ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に ~出来損ない同士でスローライフを目指していたら、魔王と勘違いされました~

 海底神殿で得た戦利品の確認をする前に、わたしたちは一休みすることにした。
 一日中、泥のように眠る。

 夕方になってようやく起き出して、クロスボーデヴィヒ財団主催のバーベキューパーティに呼ばれた。

「おいしい……」

 久々のお肉に、わたしはほっぺが落ちそうになる。

「魚もイケルでヤンスよ、キャル殿」

ラム酒を片手に、リンタローが持っているものは! 
 
「ホント? うわ。お刺身だ!」

 お刺身なんて、王都じゃめったに食べられなかったもんなあ。
 あっても、干物だったもんね。しかも、現地の数倍は塩辛い。

「ああ。おいしい……」

「いい食べっぷりでヤンスね。一杯どうでヤンス?」

 リンタローが、ラム酒をすすめてきた。

「いや。わたし飲めなくて」

 一五歳になって一応、元服はしている。お酒は飲んでいいんだけど、アルコール自体がダメっぽい。
 ラム酒の匂いを嗅いだだけで、むせてしまった。

「ごめん。いいかな?」

「そうでヤンスかー。ヤトもダメなんでヤンスよねえ。あっちは辛党でヤンして」

 ヤトは、わさびをきかせたお寿司を食べている。
 にぎり寿司なんてあるんだ。ここって。

「わたしも、あっちをいただきます……」

「でヤンスか。飲めるようになったら、おっしゃってくれでヤンス」

 リンタローはラム酒の瓶を、ラッパのように傾ける。
 クレアさんの方には、行かないんだな。
 飲めないって、わかってるんだ。
 
 クレアさんの方はフワルー先輩に、お酒をすすめられている。
 だが、あちらも飲まない様子だ。
 シューくんは、まだ未成年なのでお酒はダメ。

「フワルー、ダメでヤンスよ。飲めない人に、ムリヤリすすめたら。アルハラでヤンス」

「しゃーない。ほな、アンタが飲み」

「へーい」

 フワルー先輩がリンタローのグラスに、ワインをなみなみと注ぐ。

「じゃあ、ご返杯」

「いらんわ! それ、アンタが口つけた瓶やんけ!」

 リンタローはラム酒を注ごうとして、フワルー先輩にかわされていた。 

 さて、わたしはお寿司を、と。

「あいにく、血合いしかありません」

 板前さんが、わたしに頭を下げる。

 フフフ。わたしにお魚の知識がないと見てるね。
 
「なにをおっしゃる。骨の周りなんて、一番美味しいところじゃないですか」

「おっ。わかってらっしゃいますね」

 負けたよ、といった顔になって、アラをこそぎ落とす。
 自分たちだけで一番美味しい部分を、食べようとしていたな。

 残念でした。わたしにも、ちょっぴり分けていただきますからね。


『楽しそうだな。キャル』

 仙狸のテンちゃんにくくりつけられた、レベッカちゃんのそばまで行く。

 テンちゃんはツナ、つまり、炙ったマグロを食べていた。クマかよってくらいに、モリモリ召し上がってらっしゃる。
 
「ごめんね、レベッカちゃん」

『いいってことよ。海底神殿をまるごといただいたんだ。むしろ、食あたり気味なくらいさ』

 レベッカちゃんが食あたりって。

「明日は、絶対に錬成するからね」

『頼んだよ、キャル』
 
 
 で、翌日を迎えた。


 改めて、戦利品の確認を行う。

 妖刀のかけら数点と、魔法石はわたしとレベッカちゃんで。

 神殿を支配していた魔王【カリュブディス】のドロップ品は、クレアさんが手に入れた。

 こちらは、同じように魔王を倒したヤト組も同じである。

 ただ、二人のアイテムの種類は微妙に違っていた。

「クレアさんは武器全般。ヤト組は、防具やアクセサリが中心ですね」

 カリュブディスのドロップ品を、クレアさんは一箇所にまとめる。
 
「お好きなものを、どうぞ」

 錬成に使いたい品を、分け合う。
 
「いいんでヤンスか? そちらには、デメリットばかり残るのでは?」

「構いませんわ。お二人がそんな薄情な方たちだとは、こちらも思っていませんもの」
 
 さすがクレアさんだ。相手のことを、よく見ている。

「でもソレガシたちは、お二人がセイレーンと戦っているときに、先回りしたでヤンスよ? 薄情だとは、思わないので?」

「別に。当然の判断だと思いますわ。ワタクシがリンタローさんだとしても、同じことをしていたでしょう」
 
「欲がないどころか、お人好しすぎるでヤンス」

 リンタローは戸惑ったが、ヤトは迷わず自分の欲しい物を取っていった。

「この二人は、別にお人好しじゃない。こちらが最適な武具を選ぶと、本気で信じてる」

「でヤンスね」

 リンタローも、自分の求めている品に手を出す。

 続いて、わたしたちも同様の行為をした。

「見事に、割れたでヤンスね」


 リンタローは、敏捷性が上がるブーツなど。
 ヤトは、精神耐性の上がるアクセなどを選んだ。

 脳筋クレアさんは、攻撃力の上がる腕輪だけをチョイス。さすがというべきか。

「キャルは、ヨロイ中心?」

「うん。重めのを選んでみたよ」

 このパーティなら、今後わたしはタンクを引き受けることになるだろう。

 タンクとは、ヘイトを稼いで相手の攻撃を受ける役回りだ。
 
 どうあがいても、わたしは足が遅い。
 鈍重なわたしが速度アップの装備で固めても、足手まといになりそう。
 海底神殿での戦いで、わたしは思い知った。

 レベッカちゃんに身体強化をしてもらったけど、筋力がメインである。
 これでは、ヒット・アンド・アウェイ戦法なんてできそうにない。

 ならば素早さを捨てて、相手の攻撃は全部受け切るつもりで構えていたほうがいいのではないか。
 そう、ビルド構築を考えたのだ。

「魔法石が大量にあるから、ヨロイづくりには事欠かないよ」

「そうはいっても、専門家の知恵は必要かも」

「そこは、ぬかりはないよ」


 シューくんにも、工房に入ってもらった。
 フワルー先輩も、監修役として同行している。

「キャルさんに呼ばれるなんて、光栄ですね」

「ありがとう。こっちのムチャぶりにこたえてくれて」

 さっそくビルドの構築について、相談に乗ってもらう。

「はい。魔法ヨロイですね。古い文献を調べたら、こんなものが」


 シューくんが、ヨロイの百科事典を調べる。

「ビキニアーマーやて!?」

 先輩が、目を丸くした。

「うーん。これなら際どい露出をガマンすれば、機敏にうごけるけどね」

 肌を見せびらかすこと以外は、案外防御面で不自由しなさそう。
 一応、ビキニ素材は金属みたいだし。

『たしかに、動きやすそうだね』

 レベッカちゃんも、満更でもない様子。

「アカンアカン! こんなの! シューと二人きりのときに、見せたるわ!」

 フワルー先輩が、やたら焦りだしている。

「そういえば、先輩が学校で来ていた貝殻ビキニも、いちおう『これは【ビキニアーマー】や!』って、ごまかしていましたもんね」

「せや! あんなんでよかったら、家でなんべんでも見せたるわ、シュー! せやからキャルをビキニ姿にするんは、やめとき」

「どうしてです? わたしは一向に構いませんよ」

 フワルー先輩に続き、なぜかクレアさんまで「ダメ!」と声を荒らげた。

「クレアさん?」

 なんなんだ、二人して?
 
