暖かく、柔らかな陽射しの中をそよぐ風に泳ぐ花びら。
そんな美しく暖かく、優しい季節と景色の中。
私は無事に高校生活最後の年を迎えた。
「今年の目標は、やりたい事は何でもやる。美しい物をひたすら目に焼きつける」
そう、口に出す私の目は今綺麗な桃色の花びらを散らす桜を眺めている。
そこから、視線をずらすと去年同じクラスになり意気投合して仲良くなった日菜子が走ってくるのが見える。
「有紗、おはよう!クラス発表見に行った?」
「私も今来た所だから、一緒に見に行こう?」
「うん、今年も有紗と同じクラスが良いな!」
「そうだね。私も同じクラスになりたい」
そうして向かった先には、クラス分けされた名簿の貼られた掲示板。
(だいぶ、見えにくくなってきたかもしれない……)
「やった!有紗!私達今年も同じクラスよ!」
「本当に!?何組だった?」
「三年二組!」
そう聞いて、私はもう少し近づいて掲示板を見ようと動いた。
「あ!本当に同じだ!嬉しい」
そう私たちは手を取り合って喜んだ。
きっと、今年も楽しく過ごせる。
日菜子は良い子だし、一緒に居てとても楽しい。
きっと、この一年が私にとって忘れられない一年になる……。
悔いも、後悔もしたくないから……。
私は、全力でこの一年を過ごす……。
それは十年前に告げられた時から決めていたこと……。
何よりも、誰よりもきっと濃い。
そう自信を持って言える過ごし方をする。
私自身のために、そう決めた。
それを昨夜両親にも話した。
すると、泣きながら微笑んで両親は言った。
「全て有紗の思うままに。私たちはそれを全力でサポートするわ。思う存分に過ごしなさい」
そうした言葉と思いを胸に、私の高校生活最後の年はスタートを切った
君と出会って、私は諦めていたことを知る。
掲示板を見た後、私は日菜子と一緒に南棟三階の三年生のクラスの集まる階へ。
「あった、あった!三年二組。ほら、有紗早く!」
日菜子はいつも元気の塊みたいな活発な女子。
部活は女子テニス部の部長さんだ。
明るく面倒見のいい日菜子は、同級生からも下級生からも人気がある。
反対に私はどちらかと言えば大人しく、部活も家庭科部で副部長。
先頭に立って仕切るより、サポートに回る方が向いているタイプの私。
だからなのか、二年生で同じクラスになってから意気投合。
共通の趣味は少女マンガやアニメと言う実にオタクな部分も合わせて、私たちは仲良くなった。
この一年で、かなりの仲良しである。
「ねぇ、有紗。今期のアニメどう思う?」
「そうね、あの水泳アニメは私、好きよ」
「あれ、とうとう続いて三期だからね!大人気よね!イケメンにイケボの集団だよ!堪らん!」
日菜子は大の声フェチである。
声優さん大好きで、推しの声優さんが出るアニメは全てチェックの人。
私はストーリー重視で、お声は絵に合っていればOKな感じで声にこだわりはないけれど。
こんな話を教室の片隅で平気でするくらいには、私と日菜子はオープンなオタクである。
そこに、急に黄色い声が混じる。
「やった!松島くんと水木くんと同じクラス!!」
「もはや自慢にしかなんない!」
「ビバ!イケメン!」
等などの女子特有のお声が聞こえたので、教室ど真ん中付近にいた私と日菜子は教室後ろのドアを振り返った。
そこには背が高い男子二人が居た。
一人は明るい髪で弾けそうな笑顔で楽しそうにしている。
もう一人は少しつまらなそうにしている顔がなんだか少し可愛いと思って、ついクスッと笑ってしまった。
「げっ、男子に誰がいるか見てなかった……。まさか要と同じクラスなんて……」
「ん?日菜子何か問題でも?」
そう聞くと、日菜子は抱えていた頭をガバッと起こすと私の両手を握ってクワっと目を見開いて言う。
「あの、明るい髪で笑顔の男子は、女子に学年で一番人気の水木蒼くん。サッカー部の部長でゴールキーパーしていて、高身長で人当たりもいいから、かなりの女子が熱を入れているわ」
「へー、確かに。顔良し、人当たりもいいなら人気があるだろうね」
私のあっさりした返しに、日菜子は少し驚きつつも続きを話してくれる。
「それで、問題は面倒そうな顔した黒髪のアイツよ!」
拳を握りしめて、ちょっと嫌そうな顔をする日菜子は珍しい。
険悪な仲なのだろうか?
