転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

 (けい)の短い呪文とともに、犀髪の結(さいはつのむすび)の先端が一瞬だけ光った。
 
「!?」
 
 だが、何も起こらない。蕾生(らいお)(ぬえ)化した(あおい)は距離をとって睨み合いを続けている。珪の動作など気にしてはいないようだった。
 
「珪!言ったはずだ、お前では扱えない。ストッパーが掛かるように調整した」
 
 舞台の脇にいた八雲(やくも)が歩みを進めて言った。
 それを聞いた珪は顔を歪めて歯を軋ませる。
 
「余計な事を……瑠深(るみ)ィ!!」
 
「は、はい……」
 
 憤りに任せた珪の呼ぶ声に、瑠深は気圧されながらも返事をした。妹を見る兄の目は、既に常軌を逸している。
 
「お前が使いなさい」
 
「ええ?」
 
 犀髪の結を瑠深に差し出してニヤリと笑う珪。その姿に邪なものを感じ取った八雲は大声で制する。
 
「珪、よすんだ!」
 
「八雲!あれは何なのだ?」
 
 蕾生とともに葵と対峙していた墨砥(ぼくと)だったが、堪らず八雲に聞いた。八雲は後悔に顔を歪ませて俯きがちに答える。
 
「……術者の呪力を引き金に鵺の妖気を増幅して対象に放出するものだ。墨砥兄さん、すまない。珪に頼まれて鵺の妖気を元に、俺が作った」
 
「何故そんな危険なものを作った!?」
 
「申し訳ない。職人として、鵺の妖気を扱う誘惑に勝てなかった……」
 
 墨砥は叱責するより先に、呪術師として当然浮かんだ疑問を投げる。
 
「鵺の妖気?そんなものがどこにあったのだ?」
 
犀芯の輪(さいしんのわ)だ。あれを使った」
 
「だがあれは雨辺(うべ)がはめていただろう?」
 
 (すみれ)は犀芯の輪を指に嵌めて現れた。見せた常人ならざる力もあの環が成したことだろうと墨砥は思っていた。
 そして菫が石になった今、犀芯の輪はまだ鵺化した葵の足元に転がっている。
 
 するとその会話に珪が笑いながら入って来た。
 
「いやだなあ、お父さん。あんな重要な呪具雨辺には勿体無いですよ。とっくに回収済みです」
 
「じゃ、じゃあ、菫さんが持ってたのは……?」
 
 梢賢(しょうけん)が恐る恐る聞くと、珪はまたそちらを向いて可笑しそうに言う。
 
「八雲おじ様渾身のレプリカだよ。まあ、僕がその後呪毒を仕込んだけどね。おかげで菫の石化が上手くいった」
 
「珪兄ちゃん……いつからそんな風に」
 
「そんなことはどうでもいい。瑠深、この犀髪の結に呪力を込めなさい。お前なら、鵺のその先を導くことができる」
 
 梢賢の言葉を鼻で笑って、珪はもう一度瑠深に犀髪の結を差し出して命令する。
 
「瑠深、だめだ、聞くんじゃない!」
 
「父さん……」
 
 瑠深は墨砥と珪に挟まれて困惑していた。
 
「瑠深ぃ、兄さんの頼みだ、聞いてくれるだろう?僕ら兄妹で眞瀬木(ませき)を盛り立てていくって約束したじゃないか」
 
「に、兄さん……」
 
 父と兄。どちらが正しいのだろう。どちらの言うことを聞けばいいのだろう。瑠深はその狭間に立って混乱していく。
 
「瑠深!」
 
「瑠深ィ!!」
 
「あ、ああああっ……!」
 
 困惑、そして恐怖。大切な家族の間で板挟みとなり苦しむ瑠深の姿が、蕾生の中であの日祖父に苦しめられた星弥(せいや)の姿と重なった。


 
「てめえら、いいかげんにしろ!!」

 叫んだ蕾生の怒号は、その場の空気をビリビリと震わせた。
 
「!!」
 
 その気迫に押され、眞瀬木の三人は身体を強張らせる。蕾生から漂う強者の匂いを感じたからだ。
 
「ライくん、落ち着──黄金の、雲?」
 
 ここで蕾生まで怒りに呑まれて鵺化してしまっては危険だ。永は宥めようとしかけて、蕾生の周りに漂う黄金色の(もや)に気付く。

 
 
「そいつをお前らの欲望で振り回すんじゃねえ……!」
 
 墨砥と珪を睨む蕾生の迫力は、その場の全員から言葉を奪った。そしてそれは葵にも同様で、更に慎重さを見せてもう一歩後ずさった。
 
「うあっ……!」
 
「ライくん!」
 
 蕾生は膝を震わせて苦悶に顔を歪めた。
 
「は、るか……、ちょっと、俺、やばい──」
 
「ライ!落ち着きなさい!」
 
 鈴心(すずね)も懸命に叫んだ。だが、蕾生は片手で頭を抱えて苦しむ。
 
「あ、あぁ……」
 
 永は蕾生の周りに増えていく黄金色の靄を注意深く観察していた。これまでの鵺化ならもっと禍々しい黒い雲が出て来たはずだ。
 
 だが、今見えている黄金の雲は、とても清々しい。
 それなら──

 
  
「ライ!構わない!その怒りを解放しろ!」
 
「ハル様!?」
 
 驚く鈴心に頷いた後、永は蕾生に向けて言う。
 
「ただし、前みたいに怒りに任せるんじゃない!その怒りをコントロールするんだ!お前の中の鵺を従えるんだ!」
 
「鵺を……従える……」
 
 頭を重そうに抱える蕾生に、永は真っ直ぐな瞳で大きく頷いた。
 
「ライくんなら出来る」
 
「でも、もし──」
 
 不安気な蕾生に向けて、永はにっこり笑ってもう一度頷いた。

 
  