「キャルさん! あなたはもっとご自身の身体がいかに殿方を狂わせるか、もっと自覚した方がよろしくてよ!」

「せやで。よろしくてよ!」
 
 うーん。動きやすそうでいいと思ったんだが。

「あの、お二人には申し訳ないのですが、一応ボクは『こういうアイデアもあります』と提示しただけでして、決してキャルさんのビキニが見たかったわけでは」

 シューくんが、頭をポリポリとかく。

「せやったん!? ほんならはよ言うてえな! 本気にしてもうたやん!」

 フワルー先輩が、シューくんの肩をバチンと叩いた。

「いてて。では、候補を上げますね」

 改めてシューくんが、リストをわたしに見せる。


「本命は、こっちかなと」
 
「ドレスアーマーか」
 素材の荒い紙と絵の具を用意して、シューくんがわたしの全身像を描き始めた。

「ボクがキャルさんの体型や戦闘スタイルを分析して、提案するのは、こちらです」

 シューくんから提案されたのは、赤いドレス型のアーマーだ。
 真紅のドレスの上に、金属製のプロテクターを埋め込むというものである。

 ドレスといっても、ロングスカートで下半身を覆うって程度だ。
 レースを使うとか、豪華なものではない。

 ただ、ドレスというとクレアさん、ってイメージなんだよなあ。

「クレアさんは、どう思いますか?」
 
「ワタクシなら、ドレスアーマーは自前で持っていますわ」

 城攻めなどが発生した場合は、ドレスアーマーを着込むという。

「使ったところは、見たことがないですね?」
 
「スカートが、めちゃくちゃ重くて。とても、立ち回れませんの」

 なるほど。
 クレアさんは、飛び跳ねまわる戦闘スタイルだからね。
 
「キャルさんのイメージに合わせて、赤いドレスアーマーなんていかがでしょう」
 
「ヨロイの下には、タートルネックのホーバージョンを着るんだね?」
 
 つまり、黒いキルトのインナーを着るのか。

「はい。その上にホーバーク、いわゆる薄手の鎖帷子(くさりかたびら)のシャツを着てもOKですね。鎖帷子の利点は、重ね着ができることですから」

 シューくんからの言葉に、わたしはちょっと待ったをかけた。
 
 この上からさらにプロテクターを付けると、ずんぐりむっくりした出で立ちになりそう。
 
「フムフム。じゃあ、キルトのみで」

「わかりました。では、下の方はどうします?」

 こちらは、金属製ニーハイで固めようかなと、考えている。

「いいですね。前はミニスカートタイプで、動きやすさ重視と、で、死角となっている後方は、ロングスカートで覆うんですね?」

 薄手の生地の上に、さらにプロテクターを重ねるイメージだ。

「うん。その感じで行くよ」


 完成したイラストを、見てもらう。


「ボツですわ」

「ないわー」

 クレアさんとヤトから、強烈なダメ出しを食らう。

「キャルのアイデンティティが、全部死んでるでヤンス」

「せやな」

 リンタローと、フワルー先輩からも。

「えーっ? なんでですか?」

「なんかこう、しっくり来ませんわ。キャルさんの持ち味がすべて、消え去ったような」

 クレアさんからは、抽象的な意見が返ってきた。

「キャルは生足を出さないと、キャルじゃない」

 かなり具体的なコメントが、ヤトから飛んでくる。

「いや、生足出すってそんなに重要?」

「少なくとも、キャルに限って言えば」

 スカートの部分に、ヤトが大きくバッテンを付けた。

「こんな、足が隠れてしまうようなプロテクターは、アウト」

「マジに言うと、ソレガシもあまり賛成できかねるでヤンスよ」

 なんと、リンタローからもダメ出しを食らう。

「どうして? 足が隠れるってのは、いいことなんじゃ?」

 足の動きから、こちらの戦法を読み取るって聞いた。
 だから足が隠れるドレスアーマーは、かなり最適だって思ったんだけど。

「それは、達人の領域でヤンス。単に足を隠しているだけだと、邪魔なだけでヤンスよ。ましてや、重めのヨロイを着るんでヤンス。足さばきどころの話じゃなくなるでヤンスよ」

「さっき、自分で言っていなかった? 『鈍重だから、相手の攻撃はすべて受けてカウンターを狙うのだ』って。だから、気を配る必要はなし」

 リンタローとヤトの二人から、具体的な反論が返ってくる。

「そうでしたわ。だからワタクシも、ドレスアーマーに抵抗があるのですわ」

 だとしたら、クレアさんにドレスアーマーはこしらえないでおこう。

「キャルさんに至っては、あまりオシャレな気がしませんの。この絵のままだと、ドレスに着られていると言うか」

「そもそも、キャルはドレス姿が似合う子じゃない。どちらかというと、使用人って感じが当てはまりそう」

 お姫様二人から、トドメを刺される。

 わたしは、清楚ではないんだな。

「ですので、こういうのをご提案いたしますわ」

 クレアさんシューくんから、余った紙をもらう。

 余った用紙で、クレアさんがイラストを描く。

「シュー様。こういったものはいかがでしょう?」

 できあがったイラストを、クレアさんはシューくんに見せた。

「ボクには、判断できかねます」

 お手上げと言った感じの意見を、シューくんは述べた。

 クレアさんは、どんなイラストを描いたんだ?

「どれどれ」

 シューくんの肩の上から、イラストを覗き込む。
 
 おお。抽象画みたいになっていた。
 なんのイラストか、まったくわからん。
 これがわたしだというなら、いったいわたしはクレアさんからどんな風に見えているんだろう?

「クレア、あまりえが上手じゃない」

「ですわね。キャルさんをイメージしてみたんですけれど」

「それだと、古代の壁画。貸してみて」

 ヤトがあとを引き継いで、イラストを描き始めた。

「おお、うまいっ」

 意外な才能を、ヤトが発揮する。

「絵日記が大好きなんでヤンスよ」

「バラさないで。ばか」

 赤くなったヤトが、頬を膨らます。
 
 出来上がった絵を、ヤトがみんなに見せた。

「これは!」

「クレアの絵を参考にしてイメージした、メイドアーマー」

 メイド服タイプのアーマー、ってことかな?

「ドレスアーマーもいいけど、なんだかキャルって印象じゃない。豪勢すぎ。あと、ドレスアーマーってゴツい。だから案外、かわいくない」
 
 あくまでも見た目重視である、と。

 使用人の服なら、機能性なども重視されているから、たしかに動きやすいかも。

「ミニスカメイドなのは?」

「足を見せないキャルは、キャルじゃない」

 さいですか。
 やはりそこは、譲れないんだろうな。
 
「肩のパフスリーブが、かわいいね」

「これ。これが一番のポイント。ここ重要」

 トントントントン! と、ヤトが紙を指でノックする。

「他の部分はマジおまけ。大事なのは、パフスリーブ」

 ヤトが、やたら力説した。

「わかったよ。これでいくね」

 みんなに出て行ってもらい、わたしは装備の錬成を始める。

 今まで使っていた外套も、錬成に使おう。
 クレアさんに仕立ててもらったやつだし。

「キャル!」

 扉が開き、フワルー先輩がなにか黒いものを投げてよこす。
 メイド服だった。

「あ、ありがとうございます」

「赤メイド、黒ニーハイでお願い致しますわ!」

 先輩の後ろから、クレアさんがひょっこり顔を出す。

「はい。わかりましたクレアさん」

 半ば棒読みになりつつ、改めて作業を再開した。

 クレアさんって、あんなに食い気味な人だったっけ?

「錬成!」

 外套、魔法石、メイド服を錬成した。

「これで、しばしの辛抱」

 あと一五分もすれば、完成するだろう。
 
 他に、改良しておきたいのは、左腕まですっぽりと覆う手甲だ。

「これさ、勝手に動かすことってできないかな?」

『キャル。あんたって、ほんとにヤバイことを考えるよなあ?』

 レベッカちゃんが、呆れ果てる。 

「だってせっかくイソギンチャクが寄生したから、なにか使い道がないかなって」

『可能っちゃ可能だろうね。スパルトイの腕だけを、活用すればいいんじゃないか?』

「なるほど!」
 
『そんで、盾でも持たせておけばいいよ』

 そうだよね。わたしは今回、壁役を担当する。ならば、シールドは欲しいかも。

 スパルトイの腕を、肩にかけるホルスターとくっつけて錬成した。
 腕だけで、タワーシールドを担いでみる。

「結構、いい感じ?」

『上等じゃないか。イソギンチャクが骨の筋組織になってくれて、うまいこと機能してくれているよ』

 突然、ドアがノックされた。

「キャルさん、よろしくて?」

「まだ、ヨロイは完成していません。あと五分、待ってください」

「承知しました。我々は、山にある廃墟にいますので」

 なんだろう? 依頼かな?
 
「どうしたんです?」

「廃墟に強力なモンスターが出現したと、報告がありましたの。調査に向かいますわ」
 どうやら、トラブルが発生したみたいだ。

 こんなときに。

『まあ、アイツらなら大丈夫さ。キャルは万全の状態で、戦えばいい』
 
「うん。それと、もう一つ。この盾には、もう一つオマケがあるのだ」

『何だってんだい?』

「実はね。ジャジャーンと」

 わたしは、とある杖をレベッカちゃんに見せた。

 一見すると、サンゴの寄せ集めにしか見えない。

 だが、その正体は禍々しいマジックアイテムである。
 
『【抹消(ディス・)(レイ)】かい。いいね~っ!』

 さすがレベッカちゃんだ。この杖の本質を、一発で見抜くとは。

 ディス・レイは正式名称を、【ディスインテグレイト・レイ】と呼ぶ。

 この杖を掲げると、高純度な無属性破壊光線を直線上に照射する。

『無属性攻撃か。いかにも【原始の炎】が活かせそうな、凶悪装備じゃないか』

 これは魔王が落とした中でも、最高級品である。

 それを、わたしはみんなから譲ってもらったのだ。

 わたしはこの杖とレーヴァ―テインとを、錬成しようかと考えた。
 
「ただねー。魔剣との相性が最悪なんだよね……」

 魔剣の先から照射するくらいなら、杖から撃つ方がいいだろう。

 かといって魔剣レーヴァテインの力がなければ、【原始の炎】が活かせない。

『それこそ、クレアの【魔剣 一〇番】の素材にするしか、考えつかないよ』

 わたしも、そう思っていた。

「だけど、断られたんだよ。制御できるかわからないし、『撃つときは棒立ちですわー』って」

 なにより今のクレアさんは、【電撃(スパーク) 格闘術(アーツ)】使いだ。
 電撃格闘術を取ったことにより、ファイトスタイルがより【魔法拳士】に近くなっている。
 本格的に、魔法は肉体強化に注ぎ込むだろう。

 そこにいくら無属性とはいえ、棒立ちビームなんて必要かと。

『で、棒立ちでビーム発射なら、アンタだろと』
 
「そういうこと」

 てなわけで、わたしにお鉢が回ってきたわけよ。

 
『けどアタシ様だって、戦闘になったら割と動くよ。棒立ちってわけじゃない』

 ご安心を。 
 
「そこで、この【第三の腕】くんが、がんばってくれるわけよ」
 
『ほほう。どうなるか楽しみだ』

「まあ、先に出発しよう。実践で試せばいいじゃん」

『ぶっつけ本番でお披露目ってわけだね? ワクワクするねえ!』

 こんなときに「ちゃんと準備しなよ」と言わない辺り、レベッカちゃんらしい。
 わたしを信頼してくれているんだな。
 
 

