ガリアの方に視線を移すと、そこは暗い地下では無く、陽の光が差す地上だった。
「ぐっ どうしてここが……ッ!」
「逃走を止めろ。抵抗しないのなら、手荒な真似はしない」
お、丁度地下通路から出て来たガリアたちと騎士たちが鉢合わせたようだ。
互いに一定の距離を取りながら、警戒し合っている。
「ふ、ふざけるな! おい! 一斉に仕掛けろ!」
ガリアの合図で、5人の護衛が一斉に10人の騎士に突撃する。
だが――
「がはっ!」
「がっ!」
「ぐふっ」
「ごはっ!」
「ぎゃああ!!」
騎士の方が数は多いし、実力も上。
難なく無力化させられる。
だが、その隙にガリアは魔法の詠唱をしていたようで、5人が無力化された直後にその魔法が放たれた。
「死ねぃ!」
そんな叫び声と同時に放たれたのは、炎の槍。
中級火属性魔法、炎槍か。
指にはめられている魔法発動体による補正がかかっているお陰で、威力もちょっと高め。
ごうっ!
そんな音を放ちながら、騎士たちに飛来する炎槍――だが。
「はあっ!」
あの中で1番強そうな騎士が、力強い声と同時に――一閃。
すると、炎槍は縦に真っ二つに割れ、霧散し、消えていった。
「ミスリル製の剣に魔力を込め、その魔力をもってして魔法に干渉したというわけか」
当たり前の話だが、剣で火は斬れない。だが、魔力を込めた剣ならば話は別だ。
剣に込めた魔力で炎に干渉し、斬って勢いをつけることで、さっきみたいに斬ることが出来るのだ。
因みに、あれなら俺も出来る。
まあ、筋力は無いし、魔力もそこそこ程度だから、普通以下の魔法に限定されるけどね。
「さあ、ついて来い! 抵抗した以上は、手荒な真似も覚悟してもらおうか!」
「は、放せ! 放せえええ!!!」
ガリアは絶叫を上げながらも、騎士たちによって、引きずられるように連行されていった。
そんな様子のガリアを、俺は溜飲が下がる思いで見る。
「いやーあのガリアもここまで堕ちたか」
俺を祝福1つで虐げ、ゴミを見るような目で見て来たガリアが、まさか俺に哀れだの醜いだの堕ちただの言われる日が来るとは、夢にも思わなかっただろうな。
「さーてと。後は国の裁きに任せるか」
まあ、少なくともあいつは貴族としての地位をはく奪されるだろうな。
あれほどの不正を犯したんだ。むしろ、そうならなければおかしい。
で、それ以外の罰についてだが……まあ、罰金は払うのは確定だな。
不正をして、貯め込んでいた金以上の金額を、国に渡す義務があいつにはある。
そして、処刑されるかについてだが……
まあ、アイツを目障りだと思っている貴族は結構いるだろうから、そうなるかもな。
「さーてと。これで、本当に終わったな」
視覚を自身に戻した俺は、ネムを胸に抱きながら、ゴロリとベッドに転がるとそう言う。
「さーてと。ああ、あとで貰った防具を売却してこないと」
あれもいい金になる。
ああ、でもどうせこうなるんだったら、売れそうなものを貰って……あ。
「宝物庫!」
やばい! 忘れてた!
この機会に宝物庫にあるお宝を目立たない程度に獲……貰わないと!
そう思い、俺は宝物庫周辺の様子をスライム越しに見る。
だが――
「ああ……もう騎士が制圧してる……」
残念ながら、金目の物がある宝物庫は、既に騎士団に制圧されていた。
もっと早く。さっきガルドをボコった後に行けばよかった。
そうすれば、10万? いや、100万ぐらいは手に入ったのに……!
