俺は佐々木雄介。現在はパチンコ打ち終わって家に帰る途中で、家に帰っても特にやることないのでだらだらしようかと考えながら帰路についていた。親はまた将来の事とかうるさく言っていたがもうそんなのは日常茶飯事と割り切って無視している。会社で働くのもつまんねぇし第一今は就職こそが絶対なんて時代じゃないから、ありがたく俺はその価値観を利用させてもらっている。

もうすぐ家に着く…なんて思っていたら、コンビニ前のある男性に目がついた。その男性の見た目は16歳前後、高校生ってとこだろう。紫色のジャージを着ていて髪は黒くて長い。そして目つきもやや悪い。そんな見た目の将来ある若者が平日の昼間から何やってんだ?…と思っていた。(それ言ったらお互い様だけどな…)

(こいつも将来、俺みたいになるのか?)そんなことを思いながら先へ進もうとした途端、ふと声がした。

「おい坊主、こんな昼間っから何やってんねん」
「…?」

声の主は30代くらいの男性で、サングラスをしていてやや筋肉質。肌も海で日焼けしてきたのかってくらい黒く、何よりオレンジのモヒカンがすごく印象的だった。それらの見た目から「そっち系の人間」っていうのが瞬時に理解できた。

「お前こんなところで何してんねん、高校生やろ?学校はどうしたんねん」
「…別にいいでしょ、お兄さんには関係ない」
「あぁ?なんやぁその口の利き方は?教育がなってへんなぁ!?」
「う…」

あ、これやばいやつでは…?と俺は木の陰からこっそり見ている。

「学校行ってへんからそこら辺の教育とかがなってへんのやなぁ。俺がボコボコにして学校行かせなあかんな?」
「ひ…」

おっとこれはまずいな、さすがに子供が殴られるのは見過ごしておけねぇ。そう思った俺は素早く飛び出して少年に降りかかる拳を足技で止めた

「ふぅ、間一髪」
「…!!」
「あぁ?なんや兄ちゃんは」
「すみません、暴力はさすがに見過ごせないんで、僭越ながら止めさせていただいたっす」
「兄ちゃん関係ないやろ。自分まで痛い目会いたくなかったら、そこから去れや」
「俺より先にあんたが去るべきだろ?」
「な…こいつ…!ええ度胸してるな。ほな兄ちゃんから先に凹したるわ」

なぜこの手の輩はすぐ力でなんとかしようとするんだ。…と言っても俺の非力さではこいつのパワーは止められそうにないな。となると、得意の回避でこいつを疲弊させ、隙を見て退場してもらうか。そして奴の剛拳が俺に降りかかる

「おらよ!」(ブン)
「なんだ、遅せえな」
「な、こいつ…けど次は躱せへんで!フンッ!」
「おいおい力だけか」
「ぐ…」

俺は奴を挑発しながらもそばにいた少年に警告をする

「おいそこのお前、今のうちにここから離れろ。俺も後で追いかけるから」
「え、でもお兄さん…」
「逃がすわけないやろが!」

そうしてモヒカン男が少年に気を取られた隙をついて、俺は男の背中を軽く蹴る。

「おいおい戦闘中によそ見すんな。馬鹿なのか?」
「な、馬鹿…?兄ちゃん、この俺を怒らすとはほんまええ度胸しとるの。もう本気でボコボコにしたるから覚悟せぇ!!!」

そうしてモヒカン男はさっきよりもすさまじい咆哮をあげた。やれやれこういう奴って力と脅しだけでなんとかしようとするからダメなんだよなー。言い方を変えるなら馬鹿の一つ覚えってやつか。そう思っているとモヒカン男は意外な手に出てきた。

「へっ、しかし兄ちゃんもよぉ逃げてばっかじゃねぇか。なんや、力がないからそうするしかないってかぁ!男のくせして情けないなぁ。男なら真正面から力でかかってこんかいな、俺が馬鹿やったらお前はチキンや!このチキン野郎!」
「…ほぉ。言ってくれたな」

なるほど、俺は逃げてばっかと言う意味では馬鹿の一つ覚えってことか。まあ一理はある。でもな、チキン呼ばわりされたのはさすがにぶちっと来た。腹が立った途端、体に異変が起きた。

「…⁉ これは」
「あん、なんや」

気づいたら俺は無意識に体が震え、また周囲に黒い煙が発生し、体が黒くなっていく。背中から翼が生え、体全身からパワーを感じる。これは…前もなったあの姿、そして不思議なあの力

「な、兄ちゃんなんやその姿…!こいつ人間じゃねぇんか!」

散々言ってくれたなぁ?俺は音速で奴の背後を取り、首を掴んだ。

「ひ、ひぃ!い、命だけは勘弁を!!!!」

モヒカン男は泣きながら命乞いをした。さっきまでの男らしい威勢はどうしたんだよ…。まあ俺も殺しはしたくないし、男が弱り切ったところで手を離すと、モヒカン男は一目散に逃げていった。その瞬間俺の体からも力が抜けていくのが伝わっていき、翼も背中から無くなって元の姿に戻った。それにしてもこの力は一体…なんなんだ?

そして解けた俺は一休憩してから、さっきの少年のもとに向かった。そういえば今回は変身後の疲弊が少ないな。前回なんか病院まで運んでもらったっていうのに…。もしかして変身するほど体が慣れていくってやつか?まあそんなこと今はどうでもいいか。そして俺は少し離れた先で避難していた少年のもとにたどり着く。

「お、お兄さん!けがはない…?」
「あぁ、俺は大丈夫だ」
「あ、あの、助けてくれてありがとう。お兄さんってケンカ強いんだね…。すごいや」
「嬉しくもない賞賛をどうも」

少年はどうやら嬉しそうだった。あと変身の事はこの少年に見られていないようだ。良かった…。そして本題に入ろう

「悪いが聞かせてくれ、お前は高校生か?」
「…うん」
「なんで学校に行ってねぇんだ?」
「…学校、つまんない。あんなとこに俺の居場所なんてない。」
「…なんでそう思うのか、聞いてもいいか?」
「…親とか先生は口出しばかり、クラスメイトからはのけ者扱い、そんな場所になんで行かなくちゃならないんだよ…警察にもたまに補導されるし」

そういうことか、不登校生のあるある事情だな。確かに平日の昼間からぶらぶらしている高校生は言われるよなぁ。だが学校ってそんな思いしてまで行く必要はないと思っている。それでも俺は「高校出ておけば最悪なんとかなるから」と無理やり親に行かされたが、結局なんとかなってないから今こうなってるんだよな。だから俺は学校に居場所あり!なんて思ったことは1度もねぇ、つまんねぇ高校生活だった。

「…学校、行きたくないなら行かなくていいんじゃね?」
「…お兄さん!」
「俺も似たようなもんだから学校に行くことの義務感はあんまねえんだよ。だから、行きたくないなら好きにすれば?」
「…」

少年はしばらく黙っていた。こいつも本当はこのままじゃだめってのが気づいているけどどうしたらいいか分からないって顔だなこれは。

「まぁでも、将来的には何かしらで仕事はしていった方がいいかもな。俺ニートだし」
「え、お兄さんそうなの?」

いやどう見てもそうだろ。でなきゃこんな平日の昼間からこんなところで暇してねぇよ

「…家に帰るのも、嫌なのか?」
「それは…そこまでじゃない」
「そうか。なら親が心配しないうちに帰れよ?」
「うん。お兄さん、色々とありがとう」

そうして俺はその場を後にした。…これからどうしようか俺。