海底神殿で得た戦利品の確認をする前に、わたしたちは一休みすることにした。
 一日中、泥のように眠る。

 夕方になってようやく起き出して、クロスボーデヴィヒ財団主催のバーベキューパーティに呼ばれた。

「おいしい……」

 久々のお肉に、わたしはほっぺが落ちそうになる。

「魚もイケルでヤンスよ、キャル殿」

ラム酒を片手に、リンタローが持っているものは! 
 
「ホント? うわ。お刺身だ!」

 お刺身なんて、王都じゃめったに食べられなかったもんなあ。
 あっても、干物だったもんね。しかも、現地の数倍は塩辛い。

「ああ。おいしい……」

「いい食べっぷりでヤンスね。一杯どうでヤンス?」

 リンタローが、ラム酒をすすめてきた。

「いや。わたし飲めなくて」

 一五歳になって一応、元服はしている。お酒は飲んでいいんだけど、アルコール自体がダメっぽい。
 ラム酒の匂いを嗅いだだけで、むせてしまった。

「ごめん。いいかな?」

「そうでヤンスかー。ヤトもダメなんでヤンスよねえ。あっちは辛党でヤンして」

 ヤトは、わさびをきかせたお寿司を食べている。
 にぎり寿司なんてあるんだ。ここって。

「わたしも、あっちをいただきます……」

「でヤンスか。飲めるようになったら、おっしゃってくれでヤンス」

 リンタローはラム酒の瓶を、ラッパのように傾ける。
 クレアさんの方には、行かないんだな。
 飲めないって、わかってるんだ。
 
 クレアさんの方はフワルー先輩に、お酒をすすめられている。
 だが、あちらも飲まない様子だ。
 シューくんは、まだ未成年なのでお酒はダメ。

「フワルー、ダメでヤンスよ。飲めない人に、ムリヤリすすめたら。アルハラでヤンス」

「しゃーない。ほな、アンタが飲み」

「へーい」

 フワルー先輩がリンタローのグラスに、ワインをなみなみと注ぐ。

「じゃあ、ご返杯」

「いらんわ! それ、アンタが口つけた瓶やんけ!」

 リンタローはラム酒を注ごうとして、フワルー先輩にかわされていた。 

 さて、わたしはお寿司を、と。

「あいにく、血合いしかありません」

 板前さんが、わたしに頭を下げる。

 フフフ。わたしにお魚の知識がないと見てるね。
 
「なにをおっしゃる。骨の周りなんて、一番美味しいところじゃないですか」

「おっ。わかってらっしゃいますね」

 負けたよ、といった顔になって、アラをこそぎ落とす。
 自分たちだけで一番美味しい部分を、食べようとしていたな。

 残念でした。わたしにも、ちょっぴり分けていただきますからね。


『楽しそうだな。キャル』

 仙狸のテンちゃんにくくりつけられた、レベッカちゃんのそばまで行く。

 テンちゃんはツナ、つまり、炙ったマグロを食べていた。クマかよってくらいに、モリモリ召し上がってらっしゃる。
 
「ごめんね、レベッカちゃん」

『いいってことよ。海底神殿をまるごといただいたんだ。むしろ、食あたり気味なくらいさ』

 レベッカちゃんが食あたりって。

「明日は、絶対に錬成するからね」

『頼んだよ、キャル』
 
 
 で、翌日を迎えた。


 改めて、戦利品の確認を行う。

 妖刀のかけら数点と、魔法石はわたしとレベッカちゃんで。

 神殿を支配していた魔王【カリュブディス】のドロップ品は、クレアさんが手に入れた。

 こちらは、同じように魔王を倒したヤト組も同じである。

 ただ、二人のアイテムの種類は微妙に違っていた。

「クレアさんは武器全般。ヤト組は、防具やアクセサリが中心ですね」

 カリュブディスのドロップ品を、クレアさんは一箇所にまとめる。
 
「お好きなものを、どうぞ」

 錬成に使いたい品を、分け合う。
 
「いいんでヤンスか? そちらには、デメリットばかり残るのでは?」

「構いませんわ。お二人がそんな薄情な方たちだとは、こちらも思っていませんもの」
 
 さすがクレアさんだ。相手のことを、よく見ている。

