宿を出た俺は、そのまままっすぐ冒険者ギルドに向かって歩く。
 そうして冒険者ギルドに到着した俺は、扉を開けて中に入った。

「んー騒がしい……かな?」

 中は、戦闘を終えて帰って来た冒険者たちでにぎわていた。どうやら皆、緊急依頼の報酬を貰ったようで、浮かれているのがよく分かる。
 絶対この中に今日1日で使い果たす馬鹿が居るだろうなぁ……なんて思いながら先へ進む。
 そして、事情を知る受付嬢に声をかけた。

「すみません。先ほどの情報提供に関する報酬金について、ギルドマスターに聞きに来ました」

「ああ、シン君。残念だけど、今ギルマスは外出中なの。日が暮れる前には帰ってくると思うから、その時にまた来て欲しいな」

 受付嬢はニコリと笑うとそう言う。
 あー外出中か。
 まあ、色々あったし、あの件についてのやり取りで忙しいのだろう。

「分かりました。では、また来ます」

 そう言って、俺は踵を返し、歩き出す――その時。

「あ、帰ってきてるじゃん」

 前方には、丁度冒険者ギルドに帰って来たギルドマスター、ジニアスの姿があった。
 ジニアスさんは多くの視線を浴びながら、ずんずんと受付の方へと向かう。
 そして、ふと俺と目が合った。

「お、わりーな。さっきはいきなり出て行っちまって。お前の情報はさっき確認してきたが、正しかった。早速報酬金を渡したいから、ついて来てくれ」

 ジニアスさんは俺に近づくと、気さくにそう言う。

「あ、はい。分かりました」

 俺は頷くと、ジニアスさんについて行く。
 ……うっわーめっちゃ注目浴びてる。
 だよな。Fランク冒険者である俺が、ジニアスさんに声かけられるなんて、普通はありえんもんな。
 流石にこのランクで注目を浴びても、妬みの対象になるだけなんだよなぁ……
 そう思い、若干憂鬱になりながらも、俺はジニアスさんについて行き、やがてさっきの部屋に通される。

「さ、座ってくれ」

「分かりました」

 俺は微かに沈んだ声で頷くと、ソファに腰かける。
 そして、ジニアスさんもソファに座った。

「でな。ついさっき、冒険者を数人連れて、森の調査に行ったんだ。どうしても、この件について確信を持ちたかったからな。で、行ってみれば見事にあったよ。森の奥に、麻薬の畑がな」

 ジニアスさんは忌々しそうに言う。
 若干威圧感も出ており、思わずビクッと震えてしまった。

「ああ、すまない。殺気が出ていたな。それで、君がもたらしてくれたこの情報はとても価値の高いものだった。故に報酬金15万セルを渡そう」

「15万……ッ!」

 想像以上の大金に、俺は思わず息を呑む。
 15万だぞ。15万。
 これでポーション系をそろえておけば、今後の冒険者活動における大きな助けとなるだろう。

「ああ。俺としてはもう少し渡したいぐらいだが……まあ、規則に則ったら、これぐらいになる。で、ランクも上げていいだろう。情報収集能力も、冒険者が持つべき能力の1つだからな。一先ず、Eランクに上げておこう」

