勝負の3回戦……。女体付属高校戦が始まる。



 興奮して眠れなかった者、緊張して眠れなかった者。恐らく平常心でこの日を迎えた柏手高校メンバーは少ない。

「監督、監督! 旅館のスリッパ履いて来ちゃってますよ!」
「な、!? お、俺の靴、忘れれな!」

 監督ですら『王者』に呑まれているようだ。いつもの口癖すら噛んでるし。ひょっとして『忘れてた』と言いたかった? 『忘れるな』どっち?



 各チーム3分ずつの公式練習。サーブ権を選択したチームから行う。女体付属がサーブ権だ。


 私は顔だけ女体付属の練習に向けて、いつものルーティン。視点を動かす目の運動で目を起こし、脳を活性化させる。ボールを床に打ち付けてボールのミートやインパクトの感覚を思い出させる。後はストレッチで身体をほぐす。

 女体付属の今季チームの試合はできる限り見た。言わずと知れた0番エース月影零華。(* 物語上の背番号)
 16番セッター神永十六夜(かみながいさよ)、178センチの長身サウスポーセッターで、身長を生かした、高い位置でのセットが得意でスパイクも強力。
 11番ミドルブロッカー坂田一十美(さかたひとみ)。練習を見る限り今日の調子は良さそうだ。動きがいい。
 24番(* 物語上の背番号)閏月二十四(うるうづきはつよ)、アウトサイドヒッター。長身で身のこなしが軽いオールラウンダー。
 そして9番の選手、小山空美《こやまくみ》、セッター。彼女も動きがいい。ビデオだけでは分からない、この公式練習で目を惹く選手。



 次いで柏手高の練習時間に代わる。王者が残した熱気はコート上にまだ余韻を漂わせている。いつもより少しコートが広いような狭いような……ネット高くない? 身体も解れていないように感じる。

 いつものようにスパイク練習、サーブ練習を行う。睦美が得意の鈍感力を活かして、ボールを床に叩きつける爆発音が、普段の練習よりも声が出ていないみんなをハッとさせる。

 ん……なんか、いいきっかけになったかも。あともう一つ……何だろう……アイスブレイクするきっかけ。


 そんなとき、さっきの睦美とは違うボールがぶつかる音……。

「おおおぉ~」

 と大歓声が巻き起こる。サーブ練習で、ボールが空中でぶつかると大歓声が沸くのは全国大会でも一緒だった。

 そうだ、ここは全国大会……でも同じバレーボールをやってる。きっとそんなに変わらない。ここにいるみんなきっと、バレー、好きなんだろうな。


◆◇◆◇


「最初の1点だ、相手のサーブからこっちのスパイクまでの平均時間は約7秒。男子でこのスパイクが決まる確率は70%。女子は7秒での確率は50%と言われている。つまり女子の方がラリーが続きやすいことを意味している。初めの7秒に集中しろ! 1点目で流れを引き寄せろ! 忘れれな!」

 また噛んだ?!


 エンドラインに整列する。試合開始だ!