしないと」

 ガイコツ剣士を、呪いから解放してあげよう。

「まずは、相手の動きを止めて!」
 
『よっしゃあ。おらああ!』

 グレートソードほどの大剣同士が、ぶつかり合う。
 相手もこちらも、同じように片手で振り回していた。

 こちらは剣を逆手に持って、蹴りも攻撃方法に加える。
 ガイコツ剣士の持つ魔剣に足を乗せて、レベッカちゃんはローリングソバットを繰り出した。

 剣士は魔剣を地面に突き刺し、キック攻撃をこらえる。
 ムチャな体勢から、こちらにアッパー気味に斬撃を見舞った。

『なあ!?』

 あの状態から、持ちこたえるか。

 しかし、相手には脳がない。
 脳しんとうを起こさない相手に、こめかみへの攻撃は無意味だったか。

 あくまでも肉弾戦は、肉を持った相手を想定した攻撃法だ。
 まして、骨格を砕くという方法も、効果は薄いようだ。
 骨だけの相手なら、脳も血管もない。

 竜巻のような剣士の動きに、レベッカちゃんも翻弄されている。

 レベッカちゃんの剣術にさえ、追いつける腕前とは。

 そりゃあ、リンタローやクレアさんが苦戦していたくらいだし。
 
『うおっと! 【ファイアボール】!』

 けん制のため、火球を打ち出す。

 だが火球は、ガイコツ剣士を覆う雷のフィールドによって阻まれた。

 こちらが突き攻撃をしても、身体をすり抜けて逆にカウンターをしてくる。しかも、かなりスレスレに。
 雷撃のエンチャントもかかっており、攻撃の度に速度も増している。
 だんだんと、こちらのスピードを凌駕しつつあった。

『肉を切らせて骨を断つっていうけど、肉を切る手順を無視してやがる!』

 手強い!

「だからこそ、私がいる」

 ガイコツ剣士が、踏み込もうとしたときだ。
 剣士の足元が、凍りついている。

 死神の鎌が、ガイコツ剣士から近い地面に突き刺さっていた。

「【フロスト・ノヴァ】」

 直接攻撃ではなく、氷結魔法で足場を凍らせただけ。
 とはいえヤトは氷魔法によって、ガイコツ剣士を捉えた。

【原始の氷】の効果である。

 ガイコツ剣士はあらゆる属性効果を、魔剣の雷属性で防いでいた。

 しかし【原始の氷】は、属性を貫通する効果がある。
 どんな相手をも、凍らせるのだ。 
 
 こちらに注意が向きすぎて、ヤトの存在に気づかなかったか。

 チャンスだ。 


「エンチャント。【呪い焼き】!」

 わたしは、レベッカちゃんに呪いを破壊するエンチャントをかける。

【第三の腕】を発動し、盾を前に固定した。

 続いて、レベッカちゃんを地面に突き刺し、柄頭の上に自分の腕を固定する。

 呪い焼きの効果が、盾に流れていく。
  
『……からのぉ! ディス・レイ!』

 盾が、真っ二つに開く。

 中央の魔法石が、青白い色を放った。

 直線状の閃光が、剣士に向かって射出される。
 
 シールドは、カリュブディスから手に入れた【抹消砲(ディスインテグレイト・レイ)】を錬成してあった。

 これが、わたしの秘密兵器だ。
 
 わたしが放った抹消砲を、ガイコツ剣士は正面から受け止める。

「それでいいよ!」

 ガイコツ剣士が異変に気づいたようだが、もう遅い。

 魔剣に、ヒビが。
 
 魔王カリュブディスの遺品である【抹消砲】は、無属性魔法を込めた杖である。
 さらに【原始の炎】によって、あらゆる属性を貫通するのだ。
 相手がどんな属性であっても、関係なく火炎属性ダメージを与える。
 たとえ、敵が無属性だとしても。

『そのまま呪ごと、ぶっ壊れちまいな! 魔剣!』
 

 呪い焼きスキルの効果で、魔剣が粉々に砕け散った。

 ガイコツ剣士が、吹っ飛んでいく。

『やったようだね!』

「うん。でも、魔剣が」
 
 貴重な魔剣は失ってしまった。今は、黒い塊になっている。
 鑑定してみたけど、鉄くずとしての価値もない。
 ただのモンスターとして、処理されたみたいだ。
 
 つっても、呪いのアイテムなんてこっちから願い下げである。
 呪いは、焼くに限るね。

「トドメじゃ、この!」

 倒れたガイコツ剣士に、ドワーフおじいさんが斧で殴りかかろうとする。
 
「よすでヤンス」

 リンタローが、ドワーフおじいさんを止めた。

「止めるでない、天狗(イースト・エルフ)め!」 

 羽交い締めにされて、ドワーフおじいさんがジタバタする。

 リンタローが、地味に強いな。
 力が強そうなドワーフさんを抑え込めるなんて。
 ああ、召喚クマが加勢しているからか。
 
「待たれよでヤンス、ドワーフ殿。敵の情報を聞き出すまで、攻撃は控えるでヤンス!」

「むむう。口をきく相手とは思えんが?」
 
「まあ、見ているでヤンス」

 なにやら意味深な発言を、リンタローは言う。

「う、ここは!」

 ガイコツ剣士が、額に手を当てながら立ち上がる。
 手に得物を持っておらず、混乱しているようだ。

「我は、いったい……」

「おめえさんは、魔法使いに操られていたでヤンス」

「おお。そうであったか。ダンジョンで手持ちの剣を失い、魔剣に触れたあたりまでは、覚えておるのだが」

 剣士は力なく、あぐらをかいた。

「わたしはキャル。あなた、お名前は?」

 剣士の前にしゃがんで、わたしは相手の名を聞く。

「我が名は、フルーレンツという。フルーレンツ・コーラッセン」

「フルーレンツ・コーラッセンじゃと!?」

 ドワーフのおじいさんが、カブトを落とす勢いでガイコツに駆け寄った。

「まさか、本当にフルーレンツ王子殿か!?」

「王子、か。かつて、そう呼ばれていたな」

「ば、ばかな。ありえんわい。あなたのいた王国は、このとおり滅びたと言うに」

 否定しないフルーレンツに対し、ドワーフさんが腰を落とす。
 
「国が、そうか。そなたは、我を知っておるのか?」

「ワシを覚えてらっしゃらぬか。騎士団長イーシドロールの息子、ヘルムースでありますぞ!」

「おお、ヘルムースよ。そなた、こんなに大きくなったのか」

「覚えておらぬか。まあ、ムリもあるまい。こんな老いぼれに、なってしまっていてはのう」

 ドワーフのヘルムースさんが、ドヨンとした顔に。 

「我が国は滅びたと言うが、我の働きは、無意味だったわけだな」

「残念ながら」

 剣士とドワーフの、二人だけで会話をしている。

 そろそろ、事態を把握しておきたいんだけど。
 
「あのー。お知り合いでヤンスか?」

「この方は、ワシがガキの頃に栄えて追った国の、王子様じゃ!」