俺がそう言った瞬間、皆時が止まったようにピタリと固まると、俺に視線を向ける。
そこには驚き、疑問、混乱。
そして――
「シンんんん!!!!!」
怒りがあった。
俺を見たことで、より一層怒りを爆発させたガリアは、家宰をガリアらしからぬ斥力で弾き飛ばすと、1歩前に出た。
「お前だな? お前が盗ったんだなああ!!!」
「ああ、そうだ。俺が盗った。で、何か問題でも?」
あまりにも哀れな姿のガリアに、俺は思わず嘲笑しながらそう言った。
すると、途端にガリアの顔が真顔になる。
怒りが頂点に達すると、かえって冷静になるとか言うあれか。
まさかガリアがそうなる日が来るとは思いもしなかったな~
「……まあ、いい。おい! こいつを捕縛しろ!」
ガリアは3人の護衛に向き直ると、俺を指差しながら、そう言った。
一方、彼らは俺のことを知っているのか、若干躊躇いを見せる――が、不法侵入であることは事実というのもあってか、ゆっくりと俺に近づいてくる。
ゆっくりと近づいてくるのは、曲がりなりにもここに侵入できた俺のことを警戒しているからなのだろうか。
「止まれ。それ以上近づくのなら、敵とみなす」
ガリアのしていることを知っているのかどうかは定かではないが、それでも捕縛するようなら、当然抵抗するつもりだ。
だが、彼らは止まるどころか、走り出した。
虚勢とでも思ったのだろうか?
「そうか。なら――死ね」
そう言って、俺は彼らが着る防具の内側に戦闘用のスライムを1匹ずつ召喚した。
そして、全力で溶かすことを命じると同時に、俺は短縮詠唱の空間転移で彼らの背後に転移する。
「!? があああ!!!」
「ぐううう!?」
「ぎゃああ!!」
溶解液を受け、彼らは一斉に身悶える。
そして、1人2人と倒れていく。
だが、最後の1人は即座に防具を脱ぎ捨てると、スライムに斬りかかった。
「危ないなぁ」
まあ、即座に召喚して避難させればいいだけだから、問題ないんだけどね。
んーでも見た感じ、この人だけ傷が浅いな。
多分、高位の身体強化系の祝福を持っているんだと思う。
”剣士”とか”槍術士”とか。その辺は結構多いからね。
「何をやっている! こんな出来損ないのクズに醜態を晒すな!」
この中で一番醜態を晒しているガリアが、かませ役の悪役貴族のようなキレ具合で怒鳴り散らかす。
もう侯爵家当主の威厳は欠片も残っちゃいないな。
「ちっ はあっ!」
無手で捕縛するのは不可能だと判断したのか、今度は剣を構えると、俺に斬りかかった。
狙いは……肩だな。
だが――流石に大振り過ぎる。
空間属性魔法の使い手に、それは悪手以外の何物でもないぞ。
「空間を開け」
直後、俺の目の前に黒い円が出現した。
男はマズいと思ったようだが間に合わず、その中に剣を入れてしまった。
すると――
「がはっ!」
突如、男は吐血した。そして、ばたりとうつ伏せで地面に倒れる。
そんな男の背中には、大きな斬り傷があった。
「転移門を用いたカウンター。熟練者の間でよく使われている、対策必須のやつなんだけどね」
強者っぽくそう言うと同時に、俺はその男に剣を振り下ろして、とどめを刺した。
「執務室の壁が防音仕様なのが、仇になったね」
ここは外の声は中に聞こえるが、中の声は外に聞こえないという、特殊な部屋だ。
執務室ではなるべく他人に聞かれたくないことを口にする機会も多々ある為、貴族にとって無くてはならない機能なのだが――それが、今回は仇となったようだ。
俺はサクッと怯えている家宰も気絶させると、ガリアに向き直った。
ガリアはそんな俺を射殺さんとする目で睨みつけると、口を開く。
「よくもっ! この疫病神めがっ! 死ね! 魔力よ。炎の――ぎゃあああ!!」
「いや、何で呑気に詠唱唱えてんだよ」
ガリアの喉元にスライムを召喚して、喉を軽く溶かすことで、詠唱を中断させた俺は、思わずツッコミを入れる。
短縮詠唱や無詠唱ならまだしも、見るからに長そうな詠唱を、こんな至近距離で唱えるなんて、正気の沙汰じゃない。
魔物相手だったら、直ぐに喉元食いちぎられて死ぬよ?