「く、くそおおおおお!!!!」
逃がした魚は大きかった。
俺は思わず、ベッドに拳を叩きつけながら声を上げるのであった。
◇ ◇ ◇
王都ティリアン郊外に広がる森。
その地下にて。
「……と、言う訳で、フィーレル侯爵家一家は王都グラシアに護送されてったよ。いやーにしてもあの様子。ガリア君はもう、改良版キルの葉の末期中毒者一歩手前だよ。感情のままに行動しなかったあいつが、今や感情に任せて激昂してるんだよ? いやーめっちゃ滑稽だった!」
薄暗い会議室にて、1人の女性は楽しそうにそう言った。
一方、話を聞く4人の反応は、それぞれだった。
ただ無言で頷く者もいれば、呆れる者、同じように笑みを浮かべる人もいた。
すると、その内の1人が口を開く。
「ネイア。報告感謝する。それで、シュレイン領主の後釜に、我等の息がかかった貴族は入れられそうか?」
硬い口調で話す男に、女性――ネイアは首を横に振った。
「無理無理。調べてみたんだけど、どうやらガリア護送の件にはレティウス侯爵とレリック公爵。そして、レイン殿下が関わっているんだよ? あそこに割り込ませるなんて、自殺行為もいい所だよ。グー君も分かってて聞いてるでしょ?」
無理無理と手をひらひらさせながら言うネイアの言葉に、グー君ことグーラは首を横に振った。
「いや、此度は主の儀式の補佐に行ってた故、ここ数日の外界の情報は知らん」
「あーそうだったんだ。それで、儀式の方はどうなの? 順調?」
ネイアの言葉に、グーラは深くため息をついた。
「いや、全然だ。物資が圧倒的に足らないせいで、実験があまり進まないからな。だが、進んではいる。問題はない」
「そっかー。なら、大丈夫そうだね。それじゃ、私は休暇を頂戴しまーす! 60日連続勤務とか、ブラック過ぎるよ~」
「分かった。分かった。好きにしろ。だが、いつでも連絡は取れるようにしておけ」
グーラは深くため息をつくと、そう言った。
「おっけー。それじゃ!」
そう言って、ネイアはくるりと背を向けた。
直後、ふっとネイアはその空間から消えてしまった。
ネイアが――幹部の1人が居なくなった会議室で、筆頭幹部――グーラは小さく息をつくと、ぼそりと呟く。
「”祝福無き理想郷”の為に――」
◇ ◇ ◇
周囲一帯、異様なまでに純白な空間に1人の美女が佇んでいた。
極上の絹を思わせるような白く長い髪。一番星のように綺麗な金の瞳。豊満な体型と、それを優しく覆う白い法衣。
その姿を見れば、誰もが魅了されることだろう。
そんな美女は掲げていた右手をゆっくりと下ろすと、口を開く。
「まさか、世界のシステムに異常が出るなんて……」
彼女は、はぁと小さくため息を吐く。
「人の魂が世界間を渡るなんて、珍しいこともあるものかと思って見てみれば、この世界の人と魂の形状がほんの僅かに違ったせいで、システムが彼に与えた祝福がF級になっちゃった……」
自分の失態を恥じるように、彼女は言う。
「世界間を渡るほど強固な魂なら、確定でS級の――それも上位の祝福だったはずなのに……だけど――」
一転して、彼女は楽しそうに笑みを浮かべた。
「普通のF級ではない。見た感じ、F級で出来ることをそのまま大きくした感じ……かな。これも魂の形状が違うことによる結果だと思うけど……」
そう言って、彼女はそっと下に視線を向ける。
すると、そこには宿のベッドで悔しそうに喚き散らすシンの姿があった。
彼女はそんなシンを見て、くすりと笑う。
「元気そうね。でも、私のミスでF級にしてしまったせいで、彼には大変な思いをさせてしまった。出た方が幸せだったけど、それは結果論ね。それらの事情を全部彼に話したいけど……流石に過干渉になるから無理ね。祝福をシステムに組み込んだ時でさえ、一部から愚痴を言われたのに……特にガイア!」
人に何の施しもせず、試練だけを与える鬼畜女が!と、まるで子供のように、彼女は愚痴を言う。
やがて、愚痴が止まったところで彼女は再びシンを見ると、口を開いた。
「ああ、でも教会に来てくれれば、神託という体である程度なら話せるわね。でも、あの子来てくれるかな……信者に連れて来てって言ったら、彼に面倒ごとが沢山降り注ぎそうだし……彼は自由が好きだから」
どこまでも、人々のことを大切に想う彼女は、シンに迷惑が掛かりそうな手段を、直ぐに切り捨てた。世界のためならいざ知らず、ただの自己満足で人の未来を大きく変えるのは、彼女の本意ではない。
代わりに、別の案を口にする。
「いつか来てくれるかもしれないし、気長に待ちましょう」
そう言って、彼女――主神エリアスは柔和な笑みを浮かべるのであった。
「ぐっ どうしてここが……ッ!」
「逃走を止めろ。抵抗しないのなら、手荒な真似はしない」
お、丁度地下通路から出て来たガリアたちと騎士たちが鉢合わせたようだ。
互いに一定の距離を取りながら、警戒し合っている。
「ふ、ふざけるな! おい! 一斉に仕掛けろ!」
ガリアの合図で、5人の護衛が一斉に10人の騎士に突撃する。
だが――
「がはっ!」
「がっ!」
「ぐふっ」
「ごはっ!」
「ぎゃああ!!」
騎士の方が数は多いし、実力も上。
難なく無力化させられる。
だが、その隙にガリアは魔法の詠唱をしていたようで、5人が無力化された直後にその魔法が放たれた。
「死ねぃ!」
そんな叫び声と同時に放たれたのは、炎の槍。
中級火属性魔法、炎槍か。
指にはめられている魔法発動体による補正がかかっているお陰で、威力もちょっと高め。
ごうっ!
