プロローグ

 いつからだろうか。『天才』という言葉を拒絶し始めたのは。

 最初は好きだった。天才と呼ばれることが誇らしかった。それが自分のアイデンティティだと思っていた。
 けれど月日が経てばその言葉の本当の意味合いを嫌でも理解してしまう。
 天才とは称賛の言葉ではなく、普通の人とは違うという差別する言葉なのだと。自分とは違う部類の人間だと判別する言葉なのだと。

 天才と称される者の中には好んで孤高を貫く者もいるかもしれない。けれど大多数がそうでないのは事実。周りの環境が孤高に追い込んでいるのだ。自分たちとは違う、そう言って歩み寄ろうとする天才を一言で断絶して孤独にさせるのだ。
 天才はマジョリティではなく、マイノリティだ。ゆえにこの気持ちすらも理解されることはない。天才だからこその悩み、そんな適当な言葉で表されるのがオチだ。

 俺だって対等な友人が欲しかった。些細なことで一喜一憂して同じ感情を分かち合いたかった。たとえそれが偽りの感情であるとしても大多数でありたかった。だから俺は……

 ――凡人になることを選んだ。