【ごめん、友達が失恋したらしいから今日は友達の家に泊まる。食パンがあるから明日の朝はそれ食べて】
すみません、お母さん。僕は今、クラスの一軍女子の部屋にいます。
 瑞野さんとファミレスに入ったあと、気まずさに耐えつつも彼女が口を開いてくれるのを待っていた。
しかし、どれだけ経っても口を開きそうになく、流石に補導されそうな時間だったため店を出ると、瑞野さんは僕の手を引いて自分の家へと連れてきたのだ。
 驚くことに家には親はいないみたいで、今は濡れていたからお風呂に入ってきてもらっている。
「ごめん、急につれてきちゃって。家の人とか心配してない?」
お風呂上がりの瑞野さんはきれいだったけど、やっぱりどこか元気がなかった。
「大丈夫。それよりさ、なんで雨の中あんなところにいたの?答えたくなければいいけど…」
「私、明日いなくなるの。」
彼女は間髪入れずそう言った。耳を疑う発言だった。
「え?それってどういう…」
「私ね、明日成功する確率がほぼない心臓の手術を受けるんだ。だから、いなくなる。」
そうだったのか…。なんか失礼なことを聞いてしまったな。
「ね、人生最期のお願い聞いてくれない?」
いつもの彼女からは感じ取れないくらい弱々しい声で言った。
「僕でいいの?できることならなんでもするよ。」
「…私のことを一晩中抱きしめて。それで、私が明日いなくなることをだれにもいわないで。」
ああ、そうか。この子(・・・)なのか…。
「いいよ。」

 そうして僕は一晩中彼女のことを抱きしめた。これが僕にできる最大限のことだ。