まあ、実践経験が見るからに皆無なこいつには分からないか。
「さてと。ちょっくら殴らせろ」
そう言って、俺はスライムを回収すると、素早く近づき、喉元に手刀を叩き込む。
「おえっ」
対処できるハズも無く、喉に手刀を受けたガリアは、苦しそうな声を上げる。
その隙に、俺は足払いをし、ガリアを仰向けに転倒させた。
「があっ!」
再びガリアは苦しそうに声を上げたが、そんなの無視して、俺はガリアを足蹴にすると、思いっきり腹パンした。
「がはっ!」
鳩尾に入り、ガリアはより一層苦しみの声を上げる。
俺は抵抗されないように、首に足を軽く乗せると、口を開いた。
「俺に手出しさえしなければ、一応屋敷で俺にしたことはなかったことにするつもりだったんだ。お前の考えも、少しは理解できたからな。だが――屋敷を出た俺に手を出した。あまつさえ、お前はとんでもない犯罪を犯してたと……。自分の罪を棚に上げて、よく俺にあんなことが言えたな? 流石にこれは情状酌量の余地なしだ。まあ、真っ当に生きているとは到底言えない俺が言えた言葉じゃ無いかもだがな」
俺は冷めた目でガリアを見下ろしながら、そう言う。
一方、ガリアは悔しそうに歯噛みすると――口を開いた。
「煩い。第一、お前が居なければこんなことにはならなかった! お前さえいなければ! クソッ こんなことなら、生まれた瞬間に殺しておくべきだったな! この忌み子が! 疫病神が!」
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー喚く喚く。
醜いな。
本当に醜い。
「まあ、お前の醜態を見て、少しは溜飲も下がった。あと数回殴ったら帰るか」
別に苛烈な復讐をする気はさらさらない。
数発殴っときたいだけなのだ。
どうせ、こいつはこの後もっと辛い目にあうんだから。
「はっ! はっ! はっ! はあああっ!」
腹に2発。頬に2発。
続けざまに殴った俺は、最後に首裏を叩いて気絶させた。
「よし。あとは……死体処理するか」
そう言って、俺は先ほど殺した3人に向き直ると、大量にスライムを呼び出して、捕食させた。
数の暴力のお陰で、ほとんど時間をかけることなく、骨も、肉も、何もかもが無くなった。
そして、ついでに床に広がる血もスライムに捕食させ、残りを浄化できれいにした。
「……よし。完全犯罪の成立だな」
死体が無ければ、殺人事件として立証することは出来ないってどこかで聞いたことがある。
あとは、防具も適当に処理しとけば、問題ないだろう。
防具は結構良い値で売れるからな。
「これで貯金もいい感じだ」
俺は臨時収入になったと若干ウキウキしながら、防具を空間収納の中に入れる。
だが、容量の関係で、1組しか入らなかった。
「……仕方ない。置いといたらめんどそうだし、処理しとくか」
そう言って、俺はそれらの防具に触れると、空間転移で下水道に転移した。
その後、下水道に転移した俺は、その場に防具を置き去ると、結界の範囲外へと向かう。
そうして歩くこと数分後、結界の範囲外に出たところで、俺は即座に空間転移を使ってシュレイン内の路地裏に転移した。
「……やったぜ」
屋敷からの脱出にも成功した俺は、建物の壁にもたれかかると、小さくガッツポーズを取った。
ネムも、俺の滲み出る喜びを感じ取ったのか、嬉しそうに「きゅきゅ!」と鳴いた。
「これで、あいつらとの関係は完全に絶つことが出来る。これで、だいぶ肩の荷が下りた」
ガリアを筆頭とした元家族に会うことはもう無いだろう。
いやー最高だ。今日は祝杯として、夕飯は豪華なものにしようかな?