「Eランクですか……」

 おーまさか2週間でランクを上げられるとは思いもしなかったな。
 Dランクになれば、念願のダンジョンに入れるということなので、このまま引き続き頑張るとしよう。

「まあ、こんなところだな。いやーにしても今回の調査は色々と驚くことが多かったな。まさか、森の中で大量の魔物が死んでいたなんて」

「そうなんですか……もしかして、あの凶暴化した魔物にやられたんですかね?」

 俺は内心ドキリとしつつも、そう問いかける。
 やっべーそういや死体処理してなかった……!
 死体処理する前に、意識を失っちゃったからな。

「いや、それが何故か脳天に穴を開けられて死んでいたんだ。あんな器用に殺せる魔物なんて、聞いたことが無い」

「そ、そうですね~」

 やばい。死に方が特殊過ぎるのバレてる。
 俺は思わず冷や汗を垂らす。抑えようにも、抑えられない。

「そう言えば、君はテイマーだったな。脳天に穴を開けて殺す魔物なんて、聞いたこと無いか?」

「いえ、聞いたこと無いですね。そもそも、魔物ではなく、人ではないのでしょうか? 魔物よりは、そっちの方がまだ現実的というか……」

 俺は上手いこと言って、この場を凌ごうとする。
 流石にあれを俺がやったなんて、バレたくないんだよな~
 絶対面倒なことになる。

「脳天をわざわざ突く人がいるわけないだろ? それで、実はちょっと見てしまってな……お前がその魔物に指示を出して、倒している所を」

「え……見られてた……?」

 馬鹿な。俺周辺にもスライムを配置していたんだぞ?
 そもそも、指示出したってどこで分かったんだ?
 声か?
 だが、俺の声が聞こえる範囲には誰もいなかったはず。
 魔法や祝福(ギフト)を用いて聞いたのか? いや、ジニアスさんは魔法は全然だと聞いたし、祝福(ギフト)はS級の格闘家だと聞いている。
 どうして見られたのか分からず、混乱していると、ジニアスさんが口を開いた。

「まさかお前だったとはな。因みに俺が言ったことは嘘だ。つまり、カマをかけた……ってわけだ」

「……やられたか」

 俺は思わず天を仰ぐ。
 まさか、仮にも侯爵家の跡取りであった俺が、こんな簡単な手に引っかかるとは……!
 めっちゃ悔しい!

「それで、どんな魔物を使ったんだ? 誰にも言わないからさ」

「信用出来ね~……あ」

 思わず心の声が漏れてしまった。
 やべぇ。色々とやからし過ぎている。
 俺って詰めが甘いんだなぁ~とつくづく思わされるよ。
 すると、ギルアスさんはそんなやらかしまくっている俺を見て、笑い声を上げる。

「はははっ ボロが出てるぞ。まあ、嘘ついた俺を信用しないのは正しい。その詫びも兼ねて、あいつらは凶暴化により同士討ちしたってことにしておこう。死体も、さっさと処理しておく」

「……ありがとうございます」

 そう言って、俺は頭を下げる。
 いやー良かった。流石にここで嘘つくなんて真似はしないだろうし、これは信じていいだろう。

「あと、追加の詫び……というよりは実力面で、EランクじゃなくてDランクにしておくか。ある程度実力があることをランクで知らしめておかないと、お前の場合厄介なことになりそうだからな」

「ありがとうございます。確かにそうですね……」

 短期間で、それもこの年齢でDランクに上がるほどの腕前だと知られれば、多少派手に動いたとしても、下手に深堀りされずに済むだろう。そう考えると、割とありだな。ジニアスさんに知られたということは。
 何かあった時に、ジニアスさんになら相談できるというのも非常に大きい。
 ある程度の事情を知る権力者が1人いるだけで、こうもやりやすくなるものなのか……

「では、そろそろ話を終わりにしよう。やることが沢山あるからな。じゃ、報酬金を払うか」

 そう言って、ジニアスさんは立ち上がると、執務机の引き出しをガサゴソと漁る。

「んーと……おしおし。これで足りるな」

 そう言って、ジニアスさんは戻ってくると、小金貨1枚と銀貨5枚をテーブルの上に置く。

「ランクアップは、流石に今やったら不自然だからな。悪いが、これはもう少し待ってくれ。大体1週間後ぐらいに受付に来れば、ランクアップしてもらえるから」

「分かりました」

 別に1週間遅れるぐらい、どうということはない。そもそも、1か月足らずでDランクに上がれるのは普通に凄いことなのだ。
 だが、前例がないわけではなく、A級以上の祝福(ギフト)を持っている奴はほぼ全員それぐらいで上がっている。だから、目立ちすぎるなんてこともない。

「じゃ、これからも頑張れよ。困ったことがあったら、いつでも相談に乗るぞ」

「ありがとうございます。では」

 俺は礼を言うと、部屋から去って行った。
 そして、さっきの騒ぎを再び起こさない為に、そろーっと受付から出て、そのまま冒険者ギルドの外に出た。