教会を出てからのことはほとんど覚えていない。
 父からは罵倒され、母からは軽蔑され――それにただ申し訳ありませんと言い続けたことだけ。
 親の愛とは、祝福(ギフト)だけでここまで変わるものなのかと、酷く落胆したよ。そして、こうも思った。
 父と母はこれまでずっと、俺を息子として愛していなかった。ずっと、駒としてしか愛していなかった……と。
 だから、価値のなくなった駒――俺を愛さなくなったのだ。

 そして、気がつけば俺は自室のベッドに寝転がり、布団に顔を埋めていた。もうメイドをつける価値もないと思われたのか、今朝までいたメイドはいない。

「はぁ……ただ、この状況を悪くないと思ってしまっている自分もいるんだよなぁ……。もとより、今世の家族への情ってあまりなかったし」

 ショックから立ち直った俺はゴロリと転がって仰向けになると、天井を見上げながらそう呟いた。
 これで、俺はフィーレル家の当主になるという未来はほぼ絶たれた。一応暫くは弟のレントの予備として残されるだろうが、いずれ一家の恥として勘当されるだろう。
 邪魔だからと殺される可能性も無くはないが、流石にそんなリスクある行動を父がするとは思えない。グラシア王国では、例え間接的だったとしても、子殺しは親殺しと並んでかなりの重罪として扱われているからね。
 確か、貴族でも死罪になる可能性があるとのこと。
 まあ、ここには過激なお家騒動を防止する意味も含まれているんだと思う。
 で、何故勘当され、家を追い出されることを望んでいるのかというと、単純にこの世界を自由に冒険したいとずっと思っていたからだ。贅沢な貴族生活も、それはそれで結構好きだったのだが、こうなってしまうと、もう貴族生活に魅力は感じない。ある程度力をつけたら、ここから出てってやる。
 ただ、1つ問題があるとすれば……

「勘当されたとして、F級の”テイム”でどうしろというんだ……」

 そう。問題はそこだ。
 だんだん”テイム”が体に馴染んできたお陰で分かったのだが、俺がテイムできるのは基本スライムだけで、頑張ればゴブリンやスケルトンといった魔物も出来なくはない……といった具合だ。
 これらの魔物は冒険者ギルドという、異世界ものではおなじみの組織が発表している魔物ランク表の中では最弱のFランクに属している。Fランクに区分される魔物は総じて、非戦闘員でも武器さえあれば1人で倒せるという弱さっぷりだ。てか、スライムに至っては子供に踏み潰されただけであっけなく死ぬって聞いたことあるんだけど。

「まあ、試してみないことには何とも言えんな。スライムならここの下水道とかにも普通にいるだろうし、今度試してみるか……」

 スライムの主な食事は他の生物の食べかす。故に、下水道とかにはゴキブリの要領で湧くらしい。
 まあ、ゴキブリと違って、室内には流石にいないけど。

「ん~……あ、そういや魔法もあったな」

 俺はベッドからがばっと起き上がると、ポンと手を叩く。
 5歳の誕生日が主神エリアス様から祝福を授かる日というのは有名な話だが、それ以外にもう1つある。それが、魔法の解禁だ。
 魔法とは体内に宿る魔力を燃料に火をおこしたり水を出したりと様々な現象を引き起こすもの。
 幼いころからやりまくって無双したいって思ったこともあるのだが、体内にある魔力回路というものが未発達の状態で魔法を使ってしまうと、魔力回路が破裂して最悪死ぬと知って、即その案は却下した。だが、5歳になったことで、ようやく魔力回路が魔法の発動に耐えられるまでに発達したのだ。

「今度書庫に行って、魔法についての本を読んでこようかな?」

 本来なら、5歳で魔法の家庭教師をつけられるのが貴族家における習わしだが、この状況で俺につけてくれるだなんていう甘い考えは捨てておいた方がいいだろう。

「いや~頼む。どうか魔法だけは上手くいってくれ……!」

 祝福(ギフト)が駄目ならせめて魔法の才能はあってくれ。
 俺はそう、神に祈るのであった。