長い廊下を渡り、大広間にたどり着く。そこには、扉のような壁で覆われていた。しかし、錠らしき部分は、遥か上空にある。
「扉の各所に、足場がありますね。ジャンプして渡って、上空の仕掛けを開けなければ」
「キャルさん、敵ですわ!」
ナーガが、襲いかかってきた。黒いウミネコも、数匹出現する。
それらを従えているのは、一つ目の大入道だ。フジツボやイソギンチャクが、表皮に寄生している。
『あいつは、海坊主だねぇ』
このモンスターの、通り道だったのか。
「ちょうどいいですわ。トートさん、六番を」
クレアさんから指示を受けて、トートが魔剣の六番である鉄塊を用意する。
「キャルさんはジャンプして、扉の仕掛けを操作してくださいまし。ザコは、ワタクシが引き受けますわ」
ナーガの群れを、クレアさんが鉄塊で瞬殺した。
わたしは足場をジャンプしつつ、ウミネコを火球で撃ち落とす。
ウミネコも、氷の矢を飛ばしてきた。
足場をジャンプしつつ、氷の矢をかわす。
「よっと!」
カウンターで、火球を飛ばした。
黒いウミネコが、黒焦げになる。
「ヤバ!」
凍った足場で、わたしは足を滑らせた。一つ前の地点に、戻されてしまう。
なるほど、ウミネコの役割がわかったぞ。優先的に倒さねば。
「うわっ! とっとっと!」
ウミネコを撃墜していると、海坊主がわたしに殴りかかってきた。
「うわああ。足場まで引っ込んだ!」
わたしは慌てて、来た道を引き返す。
どうするか。あれでは、扉の仕掛けまで登れない。剣で扉を突いてみたが、刺さらなかった。やはり足場を登らないと、ダメなようである。
「あなたのお相手は、ワタクシですわ!」
クレアさんが、海坊主の小指に五番の棍棒を叩きつけた。
足の指を潰されて、海坊主がクレアさんを踏みつける。
「クレアさん!?」
だが、海坊主の足が破裂した。
クレアさんが、六番の両手斧を持って跳躍する。いつの間に、武器を変えたのか。
海坊主が、ヒザをついた。
クレアさんが、両手斧からレイピアを引き抜く。
中腰状態な海坊主の目に、クレアさんはレイピアを突き刺した。
「これが、九番ですわ」
六をひっくり返すと、九になる。
わたしはクレアさんの魔剣を錬成する際、鉄塊にレイピアを仕込んでいたのだ。六番と九番は、対の魔剣なのである。
扉にもたれながら、海坊主が事切れる。
「ちょっと通りますよっと」
海坊主の亡骸を足場代わりにして、扉の仕掛けまで登っていった。
今度はクレアさんが、ウミネコを弓で撃ち落としていく。
「開けますよ」
敵が全滅したのを見計らい、わたしは扉の仕掛けを回す。
巨大な扉が、ギギ、とゆっくり開く。
「ようこそ。私の神殿に」
そこにいたのは、セイレーンだった。
「あっ」
わたしは、そのセイレーンに見覚えが。片腕がない。
『アタシ様が、腕を切り落としたヤロウだね』
「そう。あのときに受けた屈辱は、忘れないわぁ」
そういえば、言葉を話す個体は、コイツだけだったような。
「何者なの?」
「私? あなたたちの言葉を借りれば、【カリュブディス】っていうんだけど」
「魔王カリュブディス!?」
なんと、街に攻めてきたのが、カリュブディス本人だったとは。
「といっても、妖刀を預けていた方の姉妹は、もうやられちゃったみたいだけど」
「姉妹?」
「そう。私たちは、二体で一つの魔王なの。私は偵察役。妹の方は、妖刀を守る」
このセイレーンは、二体いるカリュブディスの一体だという。
「わたしたちは、この地に沈んでいたんだけど、逃げてきた妖刀【夜巡斗之神】が、この地に流れ着いたことで、復活できたのよ」
東洋から来た悪徳商業船が嵐に巻き込まれて、妖刀が海底神殿付近に沈んだという。
「妖刀は巡り巡って、色んな人に買われていった。けれど全然使いこなせる相手がいなくて、退屈していたみたい。使い手も、みーんな死んじゃうんだもん。だから、魔王を選んだのかもね」
