ヒクイドリと、対峙する。さっきクレアさんが倒したヤツより、三割増しでデカい。コイツが、リーダー格だろう。トサカも、虹色に燃え盛っている。

「レベル二五だって」

 わたしのレベルは、せいぜい一四くらいだ。一〇以上も、離れている。レベッカちゃんに憑依してもらうと、さらに五ほどレベルが上がる。それでも、二〇には届かない。

 よく、こんなバケモノの攻撃を弾き返したよね。わたし。レベッカちゃんのおかげだけど。

『キャル、全部アタシ様に任せな』

「いいの、レベッカちゃん?」

 いつもレベッカちゃんに頼り過ぎだから、ちょっとくらいは自分でも戦えたほうがいいかなーって思っている。でも、余計なお世話なのかな?

『気を利かせないでおくれよ。最近はいつもスパルトイ任せだから、暴れ足りないんだ。コイツの始末は、アタシ様にやらせな。レベル二五超えの魔物なんて、上等じゃないか』

 つまり、戦いたいと。

「うん。体力に極振りしているから、問題ないよ」

 ザコ戦で数段レベルアップし、ステータスに振れるポイントを大量に得た。

 ひとまずわたしは、ステータスポイントをすべて体力に注ぎ込む。あとは全部、レベッカちゃんに委ねることにした。

 わたしの身体を、オレンジの光が包む。

 ボブカットの髪が逆立ち、燃え盛る。

『いくよ!』

 レベッカちゃんの力を借りて、わたしは飛びかかった。ヒクイドリの上空へ。

 片足を上げただけで、ヒクイドリはわたしの剣戟を打ち返す。

 さすがに、五から一〇以上レベルが離れているとキツい。

『いいねえ! 最っ高に盛り上がってきたじゃないか!』

 でも、レベッカちゃんは楽しんでいる様子だ。

『悪いねキャル! あんたの身の安全は、保証できないかも知れないよ!』

「構わないよ。全力でやっちゃって」

 これが、魔剣と契約するということ。

 強い武器と一体化するには、それなりの代償が必要だ。

『さて、【原始の炎】をお見舞いしてやるかね!』

 コマのように旋回しながら、わたしはヒクイドリに切りかかった。黒い炎が、レベッカちゃんの周りにまとわりつく。

 ヒクイドリの方も、回し蹴りで対抗してきた。

 火花を散らし、互いの攻撃が交差する。

 炎属性さえ、原始の炎の前では突き抜けていく。

 そのはずだった。

 なのに、抵抗されてしまう。

 わたしは、後退した。

 インパクトの箇所が、プツプツと黒く燃えている。

「まさか、相手も【原始の炎】を!?」

 ダメージを貫通する炎を、魔物が持つなんて。

『間違いないね。ありゃあ原始の炎さ』

 マグマを食い続け、ヒクイドリの体質が変わったのかも知れないとのこと。

「ヒクイドリが、マグマに溶けなかったレアアイテムを、飲み込んじゃったのかな?」

『どうでもいいさ。それより、キャル。【原始の炎】持ちなんて、狩らない理由はないよ。あいつを食って、アタシ様は原始の炎をパワーアップするんだよ』

「だね!」

 炎属性どころか全属性無視なんて魔物が町や村に降りたら、大変だ。ここで仕留めないと。

「でも、どうやって倒す? 相手には、なんの属性も効かないよ?」

『だったら、トリのアイデンティティを奪うまでさ!』

「りょーかい!」

 翼をもげ、ってわけだね。

 わたしは、レベッカちゃんを逆手に持った。剣先を、思い切り地面に叩きつける。火球を地面に打ち込んで、速度を上げて跳躍した。クレアさんがやった、魔法による跳躍力アップ作戦だ。