『キャル。ようやくメイドアーマーが、できあがったみたいだよ』

 五分後、ようやくメイド服が完成した。

「え、思っているよりいいかも?」

 姿見で、見た目を確認してみる。
 かなり、完成度が高い。
 露出は、思っていたより控えめだ。
 
 これなら、ダメ出しも食らうまい。
 
「さて、行きますか!」

 仙狸のテンちゃんに乗って、出発をする。





 廃墟の村は、死霊系の魔物で溢れかえっていた。
 すべてのガイコツが、武装している。

 キャラメ・F(フランベ)・ルージュの扱うスパルトイのように、統率されているわけじゃない。
 それぞれが独立した思考を持ち、無差別に攻撃を行っている。

 どこかの騎士団だったのか、装備もそれなりだ。腕も立つ。

 並の冒険者たちが、敵う相手ではなかった。
 先発隊が、逃げ惑う。
 
「みなのもの、下がれ! ぬおおお!」
 
 ヒゲをたずさえたドワーフの戦士が、斧を振り回す。
 自身をコマのように旋回させ、両手斧の勢いを上げていった。

 スケルトン兵団が、面白いように砕けていく。

 回転する度に、老人のヒゲが風になびいているのが勇ましかった。
 
 ベテランの戦士なのか、彼の目に油断の色はない。
 正確に戦局を見極め、冒険者の退避を促している。

「あとは、引き受けたでヤンスよ。【サモン・グリズリー】でヤンス!」

 リンタローが、灰色のクマを召喚した。
 冒険者を追ってきたスケルトンを、クマが通せんぼする。

 続いてリンタローは、負傷した冒険者たちを一箇所に集めた。

「いいでヤンスね? いくでヤンス。【キュア・ウーンズ】でヤンス」

 冒険者たちの傷が、徐々に回復していく。

「リンタローさん、あなた、回復役でしたの?」

「いい忘れていたでヤンスが、ソレガシは【ドルイド】なんでヤンス。格闘はオマケでヤンして、主にヒーラーなんでヤンスよ」

 それで、純粋魔法使いのヤトが安心して戦えるのか。
 いざとなったら、クマに壁役をしてもらうと。

「お見事な、作戦だと思いますわ」

「といっても、クマは最近召喚できるようになったばかりでヤンス」

 自分が戦ったほうが早いので、クマ召喚を取っていなかっただけらしい。

「これで、ラストじゃ!」

 最後の一匹に向けて、ドワーフの老戦士は回転速度を上げる。
 
 だが、たった一体のスケルトンが、ドワーフの戦士を止めた。

 そのスケルトンが所持しているのは、魔剣である。
 ガイコツ剣士の得物は、両手持ちの剣だ。
 なんと、無骨な剣か。剣というより、鈍器に近い。

「退散するでヤンス! それは、あなたが勝てる相手じゃないでヤンスよ!」
 
「ならん! 強い相手なら、なおさら売られたケンカは買わねばのう!」

 この老人、戦闘を楽しんでいた。
 
「リンタローさん、止めないでおきましょう」

 今は敵の数が減っている。周囲を警戒しつつ、このガイコツ剣士の戦闘力を見ておいた方がいい。

「ぬん!」

 ドワーフ戦士が、両手斧でガイコツ剣士に斬りかかる。
 
 まるで熟練した、ダンスのような動きだ。

 だが、剣士は魔剣を片手だけでふるい、ドワーフの腕力を受け流した。

 軌道を変えた両手斧が、岩をチーズのように切り裂く。

「なんと! 我が自慢の斧を流すとは! では、おかわりといこうかのう!」

 ドワーフ戦士が、スコップのように両手斧で土をえぐる。

 石や岩が、ガイコツ剣士の身体や顔面に突き刺さった。
 怯んだ様子は見られないが。

 ドワーフ戦士が、いつの間にか消えていた。

 かと思えば、剣士の足元から斧を振り上げてきたではないか。

「取った!」

 ドワーフ戦士が、勝利を確信する。

 なのにガイコツは、片手だけでドワーフの斧を受け止めてしまった。
 下から盛り上がってきたドワーフを、また剣で押し戻す。

「くう! 無念!」

 さらに追い打ちをかけようと、ガイコツ剣士が剣を振り上げた。
 
雷霆蹴り(トニトルス)!」

 クレアが、魔剣を飛び蹴りで薙ぎ払う。
 ここからは自分の出番だ。

「リンタローさん、彼の治療を」

 クレアは、一番のショートソードに剣を持ち直す。

 ヤトも、リンタローの周りを氷の結界で覆った。

「バフが欲しかったら、言って」

「ありがとうございます」

「【エンチャント:氷】!」

 クレアの剣に、氷属性の魔法が付与される。

「【電撃格闘術(スパーク・アーツ)】!」

 足に雷属性の肉体強化魔法を施し、クレアはショートソードでガイコツに切りかかった。
 
 まずは、魔剣の属性を調べるか。

 以前ヒクイドリと戦ったときは、炎属性の魔剣を飲み込んでいた。

 この剣士はどうか。

 クレアの速度に対処するためか、あちらも両手に持ち替えた。
 必要最小限のさばき方で、クレアの攻撃を流す。
 あんな大きな剣を振り回しているのに、どこまで器用なのか。

 クレアの速度に、追いつけるとは。
 
「あちらも、スパーク・アーツ使いですわね?」

 となると、魔剣も雷撃属性か。

 どうにか、ガイコツ剣士の動きを止める。
 
「くっ!」

 だが同時に、クレアの剣も弾かれた。

「トートさん、二番を!」

 クレアが、トートにヤリをリクエストする。

 しかしヤリを受け取ろうとしたとき、横っ腹を蹴られて位置をずらされた。
  
そのスキを狙って、ガイコツ剣士がクレアに対して距離を詰めてくる。

『おらああ!』

 ガイコツ剣士に、何かが衝突した。

「キャルさん!」

『またせたね。キャラメ・ルージュのお出ましだよ!』
『キャル、まずはドワーフのじじいを、どけるよ』

「うん。でもジジイって……」

 まずは、スパルトイ軍団を召喚する。
 で、ドワーフのおじいさんを回収した。

「離せい。ワシはまだ、戦えるワイ!」

 味方なのに、ドワーフさんはスパルトイたちを腕で払い除ける。

『黙って言うことを聞きな、ジジイ! 邪魔だってんだ!』

 最終的に、レベッカちゃんがわたしを使って、おじいさんを足蹴にした。

「そこまでしなくても」

『ああいうのは、わかりやすくやった方がいいんだよ』

 それより注目は、目下の敵だ。

 スパルトイが寄り集まって剣士に斬りかかる。

 だが、ガイコツ剣士はスパルトイを歯牙にもかけない。斬ろうともせず、ただ払うのみ。

 とはいえ相手からの気合だけで、スパルトイたちは腰を抜かし、退散してしまう。


「だったら、ゴーレムを召喚して」

『あいよ。来な、ゴーレム!』

 感情を持たないストーンゴーレムなら、止められるか?

 しかし、結果は同じだった。
 剣士の圧倒的な魔力の前に、ゴーレムが硬直してしまう。

「召喚士のいうことより、あちらの気迫に負けるなんて」

『どうも、違うみたいだね。雷属性のせいさ』

 電撃を地面に走らせて、ゴーレムの可動部を制御してしまったようだ。

『とんでもないやつだよ!』

「うん。でもさ」

 わたしは、魔剣の心臓部に注目する。

『呪いだね。手練の剣士が、呪いでムリヤリ動かされているんだよ、きっと』

「わたしも、同じ意見だよ」

 あんな使い方が、呪いにはあるのか。

『魔剣の持ち主は、相当に性格が悪いよ!』

「だろうね。まずは、あの剣士をなんとかしないと」

 ガイコツ剣士を、呪いから解放してあげよう。

「まずは、相手の動きを止めて!」
 
『よっしゃあ。おらああ!』

 グレートソードほどの大剣同士が、ぶつかり合う。
 相手もこちらも、同じように片手で振り回していた。

 こちらは剣を逆手に持って、蹴りも攻撃方法に加える。
 ガイコツ剣士の持つ魔剣に足を乗せて、レベッカちゃんはローリングソバットを繰り出した。

 剣士は魔剣を地面に突き刺し、キック攻撃をこらえる。
 ムチャな体勢から、こちらにアッパー気味に斬撃を見舞った。

『なあ!?』

 あの状態から、持ちこたえるか。

 しかし、相手には脳がない。
 脳しんとうを起こさない相手に、こめかみへの攻撃は無意味だったか。

 あくまでも肉弾戦は、肉を持った相手を想定した攻撃法だ。
 まして、骨格を砕くという方法も、効果は薄いようだ。
 骨だけの相手なら、脳も血管もない。

 竜巻のような剣士の動きに、レベッカちゃんも翻弄されている。

 レベッカちゃんの剣術にさえ、追いつける腕前とは。

 そりゃあ、リンタローやクレアさんが苦戦していたくらいだし。
 
『うおっと! 【ファイアボール】!』

 けん制のため、火球を打ち出す。

 だが火球は、ガイコツ剣士を覆う雷のフィールドによって阻まれた。

 こちらが突き攻撃をしても、身体をすり抜けて逆にカウンターをしてくる。しかも、かなりスレスレに。
 雷撃のエンチャントもかかっており、攻撃の度に速度も増している。
 だんだんと、こちらのスピードを凌駕しつつあった。

『肉を切らせて骨を断つっていうけど、肉を切る手順を無視してやがる!』

 手強い!