ケラケラと笑いながら、妖刀の武勇伝を語る。
「でもさ、今はいい依代が見つかったみたい」
まさか……。
「キャルさん、イヤな予感がしますわ」
クレアさんが、拳を固めた。
ヤトたちが危ない。ここを早く切り抜けて、ヤトたちと合流しないと。
「あなたたちを、止めますっ!」
「ンフフ。やってみなさいな。人間ごときに、なにができるかわからないけど」
魔王カリュブディスが、帽子を脱ぐ。
「こっちは妖刀なんかなくたって、あんたたちくらい一捻りなのよねぇ」
魔王らしく、傲慢な言葉を吐いた。とはいえ、彼女の話は本当だろう。一気に魔力が、膨れ上がった。
「このちぎれた腕の仇を、取らせてもらうわよ」
魔王の切られた腕から、イソギンチャクの触手が生えてきた。うええ。
「キャルさん。行ってください。ヤトさんたちは、あの通路の向こうです」
クレアさんが、魔王の後ろにある脇道を指差す。
「……クレアさん?」
わたしは呼びかけて、一瞬ですべてを理解した。
クレアさんは、怒っている。
「この怪物は、一〇番を叩き込むのに、ふさわしい相手ですわ」
これは、手を貸すべきではない。
初めて本気を出せる相手に巡り合った高ぶりと、人間の感情を踏みにじったことに対する激怒が、クレアさんの顔に混ざり合っていた。
「手出し無用。キャルさんは先を急いでくださいまし」
「はい!」
わたしは秒で、判断する。大急ぎで、ヤトたちの救出に向かった。
*
「逃さないわよ!」
イソギンチャクの腕を伸ばし、魔王がキャルを撃破しようとする。
だが、クリスは即座に四番の弓を射た。魔王の触手を、矢で切断する。
「やるもんね。人間も」
「あなたは、人間を舐めすぎです。誰かを守ろうとする時、人間は強くなる。あなただって、かつて人間を舐め腐ったせいで、負けたのでは?」
クレアが挑発すると、さっきまで笑っていたカリュブディスが真顔になった。
「私の正体を、見せてあげる」
魚だった下半身が、蛇のそれに変わる。身体も大きくなり、ナーガ以上の背丈に。
「どちらかがやられたら、片方に力が行くようになっているの。つまりあなたはたった一人で、私たち二人の魔王を相手にしなければならない!」
「そうですか。ちょうどいいハンデキャップですわ」
「なにい!?」
あくまでも、クレアは負ける気がしない。キャラメ・F・ルージュが作った魔剣【地獄極楽右衛門があるから。
この剣は、本当によくできている。今の自分に、ちょうどいい武器を選択できるのだ。
「トートさん、五番を」
今の自分は、頭にきている。
「まずはこのイキリ散らかしているあなたの頭を、一発ぶん殴ることにしますわ」
「イキリ散らかしているのは、どっちなのかしら?」
魔王カリュブディスが、両方の腕を振り上げた。それだけで、嵐が巻き起こる。
「アハハ! 雷雨を存分に圧縮した竜巻に、身体を削られ続けなさい」
「一見棍棒にしか見えないこの五番が、どうして【魔剣】と称されているか、お教えいたしますわ」
クレアは、棍棒をブン! っと振り回した。
猛威を振るっていた竜巻が、一瞬にしてかき消える。
「なんだと?」
「この魔剣は、相手の武器や攻撃を、破壊するための武器なのですわ」
攻撃を破壊するための魔剣として、この刃のない武器が作られた。
しかし、魔王の攻撃さえも壊すとは。
魔剣作りをキャラメ・ルージュに頼んで、本当によかった。
学園に突き刺さっていた聖剣だったら、こんな面白い攻撃は、できなかっただろう。それこそ、オーソドックスな攻防しかできなかったに違いない。
「許さない。私の、この魔王カリュブディスをコケにしたことを、後悔しなさい」
「あなたこそ、人間を見下した罪は思いですわ。一〇番のサビにして差し上げます」
トートがためらいながら、一〇番の剣を投げてよこした。
その剣には、刃がない。
「アハハッ! バカね! 刀身のない剣で、どうやって戦うの?」