「そんじゃ、宿に戻って昼寝でもするか~……あ、一応ガリアが護送される様子は見とこうかな? 何か気になるし」
そんな呑気なことを言いながら、俺はのんびりと宿に向かって歩き出した。
そこには驚き、疑問、混乱。
そして――
「シンんんん!!!!!」
怒りがあった。
俺を見たことで、より一層怒りを爆発させたガリアは、家宰をガリアらしからぬ斥力で弾き飛ばすと、1歩前に出た。
「お前だな? お前が盗ったんだなああ!!!」
「ああ、そうだ。俺が盗った。で、何か問題でも?」
あまりにも哀れな姿のガリアに、俺は思わず嘲笑しながらそう言った。
すると、途端にガリアの顔が真顔になる。
怒りが頂点に達すると、かえって冷静になるとか言うあれか。
まさかガリアがそうなる日が来るとは思いもしなかったな~
「……まあ、いい。おい! こいつを捕縛しろ!」
ガリアは3人の護衛に向き直ると、俺を指差しながら、そう言った。
一方、彼らは俺のことを知っているのか、若干躊躇いを見せる――が、不法侵入であることは事実というのもあってか、ゆっくりと俺に近づいてくる。
ゆっくりと近づいてくるのは、曲がりなりにもここに侵入できた俺のことを警戒しているからなのだろうか。
「止まれ。それ以上近づくのなら、敵とみなす」
ガリアのしていることを知っているのかどうかは定かではないが、それでも捕縛するようなら、当然抵抗するつもりだ。
だが、彼らは止まるどころか、走り出した。
虚勢とでも思ったのだろうか?
「そうか。なら――死ね」
そう言って、俺は彼らが着る防具の内側に戦闘用のスライムを1匹ずつ召喚した。
そして、全力で溶かすことを命じると同時に、俺は短縮詠唱の空間転移で彼らの背後に転移する。
「!? があああ!!!」
「ぐううう!?」
「ぎゃああ!!」
溶解液を受け、彼らは一斉に身悶える。
そして、1人2人と倒れていく。
だが、最後の1人は即座に防具を脱ぎ捨てると、スライムに斬りかかった。
「危ないなぁ」
まあ、即座に召喚して避難させればいいだけだから、問題ないんだけどね。
んーでも見た感じ、この人だけ傷が浅いな。
多分、高位の身体強化系の祝福を持っているんだと思う。
”剣士”とか”槍術士”とか。その辺は結構多いからね。
「何をやっている! こんな出来損ないのクズに醜態を晒すな!」
この中で一番醜態を晒しているガリアが、かませ役の悪役貴族のようなキレ具合で怒鳴り散らかす。
もう侯爵家当主の威厳は欠片も残っちゃいないな。
「ちっ はあっ!」
無手で捕縛するのは不可能だと判断したのか、今度は剣を構えると、俺に斬りかかった。
狙いは……肩だな。
だが――流石に大振り過ぎる。
空間属性魔法の使い手に、それは悪手以外の何物でもないぞ。
「空間を開け」
直後、俺の目の前に黒い円が出現した。
男はマズいと思ったようだが間に合わず、その中に剣を入れてしまった。
すると――
「がはっ!」
突如、男は吐血した。そして、ばたりとうつ伏せで地面に倒れる。
そんな男の背中には、大きな斬り傷があった。
「転移門を用いたカウンター。熟練者の間でよく使われている、対策必須のやつなんだけどね」
強者っぽくそう言うと同時に、俺はその男に剣を振り下ろして、とどめを刺した。
「執務室の壁が防音仕様なのが、仇になったね」
ここは外の声は中に聞こえるが、中の声は外に聞こえないという、特殊な部屋だ。
執務室ではなるべく他人に聞かれたくないことを口にする機会も多々ある為、貴族にとって無くてはならない機能なのだが――それが、今回は仇となったようだ。
俺はサクッと怯えている家宰も気絶させると、ガリアに向き直った。
ガリアはそんな俺を射殺さんとする目で睨みつけると、口を開く。
「よくもっ! この疫病神めがっ! 死ね! 魔力よ。炎の――ぎゃあああ!!」
「いや、何で呑気に詠唱唱えてんだよ」
ガリアの喉元にスライムを召喚して、喉を軽く溶かすことで、詠唱を中断させた俺は、思わずツッコミを入れる。
短縮詠唱や無詠唱ならまだしも、見るからに長そうな詠唱を、こんな至近距離で唱えるなんて、正気の沙汰じゃない。
魔物相手だったら、直ぐに喉元食いちぎられて死ぬよ?
