「後ろにいるゴーレムも、あなたの発明品でしょうか? 改めさせていただきますよ!」

 門番さんが、ウッドゴーレムたちの確認をしようとした。

 これはまいったな。店を改造して、歩けるようにしただけなんだけど。内装以外、すべてゴーレムにしてしまっている。アイテムボックスに、しまえないのだ。

「すいません。お待ちください。書状はちゃんとこちらに」

 行商人さんが、門番さんに書状を渡す。

「この方たちの無害は、我々行商団が保証いたします」

「失礼しました。あなたがそこまでおっしゃるなら、お通りください」

 財団のご子息より、行商人さんの方が信頼されているとか。

 それより、この行商人さんが偉い人だとか?

「商業ギルドの前に、財団の方へごあいさつへ行きましょうか。シューさんを送らなければ」

 行商人さんが先頭になって、街の中へ。

 商業ギルドの承諾を得るまで、ゴーレムたちには街の外にある森にでも隠れてもらうことにした。木を隠すなら森ってね。

 道の対角にあるのが、商人ギルドみたいである。

「あれが、財団ですかね? 行きましょう」

 わたしは、石畳を歩こうとした。

「待って、キャルさん。お気をつけください」

 行商人さんが、手をスッと前に出す。わたしたちの進行を、妨げた。なんだろう?

「うわ!」

 黒い塊が、わたしたちの横を通り過ぎていった。

「あれは?」

 幌のない黒い馬車が、馬もなしに走っていったけど?

「自動車です。魔力で動いているんですよ」

 馬車の代わりに、大きな魔法石を動力にしているのだとか。人が魔力を送り込むことによって、発進、進行、停止を行う。

 すごいな。扱ってみたい。魔剣の参考になりそう。

「あっちは、なんだろう? 板の上に、人が乗ってますよ?」

 若い青年が、盾のような細長い板に乗って、地面スレスレを低空飛行している。郵便物を配っているみたいだが。
 板切れの先には、杖のような一メートルほどの棒が垂直に取り付けられている。あれを傾けることで、進行方向を操作しているようだ。