「まあ、あなたに見えなくて同然です。この魔剣の刀身は、バカには見えませんので」
「扉の各所に、足場がありますね。ジャンプして渡って、上空の仕掛けを開けなければ」
「キャルさん、敵ですわ!」
ナーガが、襲いかかってきた。黒いウミネコも、数匹出現する。
それらを従えているのは、一つ目の大入道だ。フジツボやイソギンチャクが、表皮に寄生している。
『あいつは、海坊主だねぇ』
このモンスターの、通り道だったのか。
「ちょうどいいですわ。トートさん、六番を」
クレアさんから指示を受けて、トートが魔剣の六番である鉄塊を用意する。
「キャルさんはジャンプして、扉の仕掛けを操作してくださいまし。ザコは、ワタクシが引き受けますわ」
ナーガの群れを、クレアさんが鉄塊で瞬殺した。
わたしは足場をジャンプしつつ、ウミネコを火球で撃ち落とす。
ウミネコも、氷の矢を飛ばしてきた。
足場をジャンプしつつ、氷の矢をかわす。
「よっと!」
カウンターで、火球を飛ばした。
黒いウミネコが、黒焦げになる。
「ヤバ!」
凍った足場で、わたしは足を滑らせた。一つ前の地点に、戻されてしまう。
なるほど、ウミネコの役割がわかったぞ。優先的に倒さねば。
「うわっ! とっとっと!」
ウミネコを撃墜していると、海坊主がわたしに殴りかかってきた。
「うわああ。足場まで引っ込んだ!」
わたしは慌てて、来た道を引き返す。
どうするか。あれでは、扉の仕掛けまで登れない。剣で扉を突いてみたが、刺さらなかった。やはり足場を登らないと、ダメなようである。
「あなたのお相手は、ワタクシですわ!」
クレアさんが、海坊主の小指に五番の棍棒を叩きつけた。
足の指を潰されて、海坊主がクレアさんを踏みつける。
「クレアさん!?」
だが、海坊主の足が破裂した。
クレアさんが、六番の両手斧を持って跳躍する。いつの間に、武器を変えたのか。
海坊主が、ヒザをついた。
クレアさんが、両手斧からレイピアを引き抜く。
中腰状態な海坊主の目に、クレアさんはレイピアを突き刺した。
「これが、九番ですわ」
六をひっくり返すと、九になる。
わたしはクレアさんの魔剣を錬成する際、鉄塊にレイピアを仕込んでいたのだ。六番と九番は、対の魔剣なのである。
扉にもたれながら、海坊主が事切れる。
「ちょっと通りますよっと」
海坊主の亡骸を足場代わりにして、扉の仕掛けまで登っていった。
今度はクレアさんが、ウミネコを弓で撃ち落としていく。
「開けますよ」
敵が全滅したのを見計らい、わたしは扉の仕掛けを回す。
巨大な扉が、ギギ、とゆっくり開く。
「ようこそ。私の神殿に」
そこにいたのは、セイレーンだった。
「あっ」
わたしは、そのセイレーンに見覚えが。片腕がない。
『アタシ様が、腕を切り落としたヤロウだね』
「そう。あのときに受けた屈辱は、忘れないわぁ」
そういえば、言葉を話す個体は、コイツだけだったような。
「何者なの?」
「私? あなたたちの言葉を借りれば、【カリュブディス】っていうんだけど」
「魔王カリュブディス!?」
なんと、街に攻めてきたのが、カリュブディス本人だったとは。
「といっても、妖刀を預けていた方の姉妹は、もうやられちゃったみたいだけど」
「姉妹?」
「そう。私たちは、二体で一つの魔王なの。私は偵察役。妹の方は、妖刀を守る」
このセイレーンは、二体いるカリュブディスの一体だという。
「わたしたちは、この地に沈んでいたんだけど、逃げてきた妖刀【夜巡斗之神】が、この地に流れ着いたことで、復活できたのよ」
東洋から来た悪徳商業船が嵐に巻き込まれて、妖刀が海底神殿付近に沈んだという。
「妖刀は巡り巡って、色んな人に買われていった。けれど全然使いこなせる相手がいなくて、退屈していたみたい。使い手も、みーんな死んじゃうんだもん。だから、魔王を選んだのかもね」
ケラケラと笑いながら、妖刀の武勇伝を語る。
