「きゃぁぁ!いやっ、こっちに来ないで!」
年若い女の声。
「六根清浄、急急如律令」
そこにいた──怨霊は一瞬にして消え去った。
「えっ……?」
「もう大丈夫ですよ。安心してください」
そういうと、その女性はホッとしたのか涙を流しながら走り去って行った。
私、花里芙羽梨、二十歳。
私は陰陽師という仕事をしている。
陰陽師は怨霊などを祓い、皆が悲しまない世界を創るのだ。
「あっ……!」
油断していた。
まだ怨霊は残っていた。
「──……朱雀、神文鉄火急急如律令」
燃え盛る炎。
先ほどまで目の前にいた怨霊は星に還っていった。
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫ですか?」
そう声をかけてくれた人をしっかりと見る。
白い肌、高い身長、整った顔立ち。
どこを切り取っても欠点がないまさに王子様。
「は、はい。……あの、あなたは?町じゃ見ない顔……」
町というのは陰陽師が住む陰陽町のことだ。
私はそこに住んでいる。
一般の人間は入れないようになっている。
「まあ、そうだね。僕は町じゃなくてに陰陽山のところ住んでいるからね」
陰陽山というのは陰陽師の中でもトップに立つ人たちが住む場所。
陰陽山は町から少し離れたところにある山のこと。
陰陽山を少し歩くと扇状地になっていて、そこも含め陰陽山と呼んでいる。
そこは扇状地とは思えないほど、栄えている。
「あ、あの。あなたのお名前は?」
「──火宮琥珀」
火宮家。
その家は言わずと知れた陰陽師の家系であの伝説の陰陽師、安倍晴明と親交があったと言われている。
火宮家は火や光を武器として戦っている。
火宮家は安倍晴明の式神として知られる朱雀を宿している。
「久しぶりだね、花里芙羽梨ちゃん?」
なぜ、私の名前を知っているのか。
久しぶりとはどういうことか。
「えっ……?わ、私、火宮様とお会いするのは初めてですよ?」
「もしかして、忘れちゃった?僕のこと。君のことはふうって呼んでたよ」
『ふう』そういえば、小さい時に私のことをそう呼んでいた子がいた気がする。
『──……ふう!新しい技できるようになったんだよ!』
『すごーいっ!ふうりもいつか、こはくくんみたいになりたぁい!』
そうだ、小さい時に会っていたのか。
「お、思い出した……ひ、久しぶりですね」
「思い出したのに敬語なの?同い年なのに」
確かに同い年ではあるが昔のように呼んでいい相手ではない。
反応に困っていると火宮様が口を開いた。
「こんなところで話すのもあれだし、町に戻ろう?」
「は、はい」
私と火宮様は町にやってきた。
「芙羽梨は五行でいう水だったよね?小さい時に水を見かけるとキラキラした目をしてたから」
五行というのは木・火・土・金・水の五つのこと。
それぞれ陰陽師にはこの五つを基本とした呪文や技がある。
それを使い、怨霊を祓うのだ。
「そ、そんな小さい頃のことを覚えているんですね」
私でさえもそんなこと忘れていた。
「覚えてるよ。芙羽梨のことだもん」
不覚にもドキッとしてしまった自分に驚いた。
「芙羽梨は──」
火宮様がそう言ったとき。
「か、火事だー!」
町の陰陽師がそう叫んだ。
「きゃー!火が……!」
「あれって、花里さんのお家でしたよね?」
町の人々がそういう。
この町で花里という苗字の陰陽師は私しかいない。
「う、うそっ……!」
火宮様を置いて、走って家に向かう。
家に着けば、大好きだった和風建築の家は跡形のなく焼けていた。
「……」
言葉はなにも出ず、ただ涙が頬を伝った。
「芙羽梨……」
火宮様は私のことをそっと抱きしめた。
「芙羽梨、ちょっとついて来て」
幸い、すぐに消防隊員が来てくれて火はすぐに収まった。
けれど、代償が大きすぎる。
私の両親も陰陽師で戦いの末、怨霊に敗れ、亡くなってしまった。
住まう家など私にはない。
「あ、あの。どこまで行くのですか?」
「さあ、ついたよ」
この場所は。
「ここって……陰陽山?」
「まあ、この扇状地だしわかるかな。そうだよ、ここが陰陽山」
陰陽山は私たちのようにあまり強くない陰陽師は行っていい場所ではない。
「な、なんで?」
「なんでって……じゃあ、芙羽梨は今日どこに寝泊まりするの?」
「町の旅館とか……」
「町の旅館もいいけど……僕がいるんだから、僕を頼ればいいんじゃない?」
火宮様を頼っていいのか。
