翌朝ギルドに向かうと、歓迎ムードで出迎えてもらった。
「キャルさん、クレアさん。トリカン村と、ファッパの街を救ってくれてありがとう。あなたがたの貢献度を吟味し、ギルドとしてはランクアップを検討しています」
「いいんですか?」
「ギルマスがダメって言っても、私が口利きしてあげるんだから!」
エルフおねえさんが、カウンターから奥へ引っ込む。ギルマスと話し込むつもりだろう。
「今日はどうしましょう? ワタクシは、フワルーさんに稽古をつけてもらおうかと考えていますが?」
「わたしは、錬成の練度を磨くよ」
クレアさんの武器を作るには、まず自分の鍛錬をしないと。
いい素材も手に入れたし、もらった魔法石で魔剣も錬成したい。
といっても、まだ先だ。わたしは、クレアさんの眼鏡にかなう武器は作れない。
クレアさんは、フワルー先輩から特訓のメニューをもらっていた。着ているジャージに、【魔力の放出を抑える機能】を仕込まれている。
ちなみに、わたしも着せられた。そのため、錬成に三倍の魔力を使うことに。でも、これくらいやらないとね。
「日課のジョギングをしているだけで、汗がこんなに」
クレアさんが、ジャージのファスナーを下ろす。
ムワッと、熱気が漏れた。
「日常生活を送るだけでも、常人の三倍疲れるよ」
わたしは、朝食を作っていただけで汗だくに。
朝ごはんを終えて、クレアさんはジャージの上から装備を着込む。鉱山の探索に向かうという。
「これを持って行ってください」
クレアさんに、棒切れを渡した。
「スパルトイ……わたしが引き連れているガイコツを操る棒です。これを持っていれば、あなたがガイコツの所持者になれます」
戦闘はクレアさんに任せ、薬草取りや鉱物採掘は彼らに任せる。
「ありがとう、キャルさん。行ってまいります」
七〇体以上のガイコツ軍団を連れて、クレアさんは鉱山へ。
わたしの方は、レア度の低い素材で錬成をしまくる。ヒクイドリとの戦いで、魔物からも大量の素材を手に入れていた。これを錬成の練習台にする。
お客さんが来たら、必要なアイテムの生成はなるべくわたしが担当した。お客さんの要望に答えることが、クレアさんの武器作りに役立つと思うから。
『精が出るねえ、キャル』
戦闘用スパルトイの身体を借りて、レベッカちゃんが語りかけてくる。レベッカちゃんは、庭で戦闘要員のコーチをしているのだ。
「これくらいやらないと、【熟練度】は上がらないから」
冒険者には、レベルの他に【熟練度】というステータスがある。どれだけ練習したかも、ちゃんと自身のスキル性能に反映するのだ。
たしかに、レベルでスキルポイントに振ったほうが、確実に上達する。だが、レベルが高くなると要求される経験値も高くなってしまう。
農民や鉱夫、鍛冶屋などが、戦闘をしなくても仕事が早いのは、熟練度の性能が高いからだ。
レベッカちゃんには、戦闘以外のスキルも振る。スパルトイ軍団にも、役割を振ることにしたからだ。
「でもいいの? 戦闘以外のスキルも振って。大丈夫?」
戦闘要員はもちろん、薬草採取、鉱石採掘、鍛冶・裁縫、アイテム掘りなど。わたしだけではどうしても頭打ちになりそうなことを、スパルトイたちに担当してもらうのだ。クレアさんが連れいてるのは、戦闘員以外である。
門番さんに頼んで、ガイコツ軍団による村の出入りも、許可してもらえたし。
街へ行くまでの道中で、色々とレアな素材が見つかるといいな。
『構わないさ。アタシ様をどうやって使うかは、アンタ次第だろ?』
朝はガイコツたちに、採掘や採取の指示を出す。昼はお客さん相手に商売をし、夕方にガイコツたちが持ち帰った素材でひたすら錬成をした。数日作業場にこもって、錬成を繰り返す。
「また魔王城から、ガイコツが出入りしているわ」
「でも、大根を抜く作業も手伝ってくださるから、ありがてえや」
わたしはすっかり魔王呼ばわりだが、村の手伝いをすることで、ウワサの密度を下げている。