ちょっと心配しつつ続きを待つ。
「アイツもサッカー部のエースストライカーで副部長。松島要。アレはあの見た目とあまり話さない態度からクールでカッコイイとか騒がれているけど……。単なる面倒くさがりで話さないだけよ。家が隣で幼なじみなの。不本意だけど!」
なるほど、日菜子と松島くんは幼なじみ。
この年頃なら幼なじみでも仲良し、よりかはギクシャクしたりするものなのだろうな。
良いなぁ、幼なじみ。
ちょっと羨ましい関係だ。
「もしかして、入学当初仲良くしていて、周りに騒がれた系?」
疑問形で聞くと、ため息をつきつつ日菜子が答えてくれた。
「そうなのよ。それ以来お互い部活が忙しいのもあって、やや疎遠ね。幼なじみで同い歳だけど兄妹みたいな関係で、お互いを意識なんてしたことも無いのに……。奴のルックスのせいで一年生の時大変だったのよ……」
ガックリ項垂れて机に寝そべった日菜子の頭を、よしよしと撫でてあげる。
「美男美女の幼なじみ同士には、それなりに苦労があるものなのね。そんなに気にしなくても、私がそばに居るわよ」
にっこり笑って言えば、日菜子は瞳を潤わせて、ぎゅっと抱きついてきた。
「あー!もう、有紗!大好き!」
日菜子は本当に感情表現が豊かで素直だ。
「ふふ、ありがとう。私も日菜子大好きよ」
私達のやり取りを、教室に入って騒がれていた二人も見ていた事に私達は気付いていなかった。
side 要
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝、掲示板の前に立ち俺は今年のクラスを確認する。
「お!要。はよ!」
そう後ろから声を掛けてきたのは同じ部で部長の蒼。
「おう、蒼。今年も同じクラスだ」
「マジか!?ラッキー♪」
弾む声の調子から本当に喜んでいるのがわかる。
俺は割と日々平坦なので、蒼こそ分かってくれるが周りからはクールだの言われている。
ただ単に起伏が少なくて面倒くさがりで話下手なだけなのだが……。
「でもな、蒼。担任、三浦だぞ?」
「げっ。始ちゃんが担任なのかよ!?俺、課題から逃げらんねぇじゃん!」
蒼は明るく元気の良いタイプで、明るい髪と見た目も良いし、背も高いしで女子に人気だ。
よく告白されるし、手紙も貰っていたり、部活に差し入れも貰ったりする。
告白は好きな人が居るからと、断っているのを知っている。
その想い人が誰か知っているので、お前そろそろ頑張れよと俺は内心思っている。
クラスに入れば黄色い声が上がる。
蒼と一緒に居ると大体そんなもんで、三年同じクラスにいれば慣れているとはいえ少し面倒でつい、顔に出てしまう。
すると、名簿をしっかり見ていなかったが今年は久しぶりに幼なじみの瀬名日菜子と同じクラスになったようだ。
クラスの真ん中あたりで机にガッツリ臥せっている日菜子が見えた。
そんな日菜子に気付いたらしい、蒼が小声で耳打ちしてくる。
「おい!担任より、なにより瀬名さんと同じクラスって教えといてくれよ!やっぱり今年はラッキーだ!」
小声だけれど喜びに弾む声が、蒼のテンションの高さを教える。
高校に入ってすぐ幼なじみの日菜子と騒がれて、互いに面倒に思い距離を置いた。
互いの勝手を知る幼なじみは、前の席の女子と仲良さそうに話して抱き着いていた。
あいつにも仲のいい友達が出来ていたんだな。
少し安心して見つめていると。
「お!瀬名さんと一緒に居るの、家庭科部のマドンナじゃん!」
ん?その言葉に俺が疑問顔になると、蒼が教えてくれる。
「お前、その辺疎いよな!家庭科部のマドンナ、汐月有紗!穏やかで優しい性格で、ほんわかした雰囲気とその清楚な見た目で男子人気ナンバーワンだぞ?」
そう言うと、俺の肩を抱いてまた耳打ちしてくる。
「因みに、どんな男がアタックしても玉砕の高嶺の花だ。瀬名さんとは去年から同じクラスで二人は仲良しだ!要、マドンナと仲良くなるチャンスだぞ」
蒼の顔を見ればニヤニヤしている。
俺が日菜子と一緒に居た、そのマドンナと言われる彼女を気にしていたのを見抜いたらしい。
蒼はその辺が鋭い。
なのに、本人の恋愛はヘタレである。
「つまり、お前は俺に日菜子への橋渡しをしろと?」
