「ただいまー」

 いつものように帰宅すると、家の明かりが消えていた。怪訝に思って、再度大きな声を出す。

「ただーいまー!」

 返答はない。仕方なしに靴を脱ぎ散らかして部屋に上がるも、部屋はしんと静かで冷たく、人の気配がなかった。

「はぁ……?」

 忠は呆然と声を漏らした。そして、次第に怒りの感情が湧き上がってきた。夫が帰宅したというのに、何故出迎えの一つもないのか。
 上着と鞄をソファに放り投げて風呂場へ向かうと、風呂も沸いていない。舌打ちして、スマホを手に取る。
 妻に電話をするが、出ない。メッセージアプリも既読にならない。
 いらいらしたままシャワーのみ済ませ、風呂を出る。

「あ」

 何の準備もせずに入ってしまったので、タオルがない。着替えもない。

「あーもう!!」

 怒鳴り散らすようにしながら、濡れたまま部屋に戻る。手あたり次第に引き出しを開けて、なんとか目当てのものを引っ張り出す。

 ぐぅ、と腹の虫が鳴いて、冷蔵庫を開ける。何もない。
 妻はできるだけ作り置きなどをしなかった。出来立てでないと、忠が文句を言うからだ。
 ぶつぶつと文句を言いながら非常用のカップ麺をすすり、忠はテレビを見ながら酒を飲み、そのままソファで寝落ちした。