クレアさんの方も、フワルー先輩が出したメニューを着実にこなしているみたい。
三日後、わたしたちの冒険者ランクが、【F】から【E】に上がった。
村を救ったことで、大幅に冒険者のランクが上がっている。
「どうにか、ギルドからお許しが出ました。というか、出させました!」
エルフおねえさん、ギルドでは結構実力者なのかなぁ。かなり強引な手段で、わたしたちを推したみたいだけど。
ギルドから信頼を得たことで、割と大きな仕事も回ってくるぞー。
「といっても、クレアさん。具体的にどういうことが、できるようになるんでしょう?」
「大きなランクともなれば、それこそ調査隊に加わるとかですわ」
さっき言っていたことか。
ある程度ランクが上がると、要人警護なんかも仕事に含まれるらしい。
「これで、ようやく我々も冒険者として――」
「大変だ!」
鉱山で調査を進めていた冒険者が、飛んで帰ってきた。フワルー先輩のご友人だ。
「妖刀使いが現れた痕跡を、鉱山で見つけたぞ!」
先日話していた【氷の妖刀】が、鉱山地帯に現れたっぽい。
「氷の妖刀伝説って、東の国の話じゃないですか! どうして、我がトリカン村近隣に?」
エルフおねえさんも、信じられないって顔になった。
だよね。この大陸って、西の端っこの方だもん。
「あの、キャルさん方、あなたたちも、調査に向かってください。私も、一緒に行きましょう」
おねえさんを連れて、鉱山に。
鉱山にあるという【氷の妖刀】の痕跡は、トリカン村の反対側に出たらしい。
「たしかに、氷属性持ちがヒクイドリと交戦した形跡があります。ほら、ここに」
クレアさんが、戦場の岩を確認した。
わずかながらも、岩の切り口に霜が立っている。氷そのもので、切ったのか?
「でもさ、妖刀だなんて、わかんないよね?」
『こんな火山で、霜が立った切り口が見つかるなんてさ。間違いなく、妖刀の仕業だよ』
同じ魔剣であるレベッカちゃんがいうなら、本当なんだろうね。
「ですが妖刀伝説なんて、勇者伝説より遥か昔の話ですわよ? それが、どうして今頃になって」
なんか、ヤバイことになっちゃったっぽい?
『アタシ様の知る限りではないね。王都を滅ぼしても、まだ血を求めてさまよっているのか、清い心を持つ所持者の手に渡って、世直しの旅をしているのか』
「ですが、トリカン村に怪しい魔力の流れはありませんでした。おそらく、別の地域に向かった可能性が高いです。あちらに」
クレアさんが、ファッパの港がある方角を指差す。
帰宅すると、フワルー先輩が荷物をまとめていた。
「ほな、出発しよか?」
「ですね」
最後に、ギルドへあいさつをしに行く。
「ファッパの街に妖刀使いが出現したとなると、一大事ですね。といっても目的は不明なので、害が及ぶことはないと思いますが」
用心したほうがいいだろうとのこと。
「気にしたほうが、ええかもしれんな」
フワルー先輩も、引き締まった面持ちになる。
「あなたがいなくなると、この村も活気が弱まりますね。またお会いできますか?」
「あっちで、店が潰れたらな」
「一生なさそうですね! ああ!」
おねえさんが、頭を抱える。
「フワルー。あなたのことだから大丈夫だと思いますが、お気をつけて」
「おおきに」
ギルドにサヨナラをして、馬車に乗って旅立つ。
護衛なのか、馬車の両隣にはゴーレムが。
巨大なストーンゴーレムと、数体のウッドゴーレムが並ぶ。ウッドゴーレムの頭が、瓦屋根の形をしていた。
「ところで、お家は?」
マジックアイテムのショップは、元々あったエリアだけを残して、きれいになくなっている。魔王城は、消えたのだ。そんな大容量のアイテムボックスなんて、先輩は持っていたっけ?
「家て、両隣に立っとるやん?」
馬車を守るゴーレムを、フワルー先輩が指差す。
『アタシ様が提案して、ゴーレムに錬成したのさ! 勇ましいだろ? アッハハ!』
「まさか、このゴーレムたちが、家!?」
また、変な伝説が生まれちゃわない?
