きーちゃん迷子騒動で、予定より随分と時間がかかってしまった。今日はわたしの誕生日だから、家でお母さんがケーキとご飯を用意して待っていてくれる。プレゼント探しは諦めて、そろそろ帰らなくてはいけない。
 わたしは改めて牧瀬さんとルナちゃんに向き直って、お礼を言った。

「あの、牧瀬さん。本当にありがとうございました。でもお礼とか、わたし、お金あんまり持ってないんですけど……」
「ああ、いいよいいよ。僕が勝手にお手伝いしただけで、依頼を貰ったわけじゃないしね」
「でも、プロの探偵さんなんですよね? お仕事ならお金……」
「あやりちゃんは真面目だなぁ……んー、じゃあ、僕からの誕生日プレゼントってことで。お誕生日おめでとう、ふたりとも」
「……ありがとうございます!」

 わたしは牧瀬さんの言葉に甘えて、深々と頭を下げる。
 牧瀬さんは、子供からお金は貰えないなんて小さい子扱いせず、思えば最初から対等に扱ってくれた。
 そして迷子になったきーちゃんのことを、ぼろぼろのマスコットだとバカにせず、わたしの大事な家族のひとりとして扱ってくれた。
 ふわふわして、つかみどころのないひとだけど、真摯に向き合ってくれる。そのことが、何より嬉しかった。

「あの、牧瀬さん、わたし……、……あれ?」

 顔を上げると、そこにはすでに牧瀬さんは居なかった。
 幻のように消えてしまったわけではなくて、人混みの遠くの方に、白いコートの後ろ姿が見える。
 追いかけようかと思ったけれど、ちらりと振り向いた牧瀬さんがルナちゃんの手を使ってバイバイをしたから、わたしは足を止める。
 そしてもう届かないとわかりながらも、わたしは小さく呟いた。

「……ありがとう、牧瀬さん、ルナちゃん」

 周りの目を気にせず、泣いているわたしに声をかけてくれた、優しいひと。
 大人の男の人なのに、堂々とぬいぐるみを抱いて歩く、不思議なお兄さん。
 そんな彼に優しさと勇気をもらって、わたしはもう決して離れないようにと、大好きなきーちゃんの小さな手をしっかり握る。

「きーちゃん。これからもよろしくね」

 ふたりでお揃いの桃色の花飾りを揺らしながら、わたしは満ち足りた気持ちで帰路に着いた。