そんな美しく暖かく、優しい季節と景色の中。
私は無事に高校生活最後の年を迎えた。
「今年の目標は、やりたい事は何でもやる。美しい物をひたすら目に焼きつける」
そう、口に出す私の目は今綺麗な桃色の花びらを散らす桜を眺めている。
そこから、視線をずらすと去年同じクラスになり意気投合して仲良くなった日菜子が走ってくるのが見える。
「有紗、おはよう!クラス発表見に行った?」
「私も今来た所だから、一緒に見に行こう?」
「うん、今年も有紗と同じクラスが良いな!」
「そうだね。私も同じクラスになりたい」
そうして向かった先には、クラス分けされた名簿の貼られた掲示板。
(だいぶ、見えにくくなってきたかもしれない……)
「やった!有紗!私達今年も同じクラスよ!」
「本当に!?何組だった?」
「三年二組!」
そう聞いて、私はもう少し近づいて掲示板を見ようと動いた。
「あ!本当に同じだ!嬉しい」
そう私たちは手を取り合って喜んだ。
きっと、今年も楽しく過ごせる。
日菜子は良い子だし、一緒に居てとても楽しい。
きっと、この一年が私にとって忘れられない一年になる……。
悔いも、後悔もしたくないから……。
私は、全力でこの一年を過ごす……。
それは十年前に告げられた時から決めていたこと……。
何よりも、誰よりもきっと濃い。
そう自信を持って言える過ごし方をする。
私自身のために、そう決めた。
それを昨夜両親にも話した。
すると、泣きながら微笑んで両親は言った。
「全て有紗の思うままに。私たちはそれを全力でサポートするわ。思う存分に過ごしなさい」
そうした言葉と思いを胸に、私の高校生活最後の年はスタートを切った
君と出会って、私は諦めていたことを知る。
掲示板を見た後、私は日菜子と一緒に南棟三階の三年生のクラスの集まる階へ。
「あった、あった!三年二組。ほら、有紗早く!」
日菜子はいつも元気の塊みたいな活発な女子。
部活は女子テニス部の部長さんだ。
明るく面倒見のいい日菜子は、同級生からも下級生からも人気がある。
反対に私はどちらかと言えば大人しく、部活も家庭科部で副部長。
先頭に立って仕切るより、サポートに回る方が向いているタイプの私。
だからなのか、二年生で同じクラスになってから意気投合。
共通の趣味は少女マンガやアニメと言う実にオタクな部分も合わせて、私たちは仲良くなった。
この一年で、かなりの仲良しである。
「ねぇ、有紗。今期のアニメどう思う?」
「そうね、あの水泳アニメは私、好きよ」
「あれ、とうとう続いて三期だからね!大人気よね!イケメンにイケボの集団だよ!堪らん!」
日菜子は大の声フェチである。
声優さん大好きで、推しの声優さんが出るアニメは全てチェックの人。
私はストーリー重視で、お声は絵に合っていればOKな感じで声にこだわりはないけれど。
こんな話を教室の片隅で平気でするくらいには、私と日菜子はオープンなオタクである。
そこに、急に黄色い声が混じる。
「やった!松島くんと水木くんと同じクラス!!」
「もはや自慢にしかなんない!」
「ビバ!イケメン!」
等などの女子特有のお声が聞こえたので、教室ど真ん中付近にいた私と日菜子は教室後ろのドアを振り返った。
そこには背が高い男子二人が居た。
一人は明るい髪で弾けそうな笑顔で楽しそうにしている。
もう一人は少しつまらなそうにしている顔がなんだか少し可愛いと思って、ついクスッと笑ってしまった。
「げっ、男子に誰がいるか見てなかった……。まさか要と同じクラスなんて……」
「ん?日菜子何か問題でも?」
そう聞くと、日菜子は抱えていた頭をガバッと起こすと私の両手を握ってクワっと目を見開いて言う。
「あの、明るい髪で笑顔の男子は、女子に学年で一番人気の水木蒼くん。サッカー部の部長でゴールキーパーしていて、高身長で人当たりもいいから、かなりの女子が熱を入れているわ」
「へー、確かに。顔良し、人当たりもいいなら人気があるだろうね」
私のあっさりした返しに、日菜子は少し驚きつつも続きを話してくれる。
「それで、問題は面倒そうな顔した黒髪のアイツよ!」
拳を握りしめて、ちょっと嫌そうな顔をする日菜子は珍しい。
険悪な仲なのだろうか?