「大丈夫だライくん。僕らは君を愛してる」
 
「──」
 
「君がどんな姿になったって愛してる。──君を、信じてる」
 
 君はこんな呪いなんかに負けやしない。
 一度勝ったんだ、きっとまた勝てる。
 僕らはそう、信じてる。


 
 永の思いは鈴心にも、もちろん蕾生にも伝わっている。
 
「ライ、思いっきりやりなさい」
 
 鈴心も信頼の瞳を向けて頷いた。
 そこで蕾生の気持ちも決まる。
 
「これ、頼む」
 
「!」
 
 蕾生が投げてよこした白藍牙(はくらんが)を受け取った永は驚いた。手に持った途端にビリビリととてつもないエネルギーが伝わる。木材であることは間違いないのに、未知なるものを触っているような感覚だった。
 
「おい、ガキ!駄々こねてないでしっかりしやがれ!」
 
 蕾生は葵を見据えて叫んだ。
 
「ガァ!」
 
 その気迫に鼓舞されたのか、鵺化した葵は地面を踏み締め短く吠え、臨戦体勢をとった。
 
「仕方ねえから付き合ってやるよ……!!」
 
 蕾生は自分の中に渦巻いている強い力を解放した。すると強い風とともに黄金色の雲が舞い上がる。雲はどんどん増えて蕾生を包み光り輝いた。
 
「眩しっ!」
 
「なんちゅーこっちゃ……」
 
 瑠深は眩しさに目を眩ませ、梢賢は呆然とその成り行きを見届ける。

 
 
「これは……凄い、凄いぞ……ッ!」
 
 珪は歓喜の声を上げ震えていた。



 
 雲が晴れる。
 金色に光る毛をなびかせて、気高い狒々(ひひ)の眼差しを持った鵺が雄々しく立っていた。







 金色の(ぬえ)は鋭い眼差しで黒い鵺を睨んでいる。その迫力に、その場の誰もが動けなくなった。
 
「……」
 
「──」
 
 黒い鵺──(あおい)はその気迫に当てられて少し怯み、また一歩後ずさる。
 
「なんて美しい……」
 
 すぐ側で蕾生(らいお)が鵺化したのを目の当たりにした康乃(やすの)は呆然としていた。今、現実で起こったことが信じられないという訳ではなく、その金色の姿の神々しさに目を奪われていた。
 
「す、凄い!本当に金色!黒と金、二体の鵺!やった、やったよ灰砥(かいと)伯父さん!」
 
「珪、やはりお前はまだあいつの事を……」
 
 金色の鵺の顕現にますます興奮した(けい)は有頂天になって亡き伯父の名を呼ぶ。
 その姿を父親の墨砥(ぼくと)は後悔とともに眺めることしかできなかった。
 
「ウギャアアア!」
 
 蕾生の気迫に一度は怖気づいた葵だったが、何もせずに屈服する訳にはいかないとばかりに、半ばやけを起こして蕾生に襲いかかる。
 
「ウオオオア!」
 
 それを受けてたった蕾生は雄叫びをあげて葵の突進を受け止めた。体格を比べても蕾生の方が頭一つ大きい。突進した葵は逆に吹っ飛ばされることになる。
 
「ワアアァアア!」
 
 後ろに跳躍した葵は大きく叫んだ。空気が震えて衝撃波が蕾生を襲う。
 
「オアアァァア!」
 
 それが到達する前に、蕾生も大きく叫び衝撃波を相殺した。
 
「ギィアアッ!」
 
 体や衝撃波の大きさで敵わないなら、葵は小さな体を活かした機動性で勝負するしかない。縦横に飛んだ後、蕾生めがけて鋭い爪で襲いかかる。機敏に動き回り手足で打撃を繰り返した。
 
 小煩い打撃を受けながら、蕾生も腕を伸ばして葵を組み敷こうとする。それをスルリと躱した葵はついに蕾生の喉元に噛みついた。
 
「ギャァアッ!」
 
「ライくん!」
 
 苦悶の表情を浮かべる蕾生を見て、(はるか)は思わず一歩踏み出したがすでに人智を超えた神獣同士の戦いだ。人の身の永にはなす術がない。
 
「ライオンくん……おされてへんか?金色の鵺は、その先の存在なんやろ?」
 
 梢賢(しょうけん)が防戦一方の蕾生を見て言うと、鈴心(すずね)も悔しさに歯噛みする。
 
「金色の姿の鵺にはライの自我があります。ライはできるだけ葵くんを傷つけないように戦っている。けど、黒い姿の鵺である葵くんは──」
 
「自我がないから、容赦がないってことか……」
 
「このままではジリ貧です」
 
 葵の爪や打撃を受けながら、その身体を取り押さえようと奮戦する蕾生の姿を永は苦悩しながら見ていた。
 
「……」
 
「ハル坊!なんかないんか!?このままじゃ葵くんもライオンくんも無事じゃ済まん!」
 
 梢賢の叫びを受けて、永は苦し紛れに珪を挑発した。
 
「おい、珪!これがお前の目的なのか?これじゃあ鵺化した二人を消耗させるだけだ!」
 
「おっといけない。つい見惚れてしまっていました。鵺化した葵は大切な器。そろそろ鎮っていただきましょうか、瑠深(るみ)!」
 
 珪はさらに下卑た笑みを浮かべた後、大声で瑠深を呼んだ。二体の鵺の戦いに怯えてしまっていた瑠深は大きく肩を震わせる。
 
「──!」
 
 そんな妹の様子など構わずに珪は再度犀髪の結(さいはつのむすび)を目の前に差し出した。
 
「さあ、この犀髪の結に祈れ。お前の呪力なら可能だ。これをもってあの黒い鵺を従えるんだ」
 
「え……あ……」
 
 珪は怯えて動かない瑠深の前まで歩き、その手に無理矢理犀髪の結を握らせる。
 
「怖がることはない。それで晴れてお前は鵺の主人になる。僕ら兄妹は新たな世界の扉を開くんだ!」
 
 新たな世界の扉──またも聞いたその言葉に永は驚愕した。あの時、銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)も同じことを言っていた。
 偶然だろうか?いや、何か共通することがあると直感した。
 
