「ここかな……?」
俺の目の前にあるのは、まあどこにでもあるような、いたって普通の宿だ。
でも、そこがいい。
この宿には、ここがいい!と思うような要素はない。だが、文句が出るような要素も無いのだ。
「入るか」
まだ日は高めの位置にあるが、ここは俺が目をつけただけあってか、そこそこ人気だ。
故に、早めに部屋を取っておかないと、満室になってしまう可能性が非常に高い。
俺はドアを開けると、中へ入った。
中は落ち着いた雰囲気が漂っていた。そして、静かだ。
昼間の宿だから、当たり前と言えば当たり前だが……
すると、俺の姿に気付いた宿の女将がこっちへ来る。
「おや? 見ない顔だね。木漏れ日亭へようこそ。泊りに来たのかい?」
女将は元気そうな笑みを浮かべながらそう言う。
「ああ。家が無いからな。暫く泊まらせてもらおうかと思ってね。取りあえず、30日分取りたいと思う」
こういう人気宿は、こうやって何十日分の予約をしておいた方が良い。
金はだいぶ減ってしまうが、その分稼ぐことは可能だということが今日証明されたので、問題はない。
想定外の事故で稼げなくなるなんてこともあるが……そうなったら、また別の稼ぎプランが残っている。
もちろんそうならないことに越したことは無いが、何事も万が一は考えておくべきだよな。
「ああ、1か月かい。分かったよ。それで、30日は確か6万セルだったね。でもまあ、特別に5万セルに負けてやるよ」
女将は気前よくそう言った。
「え、いいんですか!?」
俺は思わず目を輝かせる。
流石に宿代を負けてもらえるなんて、思ってもみなかった。
「ああ。苦労している子供から、大金は取りたくないからね。それに、うちはそこそこ儲かっているから、それくらい大したことないさ」
そう言って、女将は元気よく笑う。
すげー……俺もこんなこと言ってみてぇ……!
「ありがとうございます。では、銀貨5枚を――」
俺はリュクサックから銀貨5枚を取り出すと、女将さんに手渡す。
女将は暖かくて力強い手でそれを受け取ると、ニコリと笑った。
「毎度あり。2階の5号室を使いな。あと、ここでは朝と夜に食堂をやってる。君もここで食べていくといい」
そうそう。ここの1階は食堂になっているんだよね。
それで、夜になると、依頼を終えて帰って来た冒険者たちで、いい賑わいを見せるという。
「分かりました。夕食の時間になったら、また来ます」
そう言って、俺は小さく欠伸をすると、頭を掻きながら階段を上り、2階へと向かった。
そして、2階に着いた俺は、ドアに書かれている番号を1つ1つ確認していき、やがて5号室を見つける。
「ここか……」
そう呟くと共に、俺はギィっとドアを開けて、中に入った。
六畳二間程のこじんまりとした部屋だ。
小さな小窓が1つと、簡素なベッドが1つ。そして、その横には小さな丸テーブルと椅子が置かれていた。
小さめのタンスも部屋の隅にあり、そこに荷物等を置いておくことが出来るだろう。
部屋に入った俺は、ガチャリと部屋に鍵をかけると、よろよろとベッドに近づく。
「あー色々あったなー!」
そして、どかりとベッドの淵に座った。
いやー本当に今日は色々あった。お陰で疲れちゃったよ。
「きゅきゅきゅ!」
肩でじっとしていたネムが、俺の胸元にやってきて、しきりに”構って!”っと言ってくる。
「はいはい。今日はありがとな」
そう言って、俺はネムを抱きしめた。
ひんやりとした肌触りが、俺の頬や腕に伝わる。
「よしよし……ああ、リュック下ろしとかないと」
俺は名残惜しさを感じつつも、ネムをベッドの上に置くと、リュックを肩から下ろし、床にドサッと置いた。
「はーあ。一応休憩タイムだし、体、綺麗にするか」
ふと、思い出したかのようにそう呟くと、俺は詠唱を紡ぐ。
「魔力よ。光り輝き浄化せよ」
直後、俺の服と体が淡い光に包まれたかと思えば、汚れを落としていく。
光属性魔法は魔力効率の観点であまり使わないが、これだけは例外。
浄化は俺でも簡単に使えるし、それでいてめっちゃ便利だからね。
ちょっと体を綺麗にしたい時とかに、手軽に使える。
まあ、それでも無駄遣いは絶対にしない……と言うよりは出来ないね。
「ふあぁ……流石に休むか。今日は心の休憩が必要だ」
そう言って、俺は再びネムを胸に抱きかかえると、ゴロリとベッドに寝転がった。
寝心地は、流石に屋敷のものと比べると悪い。
だが、別に気にならない。これぐらいでどうこう言うようだったら、俺は死ぬ気で勘当されないように努力していたはずだ。
「きゅきゅ~」
ネムもどこかご満悦といった様子で、俺に身を預ける。
あーこのまま眠っちゃいたいぐらいだな。
今の時間……はさっきシュレインの中心部にある時計塔を見たから覚えている。
確か、午後の2時45分だ。
「……昼寝には、丁度良さそうだな」
そう呟くと、俺は念のため、ここに数体、警戒用のスライムを呼んだ。
もし、誰かが部屋に入ろうとすれば、”繋がり”を通して俺を起こすよう言ってある。あと、時計塔にいるスライムにも連絡し、6時になったら起こすようにも言った。
これで、夕食を寝過ごしてしまう心配もない。
「ん……寝よ……」
「きゅ……きゅ」
そして、俺は意識を手放した。