「でもさ、今はいい依代が見つかったみたい」
まさか……。
「キャルさん、イヤな予感がしますわ」
クレアさんが、拳を固めた。
ヤトたちが危ない。ここを早く切り抜けて、ヤトたちと合流しないと。
「あなたたちを、止めますっ!」
「ンフフ。やってみなさいな。人間ごときに、なにができるかわからないけど」
魔王カリュブディスが、帽子を脱ぐ。
「こっちは妖刀なんかなくたって、あんたたちくらい一捻りなのよねぇ」
魔王らしく、傲慢な言葉を吐いた。とはいえ、彼女の話は本当だろう。一気に魔力が、膨れ上がった。
「このちぎれた腕の仇を、取らせてもらうわよ」
魔王の切られた腕から、イソギンチャクの触手が生えてきた。うええ。
「キャルさん。行ってください。ヤトさんたちは、あの通路の向こうです」
クレアさんが、魔王の後ろにある脇道を指差す。
「……クレアさん?」
わたしは呼びかけて、一瞬ですべてを理解した。
クレアさんは、怒っている。
「この怪物は、一〇番を叩き込むのに、ふさわしい相手ですわ」
これは、手を貸すべきではない。
初めて本気を出せる相手に巡り合った高ぶりと、人間の感情を踏みにじったことに対する激怒が、クレアさんの顔に混ざり合っていた。
「手出し無用。キャルさんは先を急いでくださいまし」
「はい!」
わたしは秒で、判断する。大急ぎで、ヤトたちの救出に向かった。
*
「逃さないわよ!」
イソギンチャクの腕を伸ばし、魔王がキャルを撃破しようとする。
だが、クリスは即座に四番の弓を射た。魔王の触手を、矢で切断する。
「やるもんね。人間も」
「あなたは、人間を舐めすぎです。誰かを守ろうとする時、人間は強くなる。あなただって、かつて人間を舐め腐ったせいで、負けたのでは?」
クレアが挑発すると、さっきまで笑っていたカリュブディスが真顔になった。
「私の正体を、見せてあげる」
魚だった下半身が、蛇のそれに変わる。身体も大きくなり、ナーガ以上の背丈に。
「どちらかがやられたら、片方に力が行くようになっているの。つまりあなたはたった一人で、私たち二人の魔王を相手にしなければならない!」
「そうですか。ちょうどいいハンデキャップですわ」
「なにい!?」
あくまでも、クレアは負ける気がしない。キャラメ・F・ルージュが作った魔剣【地獄極楽右衛門があるから。
この剣は、本当によくできている。今の自分に、ちょうどいい武器を選択できるのだ。
「トートさん、五番を」
今の自分は、頭にきている。
「まずはこのイキリ散らかしているあなたの頭を、一発ぶん殴ることにしますわ」
「イキリ散らかしているのは、どっちなのかしら?」
魔王カリュブディスが、両方の腕を振り上げた。それだけで、嵐が巻き起こる。
「アハハ! 雷雨を存分に圧縮した竜巻に、身体を削られ続けなさい」
「一見棍棒にしか見えないこの五番が、どうして【魔剣】と称されているか、お教えいたしますわ」
クレアは、棍棒をブン! っと振り回した。
猛威を振るっていた竜巻が、一瞬にしてかき消える。
「なんだと?」
「この魔剣は、相手の武器や攻撃を、破壊するための武器なのですわ」
攻撃を破壊するための魔剣として、この刃のない武器が作られた。
しかし、魔王の攻撃さえも壊すとは。
魔剣作りをキャラメ・ルージュに頼んで、本当によかった。
学園に突き刺さっていた聖剣だったら、こんな面白い攻撃は、できなかっただろう。それこそ、オーソドックスな攻防しかできなかったに違いない。
「許さない。私の、この魔王カリュブディスをコケにしたことを、後悔しなさい」
「あなたこそ、人間を見下した罪は思いですわ。一〇番のサビにして差し上げます」
トートがためらいながら、一〇番の剣を投げてよこした。
その剣には、刃がない。
「アハハッ! バカね! 刀身のない剣で、どうやって戦うの?」
「まあ、あなたに見えなくて同然です。この魔剣の刀身は、バカには見えませんので」