「瑠深さんダメです!」
 
「!?」
 
 犀髪の結を受け取ってしまった瑠深に、鈴心は必死で叫んだ。
 
「私達は鵺を従えようとして破滅していった人を知ってる!瑠深さんはそんな道に進んではいけない!」
 
 戸惑う瑠深に向けて、墨砥も静かな口調で諭すように言う。
 
鵺人(ぬえびと)の言う通りだ、瑠深。我々は灰砥兄さんの件から学んだはずだ。あれに手を染めてはいけない」
 
 すると珪はそれまで笑っていた態度を翻してヒステリックに叫んだ。
 
「お父さんは黙っててくれませんか!灰砥伯父さんを見殺しにした時のようにね!
 ──ええ、そうですとも。灰砥伯父さんと同じ轍を踏んではいけない。だからこそ僕はこうするしかないのです」
 
「珪!目を覚ましなさい!お前は灰砥兄さんを誤解している!」
 
「はあ!?誤解しているのはお父さんの方でしょう?だから伯父さんが粛清されるのを容認した!伯父さんを見捨てたんだ!」
 
「……」
 
 もう息子には何を言っても通じない。墨砥は苦悩に塗れて言葉を失った。
 
「さあ、瑠深。僕ら兄妹は二人で一人だろう。僕の頭脳はお前のもの、お前の呪力は──僕のものだ」
 
「あ……兄さん……」
 
 瑠深は既に抗う気力さえ失くしている。手の中の犀髪の結を握ったまま珪の瞳に魅入られかけた。
 
「バカ言ってんじゃねえぞ!クソアニキが!」
 
「!」
 
 だがすんでのところで、永の怒号が瑠深をとどめる。
 
「瑠深サンの力は瑠深サンのものだ!妹と自分を同一視して考えるなんて、自立できてないシスコン野郎のすることだ!」
 
「な、なんだ……その汚い言葉遣いは!気高い鵺人がそんなことでいいと思ってるのか!」
 
「うるせえ!前も言ったけど、僕らを勝手に英雄視すんじゃねえ!こちとら大迷惑なんだよ!」
 
 言われた珪だけでなく、鈴心も梢賢も永の乱暴な物言いに驚いて少し怯んだ。
 そして瑠深は。
 
「……」
 
「瑠深サン、お願いだ、僕らを──ライを信じてくれ!ライが必ず葵くんをなんとかするから!」
 
「え……」
 
 言われて瑠深は視線を二体の鵺に移す。黒い鵺が引っ掻いたり噛みついたりしているのを、金色の鵺が防ぎながら反撃の機会を狙っていた。
 傷をあちこちに受けながらも、金色の鵺である蕾生は諦める様子を見せない。黄金の瞳は依然輝いている。
 
