『きゅきゅきゅー! きゅきゅきゅー!』

 頭の中で、あの子たちの鳴き声が聞こえてくる。

「……んぁ?」

 その声で目を覚ました俺は、上半身を起こすと、辺りをキョロキョロと見回す。

『きゅきゅきゅー! きゅきゅきゅー!』

 ……ああ、誰か来たのかな?
 いや、これは時計塔からか。
 てことは、もう6時になったのか。
 ふと、窓の外を見てみると、もうだいぶ暗くなっていた。奥にうっすらと沈みゆく日の光が見える。

「さて……行くか。いや、その前に……ネム。他のスライムから連絡は来た?」

「きゅきゅ!」

 俺の言葉に、ネムは元気よく頷いた。
 まあ、流石に来てるよな。
 これからは彼らが活躍する機会も増えるだろうし、どんどん増やしていかないと。
 あまり言いたくはないが、スライムはとても……弱いからね。

「で……おっと」

 寝起きの状態で、連絡をしてきたスライム全ての視覚を同時に見たせいで、一瞬ふらつくも、直ぐに心を落ち着かせると、そのすべてにテイム”を使う。

「……よし。大丈夫だな。それじゃ、行くか」

 新たな”繋がり”が無数に出来たことを感じ取った俺は、ネムを肩に乗せて立ち上がると、リュックサックを背負ってから、鍵を開け、外に出た。
 下からは、わざわざと人の声が聞こえてくる。どうやら、もう既に多くの人たちが食事を取っているようだ。
 階段を降り、1階へと向かう。

「ん~……こういう雰囲気も悪くないね」

 俺は騒ぐ冒険者らしき人たちをぼんやりと眺めながら、穏やかにそう呟いた。
 さーてと。席は……お、隅のテーブル席が空いてるじゃん。
 あそこにしよう。あそこなら、やっからみもされなさそうだし。
 そんなことを思いながらそこへ向かい、椅子に座ると、横の椅子にリュックサックを置いた。
 そして、従業員を呼ぶ。

「すみません! 注文を!」

「あ、はーい。何を注文しますか?」

 従業員の若い女性が元気な声でそう問いかける。

「ミノタウロスの串焼き3本。コンソメスープ、野菜多め。あと水もお願い」

 メニューもばっちり把握済み。故に、見なくてもスラスラと言えるのだ。

「分かりました。お代は800セルになります」

「どうぞ」

 俺はリュックサックから銅貨8枚を取り出すと、彼女に手渡す。
 彼女はそれを受け取り、確認すると、「では、少々お待ちください」と言って、去って行った。
 そして僅か数分後、俺のもとにお盆を持って戻って来た。

「ミノタウロスの串焼き3本と、野菜多めのコンソメスープ。水になります」

 彼女はそう言って、テーブルの上に料理を置いて行く。
 おーいい匂いだな。
 ますますお腹が減って来た。

「ありがとうございます」

 俺は思わず満面の笑みで礼を言う。
 すると、彼女は「あ、はい。いえ、ど、どういたしまして……」とどこか挙動不審になると、まるでここから逃げるようにして、去って行った。心なしか、頬が赤く見えた。
 あーもしかして嫌われた?
 と、言うのは冗談で、多分俺のお子様スマイルにドキッとしたんじゃないかな?
 ……自意識過剰だって?
 でも、これが意外とそうだったりするんだよ。
 まず、俺は普通に美形だ。曲がりなりにも、あの2人の血を引ているのだから、当然と言えば当然の話だが。
 そして、俺は精神年齢の関係上、普段は結構大人びている。そんあ俺が、いきなり子供らしい笑みを浮かべたら、そのギャップから結構可愛いって思われるんだろうね。
 とまあ、こんな話は置いといて、早速食べるとしよう。
 例の如くネムに串焼きを1本上げると、美味しそうに串焼きを食べるネムを横目に、俺も串焼きを頬張る。

「もぐっもぐっもぐっ……ん! 美味い!」

 俺は頬を緩ませると、弾んだ声でそう言う。
 ぶっちゃけると、普通に屋敷で食べていたやつよりも美味しく感じる。
 やっぱ鮮度って大事なんだな。屋敷で食べてる食べ物って、高級食材故に遠方から取り寄せているものが多いせいで、鮮度が少し悪い。当然魔法でカバーしているのだろうが、それでもだ。
 俺は更に頬張る。
 うん。美味い!

「もぐもぐ……む?」

 ふと、俺の席に誰かが近づいてきた。俺は咄嗟に口を止めると、視線を向ける。
 すると、そこには――