「だからこそ、私がいる」

 ガイコツ剣士が、踏み込もうとしたときだ。
 剣士の足元が、凍りついている。

 死神の鎌が、ガイコツ剣士から近い地面に突き刺さっていた。

「【フロスト・ノヴァ】」

 直接攻撃ではなく、氷結魔法で足場を凍らせただけ。
 とはいえヤトは氷魔法によって、ガイコツ剣士を捉えた。

【原始の氷】の効果である。

 ガイコツ剣士はあらゆる属性効果を、魔剣の雷属性で防いでいた。

 しかし【原始の氷】は、属性を貫通する効果がある。
 どんな相手をも、凍らせるのだ。 
 
 こちらに注意が向きすぎて、ヤトの存在に気づかなかったか。

 チャンスだ。 


「エンチャント。【呪い焼き】!」

 わたしは、レベッカちゃんに呪いを破壊するエンチャントをかける。

【第三の腕】を発動し、盾を前に固定した。

 続いて、レベッカちゃんを地面に突き刺し、柄頭の上に自分の腕を固定する。

 呪い焼きの効果が、盾に流れていく。
  
『……からのぉ! ディス・レイ!』

 盾が、真っ二つに開く。

 中央の魔法石が、青白い色を放った。

 直線状の閃光が、剣士に向かって射出される。
 
 シールドは、カリュブディスから手に入れた【抹消砲(ディスインテグレイト・レイ)】を錬成してあった。

 これが、わたしの秘密兵器だ。
 
 わたしが放った抹消砲を、ガイコツ剣士は正面から受け止める。

「それでいいよ!」

 ガイコツ剣士が異変に気づいたようだが、もう遅い。

 魔剣に、ヒビが。
 
 魔王カリュブディスの遺品である【抹消砲】は、無属性魔法を込めた杖である。
 さらに【原始の炎】によって、あらゆる属性を貫通するのだ。
 相手がどんな属性であっても、関係なく火炎属性ダメージを与える。
 たとえ、敵が無属性だとしても。