「あ──」
 
「瑠深さん!お願いします、ライを信じて!」
 
 必死な鈴心の声が、瑠深の胸の中にストンと落ちた。
 
「兄さん、ごめん。あたしはこれ、使えない……。だって、あの子が……可哀想だよ」
 
 傷だらけの蕾生。しかしそれ以上に葵の姿が痛ましかった。母親を失ってやり場のない悲しみをぶつけるその姿が哀れだった。
 
 そんな二人を思いやって、瑠深は犀髪の結を投げ捨てる。
 
「瑠深ィィイ!!」
 
 珪が怒りに我を忘れて叫ぶ。けれど瑠深はそれを必死で堪えた。







「ライくん!一旦下がれ!距離をとるんだ!」
 
「──ガッ」
 
 蕾生(らいお)(はるか)の指示に従って後ろに跳躍し距離をとる。そこにはちょうど康乃(やすの)が立っていた。
 
「貴方……そんなに傷だらけなのに、あの子のために──」
 
 康乃は蕾生の体を見て驚く。その言葉が聞こえたような顔をして蕾生は穏やかな瞳で康乃を見ていた。
 
「この白藍牙(はくらんが)、僕でも使えそうだな……」
 
 永がぎゅっと握ると、白藍牙は仄かに白く光った。
 
「ハル様、何をなさるおつもりで?」
 
 鈴心(すずね)が問うと、永は腹を決めて言う。
 
「僕の分の因子をライくんに届けたら、葵くんを圧倒できる力が出るかも」
 
「ですが、今、ライが本気になれないのは(あおい)くんの身を案じているからでは?
 さらに力を強めれば勝てるでしょうけど、葵くんも無事には済みませんよ」
 
「そこは、ライくんの器用さに賭ける!」
 
「ライが器用だったことがありますか!?」
 
 鈴心が声を張り上げると、落ち着いているのに誰よりもよく通る声がした。康乃だった。
 
「──おやめなさい」
 
「!」
 
「貴方の力は、蕾生君を元に戻すためにとっておきなさい」
 
「でも、じゃあ!」
 
 焦る永に、康乃は普段通りの微笑みを向けた。
 
「私にお任せくださる?」
 
「え──」
 
「御前!無茶です!」
 
 何かを察した墨砥(ぼくと)が声を張り上げる。しかし康乃は首を振った。
 
「いいえ。私がやらなければ。墨砥は(けい)をなんとかなさい、いいわね」
 
「御前……」
 
「お祖母様!?」
 
 異変を感じた剛太(ごうた)にも、康乃は強い意志を込めた眼差しで言う。
 
「剛太、よく見ているのです。これが、藤生(ふじき)の取る責というもの!」
 
 次の瞬間、康乃の周りに白い光が輝き出した。この場のどれでもない異質な、けれど清廉な風が舞い始める。
 
 そのオーラの様なものを感じた永は驚愕した。ここまでの力が藤生の当主にあったとは。
 
 そしてその力は金色の(ぬえ)である蕾生にも感じられたようで、その手に自らの胴を擦り付けた。
 
「まあ、乗せてくださるの?嬉しいわ」
 
 康乃は蕾生の背に腰掛ける。蕾生が睨むと、葵は明らかに恐怖の色を滲ませた瞳で空を駆けた。次いで蕾生もそれを追う。背の上の康乃はその間に力を集中させた。
 
「祖の地より流れし我が血に依て……」
 
 康乃が言葉を紡ぐと、その両の掌から夥しい絹糸が伸びた。まるで生きているかのような糸の群れがあっという間に葵の体を絡めとる。
 
「──ッ!」
 
「戒めを!」
 
「ギャアアア!」
 
 康乃が叫んだと同時に絹糸が輝いて葵を縛り上げる。葵は苦しみながら悲鳴を上げた。
 
「あなた……葵くんと言ったわね。お母さんを亡くして悲しかったわね……何もできなくてごめんなさいね……」
 
「ガッ……アァァ……」
 
 康乃が絹糸を操りながら優しく語りかけると、葵は呼吸を制限されて固まった。
 
「葵くんの動きが止まった!キクレー因子に干渉したのか?何故、康乃さんがそんなことできるんだ?」
 
「わ、わかりません。あの絹糸の、資実姫(たちみひめ)の力でしょうか?」
 
 永も鈴心も目の前の光景に驚いた。銀騎(しらき)雨都(うと)を含む関係者以外で鵺に対抗した人間を初めて見たからだ。
 
「いや、違う。多分……」
 
 梢賢(しょうけん)にはその力の検討がついているようだったが、それを言うのを躊躇っている。
 
「なるほど。鵺人(ぬえびと)の遺伝子はここにも。だが、させる訳にはいかない──ッ!?」
 
 事態を重く見た珪が康乃と蕾生に攻撃しようとしたが、墨砥と瑠深(るみ)が立ちはだかった。
 
「行かせないよ、兄さん!」
 
「御前の邪魔はさせぬ!後でお前は私とともに腹を切るんだ!」
 
「父さん!そんな時代錯誤の冗談は後!」
 
「冗談では……」
 
 自分の実力ではこの二人を相手取ることはできない。珪は自尊心を砕かれて悔しそうに歯噛みした。
 
「クソが……!」
 
 そうしているうちに、康乃は葵を締め上げる力を強めていく。
 
「さあ……子どもはお昼寝の時間よ」
 
「ガァアアァ……」
 
 葵は苦しみながら次第に大人しくなっていた。虚に曇っていた瞳が白くなっていく。
 
「眠りなさい!」
 
 絹糸を伝って康乃の神気が葵に注がれた。







 康乃(やすの)の力は(ぬえ)化した(あおい)を圧倒していた。絹糸で縛り上げられた葵は康乃の戒めにより意識を手放そうとする。
 
「やめて!」
 
 康乃が最後に力を込めようとした時、目の前に突然少女が現れた。人間の姿の時の葵にそっくりなその少女は、両手を広げて康乃と鵺化した葵との間に立ちはだかった。
 
「!」
 
「おばちゃん、もうやめて、許して!」
 
「あなたは……?」
 
 その様子を地上から見ていた梢賢(しょうけん)は度肝を抜かれて叫んだ。
 
(あい)ちゃん!?」
 
「どこから!?飛んでる!?」
 
「まさか、彼女は──」
 
 鈴心(すずね)も上空を見上げながら驚き、(はるか)はこの瞬間藍の正体に納得がいった。
 
 藍は康乃に向けて懸命に訴える。
 
「おばちゃん、ごめんなさい!葵は苦しかったの!お母さんの役に立ちたかっただけなの!
 なのにお母さんがいなくなっちゃって、どうしたらいいかわかんなくなっちゃったの!」
 
 藍の姿はよく見ると少し透き通っていた。おそらくその姿を維持するのに限界が来ているのだろう。そこまで想像した時、康乃も藍の正体を悟った。
 
「あなた……。ええ、そうね。葵くんの気持ちはわかってるわ。それにおばちゃんは怒っていませんよ」
 
「ほんと?」
 
「本当よ。この鵺のお兄ちゃんもね、怒っていませんよ。葵くんを心配しているの」
 
 康乃がその背を撫でながら言うと、蕾生もそれを受けて大きく頷いた。
 
 藍は少し戸惑うような顔で黙っている。 
「……」
 
「あなた、お名前は?」
 
「藍……」
 
「いいお名前ね。そしていいお姉ちゃんなのね」
 
 康乃はにっこり笑って目の前の藍を褒めた。藍の存在は確かに葵の心の拠り所だった。
 
「葵は……一人で、寂しくて……」
 
「それであなたが側にいてあげたのね」
 
「うん……」
 
 しかし、藍の存在が消えかけている以上、葵はそれを乗り越えなければならない。寂しさのあまりに具現化されてしまった藍を、自身に戻す強さを手に入れなければならない。
 その手伝いを、康乃は菫の代わりに請け負うことを誓う。
 
