今日、私は高校生活をかけた大一番に挑もうとしていた。
 そう、全国大会に。

奏音(かなね)、絶対金賞取ろうね!」
「もちろん! お互いソロ頑張ろ!」

 私は出雲(いずも)奏音(かなね)。吹奏楽部でサックスパートのリーダーだ。ホントは部長になりたかったけど、その場しのぎな考え方のせいでできなかった、いわゆるなりそこないである。

 今話しかけてきたのは、トランペットパートのリーダー。
 中学生の時からの親友で、彼女も今日の日を夢見て練習に励んできた仲間である。

 吹奏楽部人生 六年間の、集大成の日なのだ。

 朝の八時半。昨日から泊まりがけで、ここの全日本大会の会場に来ている。正直眠い。なぜこんなに早く会場入りしなければならなかったのかと言うと……

 私の学校はトップバッターで演奏するからである。
 しかも、審査員は最初に演奏する学校を基準にする(らしい)ので、金賞をとるには不利だとされている。最悪だ。

「……無意識でも勝手に指が動くぐらい、めちゃくちゃ練習したから。大丈夫」

 いつもの制服とは違い、コンクールや定期演奏会の時に着る衣装をまとっているので、気が引き締まる。
 このえんじ色のジャケットに黒い(ちょう)ネクタイ、これを着るのも今日で最後か……。

 私は相棒のアルトサックスを持って立ち上がった。