『そのまま呪ごと、ぶっ壊れちまいな! 魔剣!』
 

 呪い焼きスキルの効果で、魔剣が粉々に砕け散った。

 ガイコツ剣士が、吹っ飛んでいく。

『やったようだね!』

「うん。でも、魔剣が」
 
 貴重な魔剣は失ってしまった。今は、黒い塊になっている。
 鑑定してみたけど、鉄くずとしての価値もない。
 ただのモンスターとして、処理されたみたいだ。
 
 つっても、呪いのアイテムなんてこっちから願い下げである。
 呪いは、焼くに限るね。

「トドメじゃ、この!」

 倒れたガイコツ剣士に、ドワーフおじいさんが斧で殴りかかろうとする。
 
「よすでヤンス」

 リンタローが、ドワーフおじいさんを止めた。

「止めるでない、天狗(イースト・エルフ)め!」 

 羽交い締めにされて、ドワーフおじいさんがジタバタする。

 リンタローが、地味に強いな。
 力が強そうなドワーフさんを抑え込めるなんて。
 ああ、召喚クマが加勢しているからか。
 
「待たれよでヤンス、ドワーフ殿。敵の情報を聞き出すまで、攻撃は控えるでヤンス!」

「むむう。口をきく相手とは思えんが?」
 
「まあ、見ているでヤンス」

 なにやら意味深な発言を、リンタローは言う。

「う、ここは!」

 ガイコツ剣士が、額に手を当てながら立ち上がる。
 手に得物を持っておらず、混乱しているようだ。

「我は、いったい……」

「おめえさんは、魔法使いに操られていたでヤンス」

「おお。そうであったか。ダンジョンで手持ちの剣を失い、魔剣に触れたあたりまでは、覚えておるのだが」

 剣士は力なく、あぐらをかいた。

「わたしはキャル。あなた、お名前は?」

 剣士の前にしゃがんで、わたしは相手の名を聞く。

「我が名は、フルーレンツという。フルーレンツ・コーラッセン」

「フルーレンツ・コーラッセンじゃと!?」

 ドワーフのおじいさんが、カブトを落とす勢いでガイコツに駆け寄った。

「まさか、本当にフルーレンツ王子殿か!?」

「王子、か。かつて、そう呼ばれていたな」

「ば、ばかな。ありえんわい。あなたのいた王国は、このとおり滅びたと言うに」

 否定しないフルーレンツに対し、ドワーフさんが腰を落とす。
 
「国が、そうか。そなたは、我を知っておるのか?」

「ワシを覚えてらっしゃらぬか。騎士団長イーシドロールの息子、ヘルムースでありますぞ!」

「おお、ヘルムースよ。そなた、こんなに大きくなったのか」

「覚えておらぬか。まあ、ムリもあるまい。こんな老いぼれに、なってしまっていてはのう」

 ドワーフのヘルムースさんが、ドヨンとした顔に。 

「我が国は滅びたと言うが、我の働きは、無意味だったわけだな」

「残念ながら」

 剣士とドワーフの、二人だけで会話をしている。

 そろそろ、事態を把握しておきたいんだけど。
 
「あのー。お知り合いでヤンスか?」

「この方は、ワシがガキの頃に栄えて追った国の、王子様じゃ!」
 ガイコツ剣士の正体は、今はなき王国の王子さまだった。

「廃王子でしたか。キャルさん。どうもこの方は、ワタクシの家計でご存知の方がいるかもしれませんわね?」

 クレアさんが、わたしの隣にしゃがみ込む。剣士の顔を、覗き込んだ。

「その強力な魔力、どこかの姫君とお見受けする。あなたは?」

「ワタクシは、クレア・ル・モアンドヴィルと申します」

「モアンドヴィル……あの小国に、かような子孫が生まれようとは」

「今、モアンドヴィルはアルセントア大陸を総括する、大国ですわ」

「なんと」
 
 フルーレンツ王子が生きていた頃のモアンドヴィルは、コーラッセン王国の三分の一にも満たなかったらしい。

「そこまでの大国に、成長なさるとは。よほどの苦労があったとお見受けする」

「勇者一行だったという功績が、あったからですわ」
 
「おお、勇者とな! 伝説は、本物であったか!」

「と、申しましても、コーラッセン王国があった当時は、まだ勇者が誕生していませんですわね」

 当時の歴史を、クレアさんがフルーレンツ王子に伝える。

「うむ。我が息子が存命なら、勇者と同じ年頃だったろう」

「かもしれませんわね。して王子、どうして暴れ回っていたのです?」

「おお。そうであった。皆には、すまぬことをした」
 
フルーレンツ王子が、ドワーフのヘルムースさんに詫びた。

「実はのう、殿下は我々が護衛していた馬車を、突然襲撃してきたのじゃ」

 その馬車は今、無事に王都へ向かったという。
 
「本当に、申し訳なく。馬車に乗っていた姫君が、我が妹によく似ていたのだ」

 妹さんは戦火を逃れ、近くの小国に嫁いだそうだ。
 その妹さんと、馬車に乗っていた王女が似ているという。
 
「そうなんですね。ひょっとして、子孫とか?」

「うむ。おそらくは」

 王都に事情を聞けるだろうか。

「ワタクシのツテを、お使いくださいませ。今のあなたは、魔剣の影響を受けておりません。きちんと話し合えば、わかっていただけるかと」

「ワシも、事情を説明しますわい」

 クレアさんとヘルムースさんが言うと、王子は「ありがとう」と告げた。

「だが、ただのモンスターである。王城に入れてすらもらえまい」

「だとしたら、わたしと契約しますか?」

 正式に契約したモンスターとしてなら、王都に入っても危険視されないはずだ。
 
「ふむ。それはいい案だ。よろしい。我を倒したのは、そなただ。そなたと契約しようではないか」

 わたしは契約の魔法で、王子を自分の配下とした。

「うむ。これで我は、そなたの契約モンスターである。よろしく頼む」

 スパルトイ軍団は、王子が率いてくれるという。
 これで、レベッカちゃんのスキルスロットに空きができた。
 別のスキルを、装着可能に。

 続いて、王子はヤトの方へ。

「巫女殿。もし再び我が正気を失ったときは」

「うん。今度こそ、とどめを刺す」

 ヤトが、王子と約束した。

「物騒でヤンスが、仕方ないでヤンスね」

 リンタローは呆れていたが、王子の覚悟を評価する。


「では、王都ツヴァンツィガーへ案内しようぞ」

 ドワーフさんに連れられて、ツヴァンツィガーの街へ向かった。

 だが、ヤトたちは一旦、ファッパに戻るという。
 
「二人は行かないの?」

「ツヴァンツィガーの街の位置は、知っている。ファッパのギルドに報告した後で、追いつく」

 報告だけなら、ギルドカードでもできる。
 が、財団にコーラッセンを調査してもらったほうがいいかもとのこと。

 ヤトたちの足なら、すぐに追いつけるそうだ。

「そうだね。フワルー先輩も心配しているみたいだから、お願い。じゃあ、ヘルムートさん。馬車をお願いします」

「うむ」

 廃墟となったコーラッセン王国を、ツヴァンツィガー騎士団の馬車で進む。

「大陸の半分を総括していた我が国が、見るも無惨に」

「どうして、滅びちゃったんですか?」

「魔王の襲撃だ」

 コーラッセン王国は、魔王との戦いでもっとも被害を受けた国だという。

「国家が、魔王の領地に近い場所にあってな。真っ先に狙われた」

 当時最強と呼ばれたコーラッセンといえど、魔物の物量には敵わなかった。

「今や、その領地も消滅しております。残すは、雪山のダンジョンのみ」

「じゃが、あなたは、その雪山のある方角からおいでなすった」

 ドワーフのヘルムートさんによると、敵の本拠地があったポイントから、フルーレンツ王子が現れたという。

「怪しいですわ。もう少し調べたほうが良さそうですわね」

 破壊の跡が痛々しいエリアを抜けた。

 さらに、大型のボートで川を渡る。

 そうやって、数日ほど進んだ。

「見えてまいりましたぞ。あれこそ、ツヴァンツィガー王国じゃ」

 川の先に、豪華な城が見えてきた。

 ファッパの港町もすごかったが、こちらはもっと大きい。

 川を伝って、水門をくぐる。

「滝の上に、都市がありますのね?」

 すごい作りだなぁ。
 
「刀剣の種類が、豊富だなあ」

 王都は、ドワーフと人間が共存する都市みたいだ。
 いたるところに鍛冶屋や武器・防具屋が見られる。
 あと、強いお酒の匂いも。

「ああ、リンタローが来なくて正解かも」
『だろうね。酒の味につられて、酒場から戻ってこないかもしれないよ』

 馬車のメンツが、ゲラゲラと笑う。

「ワシは先程まで斧を振るっておったが、もうじき引退するんじゃ。鍛冶業を営もうと思うておる」

 ヘルムースさんの斧も、自前だそうだ。
 店舗も買って、今は奥さんが留守を預かっているという。

「あの。武器の鍛え方を教えていただけますか?」
 
「うむ。よかろう」

 よし。これで、レベッカちゃんをさらに強くできるぞ。

「フルーレンツ王子よ。あなたにふさわしい剣を打って差し上げましょうぞ」

 ヘルムースさんが力こぶを見せた。

「ありがたい。よろしく頼むぞ、ヘルムースよ」

 ローブの下から、フルーレンツ王子がお礼を言う。
 
「お安い御用です」

 ただし、店によるのは、王都で用事を済ませてからになる。

 王城の前に、辿り着いた。

 案の定、門番さんたちに止められる。

「騎士団長の、ヘルムースである。国王様と姫君に、お目通りをお願いしたく」

「それは結構です、ヘルムース殿。しかし、部外者を城の中へ入れるには」

 門番さんも、困っていた。

「お待ちを」

「あなたは?」 
 
「クレア・ル・モアンドヴィルと申します。これを王様か、位の高い方にお見せくださること、お願いできますか?」

 小さいペンダントを、クレアさんは外す。
 門番さんに、ペンダントを渡そうとした。

 しかし、門番さんは受け取らない。
 
「そう、申されましても」 
 
「お待ちなさい!」


 通りかかった貴族風のおねえさんが、スタスタとこちらにやってきた。「失礼」と、クレアさんのペンダントを凝視する。

「もももももも申し訳ございません! これ! モアンドヴィル家の姫君ですよ! 早く通しなさいまし!」

「は。失礼しました。グーラノラ様。みなさん、お通りください」

 門番さんが、道を開けた。

 グーラノラ様と呼ばれたおねえさんは、クレアさんにしきりにペコペコ頭を下げている。

「もうしわけありません、クレア様。あとで叱っておきますので」

「いえ。構いませんよ。入らせていただくだけで、結構ですから」

「お気遣い、感謝いたします。して、どのようなご用件で?」

「少々、お話をうかがいたく。コーラッセン王国のことなど」

 ピタ、と、グーラノラさんが立ち止まった。

「ああ、あちらの王国ですか」

 神妙な面持ちで、グーラノラさんがクレアさんと正面から向き合う。

「実は……あたしもよくわかんないんですよねー」
 
 さんざん思わせぶって、この対応かいっ。

「ですが、ちゃんと調べますよー。それまで、お待ちを」
 
 わたしたちが、廊下に出たときだった。

「……我が妹だ」

 一枚の絵の前に、フルーレンツさんが立ち止まる。静かに、わたしに耳打ちをしてきた。

「こちらの方は、どなたですの?」

 事情を察したクレアさんが、グーラノラさんに問いかける。

「この絵の方は、王都ツヴァンツィガーの第一王女、クリームヒルト様です」
 クリームヒルト姫なる女性の絵画を見て、フルーレンツさんが固まっている。
 
「フルーレンツさん、妹さんは、この人にそっくりなの?」
  
「おお、まさに生き写し。だが、我が反応したのは彼女にではない」

 フルーレンツさんは、一番右端にいる老婦人に目を向けていた。

「あれぞ、まさしく我が妹ではないのか!」

「妹さんの名前は?」

「エペカテリナという」

 フルーレンツさんの発した名前に、グーラノラさんが、「ああ」と反応した。

「よくご存知で、こちらの御婦人は、先代王のお妃様で、エペカテリナ妃です」
 
 ベッドに寝ている老婦人を、グーラノラさんは手で指し示す。

「エペカテリナ様は私が大臣に着任した後すぐに亡くなられました。お若い頃は、クリームヒルトお嬢様にたいへんよく似ていらしたと」

「うむ。ワシが保証しますぞ」

「当時の肖像画もございますので、機会があればご鑑賞なさればよろしいかと」

 グーラノラさんが、快く対応してくださった。

「すまぬ。ヨロイ姿のままで。人に見せられぬ容姿なのでな」

「お構いなく。モアンドヴィルのお姫様の、お友だちですもの。決して、悪いようにはなさらないでしょうから……アンデッドといえど」

「お主」

 どうも、グーラノラさんは最初から、フルーレンツさんの正体を知っていたみたい。

「私は【高僧(ビショップ)】ですもの。定命ならざる者の気配くらいは、把握いたします。ですがあなたからは、邪悪な気配はしません。元々あったのでしょうけど、今はすっかり、闇の力を感じません」

