「ねぇ、AとBってどっちの方がうまいと思う?」

 トランペットパートの先輩にそう尋ねられたのだ。

「私は……金管楽器のことはよく分からなくて」
「えぇ? だってコンクールメンバーになるんだから分かるでしょ。どっちの方がソロにふさわしいかってこと」

 この先輩は三年生のトランペット三人の中で三番目にうまい人だ。言ってしまえばソロには程遠い。選択肢に自分が入っていないのはそういうことだろう。

「えっと……まぁ、パートリーダーですしA先輩の方がうまいじゃないんですかね」
「ふぅん。ありがと」

 これまでの先輩の顔が一瞬で、落胆したような顔に変わった。私は変な寒気を覚える。動悸が止まらない。

 言ってしまったあとで気づいた。トランペットパートはA先輩がパートリーダーだが、実質B先輩の方が権力を持っていることに。
 この先輩はB先輩の味方だったんだ……。

 しかし私は忘れようとした。トランペットのことなど、サックスである私には関係ないと。そう思いたかった。