そんな音を放ちながら、騎士たちに飛来する炎槍――だが。
「はあっ!」
あの中で1番強そうな騎士が、力強い声と同時に――一閃。
すると、炎槍は縦に真っ二つに割れ、霧散し、消えていった。
「ミスリル製の剣に魔力を込め、その魔力をもってして魔法に干渉したというわけか」
当たり前の話だが、剣で火は斬れない。だが、魔力を込めた剣ならば話は別だ。
剣に込めた魔力で炎に干渉し、斬って勢いをつけることで、さっきみたいに斬ることが出来るのだ。
因みに、あれなら俺も出来る。
まあ、筋力は無いし、魔力もそこそこ程度だから、普通以下の魔法に限定されるけどね。
「さあ、ついて来い! 抵抗した以上は、手荒な真似も覚悟してもらおうか!」
「は、放せ! 放せえええ!!!」
ガリアは絶叫を上げながらも、騎士たちによって、引きずられるように連行されていった。
そんな様子のガリアを、俺は溜飲が下がる思いで見る。
「いやーあのガリアもここまで堕ちたか」
俺を祝福1つで虐げ、ゴミを見るような目で見て来たガリアが、まさか俺に哀れだの醜いだの堕ちただの言われる日が来るとは、夢にも思わなかっただろうな。
「さーてと。後は国の裁きに任せるか」
まあ、少なくともあいつは貴族としての地位をはく奪されるだろうな。
あれほどの不正を犯したんだ。むしろ、そうならなければおかしい。
で、それ以外の罰についてだが……まあ、罰金は払うのは確定だな。
不正をして、貯め込んでいた金以上の金額を、国に渡す義務があいつにはある。
そして、処刑されるかについてだが……
まあ、アイツを目障りだと思っている貴族は結構いるだろうから、そうなるかもな。
「さーてと。これで、本当に終わったな」
視覚を自身に戻した俺は、ネムを胸に抱きながら、ゴロリとベッドに転がるとそう言う。
「さーてと。ああ、あとで貰った防具を売却してこないと」
あれもいい金になる。
ああ、でもどうせこうなるんだったら、売れそうなものを貰って……あ。
「宝物庫!」
やばい! 忘れてた!
この機会に宝物庫にあるお宝を目立たない程度に獲……貰わないと!
そう思い、俺は宝物庫周辺の様子をスライム越しに見る。
だが――
「ああ……もう騎士が制圧してる……」
残念ながら、金目の物がある宝物庫は、既に騎士団に制圧されていた。
もっと早く。さっきガルドをボコった後に行けばよかった。
そうすれば、10万? いや、100万ぐらいは手に入ったのに……!