「キャルさん、クレアさん。トリカン村と、ファッパの街を救ってくれてありがとう。あなたがたの貢献度を吟味し、ギルドとしてはランクアップを検討しています」
「いいんですか?」
「ギルマスがダメって言っても、私が口利きしてあげるんだから!」
エルフおねえさんが、カウンターから奥へ引っ込む。ギルマスと話し込むつもりだろう。
「今日はどうしましょう? ワタクシは、フワルーさんに稽古をつけてもらおうかと考えていますが?」
「わたしは、錬成の練度を磨くよ」
クレアさんの武器を作るには、まず自分の鍛錬をしないと。
いい素材も手に入れたし、もらった魔法石で魔剣も錬成したい。
といっても、まだ先だ。わたしは、クレアさんの眼鏡にかなう武器は作れない。
クレアさんは、フワルー先輩から特訓のメニューをもらっていた。着ているジャージに、【魔力の放出を抑える機能】を仕込まれている。
ちなみに、わたしも着せられた。そのため、錬成に三倍の魔力を使うことに。でも、これくらいやらないとね。
「日課のジョギングをしているだけで、汗がこんなに」
クレアさんが、ジャージのファスナーを下ろす。
ムワッと、熱気が漏れた。
「日常生活を送るだけでも、常人の三倍疲れるよ」
わたしは、朝食を作っていただけで汗だくに。
朝ごはんを終えて、クレアさんはジャージの上から装備を着込む。鉱山の探索に向かうという。
「これを持って行ってください」
クレアさんに、棒切れを渡した。
「スパルトイ……わたしが引き連れているガイコツを操る棒です。これを持っていれば、あなたがガイコツの所持者になれます」
戦闘はクレアさんに任せ、薬草取りや鉱物採掘は彼らに任せる。
「ありがとう、キャルさん。行ってまいります」
七〇体以上のガイコツ軍団を連れて、クレアさんは鉱山へ。
わたしの方は、レア度の低い素材で錬成をしまくる。ヒクイドリとの戦いで、魔物からも大量の素材を手に入れていた。これを錬成の練習台にする。
お客さんが来たら、必要なアイテムの生成はなるべくわたしが担当した。お客さんの要望に答えることが、クレアさんの武器作りに役立つと思うから。
『精が出るねえ、キャル』
戦闘用スパルトイの身体を借りて、レベッカちゃんが語りかけてくる。レベッカちゃんは、庭で戦闘要員のコーチをしているのだ。
「これくらいやらないと、【熟練度】は上がらないから」
冒険者には、レベルの他に【熟練度】というステータスがある。どれだけ練習したかも、ちゃんと自身のスキル性能に反映するのだ。
たしかに、レベルでスキルポイントに振ったほうが、確実に上達する。だが、レベルが高くなると要求される経験値も高くなってしまう。
農民や鉱夫、鍛冶屋などが、戦闘をしなくても仕事が早いのは、熟練度の性能が高いからだ。
レベッカちゃんには、戦闘以外のスキルも振る。スパルトイ軍団にも、役割を振ることにしたからだ。
「でもいいの? 戦闘以外のスキルも振って。大丈夫?」
戦闘要員はもちろん、薬草採取、鉱石採掘、鍛冶・裁縫、アイテム掘りなど。わたしだけではどうしても頭打ちになりそうなことを、スパルトイたちに担当してもらうのだ。クレアさんが連れいてるのは、戦闘員以外である。
門番さんに頼んで、ガイコツ軍団による村の出入りも、許可してもらえたし。
街へ行くまでの道中で、色々とレアな素材が見つかるといいな。
『構わないさ。アタシ様をどうやって使うかは、アンタ次第だろ?』
朝はガイコツたちに、採掘や採取の指示を出す。昼はお客さん相手に商売をし、夕方にガイコツたちが持ち帰った素材でひたすら錬成をした。数日作業場にこもって、錬成を繰り返す。
「また魔王城から、ガイコツが出入りしているわ」
「でも、大根を抜く作業も手伝ってくださるから、ありがてえや」
わたしはすっかり魔王呼ばわりだが、村の手伝いをすることで、ウワサの密度を下げている。