「もう大丈夫よ。葵くんは今日からこの里の子になるからね」
 
「本当?」
 
 藍は不安気な顔で聞いた。ひたすらに葵が心配なのだろう、そして自分がもうすぐ消えることも藍はわかっている。

 二人分の不安を抱える健気な子どもに康乃はにっこり笑って言った。
 
「お母さんの代わりにはなれないかもしれないけど、おばちゃん達がずっと一緒にいるから大丈夫よ」
 
「うん……」
 
「藍ちゃんともね、ずっと一緒よ」
 
「あたしも?」
 
 存在してしまった以上は藍も別個の人間だ。藍自身も納得して消えなければ意味がない。
 
「うん。だからね、安心してお帰りなさい。これからは葵くんとおばちゃん達とずっと一緒」
 
「葵!聞いた?」
 
 康乃の真心を受け取った藍はパッと顔を輝かせて葵の方を振り向いた。絹糸に包まれた葵は虚に曇る瞳で藍を見ている。
 
「……」
 
「葵!もう大丈夫だよ、もういいんだよ!お姉ちゃんがずっと一緒だからね」
 
 藍は葵に向かっていく。小さな手を伸ばしてありったけの愛を手渡そうとしていた。
 
「おねえ……ちゃん……」
 
 曇った瞳に少し光が宿る。葵の鵺としての体が朧になっていく。
 
「ずっと、一緒だよ──」
 
 藍は笑顔のまま消えていく。最後に小さな光の粒になって葵の中に入っていった。
 すると葵の体がまた青い光を放ち、一瞬だけ眩しく輝く。その光が収まると葵は人の姿に戻っていた。
 
「──戻った!」
 
「すごい……」
 
 見届けた永と鈴心は目を見張る。
 梢賢は目に涙をためて鼻をすすっていた。
 
「あかん、こんなん、奇跡やん……」
 
 上空では康乃が絹糸を引き寄せて気を失った葵を抱きかかえた。二人を背に乗せた蕾生がゆっくりと地面に降り立つ。
 
「──くっ!」
 
 蕾生の背から降りようとした康乃は葵を抱えたまま膝から崩れ落ちた。
 
「御前!」
 
「康乃様!」
 
 直ぐに墨砥(ぼくと)瑠深(るみ)が駆け寄った。葵を瑠深に預け、康乃は墨砥に支えられる。
 
「はあ、はあ……だい、じょうぶです。でもさすがに疲れたわ……」
 
「お見事でございました」
 
「やあね、これくらいは軽くできないといけないのだけど、年をとったわねえ」
 
 荒い息を整えている康乃の後ろで、金色の鵺である蕾生もガクリと体勢を崩す。
 
「ライくん!」
 
「ライ!」
 
 永と鈴心が駆け寄る。蕾生はすでに自分では立てなくなっており、ぜえはあと苦しそうに呼吸していた。
 
「消耗が激しいわ。すぐに戻しなさい」
 
「え、でも、どうやって?」
 
 康乃が厳しい口調で言うけれども、永にも鈴心にもその方法がわからなかった。
 
「前にお兄様は呪文を唱えましたが……」
 
「あんな変な呪文なんて覚えてないよ!」
 
 息も絶え絶えの蕾生の姿に焦りながら永が狼狽える。
 皓矢(こうや)が以前使った術が出来るわけがない。白藍牙(はくらんが)の使い方も碌に教えてくれなかった皓矢には怒りを覚える。
 
 あのどグサれ陰陽師が!今すぐ来てライを元に戻せ!
 
 永が心の中で毒づいた時、聞き覚えのある涼しげな声がした。

 
 
「呪文はいらないよ」

 
 
「げ!」
 
「お兄様!?」
 
 村人が逃げた方向から、パリッとしたスーツに身を包んだ銀騎(しらき)皓矢(こうや)が現れた。
 
「どど、どうしてお前がここに!?」
 
 なんというタイミング。鮮やか過ぎて永の頭は一瞬パニックになった。しかしそういう自分の行動に対する自覚がない皓矢は、まず目の前の事案に指示を出した。
 
「まずは蕾生くんを戻しなさい。白藍牙に永くんが祈ればいい」
 
「ええ?」
 
 永が半信半疑でいると、皓矢は少し挑発するような口調で言った。
 
「これくらいは僕なしでもできるようにならないと」
 
 目論見通りカチンときた永は白藍牙を握った。
 
「おお、上等だ、やってやんよ!」
 
 蕾生は相変わらず荒い呼吸で苦しんでいる。祈れと言われても勝手がわからない。けれど蕾生の無事を願う気持ち、蕾生に戻ってきて欲しいという気持ちを永は白藍牙に込めた。
 
「ライくん、お疲れ様──」
 
 呪文は覚えていないがあの時皓矢がしていた動作を思い出しながら永はやってみた。
 白藍牙に祈りをこめてその切先を優しく蕾生の額に当てる。すると金色の鵺の体が輝き始め、黄金色の雲が包んでいく。
 雲は靄となりゆっくり晴れて、そこには人の姿に戻った蕾生が立っていた。しかし蕾生はそのまま倒れそうになる。
 
