今日もいい天気だ。暑くもなく寒くもないちょうどいい気候の中、次なる目的地(カフェ)を目指して旅をしている僕は、1つ気になるものを見つけた。

 それは見事に老朽化した橋だった。その橋の下にはけっこう深めの溝があり、この橋がないと向こうの道には渡れないのは明白だった。またこの辺は自然が多いごく普通の住宅街で、この辺に住んでいる人たちならみんな利用するはずなのになんで補装工事が行われていないんだろうと疑問に思った。もしかして1歩渡っただけで…?なんて思いながら恐る恐る足を踏み入れるが、うん、そんな心配は杞憂だったと。

 そして渡ろうとした途端、急に背後から声がかかった。

 「おい、そこのお前!!何勝手に渡ろうとしてるんだ!!」
 「!?」

 振り返ってみるとそこには子供が2人、立っていた。1人は男の子で偉そうに腕を組みながらこちらをにらんでおり、もう1人は女の子で、彼女もこちらをにらんでいた。顔つきも似ていることから兄妹ということがすぐに判明し、その兄弟は走ってこっちに来た。ちなみに身長も低いことから小学生くらいだと想定。

 「お前、この橋を通るには俺らに1000円払うって決まりがあるんだよ!さあ、払え!」
 「その前に君たちは何者なのかと、どうしてそんなことしなきゃいけないのかを説明してもらっていいかな?」

 僕は当然の疑問を、彼らにぶつける。

 「俺らはこの住宅街に住んでいるものだ!」
 「私たち、お金がなくてすごく困っているの。だから、払って?」
 「…。」

 お兄ちゃんの方は分かったとして、妹さんの言った理由については、全然納得しなかった。当たり前だ。だから僕はあえてもう一度聞く。

 「ごめんよく聞こえなかった。この橋を渡るのになんで君たちに1000円を払わないといけないのかな?」

 するとお兄さんが、あきれたように繰り返す。

 「だから、俺らの家は貧しくて困ってるんだよ!そしてここは俺らの縄張りでもあるんだから、1000円払うのは当然だろ!」
 「…。」

 正直言ってかなり意味不明。言っていることもだけど、それがどうしてお金を払う理由になるのだろうか…?しかもこの橋、別にこの子たちが造ったわけでもないのに、みんなの橋のはずなのになんでこの子たちにお金を払うんだろうか?

 「ちなみにこの橋、俺らのとーちゃんが建てたんだぞ?だから、払えよな?」
 「あ、そうなんだね」
 
 なるほどこの人のお父さんが建てたのか。じゃあ一応所有物としてはこの子たちのものにはなる…わけない!

 「そうだとしても、そんな決まりってどこかに書いてあるの?この地区の人たちは全員このことを分かっているの?」
 
 この子たちの言うことが本当に決まりとしてあるのなら、この辺に住んでいる人みんなが理解して協力してくれているはず。…と思ったんだけど。

 「う、うるさい!そんなことはどうでもいいんだよ!だからおとなしく払え!」
 「払ってね?」
 
 あ、これはどうも違うな。この子たちが勝手にこんなことしているだけだった。もしかして他の近所の方たちもこの兄弟にお金払えとか言われて手を焼いていたり…なんて勝手に想像した。すると兄弟は橋の前に立ち、僕をとおせんぼした。

 「とにかく払わないと通さないわよ!」
 「どうしても払えねえってんなら…力づくだな?」
 「うわぁめんどくせえなこりゃ…」

 諦めて引き返すことも一瞬考えたが、そうするとまた遠回りになるし、この橋を渡るのが一番効率がいいと考えた。それにこんな子供に意味不明な事をせがまれて内心ストレスが溜まっている。なのでここは少々大人げないけど…次の瞬間僕は全身から氷のような殺気を出し、それをその兄妹たちに向けた。

 「力づくはいいけど、自分たちの力量と挑む相手の力量の差ぐらいはちゃんと知っとかないとだめだよ?それを知らずに挑むことを無謀って言うんだよ?将来の自分たちのために覚えておいてね??」
 「ひっ!」
 「ひぅ!」

 よし計画通り。僕が何したかと言うと、簡潔に言えば威圧だ。こないだカフェで僕にガンつけてきた男性に使用したあの力を、あれから訓練してある程度は自在に出せるようになった。いやあこれなかなか便利だな!もちろん子供相手に暴力なんて言語道断。

 「う、、、うわああああん!」
 「ごめんなさい!わたしたちをころさないで…」
 
 あ、やりすぎた…。これ騒ぎにならないかな…?