クレアさんの方も、フワルー先輩が出したメニューを着実にこなしているみたい。
三日後、わたしたちの冒険者ランクが、【F】から【E】に上がった。
村を救ったことで、大幅に冒険者のランクが上がっている。
「どうにか、ギルドからお許しが出ました。というか、出させました!」
エルフおねえさん、ギルドでは結構実力者なのかなぁ。かなり強引な手段で、わたしたちを推したみたいだけど。
ギルドから信頼を得たことで、割と大きな仕事も回ってくるぞー。
「といっても、クレアさん。具体的にどういうことが、できるようになるんでしょう?」
「大きなランクともなれば、それこそ調査隊に加わるとかですわ」
さっき言っていたことか。
ある程度ランクが上がると、要人警護なんかも仕事に含まれるらしい。
「これで、ようやく我々も冒険者として――」
「大変だ!」
鉱山で調査を進めていた冒険者が、飛んで帰ってきた。フワルー先輩のご友人だ。
「妖刀使いが現れた痕跡を、鉱山で見つけたぞ!」
先日話していた【氷の妖刀】が、鉱山地帯に現れたっぽい。
「氷の妖刀伝説って、東の国の話じゃないですか! どうして、我がトリカン村近隣に?」
エルフおねえさんも、信じられないって顔になった。
だよね。この大陸って、西の端っこの方だもん。
「あの、キャルさん方、あなたたちも、調査に向かってください。私も、一緒に行きましょう」
おねえさんを連れて、鉱山に。
鉱山にあるという【氷の妖刀】の痕跡は、トリカン村の反対側に出たらしい。
「たしかに、氷属性持ちがヒクイドリと交戦した形跡があります。ほら、ここに」
クレアさんが、戦場の岩を確認した。
わずかながらも、岩の切り口に霜が立っている。氷そのもので、切ったのか?
「でもさ、妖刀だなんて、わかんないよね?」
『こんな火山で、霜が立った切り口が見つかるなんてさ。間違いなく、妖刀の仕業だよ』
同じ魔剣であるレベッカちゃんがいうなら、本当なんだろうね。
「ですが妖刀伝説なんて、勇者伝説より遥か昔の話ですわよ? それが、どうして今頃になって」
なんか、ヤバイことになっちゃったっぽい?
『アタシ様の知る限りではないね。王都を滅ぼしても、まだ血を求めてさまよっているのか、清い心を持つ所持者の手に渡って、世直しの旅をしているのか』
「ですが、トリカン村に怪しい魔力の流れはありませんでした。おそらく、別の地域に向かった可能性が高いです。あちらに」
クレアさんが、ファッパの港がある方角を指差す。
帰宅すると、フワルー先輩が荷物をまとめていた。
「ほな、出発しよか?」
「ですね」
最後に、ギルドへあいさつをしに行く。
「ファッパの街に妖刀使いが出現したとなると、一大事ですね。といっても目的は不明なので、害が及ぶことはないと思いますが」
用心したほうがいいだろうとのこと。
「気にしたほうが、ええかもしれんな」
フワルー先輩も、引き締まった面持ちになる。
「あなたがいなくなると、この村も活気が弱まりますね。またお会いできますか?」
「あっちで、店が潰れたらな」
「一生なさそうですね! ああ!」
おねえさんが、頭を抱える。
「フワルー。あなたのことだから大丈夫だと思いますが、お気をつけて」
「おおきに」
ギルドにサヨナラをして、馬車に乗って旅立つ。
護衛なのか、馬車の両隣にはゴーレムが。
巨大なストーンゴーレムと、数体のウッドゴーレムが並ぶ。ウッドゴーレムの頭が、瓦屋根の形をしていた。
「ところで、お家は?」
マジックアイテムのショップは、元々あったエリアだけを残して、きれいになくなっている。魔王城は、消えたのだ。そんな大容量のアイテムボックスなんて、先輩は持っていたっけ?
「家て、両隣に立っとるやん?」
馬車を守るゴーレムを、フワルー先輩が指差す。
『アタシ様が提案して、ゴーレムに錬成したのさ! 勇ましいだろ? アッハハ!』
「まさか、このゴーレムたちが、家!?」
また、変な伝説が生まれちゃわない?