ちょっと心配しつつ続きを待つ。
「アイツもサッカー部のエースストライカーで副部長。松島要。アレはあの見た目とあまり話さない態度からクールでカッコイイとか騒がれているけど……。単なる面倒くさがりで話さないだけよ。家が隣で幼なじみなの。不本意だけど!」
なるほど、日菜子と松島くんは幼なじみ。
この年頃なら幼なじみでも仲良し、よりかはギクシャクしたりするものなのだろうな。
良いなぁ、幼なじみ。
ちょっと羨ましい関係だ。
「もしかして、入学当初仲良くしていて、周りに騒がれた系?」
疑問形で聞くと、ため息をつきつつ日菜子が答えてくれた。
「そうなのよ。それ以来お互い部活が忙しいのもあって、やや疎遠ね。幼なじみで同い歳だけど兄妹みたいな関係で、お互いを意識なんてしたことも無いのに……。奴のルックスのせいで一年生の時大変だったのよ……」
ガックリ項垂れて机に寝そべった日菜子の頭を、よしよしと撫でてあげる。
「美男美女の幼なじみ同士には、それなりに苦労があるものなのね。そんなに気にしなくても、私がそばに居るわよ」
にっこり笑って言えば、日菜子は瞳を潤わせて、ぎゅっと抱きついてきた。
「あー!もう、有紗!大好き!」
日菜子は本当に感情表現が豊かで素直だ。
「ふふ、ありがとう。私も日菜子大好きよ」
私達のやり取りを、教室に入って騒がれていた二人も見ていた事に私達は気付いていなかった。
side 要
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝、掲示板の前に立ち俺は今年のクラスを確認する。
「お!要。はよ!」
そう後ろから声を掛けてきたのは同じ部で部長の蒼。
「おう、蒼。今年も同じクラスだ」
「マジか!?ラッキー♪」
弾む声の調子から本当に喜んでいるのがわかる。
俺は割と日々平坦なので、蒼こそ分かってくれるが周りからはクールだの言われている。
ただ単に起伏が少なくて面倒くさがりで話下手なだけなのだが……。
「でもな、蒼。担任、三浦だぞ?」
「げっ。始ちゃんが担任なのかよ!?俺、課題から逃げらんねぇじゃん!」
蒼は明るく元気の良いタイプで、明るい髪と見た目も良いし、背も高いしで女子に人気だ。
よく告白されるし、手紙も貰っていたり、部活に差し入れも貰ったりする。
告白は好きな人が居るからと、断っているのを知っている。
その想い人が誰か知っているので、お前そろそろ頑張れよと俺は内心思っている。
クラスに入れば黄色い声が上がる。
蒼と一緒に居ると大体そんなもんで、三年同じクラスにいれば慣れているとはいえ少し面倒でつい、顔に出てしまう。
すると、名簿をしっかり見ていなかったが今年は久しぶりに幼なじみの瀬名日菜子と同じクラスになったようだ。
クラスの真ん中あたりで机にガッツリ臥せっている日菜子が見えた。
そんな日菜子に気付いたらしい、蒼が小声で耳打ちしてくる。
「おい!担任より、なにより瀬名さんと同じクラスって教えといてくれよ!やっぱり今年はラッキーだ!」
小声だけれど喜びに弾む声が、蒼のテンションの高さを教える。
高校に入ってすぐ幼なじみの日菜子と騒がれて、互いに面倒に思い距離を置いた。
互いの勝手を知る幼なじみは、前の席の女子と仲良さそうに話して抱き着いていた。
あいつにも仲のいい友達が出来ていたんだな。
少し安心して見つめていると。
「お!瀬名さんと一緒に居るの、家庭科部のマドンナじゃん!」
ん?その言葉に俺が疑問顔になると、蒼が教えてくれる。
「お前、その辺疎いよな!家庭科部のマドンナ、汐月有紗!穏やかで優しい性格で、ほんわかした雰囲気とその清楚な見た目で男子人気ナンバーワンだぞ?」
そう言うと、俺の肩を抱いてまた耳打ちしてくる。
「因みに、どんな男がアタックしても玉砕の高嶺の花だ。瀬名さんとは去年から同じクラスで二人は仲良しだ!要、マドンナと仲良くなるチャンスだぞ」
蒼の顔を見ればニヤニヤしている。
俺が日菜子と一緒に居た、そのマドンナと言われる彼女を気にしていたのを見抜いたらしい。
蒼はその辺が鋭い。
なのに、本人の恋愛はヘタレである。
「つまり、お前は俺に日菜子への橋渡しをしろと?」