 「あ、ごめん!泣かせるつもりは…」
 
 どうやら力量をわきまえるのは僕の方だった。軽く圧だけで黙らせるつもりだったが、こんな小さな子供相手にまじで何やってるんだ僕は一体…。

 「うわああああああん!」
 「うわああああああん!」
 「おおおおお願いだから泣かないで!わかった!1000円払うから!ね?だから泣き止んでー…」
 
 あまりに大声で泣き続ける子供たちに僕はどうしていいかわからず、もうお金払ってでも泣き止んでもらうしかなかった。するとその時…

 「おい健一、佳代、どうしたんだ一体!!」
 「あ…」

 声の方から男性が走ってきた。ややガタイが大きく、おそらくこの子たちのお父さんだ。


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 それから僕はこの家族の家にお邪魔し、僕は家のリビングのテーブルにお父さんと向かい合って座っていた。さっきまでの状況をお父さんに説明した。

 「あ、あの…ここまでするつもりは本当になかったんです!泣かせてしまって…本当に申し訳ございませんでした!」

 必死で僕は頭を下げた。怒鳴られるなこれ、さようなら僕の人生よ…。正直お父さんも最初の方は僕をにらんでいたものの、話を聞いてから穏やかな表情に変わり、そして…

 「そういうことだったんだな。むしろ謝るのは俺たちの方だな。うちの子がいきなり迷惑かけて、申し訳なかった!」
 「え…」

 予想外の展開に、僕はびっくりした。…まあ一般的に考えたらこうなるのかな。

 「ほら、お前らも泣いてばっかいないでこの人に謝らんか!」
 「ひっく…ごめんなさい」
 「お兄さん、ごめんなさい…」
 「もういいですよ。でも、こういうことは僕で終わりにしてください」

 またこのお父さんの話によると、たしかにあの橋を立てたのはお父さんなのだが、お父さんは通行料を取るとか全然考えてなかったらしい。(いやそれが普通の考えだけどね?)公共の橋として普通に建てただけらしい。するとお父さんは話した。

 「…妻が病気で寝てるんだ。俺の稼ぎだけでは生活賄うのも厳しいっていうのもあいつら分かっているから、その焦りでこんなことしてしまったんだろうな。そうだろ、お前ら?」
 「…」
 「…」

 子供たちは小さくうなずいた。この子たちも大変だったんだな…。だけどあんなお金の稼ぎ方は子供とは言えど、やってはいけない。

 「気持ちは買うが、こんなことしたってみんなに迷惑かける上に、お母さんも悲しむぞ?」
 「ごめんなさい…」
 「同時に…ごめんなぁ、俺のせいでお前らにこんな窮屈な思いさせてしまって…。」
 「パパ…」
 
 そう言ってお父さんは子供たちを強く抱きしめた。それを見ていた僕は胸が痛くなった。

 「もう二度とこいつらにはこんなことさせないよう教育するから、こいつらが迷惑かけたこと、許してやってくれないか?」
 「あ、はい。(さっきから許してますが…)」 
 「ではすみません、僕は急いでいるのでこれで失礼します」
 「あぁちょっと待ってくれ。これお詫びの品…」
 「大丈夫です。気持ちだけで十分です。」

 それから僕はあの家族の家を後にし、無事に橋を渡って旅を再開した。すると背後から声が聞こえてきた。

 「兄ちゃん、悲しいなぁ…。自分、あの子らには将来、幸せになってほしいって願うばかりやなぁ。」
 「…。」
 「兄ちゃんどうしたんや?まさか泣いてるんか?」
 「ねえタヌキ、僕はやっぱり、お金を払うべきだったのかな?どうしてもお金を払わなかったことに胸が痛むんだけど…」
 「さあな、自分にはわからんわ。」

 そう言うとタヌキはまた消え、僕は次の目的地へ向かうのであった。