「皆藤さん ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
「え、え、え~?! 」
「返事は今すぐじゃなくってかまいません。ぜひ僕のこと一度ゆっくり考えてください」

 夏休み直前の出来事。睦美は同じクラスのバスケ部の男子に体育館裏に呼び出された。
 でも、そこにいたのはテニス部の男子だった。そして突然告白された。『僕』なのか『俺』なのか男子にとってどっちがカッコいい一人称何だろう? なんてことがしばらくずっと頭の中をぐるぐるしていた。
 彼のことは名前も知らない。

 少しして彼の名前を知った。彼は飛鳥清(あすかきよし)。どうやら隣のクラスらしい。あの告白以後、廊下ですれ違う場面で声を掛けてきたので、そのとき一緒に居た女子3人組に教えてもらった。

「彼はね、テニス部の次期エース飛鳥君って言うの」
「飛鳥清……『飛ぶ鳥跡を濁さず』その名が性格の良さを表してるのよね~」
「爽やかイケメンよね」

 初めは『知り合いなの?』とその接点を自分たちと都合良くかこつけて睦美に付きまとった彼女たち。しかし彼が『そろそろ返事をもらえるかな?』と言ったことで雲行きが変わった。

「皆藤さん、飛鳥くんから話かけられる理由ってなんなの?」
「ひょっとして?」

 睦美は自分の周囲の女子がこんなにも急激に『異性』への関心が高まっていることに気付いていなかった。飛鳥が女子に人気があるってことも……。

「なんか~『付き合って~』って言われた~」

 睦美は彼女らの顔色が変わったのことに気付けなかった。

「でも~その人のこと~全然知らないのに~『ずっと前から~好きでした』って言われても~」

 睦美が話した相手は、当然の如く飛鳥清のことが好きだったらしく、その嫉妬を買った。
 睦美はクラスで孤立した。更に他のクラスの別の男子からも告白されて、女子から敵視される。

 2人とも『断った』ことが知れ渡ると、『何様のつもり?』と睦美に隠されることなく話題となった。
 そしてタイミング悪くエロ目線で見る男子たちの標的となる事件が起きた。

 今の時代は簡単に盗撮できる。陸上部、体操部、などの女子の際どい写真の中に睦美の写真も出回っていたのだ。

「あの子、皆藤さん。ぶりっ子してエロい素振りで男子をたぶらかしてるんだって」
「私も見た、あの写真。あれもわざとじゃない?」
「なんか、しゃべり方もあざといって感じだもんね」



 睦美の居場所はいつの間にかクラスで無くなっていた。それでも不登校にならなかったのは、バレーボール、部活、八千、菜々巳……。



「睦美! 一緒にご飯食べようぜ?! なんだなんだ?! 何かこのクラスは陰気くせぇ奴らが揃ってんな?! 何見てんだよ? 睦美を泣かしてみろ? あたしが黙ってないかんな!」

 学年に噂が広まったのなら、八千が睦美のクラスに乗り込んでくるようになった。

「あんな腐った奴ら、あたしがやらなくても、きっとバチが当たるに決まってる!」
「ハチィ~」
「ハチじゃない! バチだ!」


◆◇◆◇


「睦美っ。早く部活行きましょっ?!」

 私も睦美のクラスによく迎えに行ったっけな……。