芙羽梨がいなくなって数日。
「おい、琥珀。芙羽梨ちゃんいないの?」
 叶夜がのんきに聞いて来る。
 僕、火宮琥珀はとんでもない失態をしてしまった。
「……いなくなったんだよ。芙羽梨」
 あの日の芙羽梨の涙が忘れられない。
『ごめんっ……私、なにも知らなかった……っ』
 あんな風に悲しそうにしている芙羽梨を見たのは初めてだった。
 ……いや、初めてではない。
 芙羽梨と初めて会ったときも芙羽梨は泣いていた。
 泣いている理由を尋ねると両親が亡くなったと言っていた。
 それなのにそのあとは笑って僕と遊んでくれた。
 遠い記憶がフラッシュバックする。
『ふうは……なんで笑っていられるの?』
『だって……おとうさんとおかあさんがわらってるふうりはかわいいっていってたの!』
 そのときは芙羽梨が笑っているのがただ不思議でたまらなかった。
 両親が死んだというのに頑張っている芙羽梨を見て、胸を打たれた。
「は?……おい、火宮。それ、どういうこと?」
 いつもなら食いついてこない呉宮が首を突っ込んできた。
「二日前、芙羽梨は泣いて家を出て行ったんだ。それきり陰陽山を探し回ったんだけど、どこにもいなかった」
 呉宮は舌打ちをして僕を睨んだ。
「お前……っ。なんでこんなところにいるんだよ。花里が危険な目にあっててもいいのかよ!」
 呉宮が怒鳴る。
 講義室にいる者全員が僕たちを見た。
「じゅ、十二天将様の喧嘩……?」
「呉宮様が怒鳴るなんて……」
 僕はなにも言い返せなかった。
 情けなくて、惨めで。
「ひ、火宮くんもゆづくんも言い合いは後にして、芙羽梨ちゃんを探そう?」
 怯えながら双葉が言う。
「──それなら、わたくしも参加したいのですが。よろしいですか?」
 そこには天奈が立っていた。
 いつもふわふわしている天奈が低く、高圧的な声を出す。
「う、漆戸のお姫様……」
「天奈……?」
「琥珀さま、芙羽梨さまの場所を特定できるかもしれません。わたくしの……六合の力を使えばの話ですが」
 天奈は僕に近づいてきた。
「……芙羽梨さまを見つけたらわたくし、少しお話ししたいことがあるので」
 そう言って天奈は去って行った。
 講義が終わり、急いで天奈のところへ走った。
 もちろん、呉宮と双葉もいる。
 叶夜と汐來は家の事情で来れないとのことだ。
「天奈、お願い。君の力を借りたいんだ」
 天奈は頷いた。
「もちろんです。それでは今すぐにわたくしの家にいらしていただけますか?芙羽梨さまを探すのに必要な霊符は先祖代々大切に受け継いできたものなので」
 天奈にそう言われ、天奈の家に行った。
 天奈は一枚の霊符を持って現れた。
「……芙羽梨さまの居場所を探すとしましょう」
 天奈は一息つくと呪文を唱え始めた。
「我が身に宿る六合よ。天つ御空に吹く春疾風(はるはやて)。──雲霞之交(うんかのまじわり)……!」
 数十秒後、天奈は僕の瞳をじっと見た。
「芙羽梨さまは町の旅館にいらっしゃいます。今すぐに向かいましょう」
 天奈の家の者に車を出してもらい、町へ向かった。