数日後の朝。
 朝食を食べ終えた俺はベッドに寝転がりながらネムを撫でていた。
 ただ、視覚は街に放ったスライムの1匹に移している。ついさっき、このスライムから新たなスライムを見つけたという報告が来たんだよね。

「よし。”テイム”!」

 俺は慣れた動作で目の前にいるスライムをテイムすると、念のため繋がりがあることをちゃんと確認する。

「……うん。あるね。じゃ、戻るか」

 そう呟いて、俺は視覚を自身の下に戻す。
 ここ最近はずっと”テイム”を使っている。
 森や街に放ったスライムの視覚から情報を得つつ、新たなスライムを手に入れるって感じだね。
 ただ、この前自室でぶつくさ独り言を言っているのがバレてめんどくさいことになった為、今はだいぶ小声で喋っている。
 とまあ、こんな感じのことを繰り返してたら、いつの間にかテイムしているスライムが50匹を超えてしまった。

「流石にこれは異常だよな……? うん。やっぱり異常だよな?」

 俺はネムを撫でながら、訝るように言葉を紡ぐ。
 確かに、弱い魔物の方が沢山テイムできると本には書かれていた。
 だが、例えスライムでも、精々10匹が限界のはずだ。ましてや、俺はF級なので、それよりも更に下だと思っていた。
 それなのに何故、50匹以上もテイム出来ているのだろうか……
 しかも、限界は今だ感じておらず、まだまだテイム出来ると思う。

「何でだろうな……と言っても、原因なんて分からんな……あ、強いて言えば、転生者だから……とか?」

 結局これといった理由は出てこず、俺はため息をつくと、今度は森にいるスライムの視覚に移る。
 すると、そこに広がっていたのは大自然だった。
 周囲一帯が草木で覆われており、まるでジャングルの奥地に迷い込んだようだ。
 そこには、スライムという自身の体よりもずっと小さい存在の視覚から見ていることが関係しているのだと思う。

「いや~こうして色々なところを安全な場所から見られるって、結構凄いことだよなぁ……」

 初めはハズレだと思ったF級の”テイム”。
 確かに強い魔物はテイム出来ないので、戦闘面では微妙なところがある。だが、こういった情報収集に使えるのは結構有用だ。それに、俺の場合は他の”テイム”持ち――テイマーよりも圧倒的な数の魔物をテイム出来るし、その魔物越しにテイムすることだって出来る。
 まだまだ未知数なところもある為、今後どんどん使い方を開拓してけば、いずれS級祝福(ギフト)の使い手に引けを取らない実力を手に入れるやもしれない。

 コンコン

 すると、部屋の扉がノックされた。
 この時間帯に来る人と言えば、1人しかいない。
 俺は即座にネムを天井裏へと向かわせると、口を開く。

「入ってください。エリーさん」

 すると、ギィっと扉が開き、エリーさんが入って来た。
 エリーさんはその場で一礼をすると、口を開く。

「おはようございます。シン様。では、今日はここで授業をしたいと思います」

「あ、そうなんですね。分かりました」

 俺は子供らしい笑みを浮かべながら頷くと、ベッドから起き上がり、椅子に座る。
 そして、エリーさんはそこから数歩歩くと、俺の前にあるテーブルの上に本を置いた。

「では、今日は今後空間属性魔法の習得をしてみましょう」

 お、ようやく空間属性に入れるのか。
 空間属性に関連する書物は大体読んでいるのだが、どうせなら教わってからにした方が良いと思って、使ってはいないんだよね。

「知っての通り、空間属性魔法は全属性魔法の中で、もっとも難しい魔法です。そして、もっとも事故の起きやすい魔法でもあります。なので、私の指示に従って、気を付けてやってくださいね」

「分かりました」

「はい。では、最初は空間属性魔法の基礎となる魔法を習得できるようにしましょう」

 そう言って、エリーさんは本をパラパラと捲る。そして、ピタリと手を止めると、ある部分を指差した。

「この空間把握(スペーショナル)が、まず最初に覚えてもらう魔法よ。この魔法の効果は周囲の空間の把握よ。まあ、分かりにくいだろうから、本当にざっくりと言ってしまうと、これは部屋の広さを知る魔法ね。取りあえず今はそれだけ覚えてくれてればいいわ」

「分かりました」

 まあ、そこら辺は随分前に本を読んでいたお陰で知っている。
 空間属性魔法って、今みたいな凄く曖昧な感じのやつが多いんだよね。
 火を生み出すとか、水を生み出すとか、そういうイメージしやすいやつじゃない。それが、空間属性がもっとも難しいと言われる理由の1つなのだ。

「まずは詠唱を唱えてみて。イメージ……はもう本当に魔法の効果の通りになることを強く願う……かな。流石にこれは簡単な言葉では説明できないからね」

「そうですか……やってみます」

 確かにこれはイメージしづらい。だって、空間を把握しろって言われても、理論的には説明できないだろ?
 まあ、言ってしまえばこれは完全な感覚系……つまりは慣れだ。
 何度も挑戦して、自力で手掛かりを見つけるしかないのだ。
 俺は息を吐くと、詠唱を唱える。

「魔力よ。この空間に干渉せよ」

 直後、何かふわっとした感覚に陥った。
 だが、言ってしまえばそれだけだ。正直言って、魔法の効果は感じられない。
 どうやら失敗したようだ。

「……無理でした」

「そう……でも、見た感じ発動は出来ているみたいだから、それだけでも十分いいわよ。後は何度も何度も繰り返しやれば、いつか成功するわ」

「分かりました」

 凄いと手を叩くエリーの言葉に俺は頷くと、再び空間把握(スペーショナル)を発動させるのであった。