 この人、相当の実力者かも。

「ならば、お話しよう」

 フルーレンツさんが、事情を説明した。

「わかりました。私を通じて、国王に相談いたします」
 
 応接間まで、通される。

「国王は、こちらにおいでです。お話などをなさってくださいませ」

「ありがとう」

 ひとまずグーラノラさんが、事情を説明してくれた。

 応接室に入って、わたしたちはひざまづく。

「お招きくださって、ありがとうございます。陛下」

 クレアさんが率先して、前に出る。
 
 中年の国王は、「あいさつは、よい」と、わたしたちを立たせた。

「それより、話を聞こうではないか。そちらの剣士殿が、わたしの娘に刃を向けたと聞いたが」

 応接室に、緊張が走る。

 ヤバイよ。このままだと、全員が牢屋にブチ込まれちゃう。

『キャル。いざとなったら、アタシ様を抜きな』

 小声で、レベッカちゃんがわたしに語りかけてきた。
 レベッカちゃんは、今は髪留めになっている。

「ダメだよ。それこそギロチン刑になっちゃうじゃん」

 ギロチンがこの国にあるかは、謎だけど。

「よいのだ。グーラノラから、一通りの話は聞いた。騎士団長ヘルムース。目撃者として、その方の話を聞かせてくれ」

「御意」

 ヘルムースさんが、国王に話をする。

 だいたい、わたしたちとフルーレンツさんが戦闘になった経緯など。

「して、その方らよ。ヘルムースの説明に、相違はないな?」

「はい。全部本当のことです。こちらのガイコツ剣士が、フルーレンツ王子だということも」

「ふむ。にわかには、信じられん」

「あと、魔除けの結界を張ってもムダです。フルーレンツさんは、わたしの契約モンスターとなったので。アンデッドだとしても、害はありませんよ」

 まあ、彼が暴れたら、今度こそ引導を渡すけど。

「なんという……。よろしい。信じよう」

 国王は、頭を下げた。

「娘は、休ませている。会っていくか?」

 害はないとはいえ、会わせていいものかどうか。

「会ってもらったほうが、後々面倒にはならんと思う。フルーレンツ殿下。あなたが本物のコーラッセンの王子なら、子孫にお会いたいのでは?」

「うむ。妹の忘れ形見を、ひと目見たく思う。抱きしめるとは行かないまでも、元気であることを確認できれば。あと、刃を向けたことを、お詫びしたい」

「構わんよ。あなたに娘を襲わせたのは、魔剣であろう? 余は、あなたを憎んではイないよ」

「おお、ツヴァンツィガー国王。ありがたき、お言葉」

「頭を上げてください。殿下」

 国王の許可をいただき、中庭へ。

 花とたわむれる、小さい少女がいた。

 遠目から、フルーレンツさんが見守っている。

「おお。遠くから見ても、妹そっくりだ。あんなに、大きな子孫をもうけて。我は、幸せだ。思い残すことはない」

「いやいや。がんばって。まだ使い魔として、わたしに協力してほしいですから」

「心得た……ん?」

 少女クリームヒルト姫が、幼い瞳をこちらに向けた。
 フルーレンツさんに、会釈をしている。

 対しフルーレンツさんは、剣先を地面につけて、クリームヒルト姫にひざまづいた。

「満足だ。帰ろう」

「その前に、報告をいただけませんか?」

 グーラノラさんが、フルーレンツさんを呼び止める。
 
「おお、そうであった」

 うんうん。どうしてクリームヒルト姫が襲われたのか、だよね。


 客間にお茶を用意しているそうで、案内してもらう。

「姫様と言うか、王族が狙われた可能性が高いよね」

「うむ。国王に敵対する者は多いのう。悪党の取り締りも、活発化しているし」

 ヘルムースさんが、腕を組んで考え込む。
 
 わたしなんかは恐縮して、お茶さえノドを通らない。

 しかしクレアさんは、ガブガブ飲んでいる。
 トートも一緒になって、お茶をガブガブ、茶菓子をバリボリと。
 話を聞いているのだか聞いていないんだか。

「お昼を食べていませんもの」

 ああ、そうでした。

 緊張しっぱなしで、食べるどころじゃなかったし。

「なんかさ、悪い魔法使いがどうのって言っていなかった?」

「うーむ。このあたりで危険な魔法使いといえば、魔女イザボーラ・ドナーツですね」

 グーラノラさんが、解説をする。

 魔女イザボーラは、永遠の若さを保つため、若い娘を魔物にさらわせているという。

「その尖兵として、我が操られたと?」
 
「可能性はあるね。フルーレンツさんは、面識あるの?」

 わたしとしては、馴れ馴れしいかなと思った。
 しかしもう、この人はわたしの使い魔だもん。敬語を使っても仕方がないんだよ。

「我の亡骸を、利用されたのかもしれん」

「ネクロマンサー……ではないか」

 一瞬、可能性がよぎったけど、訂正する。

 ネクロマンサーなら、わたしと契約なんてできない。
 アンデッドの契約対象を変えるには、相手をもう一度殺す必要がある。

『違うね。コイツが復活したのは、おそらく魔剣の力だろうさ』

「おおお、無礼極まりないぞ、レベッカちゃんよ」

『はあ? アタシ様は、コイツの部下でもなんでもねえんだよ。他人さ』

 まあ、そうだけどさ。

「よい。我とは普通に接してくれればよい。キャル殿。レベッカ殿」

 フルーレンツさんがいいなら、止めないでいいか。

「魔女に関しては、こちらで調べます。ギルドにて、続報をお待ち下さい」

 グーラノラさんが、冒険者ギルドを通して情報を集めてくれるという。
 
 それまで、なにをしておこうかな。

「では、ワシの工房へ参られよ。フルーレンツ殿が活動しやすいように、ヨロイを新調してしんぜよう」

「うむ。世話になる」

 
 というわけで、一旦街へ入る。

 フルーレンツさんは、ヘルムートさんの元に預けた。

「キャルとやら。スマンが一緒におってくれ。ガイコツなんて、家内が見たらぶったまげちまう。いくら殿下といえど、じゃ」

 だね。
 
 ヘルムートさんにはつきっきりで、ヨロイのサイズを測ってもらう。
 
 続いて、レベッカちゃんを見てもらった。

「コイツは、たまげた。随分と内部構造が歪じゃのう」

 わたしの錬成を言っているのか、かなりの辛口批評だ。

「じゃが、危ういバランスで力を保っておる。これを打ち直すのは、骨が折れそうじゃわい」

 ドワーフさえ、手を焼く存在だったか。

「生半可な鉄鉱石なんぞを混ぜてしまえば、たちどころに劣化しようぞ。素材は、厳選せねば」

『そういえば、アタシ様は雑食だったからねえ』

 自分で言いますか。

「近くに、魔法石の鉱山がある。そこへ向かうとええ」

 ひとまず、目的は決まった。
「ヘルムースさん。これって、フルーレンツさんのヨロイにならないかな?」
 
 フルーレンツさんのヨロイに使えないかと、わたしは魔法石をドババと放出した。

「これは、翡翠(ヒスイ)かのう? しかも、アビスジェイドではないか」

 アビスジェイドとは、暗黒の魔力を吸ったヒスイのことである。
 
「キャルよ。こんな高価な魔法石を、どこで手に入れたんじゃ?」

「海底神殿だけど?」
 
 カリュブディスが根城にしていた、古代の海底宮殿から採取したものだ。
 魔王の魔力を蓄えているから、このヒスイには相当な力が宿っているだろう。
 実際、レベッカちゃんに可能な限り錬成してブチ込んである。
 
『形状が変わっちまうかもしれないくらいには、喰らい尽くしたねえ』

 レベッカちゃんも、満足げだ。

「ほほう。魔力効果としては、申し分ないわい」

 魔法石は石といっても、鉱石とはいい難い。
 あくまでも、魔法効果をもたらす石である。
 鉄のように頑丈ではないため、武器防具として扱うには加工が大変すぎる。

 用途は主に、鋼鉄製ヨロイのつなぎ目や、盾に直接取り付けて魔法を防ぐ障壁用が多い。
 武器なら柄・柄頭・鞘などの装飾として用いる。
 
「これだけ大量にあれば、ワシの工房にある鉄ヨロイすべてを賄えるわい。こんなにもろうて、ええんかの?」

 フワルー先輩のところに半分分けても、まだ余っていたもんね。

 ちなみにフワルー先輩は、魔法石の一部をゴーレムに変えていた。
 
「いいよ。その代わり、フルーレンツさんにいいヨロイをお願い」

「お安い御用じゃ。タダでもやってやるわい」

 それは、わたしたちが困る。

「ただ、フルーレンツ殿を、待たせるわけには行かぬ。王子よ。仮使いで悪いが、こちらを装備してくだされ。それでしばらく、ご辛抱を」

 ヘルムースさんが、一日だけ時間をくれという。
 アビスジェイドを粉にして、現存の全身ヨロイに流し込むそうだ。

「クレアさん、申し訳ありません。わたし、ここでずっと取材をします。宿に戻っていてください」

 長い時間見ていても、退屈に違いない。

 クレアさんには、トレーニングでもしてもらったほうが有意義だろう。

「ご心配には及びませんわ、キャルさん。ワタクシも、見学に参加いたします。お夕飯どきになったら、お教えいたしますわ」

 さすがクレアさんだ。自分の魔剣だけを見て、満足するような人じゃない。
 見識を深めて、さらに魔剣の上手な扱い方を学ぶつもりだ。

「ではクレア嬢は、我と剣術の稽古などはいかがか? 腕がなまっている感じがするのだ。手合わせ願いたい」
 
「はい。お願いしますわ」

 両者とも、ヘルムースさんから剣を借りて、庭に出ていった。
 

 ヘルムースさんが作業する間、わたしはずっと張り付く。
 魔剣の技を盗むためだ。

「ヘルムースさんは、魔剣って打ったことある?」

「似たようなものは、開発したことはあるわい」

 若い頃に打ったという剣を、ヘルムースさんが見せてくれた。

 一見すると、ただのレイピアと思われる。
 なのに持つと、ずっしりと重い。実際は軽いのに、手に全然なじまなかった。
 なんだろう。悪魔の魂が閉じ込められているみたいな、圧迫感がある。
 武器から拒否されているかのような、不快感があった。
 振り回したら、きっと自分を傷つけてしまうだろう。

「すごい。正直な話、レベッカちゃんよりずっと切れ味がよさそう」

『ドワーフが魔剣を打つと、こうなっちまうんだろうね』

 レベッカちゃん本人も、ヘルムースさんの腕前に感心している。

「とんでもねえわい。こんな駄作」

「駄作って。これが?」

 どう見ても、すごい剣ではないか。

「剣としてなら、こいつには強力無比じゃろう……という自覚はあるんじゃ。しかし、魔剣とはもっと、なんというかのう。怪しい魅力があるのじゃ」

 魔剣とは、言葉では表現しきれない危うさ、それこそ悪魔が取り憑いたような狂気が、刀身に内在するという。
 
「それに比べたら、お主の持つレベッカとかいう魔剣の方が、よっぽど危なっかしいわい」

「そうかな?」

「うむ。魔剣というのはのう、剣を作る工程とはまた違うのかもしれん」

 ヘルムースさんは鍛冶屋なので、装備品精製のセオリーに沿ってしか、武器・防具を作れない。
 だが魔剣となると、そんな常識をすべて捨てなければならなくなる。

「聞けばお主の剣、その工程を六〇〇〇通りも試しておると聞く。これは、常人の為せる技ではないぞよ。なんといっても、今まで編み出した六〇〇〇もの正攻法を、ことごとく捨て去って磨き上げた狂気の作品なんじゃからの」

