第1セット終了。25対23、逃げ切った……柏手高校先取!

「第2セット、高坂、行けるな」
「もう十分休みました」
「それと木村! 第2セットはお前が入れ」
「はい」

 セッター交代……。下を向きタオルを握り締める私に唯一パイセンが肩に手を掛ける。それは気休めや同情なんかではない、『エール』だ、試合から気持ちを切るな、というメッセージが込められてた『気合注入』。

 悔しくない訳がない、もう一度コートに立ちたい!

 それは下を向くものには訪れることのないチャンス。チャンスはやる気のない奴に、順番を待つ整理券すら与えない。やる気をアピールしろ! まだ戦える意志を示せ! 悔しさを挽回できるメンタルを見せつけろ!
 隣に座った風和莉が、私と同じように熱を放つのを感じる。

(そうですよね、みんなあのコートに立ちたいんです)

 監督はそんな気持ちを知ってか知らずか五和先輩と睦美を呼んで何やら話している。それを終えた睦美が気まずそうに近寄ってくる。だから私の方から声を掛ける。

「睦美、ごめんです。チャンスを作ってあげれなくって……第2セット、頼みました」
「ごめん~トス上げてくれてるのにぃ~、わたし、決められなくて~ごめん~」

 睦美も思うようにアタックできず、この試合のストレスを抱えているのに……。もしかして睦美はすごいスパイクを打つことで八千とも私とも繋がりを保っていると未だに思い続けているのであろうか? 

「謝らないで、睦美……」
「菜々巳ィ……わたしぃ……トス、また待ってるから~」
「はい……この試合中、必ず最高のトス、上げて見せます」

 私は睦美に真正面からの笑顔を送った。



 第2セット

「フン……あのセッターの気の強そうな顔にシレッとした表情、肝の座った態度と無表情なセットアップ……交代させられるくらいなら初めからそうすりゃ良かったんだよ」
「それでも第1セットは柏手(うち)が取ってます」
「菜々巳に言っとけ、『負けたせいにされなくて良かったな』って」
「この試合が終わったとき、もう一度インタビューしますよ、三咲先輩」
「そいつは楽しみだ」



 三咲の言った通り、五和は淡々とトスを回す。レフトに任せても仕方のないような場面でも上手く唯一のセンター線を使った強気のトスワーク。平安ブロッカーの意識をセンターから外させない。四葉との相性に頼らない、正に『得意に逃げない』を実践しているように見えた。



「開、ちょっと来い」

 監督に呼ばれる。ここでしょんぼりした姿を向けるわけにはいかない。気持ちを強く持って監督の前に立つ。

「いいか、五和のトスをよく見ておけ、そして忘れるな。第3セットにもつれ込むようなら、もう一度お前で行く」
「?!」