星雨学園に通い始めて一週間。
「いや~、芙羽梨ちゃん町から来たっていうわりには強いよ~」
「り、莉羽ちゃんよく言うよ……圧勝だったくせに」
 今日は授業で戦闘力向上のための模擬戦があった。
 さすが陰陽山の陰陽師。
 誰一人として弱い人はいなかった。
 私は町から来たという言い訳はできるが、そんなことはしたくない。
『──波ノ綾!』
『──……千山万水(せんざんばんすい)!」
 莉羽ちゃんは私の攻撃なんて一瞬ではじいて、さっと移動して圧勝してしまった。
『な……っ!』
『勝者、双葉莉羽』
 先生からその言葉が聞こえると拍手と歓声が巻き起こった。
『さすが莉羽さま~!』
『やっぱ十二天将は格が違うな』
 そうだ。
 莉羽ちゃんはいくら可愛くても決して侮ってはいけない相手だ。
 なんていったって彼女は十二天将、天后。
 莉羽ちゃんに勝てなかったら弓弦くんにも琥珀くんにも勝てない。
 そう思っているとクラスメイトがひそひそと話しているのが微かに聞こえた。
「ねぇ、莉羽さまと戦ったのって火宮さまと一緒にいる子よね?」
 あまり、いい視線ではなかった。
「そうそう!親戚とかならまだしも血縁関係全くないらしいよ!」
「幼馴染とかなんとか言っていたけれど……町から来た子なんて釣り合わないわよ」
「あの子いつか痛い目合うよ……!だって、あの方がいるもん……!」
 釣り合わないなんて、なにを言っているのか。
 そもそも付き合っていない。
 けれど、小さい時から好きだったのは琥珀くんだけ。
 私の初恋を奪ったのは琥珀くん。
 だから、同居となったときはすごく嬉しかった。
 助けてもらったときはかっこよくなっていて誰かわからなくて初めましてだと思ってしまった。
 私は琥珀くんと付き合っていない。
 もし、付き合ったとしても釣り合わない。
 妙にそれが引っ掛かった。
「……ちゃん!ふーうーりーちゃん!」
 莉羽ちゃんが頬を膨らませて私を見ていた。
「あっ、ごめん」
「もぉ~。あんな子たち気にしなくていいよっ!」
 莉羽ちゃんは励ましてくれたけれど、なぜか胸がズキズキと痛んだ。
 単純に気になったことだが皆が言う『あの子』『あの方』とは誰のことなのか。
 その人は琥珀くんのなんなのか。
 家に帰って聞くことにした。
「ねぇ、琥珀くん。みんなが言ってるんだけど、琥珀くんにはなにか大事な人がいるの?『あの子』『あの方』そんな言葉をたくさん聞くの」
 琥珀くんは驚いたような顔をして。
「まあ、いつかわかるかな」
 なぜかはぐらかされてしまった。
 胸にもやがかかったかのように何とも言えない気持ちになる。
 そんなに言えないことなのか。
 なぜかすごく悲しかった。
 翌日、天奈さんと会うことになった。
 理由は気分で私とお茶会をしたいということだった。
 いい機会だ。
 琥珀くんのことについて聞いてみることにしよう。
「まあ、いらっしゃいませ芙羽梨さま」
 いつも通りふわふわとした雰囲気をまとう天奈さん。
 お茶会では星雨学園でのことを話した。
「……そうだ。天奈さんに聞きたかったんですけど、琥珀くんには大事な人がいるんですか?」
 そう聞くと天奈さんは驚いた顔をしていた。
「……どこでそれを聞いたのかはわからないですが、芙羽梨さまには言っておきたいのでお伝えしますね」
 一息ついて天奈さんは私の瞳をしっかりと見た。
「わたくしは琥珀さまの──婚約者なんです」
 言葉が理解できなかった。
 大好きな琥珀くんに婚約者がいるなんて。
 しかも、天奈さん。
「……っそう、なんですか。ありがとうございます……」
 家に帰りづらい。
 暗い気持ちで家に帰る。
「おかえり……芙羽梨?どうして暗い顔をしてるの?」
 そんな優しい声で話しかけないでほしい。
 これ以上期待したくない。
「……っ」
 ぽろぽろと涙が零れる。
「どうして……泣いてるの?」
「ごめんっ……私、なにも知らなかった……っ」
 琥珀くんに婚約者がいるなんて知らなかった。
 幼馴染だからって隣にいたけれど、私は琥珀くんのことをなにもわかっていなかった。
 琥珀くんの顔をちゃんと見る。
「……今までありがとう。この契約ももう終わり……っバイバイ」
 私はどこを走っているのかもわからずひたすら走り続けた。
 これでいいんだ。
 私は琥珀くんと釣り合わない。
 そんなことはわかりきっている。
 わかりきっているのに諦められなかった自分がいた。