俺の目の前にあるのは、まあどこにでもあるような、いたって普通の宿だ。
でも、そこがいい。
この宿には、ここがいい!と思うような要素はない。だが、文句が出るような要素も無いのだ。
「入るか」
まだ日は高めの位置にあるが、ここは俺が目をつけただけあってか、そこそこ人気だ。
故に、早めに部屋を取っておかないと、満室になってしまう可能性が非常に高い。
俺はドアを開けると、中へ入った。
中は落ち着いた雰囲気が漂っていた。そして、静かだ。
昼間の宿だから、当たり前と言えば当たり前だが……
すると、俺の姿に気付いた宿の女将がこっちへ来る。
「おや? 見ない顔だね。木漏れ日亭へようこそ。泊りに来たのかい?」
女将は元気そうな笑みを浮かべながらそう言う。
「ああ。家が無いからな。暫く泊まらせてもらおうかと思ってね。取りあえず、30日分取りたいと思う」
こういう人気宿は、こうやって何十日分の予約をしておいた方が良い。
金はだいぶ減ってしまうが、その分稼ぐことは可能だということが今日証明されたので、問題はない。
想定外の事故で稼げなくなるなんてこともあるが……そうなったら、また別の稼ぎプランが残っている。
もちろんそうならないことに越したことは無いが、何事も万が一は考えておくべきだよな。
「ああ、1か月かい。分かったよ。それで、30日は確か6万セルだったね。でもまあ、特別に5万セルに負けてやるよ」
女将は気前よくそう言った。
「え、いいんですか!?」
俺は思わず目を輝かせる。
流石に宿代を負けてもらえるなんて、思ってもみなかった。
「ああ。苦労している子供から、大金は取りたくないからね。それに、うちはそこそこ儲かっているから、それくらい大したことないさ」
そう言って、女将は元気よく笑う。
すげー……俺もこんなこと言ってみてぇ……!
「ありがとうございます。では、銀貨5枚を――」
俺はリュクサックから銀貨5枚を取り出すと、女将さんに手渡す。
女将は暖かくて力強い手でそれを受け取ると、ニコリと笑った。
「毎度あり。2階の5号室を使いな。あと、ここでは朝と夜に食堂をやってる。君もここで食べていくといい」
そうそう。ここの1階は食堂になっているんだよね。
それで、夜になると、依頼を終えて帰って来た冒険者たちで、いい賑わいを見せるという。
「分かりました。夕食の時間になったら、また来ます」
そう言って、俺は小さく欠伸をすると、頭を掻きながら階段を上り、2階へと向かった。
そして、2階に着いた俺は、ドアに書かれている番号を1つ1つ確認していき、やがて5号室を見つける。
「ここか……」
そう呟くと共に、俺はギィっとドアを開けて、中に入った。
六畳二間程のこじんまりとした部屋だ。
小さな小窓が1つと、簡素なベッドが1つ。そして、その横には小さな丸テーブルと椅子が置かれていた。
小さめのタンスも部屋の隅にあり、そこに荷物等を置いておくことが出来るだろう。
部屋に入った俺は、ガチャリと部屋に鍵をかけると、よろよろとベッドに近づく。
「あー色々あったなー!」
そして、どかりとベッドの淵に座った。
いやー本当に今日は色々あった。お陰で疲れちゃったよ。
「きゅきゅきゅ!」
肩でじっとしていたネムが、俺の胸元にやってきて、しきりに”構って!”っと言ってくる。
「はいはい。今日はありがとな」
そう言って、俺はネムを抱きしめた。
ひんやりとした肌触りが、俺の頬や腕に伝わる。
「よしよし……ああ、リュック下ろしとかないと」
俺は名残惜しさを感じつつも、ネムをベッドの上に置くと、リュックを肩から下ろし、床にドサッと置いた。
「はーあ。一応休憩タイムだし、体、綺麗にするか」
ふと、思い出したかのようにそう呟くと、俺は詠唱を紡ぐ。
「魔力よ。光り輝き浄化せよ」
直後、俺の服と体が淡い光に包まれたかと思えば、汚れを落としていく。
光属性魔法は魔力効率の観点であまり使わないが、これだけは例外。
浄化は俺でも簡単に使えるし、それでいてめっちゃ便利だからね。
ちょっと体を綺麗にしたい時とかに、手軽に使える。
まあ、それでも無駄遣いは絶対にしない……と言うよりは出来ないね。
「ふあぁ……流石に休むか。今日は心の休憩が必要だ」
そう言って、俺は再びネムを胸に抱きかかえると、ゴロリとベッドに寝転がった。
寝心地は、流石に屋敷のものと比べると悪い。
だが、別に気にならない。これぐらいでどうこう言うようだったら、俺は死ぬ気で勘当されないように努力していたはずだ。
「きゅきゅ~」
ネムもどこかご満悦といった様子で、俺に身を預ける。
あーこのまま眠っちゃいたいぐらいだな。
今の時間……はさっきシュレインの中心部にある時計塔を見たから覚えている。
確か、午後の2時45分だ。
「……昼寝には、丁度良さそうだな」
そう呟くと、俺は念のため、ここに数体、警戒用のスライムを呼んだ。
もし、誰かが部屋に入ろうとすれば、”繋がり”を通して俺を起こすよう言ってある。あと、時計塔にいるスライムにも連絡し、6時になったら起こすようにも言った。
これで、夕食を寝過ごしてしまう心配もない。
「ん……寝よ……」
「きゅ……きゅ」
そして、俺は意識を手放した。