「でもソレガシたちは、お二人がセイレーンと戦っているときに、先回りしたでヤンスよ? 薄情だとは、思わないので?」

「別に。当然の判断だと思いますわ。ワタクシがリンタローさんだとしても、同じことをしていたでしょう」
 
「欲がないどころか、お人好しすぎるでヤンス」

 リンタローは戸惑ったが、ヤトは迷わず自分の欲しい物を取っていった。

「この二人は、別にお人好しじゃない。こちらが最適な武具を選ぶと、本気で信じてる」

「でヤンスね」

 リンタローも、自分の求めている品に手を出す。

 続いて、わたしたちも同様の行為をした。

「見事に、割れたでヤンスね」


 リンタローは、敏捷性が上がるブーツなど。
 ヤトは、精神耐性の上がるアクセなどを選んだ。

 脳筋クレアさんは、攻撃力の上がる腕輪だけをチョイス。さすがというべきか。

「キャルは、ヨロイ中心?」

「うん。重めのを選んでみたよ」

 このパーティなら、今後わたしはタンクを引き受けることになるだろう。

 タンクとは、ヘイトを稼いで相手の攻撃を受ける役回りだ。
 
 どうあがいても、わたしは足が遅い。
 鈍重なわたしが速度アップの装備で固めても、足手まといになりそう。
 海底神殿での戦いで、わたしは思い知った。

 レベッカちゃんに身体強化をしてもらったけど、筋力がメインである。
 これでは、ヒット・アンド・アウェイ戦法なんてできそうにない。

 ならば素早さを捨てて、相手の攻撃は全部受け切るつもりで構えていたほうがいいのではないか。
 そう、ビルド構築を考えたのだ。

「魔法石が大量にあるから、ヨロイづくりには事欠かないよ」

「そうはいっても、専門家の知恵は必要かも」

「そこは、ぬかりはないよ」


 シューくんにも、工房に入ってもらった。
 フワルー先輩も、監修役として同行している。

「キャルさんに呼ばれるなんて、光栄ですね」

「ありがとう。こっちのムチャぶりにこたえてくれて」

 さっそくビルドの構築について、相談に乗ってもらう。

「はい。魔法ヨロイですね。古い文献を調べたら、こんなものが」


 シューくんが、ヨロイの百科事典を調べる。

「ビキニアーマーやて!?」

 先輩が、目を丸くした。

「うーん。これなら際どい露出をガマンすれば、機敏にうごけるけどね」

 肌を見せびらかすこと以外は、案外防御面で不自由しなさそう。
 一応、ビキニ素材は金属みたいだし。

『たしかに、動きやすそうだね』

 レベッカちゃんも、満更でもない様子。

「アカンアカン! こんなの! シューと二人きりのときに、見せたるわ!」

 フワルー先輩が、やたら焦りだしている。

「そういえば、先輩が学校で来ていた貝殻ビキニも、いちおう『これは【ビキニアーマー】や!』って、ごまかしていましたもんね」

「せや! あんなんでよかったら、家でなんべんでも見せたるわ、シュー! せやからキャルをビキニ姿にするんは、やめとき」

「どうしてです? わたしは一向に構いませんよ」

 フワルー先輩に続き、なぜかクレアさんまで「ダメ!」と声を荒らげた。

「クレアさん?」

 なんなんだ、二人して?
 
「キャルさん! あなたはもっとご自身の身体がいかに殿方を狂わせるか、もっと自覚した方がよろしくてよ!」

「せやで。よろしくてよ!」
 
 うーん。動きやすそうでいいと思ったんだが。

「あの、お二人には申し訳ないのですが、一応ボクは『こういうアイデアもあります』と提示しただけでして、決してキャルさんのビキニが見たかったわけでは」

 シューくんが、頭をポリポリとかく。

「せやったん!? ほんならはよ言うてえな! 本気にしてもうたやん!」

 フワルー先輩が、シューくんの肩をバチンと叩いた。

「いてて。では、候補を上げますね」

 改めてシューくんが、リストをわたしに見せる。


「本命は、こっちかなと」
 
「ドレスアーマーか」