「あちらは、出前ですわ」

 ミニスカメイド姿の女性が、商業ギルドへコーヒーとサンドウィッチを配っている。あちらも、同じような板に乗っていた。

「あれは、【マナボード】です。あれも、魔法石を使って動いているんです」

 杖の先端とマナボードの下部に、小さい魔法石が取り付けられている。あれで魔力をコントロールして、動かすそうだ。


 この付近は島が多く、あのボードで海を渡ることもあるとか。

「すごい。新しいものがいっぱいだ」

『魔剣の参考になりそうじゃないか。頭が冴えわたってきたよ!』

 レベッカちゃんも、テンションを上げる。脳内会話だけど。

「父があのような【馬を必要としない移動手段】を開発し、我が社は発展を遂げました。といっても、この街自体をインフラ整備して、ようやくまともに稼働しているのですが」

 道に魔力石を埋め込んで、進みやすくするように整地しているのだとか。

 車もほとんどが貴族用で、一般には普及していないらしい。ただ馬車よりも早く走れるため、相当な需要があるという。

「お車でしたら、わたくしの父も、一台所有しておりますわ」

「クリスさんのお家も、貴族様なんですね?」

「……ええ。まあ。そんなところですわ」

 アンタッチャブルな話題をシューくんから振られ、クリスさんが言葉を濁す。「王族です」とは、言えないよなあ。

 わたしたちは、財団の本部へ。

「ただいま。おかあさま」

「また、あんたはこんなに汚して! すいませんねえ。送ってくださって」

 人間族の中年女性が、シューくんを叱り飛ばす。

「もう。一四にもなって、ガキなんだから。お客様の前ですよ。着替えてらっしゃい」

「はあーい」

 シューくんが、廊下をトタトタと走っていった。

 ふんわりエプロンドレスを着たメイドさんが数名、シューくんの後を追いかける。

 シューくんは、わたしの一つ下なんだね。見た目から、もっと下かなと思っていたけど。

「ごめんなさいね。お茶とお菓子を用意するから、あちらでお待ちになって」

「ありがとうございます」

 シューくんが着替えている間に、わたしたちはお庭でお茶をいただくことにした。

 行商人さんは、席を外している。財団の責任者と、話し合いをするらしい。

「お待たせしました」

 シューくんが、真新しい服に着替えて現れた。白いシャツと、サスペンダー付きのショートパンツスタイルである。

「ごめんなさい。なまじ一三歳で地元の大学を出たもんだから、調子乗りで」

「一三で大学卒業!?」

 どんだけ、飛び級だっての。 

「研究に熱心なのはいいけど、ポンコツばかり作っても仕方ないでしょう?」

「だからいいんですよ。可能性はどんな些細なことでも、検証しなければ。錬金術を学んだキャルさんやフワルーさんなら、ご理解いただけますか?」

 それは、わたしも同感である。

「せやね。命に関わること以外なら、なんぼ失敗してもええ。せやけどホンマは、うまくいったときのほうがヤバイ。成功に味をしめてしもうて、それ以上の研究を怠ってしまう。ほんで、取り返しのつかん失敗につながるんや」

 だから、さらなるチェックが必要なんだ。

 これは、フワルー先輩に叩き込まれた。

「ウチの先輩は、そのせいで片腕になってしもうたからな」

「そんなことが、あったんですね?」

「せやねん。だからウチは、適当はできへん。他人が使う、商品やからな」

 フワルー先輩の言葉に、シューくんは感銘を受けたようである。

「素敵です。あなたなら、ボクの考えをわかっていただけると思っていました」

「さ、さよか」

 手を握られて、フワルー先輩はカチコチになっていた。ガチで、タイプなんだな。

 本人が犬獣人だから、犬っぽい子に惹かれるのだろうか。

 で、本題に入る。

「……わかりました。商業ギルドを通して、こちらにお店を出すことを許可いたします。あのおばあさまからの、頼みですもの」

 案外あっさりと、店舗設立の承諾はおりた。

「そのかわりと言ってはなんですが、フワルーさん。うちの子のガラクタも、収納していただけませんこと?」

「はあ」

「研究する場所を、設けたいと思っていたところなのよ。でも、大っぴらに土地を買うわけにもいかないわ。地下室でいいから、彼がのびのびできる場所を作っていただけると、助かるんだけど」

「も、もちろんですわ。任しといてください」

 わたしに向かって、奥様が誰にも知られないようにウインクをした。

 おおーう。お膳立てをなさった、ってわけだね。さすが、母親ってか。

 あとは、わたし個人の問題を。

「差支えなければいいんですが、工房を見せていただけますか?」

 今のところ、クレアさんに向けた魔剣作りは、行き詰まっていた。

 ただ強い剣を打って魔法石と錬成すれば、おそらくそれなりの魔剣は完成する。手持ちの材料だって、質は高い。きっと、すごい魔剣が作れるはず。

 しかしそんな代物、はたしてクレアさんにふさわしい武器と呼べるだろうか?

「すごい武器には違いありませんわ」

「ダメなんです、クレアさん。わたしの武器は、単にクレアさんの格闘技術に助けられているだけです」

 それでは、武器を持っている意味がない。クレアさんを助ける、武器でなければ。

 シューくんの発明センスを借りて、なんとか突破口を掴みたい。

「なるほど。そういう事情がありましたか。わかりました。知恵をお貸しします」

「いいんですか? 大したお礼もできそうにないのに」

「お礼なんて! たしかに我が財団は、困った事情を抱えていますが……」

 どうも海から来た魔物たちが、財団の技術力を狙っているそうなのだ。

「その魔物たちを退治すれば、いいのですかね?」

「可能であれば。ですが、危険です。それにこれは、財団の問題。あなた方を巻き込むわけには」

 シューくんは、わたしたちを気遣ってくれている。

 冒険者なんだから、ドンと頼みたまえよ。

「なんですって!?」

 庭からも聞こえるような声で、行商人さんが叫んだ。

 何事だろう?

「あなた、どうなさったの?」

 奥様が、ノーム族の男性に声をかける。

 シューくんをナイスミドルに成長させたような顔立ちの男性が、シューくんの父親か。で、財団の責任者と。

「さっき通信があってな。車を載せた輸送船が、襲われた」

 おっ。さっそくわたしたちの出番じゃないですか。