私の名前は未来。今日も仕事のストレスを癒すべく夢の中の異世界(?)に遊びに来た。そういえば前回は桜の川沿いでゆったりしようかと思っていたけど前回は不思議なタヌキと会話していて、結局思った通りにのんびりできなかったな。だから今日こそは!…という思いで桜の川沿いまでやってきた。よーし今日はせっかくだし、歌いながらでも…

ん?何か泣き声が聞こえるような…。

「うわーん!!うわーん!!」
「!?」

急に桜の川沿いの方から泣き声がして、思わず私はびっくりしてしまった。よく見ると泣き声の正体はウサギっぽい姿をした生き物で、体も小さかった。きっと子供だろう。夢の中とはいえ子供が泣いているのを見ていられなかった私は泣いている子ウサギの方に歩み寄る。

「あのー、そんなに泣いてどうしたんですか?」
「え、お姉さん誰…?」
「通りすがりのものです。あなたの親はどこにいますか?」
「うぅ…ママ…どこいったか…わからないの…。」

あーなるほど、親とはぐれてしまったのか。夢でも親とはぐれてしまうのはやっぱ辛いよね。きっとこのまま行くとまた今回もここでのんびりすることはできず、この子に振り回されるんだろうな~。だけどどうしても、この子を見捨てることはできなかった。覚悟を決めた私は、泣いている子ウサギに話しかける。

「お姉さんと一緒に、お母さんを探しましょう?」
「え…いいの?」
「ずっとこんなところで泣かれても、私もリラックスできずに困りますから」
「うん、ありがとう…ぐすん」

こうして私は子ウサギの親を探すべく街中を探索した。夢の中でまで何やってるんだろうか私…。そう思いながらも一度引き受けたことは最後までやりきる精神で、私すらほとんど土地勘のない街を駆け回る。…というかむしろ、この子の方が知っているのでは?ただもちろんのこと、このまま闇雲に探していてもこの子の親は見つからない。そこで私は子ウサギの子にいくつか質問をした。

「おかあさんの特徴は分かる?」
「えっと、赤色のドレスを着ていて…それから…えっと…」
「無理して答えなくても大丈夫ですよ。最後におかあさんといた場所は覚えていますか?」
「確か…赤色のお店の前」
「赤色のお店…その店の名前は分かりますか?」
「おみせの名前はたしか…『よろずや』って名前だったような」
「ありがとうございます。ではそのよろずやというお店に行きましょう。そこまで行けばきっと何か手掛かりはあるはずですから。」
「うん、ありがとう!」

こうして私は子ウサギの子に道案内を彼女が知っている範囲でしてもらいながら、目的の店まで向かった。道中私たちはどういうわけかウマが合い、お互いのことを色々喋ったりした。

「ねえねえ、お姉さんはどこから来たの?」
「私はここからずーっと遠くの場所から」
「そうなんだ!わざわざそんな遠くから来るって、お姉さんすごく体力あるんだね!」
「あはは…」
「あなたはこの辺に住んでいるんですか?」
「うん!ここから少し歩いた先にあたしのおうちがあるんだ!」
「そうなんですね」
「おねえさん、今度遊びに来てよ!今回のお礼に、あたしのお気に入りおもちゃ、見せてあげるっ!」
「ありがとうございます。また近いうちに…」

現実世界から来たなんか言ってもこの子の頭がさらに混乱するだけだろうから、あえて別の言い方でにごした。しかしやっぱり歩き続けて、疲れてきた。というか夢の中で疲れるって何…?まあ今はそんなことはどうでもよく、この子のお母さんを探すことに専念しよう。それはそうと私はこの子と喋っているのが楽しくて、それは徒歩による疲弊も度々忘れてしまうほどだった。

そしてしばらくすると、目的の店が見えてきた。確かに外見は赤色で「よろずや」と書かれている。

「着きましたね。ここで合っていますね?」
「うん、確かここだったはず。ねえねえ、ここまで来てどうするの?」

ここから先の私の仕事は、お店の人にこの子のことについて聞き込みをすることだ。とてもシンプルだけどこれが最短で親を見つける方法だと私は思った。シンプルイズなんとかと言うように…さて、早速店内に入って聞き込みを…と思ったその時、急に背後から女性の声がした。

「あんた!こんなところにいたの!?」
「え、ママ!?」
「あれ、あの人はもしかして…?」
「うん!あれ、私のママ!」

ホントだ、確かに赤色のドレスを着ている。そしてどこか上品さも感じられる人だった。いや、人ではない。だけど女性としては十分に魅力を感じる。

「突然店からいなくなってびっくりしたのよ?ママが戻ってくるまでずっとここにいなさいって言ってたのに…」
「ごめんなさい。おといれに行きたくなって…この店トイレなくて…」
「そうだったのね…。あなたがうちの子をここまで連れてきてくださったんですね?」
「え、あ、はい…」
「本当にありがとうございます!このお礼は必ず後日、させてください!」
「いえ、それは大丈夫で…」
「ねえねえママ、あたしこのおねえさんと約束したんだ!こんどうちに遊びに来てくれるって!」
「あ…」

そういえばそんな約束してたー!すっかり忘れていた私だった。半分冗談のつもりでうなずいていたんだけど…

「まあほんと!今度、必ずうちに来てください!相応のごちそうを用意させてください!」
「あ、ははは…わかりました…。」
「おねえさん、本当に今日はありがとう!」
「もう迷子になっちゃだめですよ?」
「うん!」

そう言って、ウサギの親子はこの場を後にした。そして私はここから自由行動となったわけだけど、今からまた桜の川沿いに戻るのも大変すぎるし、さっきので徒歩移動はもう疲れた。体を癒すためにこの夢の世界に来たというのに逆に疲れてしまった。そう思った次の瞬間、また視界がぐらついた。あぁ、まもなく目が覚める時間か。こうして私はまた憂鬱な朝を迎えることとなってしまった。

次の夜こそは…桜の川沿いへ!