コンビニで氷菓を買う。氷菓片手に向かうのは、海。決して綺麗とは言えない。だが、そこは僕の唯一の居場所だった。
 今の時代、男らしく女らしくと言われる事は減ってきた。しかし、こんな田舎町にはその価値観が根強く残っている。僕は女だ。けれど女で居たくない。いや、女という肩書に縛られたくない。ベリーショートの髪。似合い過ぎているズボン。大きめの胸が場違いのようだ。

「桜恋(さくらこ)にも、いい人がいるさ。結婚出来るよ。」

 パパは言う。僕が結婚したくないと言うたびに。言ったはずだ。僕は女ではないと。苛つく僕に追い打ちをかけるように言う。

「桜恋。もっと女の子らしくしてくれ。頼むから。」

 僕は、何も言えない。だって……だって。近所の人から白い目で見られていて、パパに直接僕の悪口を言う人がいて。分かってる。パパは悪くない。そうさせてしまう、環境が悪いのだ。ただでさえ、片親なのに。

 僕はママの記憶がない。ママは命を引き換えに僕を産んだ。つまり僕の誕生日はママの命日。パパは僕の誕生日の日、複雑な顔をする。僕も手放しには誕生日を喜べない。パパは未だにママの死を引きずっているのだ。もう16年も経ったのに。パパが僕に言い聞かせている事がある。

「ママが死んで、桜恋が生まれたあの日。絶望と希望、不安が入り混じった中で桜恋を抱っこした。それまで感じていたマイナスの感情は全て過ぎ去って、絶対に桜恋を守ると決めたんだよ。」

 そこまでは良かった。美しい感動物語。この話をすると決まってパパは言うのだ。《桜恋は普通に生きて、普通の幸せを手に入れて欲しい。》その普通は男と結婚して、子を産んで幸せな家庭を築くこと。その普通は、僕には難し過ぎる。