「──え、琥珀くん……?どうしてここがわかったの?」
 私は不思議でたまらない。
 琥珀くんとは何日も会っていないのになぜここがわかったのか。
「ねぇ、芙羽梨。急にいなくなって……いなくなった理由、僕聞いてないよ。聞かせてよ」
 そう言われ、グッと唇を噛みしめる。
 天奈さんとの会話を思い出すと胸がギュッと締め付けられる。
「あ、天奈さんと琥珀くんが……婚約者、だって聞いたの。琥珀くんは、婚約者がいるのに私に思わせぶりな態度をとって……なにが本心なのかわからなかったの」
 涙がぽろぽろと床に落ちていく。
「私はあの日……助けてもらった日から琥珀くんが好きだったの。……実らない恋ってこんなに辛いんだね……っ」
 私がそこまで言うと琥珀くんの顔が歪み、私の腕を引っ張る。
 私は琥珀くんの胸の中にすっぽりと収まった。
「だ、だから……っ。天奈さんがいるのに──」
「芙羽梨、僕の話も聞いて欲しい。……いつも自分勝手でごめんね」
 琥珀くんは私の顔を見た。
「天奈は婚約者だった、芙羽梨がいなくなってから婚約が破棄された。元々政略結婚だったんだ。……僕は、小さい時からずっと芙羽梨しか見てなかったよ。言うの遅くなって本当にごめん。芙羽梨を傷つけて、本当に……ごめんっ」
 琥珀くんは私をギュッと強く抱きしめた。
 琥珀くんの言葉にただ驚くことしかできなかった。
「え?政略結婚……?小さい時から……?」
 戸惑う私を見て琥珀くんは。
「うん。小さい時から芙羽梨がずっと好き。芙羽梨にかっこよく見られたくて修行をひたすらして、十二天将になったんだ……って僕、何言ってるんだ──」
「琥珀くんはずっとかっこよいいよ……っ。琥珀くん、大好きっ」
 自分でも赤面するほどの言葉が口から零れた。
「芙羽梨、また陰陽山に戻らない?……今度は契約とかなしで」
「えっと、それって?」
「僕と付き合ってほしい」
 嬉しすぎてまた涙が零れた。
「うん……っ。もちろん!」
 そのまま旅館を出ると、天奈さんが外のベンチに座っていた。
「天奈。呉宮たちは?」
「え、弓弦くんたちもいたの?」
 私はすぐに聞くが答えは天奈さんから返ってきた。
「はい。……お二人ともご満足いくお話はできましたか?」
 天奈さんにむかって頷いた。
「そうですか。……わたくし、実は少し希望を抱いていました」
 天奈さんは切なそうな顔をした。
「琥珀さまの気持ちがわたくしに向かないかなって……やっぱり無理でしたね」
 天奈さんは琥珀くんを見た。
「琥珀さま、幼い頃からずっと好きでした」
 天奈さんは涙を流しながら笑った。
「琥珀さま、芙羽梨さま。どうかお幸せに……っ」
 天奈さんは走って車に乗り込んでしまった。

 
 陰陽山に戻って来てから数日。
 星雨学園に行く。
「芙羽梨ちゃ~ん!」
 莉羽ちゃんが抱きついて来る。
「心配したんだから~⁉」
「ご、ごめんねっ」
 莉羽ちゃんは今にも泣きそうに肩を震わせる。
「……火宮くんとは仲直りできたの?」
「うん。なにも言わずにいなくなってごめんね」
 莉羽ちゃんがずっと私に抱きついていると、急に莉羽ちゃんが変な声を出した。
「うぎゃっ」
 莉羽ちゃんが後ろを振り向く。
「ゆづくん、びっくりするからやめてよー!」
「いや、登校して急に抱きつかれる方が驚くわ……花里、無事だった?」
 弓弦くんが莉羽ちゃんを抑えながら私の目を見る。
「うん。心配かけてごめんなさい」
 弓弦くんは安心したように笑った。
 講義が終わり、プリントを整理して、講義室を出ると。
「うわっ!」
「きゃっ」
 誰かとぶつかってしまった。
「いてて……大丈夫ですか?」
 私はぶつかった人に声を掛けた。
 その人を改めて見ると、驚きすぎて声が出ない。
 透き通った白い肌、色素の薄い茶色い髪。
 髪色と同じキラキラしている瞳。
 美しい、その言葉以外ぴったりな言葉が見つからないほど魅力的な女性だった。
「……」
 その人は一瞬黙り込み私を見た。
 先ほどまでキラキラしていた瞳が一瞬、スッと冷たく鋭い瞳に変わった。
「……ええ、大丈夫。あなたこそケガしてない?」
 一瞬で笑顔に変わった。
「は、はい」
「それはよかった。私は久遠(くおん)千彩音(ちさと)
 その人はそう言って立ち上がった。
「また会いましょう。花里芙羽梨さん?」
 久遠さんはどこかに行ってしまった。
 


 今日は莉羽ちゃんと遊ぶ約束をしたので星雨学園の門の前で待つ。
「芙羽梨ちゃ~ん!遅くなってごめん……!」
「大丈夫!行こー」
 私たちは歩き始める。
「ちーちゃん?どうしたの?」
「ちーちゃん、どこ見てるの?」
 『ちーちゃん』と呼ばれた人の方を見る。
「あれって久遠千彩音じゃない?」
 莉羽ちゃんが言う。
「莉羽ちゃんも久遠さんのこと知っているの?そんなに有名人なの?」
「え、芙羽梨ちゃん町で会ったことないの?」
 町の陰陽師がこんなところにいるのだろうか。
「会ったことないけど……久遠さんって町の陰陽師?」
「そうだよ!町の陰陽師だけど美人すぎて陰陽師のトップの方にスカウトされたらしい」
 美人だからスカウトなんてあり得るのか。
「そ、そうなんだ……」
 私が圧倒されていると。
「──あら、花里さんじゃない。さっきはごめんなさいね」
 なんと久遠さんから話しかけられた。
「あ、いえ。私こそ周りが見えていなかったので……」
 久遠さんの顔を見る。
 スカウトされるのも納得だ。