その様子を見て、ホッとした。
連日勉強会をして教えておいて、テストの結果が伸びなかったら責任感じるもの……。
しかして、私達の中間テストは安心の点数により三人の部活禁止令も追試も無く穏やかに終わったのだった。
中間テストも無事に終えると、つかの間日常の学校が戻ってくる。
テスト期間って、学校も学生も先生も少しピリッとしていて空気が違う。
それが緩んで流れていくのが普段の学校。
行事になるとまた雰囲気は変わる。
そんな空気も私はまた肌で感じ、記憶として焼き付けようといろんな風景とその時をじっくり眺めて過ごす日々。
だからか、最近日菜子と蒼くんが良い雰囲気なのも感じ取っていた。
日菜子の事が大好きだし、なんかちょっと取られた気分になっちゃうけれど……。
友達が好きな人と想い合えるようになるって、素敵な事で幸せな事だよね。
私は、それを諦めてしまったから……。
眩しくて、羨ましくなるけれど。
でも大好きな二人のことだから、笑って見守れるから。
「早く二人の口から良い言葉が聞けるといいな……」
楽しそうに話す二人の向こうにある窓の外は、どんよりとした空。
季節は梅雨へと移ろっていた。
「有紗、これ集めてくれって、先生が」
そう声を掛けてきたのは、要くん。
要くんは今日の日直。
前の英語の先生に小プリントの回収を任されていた。
「ごめん、すっかり忘れていたわ!はい」
そう差し出すと、しっかり受取ったあと私をじっと見てくる。
余りに真剣な目なので首を傾げつつ、声を掛ける。
「要くん、私になにかあるの?」
「いや。有紗は相変わらず字が綺麗だなと、プリント見て思ってさ」
「ふふ、ありがとう。大変なら手伝うけど?」
「これくらいどうって事ない。またな」
私の頭に手をポンと置いてから、集めたプリント片手に教室を出て行く要くんの後ろ姿を見送った。
「イケメンは後ろ姿にも死角なし。後ろ姿まで綺麗とかずるいでしょ……」
あまり行儀は良くない肩肘ついて片手に顔を載せつつも呟いていたら、背後から声がする。
「確かに、アイツ背筋が伸びているし、背は高いし、見た目だけはそれなりに良いのよね!」
「日菜っち、それなり所か結構良いでしょ?幼なじみだから見慣れているだけじゃない? ま、俺の方がカッコイイ?」
「は? バッカじゃないの!? ふ、ふん!」
振り返って見つめていても繰り広げられた二人の会話。
あら? これは、思っていたより随分早く二人の距離感が変わったようだと感じて口を開く。
「日菜子、蒼くん!」
「ん?」
「なに?」
私の声にふたりの視線が私に注がれる。
「おめでとう、仲良くね?」
ニコッと言えば、蒼くんは嬉しそうに。
日菜子は照れているが、すかさず私へ突っ込んでくる。
「なんで、有紗ってば私たちが言う前に分かるかなぁ……」
少し拗ねた日菜子の口ぶりと様子に、クスクス笑いながら私は答えた。
「一緒にいることが多いし、そういうのって見ていると案外分かるものよ?」
そう言うと、日菜子と蒼くんは顔を合わせてから私を見て言った。
「要はこっちが言うまで気付かなかったけど?」
二人は、気付いた私の方が不思議だと言う。
「だったら私は人の様子を見ているのが好きだからかもしれない。趣味、人間観察だから、ね?」
おどけた調子で言うと、日菜子と蒼くんは笑ってくれた。
「それで、実は今度の日曜日貰ったチケットで水族館に行くんだけれど……」
あら、水族館デートなんて王道じゃない!と内心ムフフしていると、続いた言葉に私は返事に詰まることになる。
「実はチケットを四枚貰ったんだ。そんな訳で……」
「有紗と要も一緒に行こう!」
そう、声高らかに宣言する日菜子。
………………。
「イヤイヤ!待ちなさい! 君たち、付き合いたてのカップルのデートに付き合わされるこっちの身になってみてよ! 虚しさと悲しさしか浮かばないんですけど!」
思わず突っ込んだ私に、更に背後から再び声が掛かる。
「俺は行ってもいい。有紗が来るなら」
その声に振り返れば、先生にプリント持って行って教室に戻って来ていた要くんが、あろうことかそう告げてきたのだ。
そうして、決まってしまったカップルに付き添って水族館へ行く前の日。
