「先輩、どうしてそんなにバリサクのことを知っているんですか? 先輩はクラパートなのに」

 無事に部活へ戻れたお礼をした後、後輩は気になっていたことを尋ねていた。

「さぁね」
「じゃあ他のパートの役割とかも分かるんですか?」
「一応、それなりには」

 やはりぶっきらぼうなのは変わりない。後輩が話しかけているというのに目をそらしている。

「私がただ、疑問に思ったらなんでも調べたい性格なだけ。趣味だし自己満。知っておいて損はないし。ほら、こうやって役に立ったから――」
「すごく尊敬します。知識もあって、実力もある先輩で。ちょっと怖い人だと思ってましたけど」

 部長はフンと鼻で笑った。

「口悪ぃし、人を褒めるのが得意じゃねぇんだ。そのせいだろ」
 
 どうやら褒めることだけではなく、褒められることも苦手なようである。
 この一連で根は優しい人だと分かった後輩は、部長が照れ隠ししていることはお見通しだった。

「ほら、練習場所に行くぞ。ベースラインの命なんだからな」
「はい!」

 金管楽器と木管楽器のいいところ取りの楽器、サックス。低音のしっかりした芯を作るバリトンサックス。
 ただ聞くだけでは分からないその音も、音の大事な要素の一つなのだ。縁の下であることに変わりはない。

 だが、必要だから存在するのであって、吹奏楽に要らないものはないのだ。