「く、くそおおおおお!!!!」
逃がした魚は大きかった。
俺は思わず、ベッドに拳を叩きつけながら声を上げるのであった。
◇ ◇ ◇
王都ティリアン郊外に広がる森。
その地下にて。
「……と、言う訳で、フィーレル侯爵家一家は王都グラシアに護送されてったよ。いやーにしてもあの様子。ガリア君はもう、改良版キルの葉の末期中毒者一歩手前だよ。感情のままに行動しなかったあいつが、今や感情に任せて激昂してるんだよ? いやーめっちゃ滑稽だった!」
薄暗い会議室にて、1人の女性は楽しそうにそう言った。
一方、話を聞く4人の反応は、それぞれだった。
ただ無言で頷く者もいれば、呆れる者、同じように笑みを浮かべる人もいた。
すると、その内の1人が口を開く。
「ネイア。報告感謝する。それで、シュレイン領主の後釜に、我等の息がかかった貴族は入れられそうか?」
硬い口調で話す男に、女性――ネイアは首を横に振った。
「無理無理。調べてみたんだけど、どうやらガリア護送の件にはレティウス侯爵とレリック公爵。そして、レイン殿下が関わっているんだよ? あそこに割り込ませるなんて、自殺行為もいい所だよ。グー君も分かってて聞いてるでしょ?」
無理無理と手をひらひらさせながら言うネイアの言葉に、グー君ことグーラは首を横に振った。
「いや、此度は主の儀式の補佐に行ってた故、ここ数日の外界の情報は知らん」
「あーそうだったんだ。それで、儀式の方はどうなの? 順調?」
ネイアの言葉に、グーラは深くため息をついた。
「いや、全然だ。物資が圧倒的に足らないせいで、実験があまり進まないからな。だが、進んではいる。問題はない」
「そっかー。なら、大丈夫そうだね。それじゃ、私は休暇を頂戴しまーす! 60日連続勤務とか、ブラック過ぎるよ~」
「分かった。分かった。好きにしろ。だが、いつでも連絡は取れるようにしておけ」
グーラは深くため息をつくと、そう言った。
「おっけー。それじゃ!」
そう言って、ネイアはくるりと背を向けた。
直後、ふっとネイアはその空間から消えてしまった。
ネイアが――幹部の1人が居なくなった会議室で、筆頭幹部――グーラは小さく息をつくと、ぼそりと呟く。
「”祝福無き理想郷”の為に――」
◇ ◇ ◇
周囲一帯、異様なまでに純白な空間に1人の美女が佇んでいた。
極上の絹を思わせるような白く長い髪。一番星のように綺麗な金の瞳。豊満な体型と、それを優しく覆う白い法衣。
その姿を見れば、誰もが魅了されることだろう。
そんな美女は掲げていた右手をゆっくりと下ろすと、口を開く。
「まさか、世界のシステムに異常が出るなんて……」
彼女は、はぁと小さくため息を吐く。
「人の魂が世界間を渡るなんて、珍しいこともあるものかと思って見てみれば、この世界の人と魂の形状がほんの僅かに違ったせいで、システムが彼に与えた祝福がF級になっちゃった……」
自分の失態を恥じるように、彼女は言う。
「世界間を渡るほど強固な魂なら、確定でS級の――それも上位の祝福だったはずなのに……だけど――」
一転して、彼女は楽しそうに笑みを浮かべた。
「普通のF級ではない。見た感じ、F級で出来ることをそのまま大きくした感じ……かな。これも魂の形状が違うことによる結果だと思うけど……」
そう言って、彼女はそっと下に視線を向ける。
すると、そこには宿のベッドで悔しそうに喚き散らすシンの姿があった。
彼女はそんなシンを見て、くすりと笑う。
「元気そうね。でも、私のミスでF級にしてしまったせいで、彼には大変な思いをさせてしまった。出た方が幸せだったけど、それは結果論ね。それらの事情を全部彼に話したいけど……流石に過干渉になるから無理ね。祝福をシステムに組み込んだ時でさえ、一部から愚痴を言われたのに……特にガイア!」
人に何の施しもせず、試練だけを与える鬼畜女が!と、まるで子供のように、彼女は愚痴を言う。
やがて、愚痴が止まったところで彼女は再びシンを見ると、口を開いた。
「ああ、でも教会に来てくれれば、神託という体である程度なら話せるわね。でも、あの子来てくれるかな……信者に連れて来てって言ったら、彼に面倒ごとが沢山降り注ぎそうだし……彼は自由が好きだから」
どこまでも、人々のことを大切に想う彼女は、シンに迷惑が掛かりそうな手段を、直ぐに切り捨てた。世界のためならいざ知らず、ただの自己満足で人の未来を大きく変えるのは、彼女の本意ではない。
代わりに、別の案を口にする。
「いつか来てくれるかもしれないし、気長に待ちましょう」
そう言って、彼女――主神エリアスは柔和な笑みを浮かべるのであった。