 過程をすべて六〇〇〇回試して、その都度新しい工程を試しているのか。

「だからこそ、握りたくなる。たとえ、掴んだ瞬間に自身の魂を乗っ取られてものう。持ち手に触らせようとせぬ武器なんぞ、剥き身の刃と変わらぬ」
 
 そりゃあ、ヤバイ武器と言われても仕方ない。

「結局ワシは、魔剣の表面をなぞったに過ぎん。ただ強い武器が出来上がっただけなんじゃ。本物の魔剣打ちが見たら、鼻で笑うじゃろうな」

 ヘルムースさんが、自身を嘲笑した。

「でも、ヘルムースさんの武器はすごいじゃないですか」

「ドワーフの常識からすれば、そうかもしれぬ。その自負もある。だが、心を壊せと言われて、そうそう破壊できるもんじゃあるまい」

 これだけの名工をして、魔剣は作れないと断言する。
 
「ワシがお前さんにできるのは、せいぜい鍛冶のいろはを盗んでもらうことくらいじゃろうな」

 力なさげに、ヘルムースさんは語った。

「ありがとう、ございました」

 わたしは、言葉を失う。

 魔剣作り、奥が深いなあ。

 庭に行くと、クレアさんが汗だくになっていた。
 魔力を最大限に制御する訓練用ジャージを着ているとはいえ、クレアさんがここまでへバるとは。
 
「はあ、はあ。フルーレンツさん、ありがとうございました」
 
「うむ。かなりカンが戻ってきた。こちらこそ、ありがたい」

 一方、フルーレンツさんは涼しい顔である。

「宿に帰りましょう」

「もう、よろしいのですか?」

「これ以上いても、ヘルムースさんの集中を削ぐだけですので」

「そうですか。わかりましたわ。夕飯にいたしましょう」

 宿にチェックインして、酒場で晩ごはんを食べる。

「よく食べますわね」

「王城で緊張しすぎたからかも、しれません」

 今まで空腹だったことを忘れていたかのように、わたしはパスタやステーキをモリモリと食らう。

「キャルさん、なにかありましたのね?」

 やはり、クレアさんは敏い。
 わたしの変化を、敏感に感じ取ってくれた。

「ヘルムースさんから、魔剣は打てないと言われました」

 魔剣作りは、鍛冶の常識外だと。

「おそらく、相当の外法を用いないと、魔剣という非常識極まりない武器は作れないのでしょう。魔剣を打った本人も、おそらく正気を失うのかも」

 初めてわたしは、自分の行いに恐怖した。

 レベッカちゃんと、ちゃんと向き合っていなかったんだと、思い知らされている。
 
「そうですか。ですがキャルさんなら、きっと魔剣を作っても今まで通りですわ」

 わたしが自信を失っていると、クレアさんが励ましてくれた。

「だって、あなたとレベッカさんは、最初から一つの存在みたいでしたもの」

 そっか。
 わたしは、魔剣を作っているんじゃない。
 レベッカちゃんと一緒に、成長しているんだ。
 
「ありがとうございます。クレアさん。なんか、ヒントを掴めたみたいです」

「ウフフ。元気を取り戻せたなら、なによりですわっ」

 
 
 一晩寝て、再度ヘルムースさんの元へ。

 フルーレンツさんが、緑色の全身ヨロイに身を包む。

「感謝する。ヘルムース」
 
「とんでもねえ。キャルがダンジョンで金属を採掘してきたら、同じ素材で作りましょうぞ」

「ありがたい、ヘルムース。よろしく頼む」

「いえ。強い装備がなければ、魔女との戦闘どころではありませんで」

 いよいよ、魔女と戦うための素材集めだ。
 まずは冒険者ギルドへ、鉱石関連の依頼がないか尋ねてみた。

 昨日は鍛冶の見学に夢中で、すっかりツヴァンツィガーのギルドへ立ち寄るのを忘れていたんだよね。王様との話し合いもあったし。

「いらっしゃい。ツヴァンツィガーへようこそ」

 受付嬢も、ドワーフさんだ。しかも、ちょっとおばちゃんである。

「鉱山ダンジョンに関連した、クエストはありますか?」

「あるとも。あの鉱山の中でも、グミスリルが取れる地帯は、閉鎖されて久しいね」

「グミスリルとは?」

「ミスリルの硬さと、溶かしたアメのような柔軟性を持つ銀を持つ金属さ。鍛冶屋垂涎のアイテムなんだよ。けどねえ。魔女イザボーラ・ドナーツが占領しちまって」

 ここでも魔女! イザボーラって、かなり悪さをしてみるみたい。

「冒険者や王城のドワーフ兵たちも、あの鉱山に向かったんだけどさ。みんな逃げ帰ってきたよ」

 鉱山を守るモンスターが強すぎて、勝てないという。 

「ただのミスリルなら、別のポイントでも取れるんだよ」

 たしかに、フルーレンツさんの剣にも、一部ミスリルが使われている。

「そっちにも、魔女イザボーラの手がかかり始めてるね。グミスリルを独占しているモンスターさえ倒せば、魔物共も撤退するだろうさ」

グミスリルを占拠しているモンスターが、配下に指示を出して鉱山を襲わせているらしい。
 
「わかりました。その魔物を、やっつけに行きます」

 なにもヘルムートさんからは、グミスリルのダンジョンに行っちゃいけないって、言われていないもんね。

「正気かい? 相手は、デーモンだよ?」

「デーモンとは?」

「魔族さ。高位のヴァンパイアとか、魔王とか言われているよ」

 話を聞く限り、かなり強そうな魔物だな。

「鉱石を使われないように、魔女がグミスリルを使ってガーディアンゴーレムを作っちまったのさ」

 カリュブディスのように、不完全体でもなさそう。
 なんたって、グミスリルなんて貴重な金属をエサにしているそうだもん。
 
「それでも行きます」

 わたしたち三人は、ガーディアンを倒しに行くことにした。
 せっかくだし、珍しい金属が欲しい。
 邪魔な魔物も倒せて、一石二鳥だもんね。
 
 ギルドの依頼にあった、閉鎖された鉱山へ。

 道中は特になんの危なげもなく、モンスターも湧かなかった。
 

 これも、ヘルムースさんのおかげかも。
 カブトをドクロマスクにして、【王者の威厳】を持たせたのがよかったのだろう。
 王者の威厳とは、弱いモンスターを遠ざけるスキルだ。 
 スパルトイに指示を出すのにも、ちょうどいい。
 野盗ですら寄り付かないってのは、楽でいいよね。
 
 ただ、ここから先は威厳も通じないモンスターがわんさかいる。
 
『ミスリルでできたボスなんて、うまそうだね、キャル』

「そうだね」

 そんな感想が出るのは、レベッカちゃんくらいだよ。
 
「で、フルーレンツさん。剣の方は?」

「訓練用のものを、借りてきた」

 フルーレンツさんの武器は、ロングソードと、ショートソードの二本差である。
 背中に担いでいるロングソードは、両手持ちの大剣だ。
 ショートソードの方は、ナイフほどに短い。

「魔剣一〇本をフルに使っても、敵いませんでしたわ」

 クレアさんでも、苦戦するなんて。

 そこまで強いんだ。さすが、歴戦の王子様である。

 なお、盾は片手の上腕にのみ。相手の攻撃を受け流すための、小型の円形シールドを持ってもらった。
 わたしが壁役を担当するので、大型盾は持たせていない。

「両手大剣を所持してどのように大型シールドを構えるのかと思えば、もう一本の腕を生やすとは」

 背中から、魔力制御の多関節腕を展開し、大盾でみんなを守る。
 
「キャル殿の発想は、斜め上であるな」

「へへーん」

 魔法腕の性能も向上し、より早く盾を動かせるようになった。
 ヘルムースさんの技術を盗んで、応用している。

『魔物の気配がするねえ』

 レベッカちゃんが、魔物を探知した。

「我に任せてくれ」
 
 フルーレンツさんは、スパルトイ兵隊をどのように動かせばいいかも手慣れていた。王子様だったからだろうな。

『キャル。この間も話したけど、スパルトイやゴーストの統率は、フルーレンツにお願いしたよ』

「うん。同じアンデッドだから、フルーレンツさんが指揮する方がいいかもね」

 斥候役をうまく使って、フルーレンツさんは敵勢力の少ないルートを探している。
 弱い敵はスパルトイに任せて、障害になる大物だけをこちらで対処した。ムダな戦闘は、しない。みんな、待っているもんね。
 弱い魔物を狩るのは、鉱山をある程度安全にしてからにしたい。

「この魔物がいるフロアの奥に、強い殺気を感じる」

 フルーレンツさんが、警戒を行った。

「そこが、ボス部屋だね」

 たしかに、フロアの端に休憩スペースもある。ここは、当たりかも。
 
 牛頭の巨人が、わたしたちの前に立ちふさがる。

「ミノタウロス型か、悪くない」

 フルーレンツさんが、背中に担いでいた両手持ちの細身剣を抜く。

「キャル殿。手出し無用で、お願いいたす」

「わかったよ。あなたの騎士道を、尊重します」

「かたじけない。てやあ!」

 フルーレンツさんと、ミノタウロスが打ち合う。

 ミノタウロスの巨大な斧さえ、フルーレンツさんの身体に傷一つ付けられない。

 対してフルーレンツさんは、ミノタウロスに確実なダメージを与えていく。
 
 これがアンデッドの装備かと思えるくらい、フルーレンツさんは動きが機敏だ。
 もしかすると、魔剣を所持していたときより、強いかもしれない。
 スケルトンキングとかリッチとかなんていう、次元を超えていた。
 死神……。まさしくそう形容してもいいだろう。

「装備の硬さを試させてもらおう。来い」

 ミノタウロスの実力を把握したのか、フルーレンツさんが無防備になった。

 あえて魔物に、攻撃をさせる。

 だが、魔力がこもったヨロイに、ミノタウロスの腕力が通らない。

「うむ。一流の腕だ。ヘルムースよ」

 ミノタウロスの斧攻撃を、フルーレンツさんはラウンドシールドで軽く受け流す。

 シールドは、傷一つついていない。
 これが、職人の技か。
 使い手もすごいが、防具を作った職人の本気度もうかがえた。

「いい戦士だった。では、さらばだ」


 フルーレンツさんは、相手に敬意を評した。直後、ミノタウロスの首を難なくはねる。

 あれで、訓練用の剣かよ。

 ミノタウロスの首を切るなんて、それこそヤツが持っている斧でも難しいのに。
 
 ボス部屋横のフロアで、一旦休む。
 お腹が空いたので、クレアさんとお昼にする。

「何もすることが、ありませんわ。完全に、フルーレンツさんにおまかせしていますわね」

 申し訳なさそうに、クレアさんがサンドイッチをつつく。
 戦闘していない者が率先して食べていいものなのか、と考えているのかも。
 クレアさんも戦闘に参加しようとしたが、あっという間に終わってしまった。 
 
