6話

 演奏会当日。俺は西園寺さんと舞台裏で準備をしていた。
 今演奏しているバンドが終われば、自分たちの番である。

「意外と観客の数って多いんだね」
「時間も関係してるわね。この時間は大物ゲストが多いから」
「そんな時間に出来るなんてDiva様様だね」
「私の初の顔出しだもの。今演奏しているバンドよりは何倍も盛り上がらせて見せるわ」

 西園寺さんは自信ありげに答える。
 これがただの自意識過剰ではなく事実なのが凄いものだ。
 大物ゲストが参加すると言っても街の演奏会。例年は数千人が参加すればいいくらいの規模だった。
 しかし今年は一味違う。他のゲストが豪華なのもあるが、西園寺さんの力はかなり大きい。
 実際に現在SNSではDiva顔出しとトレンドに入っているレベルだ。彼女曰く、演奏会が終わればネットニュースになるのも時間の問題だとか。
 彼女目当てで参加したこの街以外の人も多く、今年の演奏会はかなりの盛況っぷりだった。

「だから私の足を引っ張らないようにね。佐伯君」
「それはこっちのセリフだ。ちゃんと俺の曲を歌いこなしてくれよ?」

 俺は彼女に協力する約束をしてから二週間で曲を仕上げた。
 学校以外の全ての時間を注いで作った一曲。今まで作ってきた曲の中でもかなり素晴らしい仕上がりになったと思う。
 しかしその分歌い手に求める実力は高い。この曲は誰もが簡単に歌いこなせるように作ってはいない。
 音楽の才能を持つ俺から歌手としての才能を持つ西園寺さんへの挑戦状のようなものだった。

「誰に言っているのかしら? 私はDiva様よ?」
 
 俺の煽りにも西園寺さんは好戦的に笑う。
 普通の人なら緊張で足が震えてしまう状況でも彼女には心の底から楽しめる余裕があった。
 実際にこの短い練習期間で彼女は完璧近くまで仕上げてきていた。

「俺も頑張らないとな……」

 西園寺さんには聞こえないぐらいの声量で俺は呟いた。
 この演奏会には郁人と颯太は参加していない。しかし俺の舞台を見るためにわざわざ足を運んでくれていた。
 俺は彼らを捨てて西園寺さんの手を取った。それで二人に無様な恰好など見せてしまおうなら俺は二度と二人の前に立てなくなる。
 ここで全力を出して二人を楽しませることが唯一俺に残された二人に対する恩返しだろう。

『次はDivaです~!!』

 前のバンドが演奏を終えたため、俺たちを呼ぶアナウンスが届く。
 その後、観客たちの歓声が響きわたった。それだけDivaの初顔出しが期待されているということだ。

「行くわよ。天才」
「あぁ、やってやるよ。天才」

 俺たちはこつんと拳を当てて、舞台襟から堂々と舞台へと上がった。