「え?で、でも……火宮様の家って……」
私はちらっと遠くの方に微かに見える大きな屋敷を見た。
「あー、安心して?僕今一人暮らしで本家には住んでないよ」
「そ、そうなんですね……」
このまま野宿も嫌だ。
「あ、あの。……お、お言葉に甘えてもいいですか?」
私がそう聞くと火宮様はにこりと笑った。
「もちろん。じゃあ、これから楽しいことしよっか」
それから火宮様の家に行くことになった。
「ここだよ」
火宮様が足を止めた。
「えっ……?」
驚きが隠せず、一言目がこれだ。
驚くのも無理はないだろう。
一人暮らしにしては大きすぎる洋風の家。
庭もきちんと手入れされており、噴水がついている。
「じゃあ、入って」
「お、お邪魔します」
私はついに家の中に入った。
「そうだ。さっきから火宮様火宮様って……幼馴染なんだし、琥珀って呼んでよ」
「えっ?でも、そんな呼び捨てにしちゃ……」
「僕がいいって言ってたらいいよね?」
「まあ、そうかもしれないけど……」
「じゃあ、呼んでよ」
「こ、琥珀、くん……」
そう呼ぶと、琥珀くんはプイッと顔を背けてしまった。
「い、いや。ごめん、ちょっと……」
琥珀くんがそう言うのでこっちまで不安になる。
琥珀くん、顔が少し赤い気がする。
「……うん、マジで神。じゃあ、夕飯にするか」
先ほどまでの琥珀くんはどこかに行ってしまい、いつも通りの琥珀くんに戻った。
「あっ、私ご飯つくるよ。今日泊まらせてもらうし」
「今日じゃなくて、これからね?」
「えっと……?」
「だって、家ほぼ全焼じゃん」
「うっ……そうだけど」
「じゃあ、いいじゃん?これから一緒に住もうよ」
こんなにあっさり同居なんて決めていいのか。
「わ、わかった。これからよろしくね?」
結局、私が琥珀くんに負け、同居が決まってしまった。
「……でも、やっぱり一緒に住まわせてもらってるのになにもしないなんてできないから、家事は私がやる……!」
そう言うと、琥珀くんはにっと歯を見せて笑った。
「じゃあ、こういう契約はどう?家事は芙羽梨がするけど、僕が芙羽梨のことを守って、芙羽梨の住む場所は僕が管理する」
若干、よくわからないところもあったが、あれこれ文句を言っても仕方がないので了承した。
年若い女の声。
「六根清浄、急急如律令」
そこにいた──怨霊は一瞬にして消え去った。
「えっ……?」
「もう大丈夫ですよ。安心してください」
そういうと、その女性はホッとしたのか涙を流しながら走り去って行った。
私、花里芙羽梨、二十歳。
私は陰陽師という仕事をしている。
陰陽師は怨霊などを祓い、皆が悲しまない世界を創るのだ。
「あっ……!」
油断していた。
まだ怨霊は残っていた。
「──……朱雀、神文鉄火急急如律令」
燃え盛る炎。
先ほどまで目の前にいた怨霊は星に還っていった。
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫ですか?」
そう声をかけてくれた人をしっかりと見る。
白い肌、高い身長、整った顔立ち。
どこを切り取っても欠点がないまさに王子様。
「は、はい。……あの、あなたは?町じゃ見ない顔……」
町というのは陰陽師が住む陰陽町のことだ。
私はそこに住んでいる。
一般の人間は入れないようになっている。
「まあ、そうだね。僕は町じゃなくてに陰陽山のところ住んでいるからね」
陰陽山というのは陰陽師の中でもトップに立つ人たちが住む場所。
陰陽山は町から少し離れたところにある山のこと。
陰陽山を少し歩くと扇状地になっていて、そこも含め陰陽山と呼んでいる。
そこは扇状地とは思えないほど、栄えている。
「あ、あの。あなたのお名前は?」
「──火宮琥珀」
火宮家。
その家は言わずと知れた陰陽師の家系であの伝説の陰陽師、安倍晴明と親交があったと言われている。
火宮家は火や光を武器として戦っている。
火宮家は安倍晴明の式神として知られる朱雀を宿している。
「久しぶりだね、花里芙羽梨ちゃん?」
なぜ、私の名前を知っているのか。
久しぶりとはどういうことか。
「えっ……?わ、私、火宮様とお会いするのは初めてですよ?」
「もしかして、忘れちゃった?僕のこと。君のことはふうって呼んでたよ」
『ふう』そういえば、小さい時に私のことをそう呼んでいた子がいた気がする。
『──……ふう!新しい技できるようになったんだよ!』