「どう、フルーレンツさん。ヨロイの着心地は?」

「見事だ。ヘルムースの丁寧さがうかがえる」
 
 フルーレンツさんのヨロイは、魔力が全身にいきわたるように、所々に地獄のヒスイ(アビスジェイド)を流し込んである。数ミリ単位という極細の装飾に、店売りの数倍という魔力量を圧縮していた。
 ヨロイ本来の硬度も、損なわれていない。

 あれだけの魔力を注ぎ込むためには、多少の硬度は犠牲にする必要があるのに。
 硬さを維持しつつ魔力をヨロイ全体に浸透させるには、熟練の技量が必要だ。

 わたしも、錬成技術をもっと磨かないとね。
 

「ただ、あれは一人では骨が折れるな」

 ボスの間に足を踏み入れて、フルーレンツさんがひとりごちた。

 眼の前にいるのは、グミスリル鋼で身を固めた騎士である。

 ひざまづいている姿だけでも、ただものではないとわかった。
 グミスリル鋼の騎士は、全身が青黒い。
 ヨロイの表面を、怨念で固めているかのようだ。
 
 青黒い騎士の周りには、冒険者たちの死体が転がっている。
 ボスである騎士を、討伐しに来たのだろう。すべて、返り討ちにあったか。

「彼らの無念は、我が晴らす。キャル殿、手出し無用」

「うん。でも危なくなったら、こっちが勝手に動くね」

 いくら使い魔といっても、死なれたらたまったもんじゃない。

「魔女を倒すまでの、契約だろうからな」

「違うって。ずっといっしょに、旅をするつもりだよ」

 わたしがいうと、フルーレンツさんは一瞬固まった。

「永久的な、契約だとは。こういうのは、目的を果たすまでのものだと」

「いえいえ。剣術でも、参考になる点は多いからね。レベッカちゃんの助けになってよ」

「……御意っ」
  
 ボス騎士と、フルーレンツ王子が対峙する。

 両者、同時に動いた。

「ぐあ!」

 インパクトの瞬間、フルーレンツさんが弾かれる。
 
 相手はミノタウロスより、背が高くない。
 だが、あんな巨人より腕力が強かった。

 王子の一撃を、騎士は軽くいなす。

 まさに、魔剣に操られていたときの王子を思わせた。

「ならば!」

 王子が、戦法を変える。
 両手剣を直し、ショート―ソードでの切り合いにシフトした。
 円形盾で敵の攻撃を受け流し、懐に飛び込む。
 
「そこ!」

 どうにか王子は、敵の顔面に剣を突き刺す。

「むっ!?」

 すぐに、王子は相手から飛び退いた。
 
「こやつも、スケルトンか」
 
『だったら、炎が効くはずだよ! 喰らいな!』

 レベッカちゃんが、わたしと意識を交代する。

 炎をまとった魔剣を振るって、魔物に叩き込む。

『なんだってんだ!?』


「あれは、スケルトンではありませんわ」

 たしか、デーモンっていっていたっけ。こんなに強いんだ。

『じゃあ、【ライカーガス】ってわけかい』
 
 ライカーガスとは、「どこぞの国の王族」という意味である。
 アンデッドの姿をとっているが、正確には魔族だ。

「来るよ!」

 アンデッドになった冒険者が、わたしたちに襲いかかってきた。

雷霆蹴り(トニトルス)!」

 ジグザグ状に、雷光が轟く。

 アンデッド冒険者を、クレアさんが片っ端から破壊していた。

「ザコはこちらに任せて、キャルさんはボスをお願いします!」

「わかった! わたしが正面で相手をするから、フルーレンツさんは側面から!」

「うむ! この際、共闘する!」

 フルーレンツさんが、こちらの指示通りに側面から敵に切りかかる。
 
 サシの勝負にこだわっていたフルーレンツさんも、さすがに勝てないと思ったか。
 
 二対一になっても、相手の優勢は変わらない。
 こんなに、強いのかよ!

「さすがデーモン! やる!」

 フルーレンツさんにとっても、相手にとって不足なしと言ったところなのだろう。
 苦戦しつつも、高揚している。

「ドワ!」

 真正面から、騎士に斬りかかられた。

 おお。無事である。あってよかった、第三の腕。

「からの! 【ブレイズ】!」

 相手の剣を持つ手を抱え込み、一緒に火だるまに。

『炎属性は効かないだろうけど、ずっと燃え続けて焼け死なないってわけじゃないだろうよ!』

 ましてレベッカちゃんには、【原始の炎】がある。

 黙っていても、ダメージが通るはずだ。
 
『しぶといね!』

 いくら燃やしても、ライカーガスは倒れない。

「決定的な一撃が、足りないみたい」

『くそ! 面倒だねぇ!』

 レベッカちゃんは、一旦魔物から離れる。

「グミスリルに、相殺されているのかも」
 
『そんな効果が、あるようだね』

 グミスリル製の実力を、垣間見た。
 たしかに、この防御力は凄まじい。
【原始の炎】さえも、軽減するとは。
 
 本格的な防具の調節をされると、レベッカちゃんでも苦戦するようだ。

 かといって呪い焼きなんてしたら、せっかくのグミスリルさえ破壊してしまう。

 おそらくあのヨロイに、グミスリルは使い込まている。

 魔女なら、それくらいの悪行はするはず。

「特にこれといって弱点もなさそうだし、動力がグミスリルなのはわかってるんだけど」

……っ!

「わかった。脆いところを狙おう」

『秘策を、見つけたんだね?』

「うん! フルーレンツさん!」

 わたしは、フルーレンツさんに指示を送った。

「承知した!」

 フルーレンツさんとライカーガスが、切り合う。

 懐に飛び込めないほどの、激しい武器同士のぶつかり合いが続いた。

「今だよ、レベッカちゃん!」

『おう! おおおおお!』

 レベッカちゃんが、騎士を背中から切りかかった。
 ただ、相手の身体を斬るわけじゃない。

 狙うのは、ヨロイとヨロイを結ぶ、魔力の繋ぎ目だけ。

 さすがレベッカちゃん。慎重にスパッと、金色の装飾だけを剣先で切った。

 それだけで、あれほどの猛威を振るっていた騎士の体勢が崩れる。

「フルーレンツさん!」

 同じように、フルーレンツさんもショートソードをふるった。
 魔力同士の繋ぎ目を、スパスパと切り捨てる。

 二人の器用さがなければ、できない芸当だ。

 騎士ライカーガスが、戦闘不能になる。
 ヨロイをすっかり失った敵が、弱点の魔法石を露出した。

『トドメだよ!』

 ドスン、と、レベッカちゃんが剣を魔法石に突き立てる。

 どうにか、ボスを退治することができた。

『ところで、フルーレンツ。このヤロウは、知り合いかい?』

 レベッカちゃんが、ライカーガスのカブトを剥ぎ取る。

「むう。やはり、デーモンの顔にしか見えぬ。我が配下や、敵の部隊にも、このような者はいなかった気がする」

『そうかい』

 魔女イザボーラは、デーモンすらも操るのか。
 
  


 
「そんなに調べても、資料なんて出てこないでヤンスよ」

 リンタローは、本の虫になったヤトに辟易する。

 二人は未だに、港町ファッパに腰を据えていた。
 魔女イザボーラについて、調べるためだ。 
 
 風魔法で一冊ずつ本のホコリを払い、そのまま魔法で本棚にしまう。
 その度にヤトが別の本を棚から出すものだから、片付けが終わらない。

 財団の書庫を片付けることを条件に、蔵書や資料類を借りているだけだと言うのに。

 こちらがいくら整理しても、ヤトが散らかしてしまう。

「まって。もうすぐ出てくる。あんたは、魔女について調べて」

 ヤトは、コーラッセンについて調べ物をしていた。

「魔女イザボーラの伝説なんて、ソレガシたち天狗(イースト・エルフ)でさえ知ってるでヤンス。エルフ界隈で、知らないヤツはいないでヤンスよ」

 イザボーラは、エルフのハミ出し者だ。
 自分の力を過信し、自らを「魔王をも超える最強の魔女だ」といい出し、里を飛び出したのである。イザボーラの故郷が宗教色の強い、閉鎖的な地域だったのもあるだろうが。
 当時からイザボーラは、闇に魅入られた厄介オタクとして有名だったが、余計にタチが悪くなったようである。

 魔剣の流通ルートなどの情報から、リンタローはおそらくツヴァンツィガーを狙っているのがイザボーラだと気づく。
 ファッパの財団に聞いたところ、やはりイザボーラが各地で悪さをしていることがわかった。
 本当にイザボーラは、魔王に取って代わろうとしているに違いない。
 
 しかし、ヤトはもっと遡って、コーラッセンの情報を集めだしたのだ。

「どうしてイザボーラが、ツヴァンツィガーにこだわっているのか。どうしてあの王子を手下にしたのか、これでわかるかも」

 本のページを、ヤトが指さしている。

 勇者の特徴、剣術の内容などが、記されていた。
いずれも、フルーレンツと共通するものばかり。
 となれば、なぜフルーレンツがあそこまで強かったか説明がつく。

「なるほど。フルーレンツ殿は、勇者の父親でヤンしたか」

 勇者の強さは、フルーレンツ・コーラッセンの血を引き継いでいたいからなのだろう。
 その血脈は、今も。

「たしかツヴァンツィガーには、小さい王女がいた。ツヴァンツィガーは代々、勇者の血族」

 だとしたら、狙われるのは……。
 
 リンタローとヤトは、資料庫を飛び出した。