私は日菜子と駅ビルの中、女子高生に人気のプチプラだけど可愛い服の多いブランドのお店で服を見ていた。
「あー、有紗!コレだったら水色とピンクどっちがいいかな?」
「日菜子なら水色じゃない? 今のサンダルにも合うし。そしたらバックは、こんな感じが良いんじゃない?」
日菜子が手に持っている服を見つつ私は、棚のバックを指さして日菜子に伝える。
「わ!可愛い! うんうん! これも買っちゃう!」
ダブルデートとは言え、日菜子と蒼くんは付き合って初めての遠出だ。
私も今回行く予定の水族館は初めての場所。
海沿いの観光地にも近い、有名な水族館だ。
遠慮はしていたものの、実は行きたかった場所で私も楽しみにしている。
「有紗! 有紗はこれが合うと思う!!」
そう言って日菜子が私に当ててきたのはレモンイエローのフィッシュテイルスカート。
明るくて、これからの季節にぴったりなスカート。
フワッとしたシルエットと軽やかな生地に一目惚れだ。
「うん、これ可愛い! 私はこれにする!」
スカートに合わせて、白とブルーのギンガムチェックのオフショルダーTを買って私たちはお店を後にする。
疲れたのでこれから、ドーナツ食べてお茶しつつ休憩だ。
ドーナツ屋さんで、それぞれ好きなドーナツ二つと私はカフェオレ、日菜子はコーヒーを頼んで席に着いた。
「今日は買い物に付き合ってくれてありがとうね」
にっこり笑って日菜子は続けざまに言った。
「明日はダブルデートだからね! 有紗もしっかり今日の服で可愛くしてくるのよ!」
ビシッという音がしそうなくらい、腕を振っていう日菜子はなんだか有無を言わせる隙が無い。
もともとハッキリした性格をしているけれど。
なんとなく、その方向性を掴んだ私は、ずるいけどその話題からは逸らすことにする。
「久しぶりの遠出だからね。綺麗にはして行くよ。どんな生き物が居るのかな? 今からすごく楽しみ!」
私が満面の笑みでそう返すと、日菜子は少しガックリしている。
ごめんね、日菜子……。
私は日菜子の話を聞くことは出来るけど、自分の恋については話せない。
いや、話す話題が無いから……。
きっと日菜子は私の話も聞きたいんだろうな……。
それは度々、一緒にいて感じてきたこと……。
でも、私は決めているの。
恋はしないって……。
それを人に話すこともしないって……。
だから、私は気づいていてもそこには触れずに、笑顔を浮かべて避けて通る。
私には、気にし続けているリミットが迫っているから……。

side 要

明日は日菜子と蒼、有紗と一緒に水族館へ行くことになった。
前日の今日、俺はなぜか蒼に呼び出されて現在駅ビルに居る。
確か、昨日日菜子と有紗も買い物に行くと言っていたような……。
そう思い返して、ついボソッと言ってしまった。
「蒼、もしかしてストーカー?」
「は? そんな訳あるか! 俺は日菜子が選んだ服に合うものをと思って!」
肩にポンと手を置きつつ、俺は首を横に振って言った。
「気持ちは分かるが、行動はストーカーと変わらんぞ?」
俺の言葉にちょっとショックな顔をした蒼を見つつ、俺も実は有紗がどんな服を選ぶのか気になる。
制服姿以外を見た事がないから、気になる……。
それに、有紗は時々遠くを見ていることがある。
その姿を見ると、いつか急に居なくなってしまいそうな。
そんな気配を感じて、俺はときどき不安になる。
この春初めて出会って、少しずつ仲良くなって……。
俺は有紗に特別な好意を持つようになった。
優しく、思いやりがあり、気遣いのできる有紗。
いつも楽しそうに笑っているけれど、ふっとした時に有紗が遠い目になるのを見つめているうちに気づいて気にしていた。
きっと蒼や日菜子は気付いていない。
それでも、明日は有紗も笑顔が絶えないと思うからそんな有紗の隣で俺も楽しめる様に……。
そんな決意をしつつ、今日は仕方ないと蒼の行動に付き合う事にした。
二人は明るい色の服や小物が並ぶお店に入ると、アレこれと楽しそうに見始めた。
女の子らしい買い物の風景に見える。
そんな二人を眺めている。
「今更ながら思ったけど、やっぱり俺ら怪しい?!」