まあ、実践経験が見るからに皆無なこいつには分からないか。
「さてと。ちょっくら殴らせろ」
そう言って、俺はスライムを回収すると、素早く近づき、喉元に手刀を叩き込む。
「おえっ」
対処できるハズも無く、喉に手刀を受けたガリアは、苦しそうな声を上げる。
その隙に、俺は足払いをし、ガリアを仰向けに転倒させた。
「があっ!」
再びガリアは苦しそうに声を上げたが、そんなの無視して、俺はガリアを足蹴にすると、思いっきり腹パンした。
「がはっ!」
鳩尾に入り、ガリアはより一層苦しみの声を上げる。
俺は抵抗されないように、首に足を軽く乗せると、口を開いた。
「俺に手出しさえしなければ、一応屋敷で俺にしたことはなかったことにするつもりだったんだ。お前の考えも、少しは理解できたからな。だが――屋敷を出た俺に手を出した。あまつさえ、お前はとんでもない犯罪を犯してたと……。自分の罪を棚に上げて、よく俺にあんなことが言えたな? 流石にこれは情状酌量の余地なしだ。まあ、真っ当に生きているとは到底言えない俺が言えた言葉じゃ無いかもだがな」
俺は冷めた目でガリアを見下ろしながら、そう言う。
一方、ガリアは悔しそうに歯噛みすると――口を開いた。
「煩い。第一、お前が居なければこんなことにはならなかった! お前さえいなければ! クソッ こんなことなら、生まれた瞬間に殺しておくべきだったな! この忌み子が! 疫病神が!」
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー喚く喚く。
醜いな。
本当に醜い。
「まあ、お前の醜態を見て、少しは溜飲も下がった。あと数回殴ったら帰るか」
別に苛烈な復讐をする気はさらさらない。
数発殴っときたいだけなのだ。
どうせ、こいつはこの後もっと辛い目にあうんだから。
「はっ! はっ! はっ! はあああっ!」
腹に2発。頬に2発。
続けざまに殴った俺は、最後に首裏を叩いて気絶させた。
「よし。あとは……死体処理するか」
そう言って、俺は先ほど殺した3人に向き直ると、大量にスライムを呼び出して、捕食させた。
数の暴力のお陰で、ほとんど時間をかけることなく、骨も、肉も、何もかもが無くなった。
そして、ついでに床に広がる血もスライムに捕食させ、残りを浄化できれいにした。
「……よし。完全犯罪の成立だな」
死体が無ければ、殺人事件として立証することは出来ないってどこかで聞いたことがある。
あとは、防具も適当に処理しとけば、問題ないだろう。
防具は結構良い値で売れるからな。
「これで貯金もいい感じだ」
俺は臨時収入になったと若干ウキウキしながら、防具を空間収納の中に入れる。
だが、容量の関係で、1組しか入らなかった。
「……仕方ない。置いといたらめんどそうだし、処理しとくか」
そう言って、俺はそれらの防具に触れると、空間転移で下水道に転移した。
その後、下水道に転移した俺は、その場に防具を置き去ると、結界の範囲外へと向かう。
そうして歩くこと数分後、結界の範囲外に出たところで、俺は即座に空間転移を使ってシュレイン内の路地裏に転移した。
「……やったぜ」
屋敷からの脱出にも成功した俺は、建物の壁にもたれかかると、小さくガッツポーズを取った。
ネムも、俺の滲み出る喜びを感じ取ったのか、嬉しそうに「きゅきゅ!」と鳴いた。
「これで、あいつらとの関係は完全に絶つことが出来る。これで、だいぶ肩の荷が下りた」
ガリアを筆頭とした元家族に会うことはもう無いだろう。
いやー最高だ。今日は祝杯として、夕飯は豪華なものにしようかな?
「そんじゃ、宿に戻って昼寝でもするか~……あ、一応ガリアが護送される様子は見とこうかな? 何か気になるし」
そんな呑気なことを言いながら、俺はのんびりと宿に向かって歩き出した。