「──!」
 
 永は手を伸ばして蕾生を支えて抱き締めた。
 
「お帰り、ライくん」
 
「おう……キツかったけどな……」
 
 疲れ果てた声ではあったが、蕾生は穏やかに笑っていた。
 
「ライ!良かった……」
 
 鈴心も駆け寄って蕾生の体をさする。
 
「葵は?」
 
「大丈夫や、康乃様が守ってくれとる」
 
 梢賢が指差す方、瑠深と康乃に抱かれて眠る葵を見て蕾生は安堵の溜息を吐いた。
 
「良かった……」
 
「良かったのはライオンくんもやで」
 
「?」
 
 涙声の梢賢の言葉がすぐ近くで聞こえた。
 
「ありがとう。ありがとうな」
 
 ぐずぐずの顔を向けて言う梢賢に、蕾生は思わず苦笑する。
 
「不細工な顔だな」
 
 でも、その顔は結構好きだ。







「は……ははは、はははは!素晴らしい!実に素晴らしいものを見せてもらった!」
 
 場の雰囲気をぶち破って(けい)の高らかな笑いが響いた。場違いな程にはしゃぐ珪に(はるか)は厳しい視線で言い放つ。
 
「お前の計画は失敗だ、観念するんだな」
 
「失敗?とんでもない、大成功だとも!今、康乃(やすの)様は言いましたよね!その葵を里に迎えると!」
 
「ええ」
 
 康乃が睨んでいることも意に介さず、珪は上機嫌で続けた。
 
「今こそ、里は(ぬえ)の元で一つになるべきなんです!(あおい)を鵺として祀り、鵺の下では里の者は皆平等!そして眞瀬木(ませき)は鵺の主人として里に君臨するんです!」
 
「珪!お前はまだそんなことを……!」
 
「兄さん!正気に戻ってよ!」
 
「僕は正気さ!大真面目だとも!」
 
 墨砥(ぼくと)瑠深(るみ)が大声で嗜めても、珪は常軌を逸した高笑いを続けていた。
 
「鵺に、魅入られてしまったか……」
 
 無念を感じて項垂れる墨砥の肩を叩いて、それまで事の成り行きを見守っていた八雲(やくも)が一歩前に進む。
 
「珪」
 
「なんです、おじ様?」
 
 その寡黙な瞳に後悔の色を滲ませて八雲は静かに告げた。
 
灰砥(かいと)兄さんを殺したのは俺だ」
 
「──!!」
 
 その言葉に、珪は途端に顔を曇らせた。
 八雲の告白は続く。
 
「灰砥兄さんも、ちょうど今のお前の様に鵺に魅入られていた。粛清は避けられなかった。だが、お前が灰砥兄さんを慕っていたのは充分知っている」
 
「──」
 
「心のよりどころを突然失ったお前は、こうでもしなくては自我が保てなかったんだろう。許せとは言わん、腹いせに俺を殺せ」
 
「八雲おじさん!?」
 
「お前は、その負い目で珪に加担したのか……」
 
 そのとんでもない申し出に、瑠深は大きく動揺し、墨砥は諦めの入った表情で項垂れた。
 
 そして珪は八雲に対し、とても冷たい目で言い捨てる。
 
「──知ってますよ、そんなことは」
 
「!?」
 
「八雲おじ様が贖罪で僕の言いなりになっていることもね、もちろん知ってましたよ。都合が良かったので利用させてもらいました」
 
「そうか……」
 
 八雲は全てを諦めた。珪の心に巣食ったものは、己の命に変えても取り除くことができないことを悟った。
 
「でも、そうですね。せっかくの申し出ですからお受けしますよ。犀髪の結(さいはつのむすび)ではいらぬ調整をされて僕は少々むかついているのでね」
 
「……」
 それでも、差し出せるものはこれしか思いつかない。
 
「兄さん!やめて!」
 
「珪!」
 
 瑠深も墨砥もこの事態に絶望した。眞瀬木という家の業をこれほど後悔したことはない。
 
「サヨナラ、八雲おじ様──」
 
 無抵抗の八雲に向けて、珪は愉快そうに右手を振り上げる。
 
 だが、次の瞬間、その手は白く光る糸で縛り上げられた。
 
「!」
 
「やめろ……」
 
梢賢(しょうけん)ッ!?」
 
 姉に比べたら極弱い梢賢の糸は、それでも珪の右手を縛って動きを止めていた。梢賢は心の底から叫ぶ。
 
「もうやめてくれ!珪兄ちゃん!」
 
 だが珪は梢賢を見下して蔑んだ。
 
「離したまえ。どっちつかずの愚図が」
 
「そうや……結局オレは(すみれ)さんにも、ハル坊達にもいい顔して、その間をふらふらしとった。そのせいで菫さんは死んでもうた……」
 
「よくわかってるじゃないか。全てはお前が優柔不断だったからだよ」
 
「ふざけるな!梢賢くんは──」
 
 激昂しかけた永を制して梢賢は懺悔するように言った。
 
「ええんやハル坊。コウモリ野郎でも愚図でも、オレは何でもええ。ただ、里の皆を信じたかった。色んな人の機嫌とって皆が仲良くしてくれるなら、オレは裏切り者でも良かった」
 
「梢賢……」
 
 その気持ちは、瑠深が理解していた。
 藤生(ふじき)と眞瀬木の間で常に道化を演じて里の円滑な運営を図る雨都(うと)は、珪のように見下す者が多い。しかし中には瑠深のように好ましく思う者も確かにいる。雨都は、里での潤滑油のような存在だ。
 
「なあ、珪兄ちゃん!?もうやめよ、皆に謝ろ!オレも里の皆に謝る!雨辺(うべ)を調子づかせたのは確かにオレやから!珪兄ちゃんも謝ってくれ!そうしたら康乃様かて許してくれる!」
 
 梢賢の言い分は甘いことこの上ない。康乃もおいそれと同意する訳にはいかなかった。珪ももちろん切り捨てる。
 
「バカか、お前は!?謝ったら許すなんてのは子どもだけなんだよ!謝っても許されないことを、この里では誰もがしてるんだ!」
 
 雨辺の離反。
 藤生の嫁一家の自殺。
 眞瀬木灰砥の粛清。
 ──そして、雨都(うと)(かえで)の殉死。
 
「ああ、本当や……」
 
 梢賢は里で行われた多くの闇の深さを、今、思い知った。
 
「楓婆が言っとった「里はもう終わる」ってのは本当やった。けど!楓婆は終わらしたくないから、あないに頑張った!楓婆が首の皮一枚で繋げたモンをオレかて終わらせたくなかったんや!」
 