 ヒクイドリの方も、空へのアドバンテージを取ろうと、飛び上がる。

「このときを、待っていたよ!」

 空を飛び上がる際、どうしても足に重圧がかかる。翼の方に、力がいくんだ。

『片翼だけでいい! ぶった斬れ!』

「おっしゃー!」

 わたしは、ヒクイドリの羽根を片方だけ切り捨てる。

 それだけで、ヒクイドリは墜落していった。完璧な魔物は、案外脆いもの。

 墜落の衝撃をやわらげるため、ヒクイドリは片足を犠牲にしたみたい。しかし、怒りはマックスそのもの。わたしに対して、殺意を隠さない。

『それでいいよ! とことんやろうじゃないか!』

 ヒクイドリが、ブレスを吐き出す。【原始の炎】がブレンドされた。全属性ダメージの攻撃だ。

『甘いんだよ!』

 わたしは、ブレスを切り裂く。この攻撃は、ファイアリザードが相手でも使った。

 リザードと違うのは、対応されたこと。簡単に、首を取らせてくれない。切り込んだわたしに、クチバシで抵抗しようとする。

 レベッカちゃんを踏み台にして、わたしは逆上がりをした。レベッカちゃんの柄に着地する。

『ふん!』

 刀身に、レベッカちゃんがケリを入れた。

 剣を押し込まれたことで、ヒクイドリの口角がスパッと切れる。

 痛みで口を開けたところに、レベッカちゃんはさらに追い打ちをかけた。ヒクイドリのノドに向かって、剣を突き刺す。

 それがトドメとなって、ヒクイドリは絶命した。


[レアモンスター【ヒクイドリ 猛撃種】を撃破しました。【原始の炎:極小】を手に入れました]


「はああああああ」

 変身を解いて、わたしは脱力する。もう、足も動かせない。しばらくは、立てないかも。

『レベルアップして体力に振っても、間に合っていないねぇ』

「そうだね。ちょっと休憩」

 ポーションを飲んで、一息つく。お菓子は、食べ尽くしてしまっていた。熱かったもんなあ。

『起きなよ、キャル! ヤバイものが落ちてるよ!』

 レベッカちゃんが叫ぶので、筋肉痛の痛みを堪えて立ち上がる。

「なになに……え、魔剣!?」

 なんと、魔剣が落ちている。

 クレアさんの剣の素体にした蕃刀と、形は近い。

 ヒクイドリが使っていた【原始の炎】の正体は、これだったんだろう。

『そっちじゃない。アタシ様が言っているのは、オークロードの腕だよっ!』

「オークロードの?」

 たしかに、魔剣は魔物の腕もセットで付いていた。世界で一番いらないセットだよ。

『ヒクイドリは、オークロードと戦って、この腕ごと食っちまったんだろうね』

「なんのために?」

『ナワバリ争いか、魔剣を求めてか』

「世界には、そんなに魔剣ってゴロゴロ落ちているもんなの?」

『おそらくはね』

 魔剣に限らず、この世界には伝説の装備が山ほど落ちているらしい。

 未来予知さえ可能な魔道士の帽子、ドラゴンのブレスさえ弾くヨロイ。歩く度にお金が入ってくるお財布など。あげだしたら、キリがない。

 そんなとんでもアイテムを、冒険者たちは求めているのだ。

「わたしとしては、クラフトのほうが楽しいなって思うけど」

『旅の目的は、人それぞれさ。しかし、アタシ様は言ったよ。魔物とマジックアイテムとの相関する関係を』

 うん。

 魔物は、マジックアイテムに惹かれる。

 自身を守るために、あえて魔物に食われるマジックアイテムもあるのだ。

「とりあえず、この魔剣は食べて」

『いいのかい、キャル? クレアの欲しがっている魔剣の、ベースにでもすればいいじゃないか』

「大丈夫」

 クレアさん、自分で言ってたもんね。「人の所有物は、欲しがらない」って。
 これは、オークの所有物だ。
 多分、クレアさんも必要としていない。

 さっき渡したレイピアにも、オークの蕃刀が使われている。しかし、あれは耐久テストのサンプルだ。あくまでも、素体はレイピアの方である。

 この魔剣も、よくできていた。とはいえ、ちょっと強くなった蕃刀程度である。

『この剣をベースにしちまえば、【原始の炎】を扱えるようになるよ』

「戦闘力皆無なわたしならいざしらず、クレアさんが人と同じスキル持ちで満足するように見える?」

『アハハ! それもそうさね!』

「きっとクレアさんはさ、もっと強いスキルを手にできるよ」

『だな。【原始】シリーズは、炎だけじゃなかったはずだからね』

 よってこの剣は、レベッカちゃんのエサになってもらう。
 オークの腕ごと、レベッカちゃんの胃袋へ。
 胃がどこにあるか、わかんないけどねっ。