『すごーいっ!ふうりもいつか、こはくくんみたいになりたぁい!』
そうだ、小さい時に会っていたのか。
「お、思い出した……ひ、久しぶりですね」
「思い出したのに敬語なの?同い年なのに」
確かに同い年ではあるが昔のように呼んでいい相手ではない。
反応に困っていると火宮様が口を開いた。
「こんなところで話すのもあれだし、町に戻ろう?」
「は、はい」
私と火宮様は町にやってきた。
「芙羽梨は五行でいう水だったよね?小さい時に水を見かけるとキラキラした目をしてたから」
五行というのは木・火・土・金・水の五つのこと。
それぞれ陰陽師にはこの五つを基本とした呪文や技がある。
それを使い、怨霊を祓うのだ。
「そ、そんな小さい頃のことを覚えているんですね」
私でさえもそんなこと忘れていた。
「覚えてるよ。芙羽梨のことだもん」
不覚にもドキッとしてしまった自分に驚いた。
「芙羽梨は──」
火宮様がそう言ったとき。
「か、火事だー!」
町の陰陽師がそう叫んだ。
「きゃー!火が……!」
「あれって、花里さんのお家でしたよね?」
町の人々がそういう。
この町で花里という苗字の陰陽師は私しかいない。
「う、うそっ……!」
火宮様を置いて、走って家に向かう。
家に着けば、大好きだった和風建築の家は跡形のなく焼けていた。
「……」
言葉はなにも出ず、ただ涙が頬を伝った。
「芙羽梨……」
火宮様は私のことをそっと抱きしめた。
「芙羽梨、ちょっとついて来て」
幸い、すぐに消防隊員が来てくれて火はすぐに収まった。
けれど、代償が大きすぎる。
私の両親も陰陽師で戦いの末、怨霊に敗れ、亡くなってしまった。
住まう家など私にはない。
「あ、あの。どこまで行くのですか?」
「さあ、ついたよ」
この場所は。
「ここって……陰陽山?」
「まあ、この扇状地だしわかるかな。そうだよ、ここが陰陽山」
陰陽山は私たちのようにあまり強くない陰陽師は行っていい場所ではない。
「な、なんで?」
「なんでって……じゃあ、芙羽梨は今日どこに寝泊まりするの?」
「町の旅館とか……」
「町の旅館もいいけど……僕がいるんだから、僕を頼ればいいんじゃない?」
火宮様を頼っていいのか。
「え?で、でも……火宮様の家って……」
私はちらっと遠くの方に微かに見える大きな屋敷を見た。
「あー、安心して?僕今一人暮らしで本家には住んでないよ」
「そ、そうなんですね……」
このまま野宿も嫌だ。
「あ、あの。……お、お言葉に甘えてもいいですか?」
私がそう聞くと火宮様はにこりと笑った。
「もちろん。じゃあ、これから楽しいことしよっか」
それから火宮様の家に行くことになった。
「ここだよ」
火宮様が足を止めた。
「えっ……?」
驚きが隠せず、一言目がこれだ。
驚くのも無理はないだろう。
一人暮らしにしては大きすぎる洋風の家。
庭もきちんと手入れされており、噴水がついている。
「じゃあ、入って」
「お、お邪魔します」
私はついに家の中に入った。
「そうだ。さっきから火宮様火宮様って……幼馴染なんだし、琥珀って呼んでよ」
「えっ?でも、そんな呼び捨てにしちゃ……」
「僕がいいって言ってたらいいよね?」
「まあ、そうかもしれないけど……」
「じゃあ、呼んでよ」
「こ、琥珀、くん……」
そう呼ぶと、琥珀くんはプイッと顔を背けてしまった。
「い、いや。ごめん、ちょっと……」
琥珀くんがそう言うのでこっちまで不安になる。
琥珀くん、顔が少し赤い気がする。
「……うん、マジで神。じゃあ、夕飯にするか」
先ほどまでの琥珀くんはどこかに行ってしまい、いつも通りの琥珀くんに戻った。
「あっ、私ご飯つくるよ。今日泊まらせてもらうし」
「今日じゃなくて、これからね?」
「えっと……?」
「だって、家ほぼ全焼じゃん」
「うっ……そうだけど」
「じゃあ、いいじゃん?これから一緒に住もうよ」
こんなにあっさり同居なんて決めていいのか。
「わ、わかった。これからよろしくね?」
結局、私が琥珀くんに負け、同居が決まってしまった。
「……でも、やっぱり一緒に住まわせてもらってるのになにもしないなんてできないから、家事は私がやる……!」
そう言うと、琥珀くんはにっと歯を見せて笑った。
「じゃあ、こういう契約はどう?家事は芙羽梨がするけど、僕が芙羽梨のことを守って、芙羽梨の住む場所は僕が管理する」
若干、よくわからないところもあったが、あれこれ文句を言っても仕方がないので了承した。