「梢賢……」
 
 梢賢は希望の子だと、雨都の誰もが産まれた時から思っていた。姉の優杞(ゆうこ)は正直言ってこのちゃらんぽらんな弟には荷が重すぎると思っていた。
 けれど、誰よりもそう思っていたのは本人だったのだろう。背負わされた期待とも宿命とも戦って、折れずにこうして珪に対峙している弟を優杞は誇りに思う。
 
「黙れ!他所者が大きなお世話だ!里のことは我々が考える!雨都も、雨辺も──藤生も!鵺人に成り果てた者には任せられない!!」
 
 梢賢の真っ直ぐで真摯な思いに怯んだ珪は、それを打ち消すべく頭ごなしに否定した。もはや珪に誠実な思いは届かない。
 
「先にその減らず口から閉じてやる……」
 
 梢賢の出した糸が時間とともに緩んでいく。自由を取り戻した珪の右手は梢賢へと狙いを定めた。
 
「梢賢くん!」
 
「──くっ!」
 
 蕾生を支えなければならない永は咄嗟には動けない。蕾生も疲れ果ててしまっていて同様だった。
 
「梢賢!」
 
 鈴心は恐怖のあまり悲鳴をあげる。梢賢は己の非力さに呆れて目を閉じた。







「──!!」
 

 チィイイイ……ッ!
 青い鳥が高らかに叫んで飛び回った。
 梢賢(しょうけん)に飛ばされた呪いの衝撃波は、対象に届く前に霧散した。

 

「──ッ!なんだ!?」
 
 呪詛を返された(けい)の手が赤く爛れる。激痛に顔をしかめて、珪はその術者を探した。
 
「お兄様!」
 
 鈴心(すずね)の希望に満ちた声が響く。
 青い鳥を差し戻し、その肩にとめた皓矢(こうや)が涼やかな顔で言った。
 
「込み入った話の最中に申し訳ない。僕の妹に血を見せる訳にはいかないのでね」
 
 どうやっても格好良くなる皓矢の言動は人智を超えているのかもしれない。(はるか)蕾生(らいお)は「お約束」を見せられた気分でシラーとしていた。
 
「そうか、お前は銀騎(しらき)!」
 
 やっと皓矢の存在に気づいた珪は忌々しいものを見る目で睨みつける。
 しかし皓矢は康乃(やすの)の方へ歩み寄って深々と一礼した。
 
「すみません、ご挨拶が遅れまして。銀騎(しらき)皓矢(こうや)と言います」
 
「貴方が──」
 
「銀騎の、次期当主……」
 
 康乃も墨砥(ぼくと)も唖然として皓矢の姿を凝視する。
 
「元はと言えば、銀騎が眞瀬木(ませき)家のご先祖に(ぬえ)の知識を与えたことが原因です。本当に申し訳ありませんでした」
 
 次いで皓矢は墨砥にも頭を下げた。
 
「更に言えば、銀騎が雨都家を呪ったことで麓紫村(ろくしむら)はここまで複雑な事情を抱えることになった。なんとお詫びしたらいいのか検討もつきません」
 
「銀騎の方、顔をお上げになって」
 
「は……」
 
 康乃は表情を少し緩めて穏やかに言った。
 
「最初のきっかけはそうでも、里の問題を大きくしたのは中の私達です。そうね……人間の業というものかしらね」
 
「恐れ入ります」
 
 殊勝な皓矢の態度に激昂した珪は、左手を振り上げて皓矢に術を飛ばそうとした。
 
「いいや!銀騎が悪い!詫びると言うならとことん詫びてもらおうか!」
 
「──」
 
 だが、皓矢が珪の方を一瞥しただけでその術は珪の顔の前で暴発する。その衝撃で珪は後ろに吹っ飛んだ。
 
「あああっ!」
 
「し、視線だけで──?」
 
 自身が強力な呪術師である瑠深(るみ)は皓矢の力を正確に感じ取り青ざめる。
 
「こわ……」
 
 それを見た永は何もそこまで実力の差を見せつけなくても、と皓矢の意地悪さに引いていた。
 
「くっ、おのれ、銀騎ィィイ!」
 
 このままで終われない珪は歯を食いしばって立ちあがる。その肩をポンと叩く者が突然現れた。
 
「いや、惜しかったですなあ」
 
「──!」
 
 何の前触れもなく、まるで最初からそこにいたような存在感で佇む男に、皓矢は緊張とともに身構えた。
 
「伊藤さん!?」
 
「まさか銀騎の若当主まで出張るとは計算外ですな、珪さん」
 
「う……」
 
 伊藤有宇儀(ゆうぎ)は以前見かけた時と同じ、黒いスーツに黒いハットを被ってにこやかに笑っていた。
 
「仕方ない、我々は手を引きますが──」
 
「そんな!ここまで来て!」
 
「貴方はどうします?」
 
「え?」
 
 まるで捨て犬のような目をした珪に、伊藤はほくそ笑みながら提案する。
 
「一緒に来るなら、歓迎しますよ?」
 
「お、おお……おお!では本当にメシア様はいらっしゃるんですね!?」
 
「──では、参りましょう」
 
 満足気にまた笑って、伊藤は右手で弧を描く。すると空中に真っ暗な穴のようなものが出現した。風がその穴の中に吸い込まれている。珪は躊躇いもせずに喜んでその穴に飛び込んだ。
 
「兄さん!?」
 
「行かせるか!」
 
「動くな!!」
 
 止めようとする瑠深と墨砥は、皓矢の怒号で動きを止めた。永達もここまで険しい表情の皓矢は初めて見る。
 
 その場の全員が緊張で硬直した。
 
「抵抗したら、皆、殺されるぞ……!」
 
 皓矢にここまで言わしめる伊藤の恐ろしさを誰もが感じ取った。
 
「さすがですな」
 
 伊藤はまだニコニコ笑って自らも穴に入った。
 
「さようなら、クズ達」
 
 伊藤とともに、珪も最後に嗤って消えていく。宙に浮かんでいた穴はそこで閉じられた。もはや何の気配もない。
 
「珪兄……ちゃん?」
 
 梢賢は呼んでも応えない姿を探す。もう何処にもいないのに。
 
「あ、ああ、ああああああああ!!」
 
 悲痛な叫びが空しく響く。

 
 
 突きつけられた現実を、誰もがまだ受け入れられずにいた。
 
 地面に落ちていた犀芯の輪(さいしんのわ)は砕けて砂となり、崩れていった。







 翌日の朝、(はるか)蕾生(らいお)鈴心(すずね)も疲れがとれない気怠さのまま起き出した。
 
「おはようございます」
 
 三人揃って居間に行くと、優杞(ゆうこ)が朝食を並べていた。
 
「おはよう。疲れはとれた?」
 
「まあ、だいたい」
 
 強がって少し嘘をつく蕾生に、優杞はいつものサバサバした調子で笑って言った。
 
「そ。じゃあ朝ご飯しっかり食べて回復しなさいね!」
 
 食卓にはいつもとはまるで違うメニューが並べられていた。肉の割合が凄すぎる。
 
「すごいご馳走です」
 
 鈴心が目を丸くしていると、蕾生は素直にテンションを上げて喜んだ。
 
「うまそうだ!」
 
「たまにはね。昨日はあんた達も頑張ったからね!」
 
 優杞が昨日負った怪我も軽傷ではないはずだが、そんな素振りを全く見せずに笑っていた。雨都(うと)家の女は強い。
 
「おはようございます」
 
「あら!」
 
 三人に遅れて皓矢(こうや)が顔を出す。その姿を見るなり、優杞は声の調子を半音上げた。
 
「昨夜は僕まで泊めていただいて、すみませんでした」
 
 皓矢は柊達(しゅうたつ)橙子(とうこ)に深々と礼をする。二人は少し居心地悪そうにしながら威厳を保ちつつ応えた。
 
「む……まあ、仕方なかろう」
 
「昨日の騒ぎを収めていただいたんです、当然ですよ」
 
「ありがとうございます」
 
 どこまでも堅苦しい両親に代わって、優杞は明るく皓矢に着席を促す。
 
「さあさあ、お座りになって!沢山召し上がってくださいね!」
 
「これはまた、豪勢な朝食ですね。有り難くいただきます」
 
「おらまあ、おほほほ!」
 
 有頂天な優杞の様子から、永と蕾生は朝食が豪華な真の意味を悟った。
 
梢賢(しょうけん)は……起きて来ないのでしょうか?」
 
 座りながら鈴心が心配そうに聞くと、楠俊(なんしゅん)も困ったような顔をしていた。
 
「うん、呼んだんだけど返事がなくてね」
 
「そうですか……」
 
 永と蕾生も続いて梢賢を思いやる。
 
「少し、そっとしておいてあげたほうがいいだろうね」
 
「そうだな……」
 
(けい)くんのことは本当のお兄さんみたいに慕っていたからねえ……」
 
 楠俊の溜息が重たい空気の居間に落ちる。最後まで信じたかった眞瀬木(ませき)(けい)の末路を考えると梢賢の心の傷は察するに余りある。
 一同は沈んだまま豪華な朝食をとった。

 
 
 食事が済むと、皓矢が柊達にあらたまって尋ねる。
 
「あの、藤生(ふじき)家を訪問したいのですがよろしいでしょうか?」
 
「ああ……雨辺(うべ)の子のことかね?」
 
 (あおい)は結局目を覚さないまま、昨夜は藤生(ふじき)康乃(やすの)に預けられた。
 
「ええ。(ぬえ)化後の容体が気になりますので」
 
「そうね。目覚めたという知らせもまだありませんから」
 
 橙子がそう承知したのを受けて、柊達は楠俊に命令する。
 
「楠俊、案内して差し上げなさい」
 
「わかりました」
 
「僕らも行ってもいいですか?」
 
 永がそう申し出ると、柊達はまた橙子の反応を気にする。
 
「……」
 
「構わないと思いますよ。あの子のことは今は貴方方が一番良く知ってるでしょうから」
 
「──では、皆で行ってきなさい」
 
 お墨付きをもらった皓矢と永達は楠俊に連れられて藤生家へと向かった。

 
 
 五人が出かけた後、橙子は片付けながら優杞に聞いた。
 
「梢賢はまだ寝てるの?」
 
「多分……」
 
「仕方のない子ね」
 
 肩で息を吐いた後、橙子は息子の部屋に向かった。


 

「梢賢」
 
 橙子はいつものようにノックもしないで襖を開けた。梢賢はベッドの上で布団を頭から引っ被って返事もしない。
 
「……」
 
「この暑い時期にますます暑苦しい。起きなさい」
 
「……」
 
 もぞもぞと動きはするものの一向に顔を見せない息子に、母は溜息を吐いた後厳しい声で言い放った。
 
「起きないとちょん切りますよ」
 
「ご、ごめんなさい!」
 
 ほぼ条件反射で起き上がった梢賢の顔も髪もくしゃくしゃで、目も赤く充血していた。
 
「全く情けない顔だこと。私は本当に息子を産んだのかしら」
 
「……」
 
 口をへの字に曲げて黙ったままの梢賢に、橙子はさらに厳しい言葉を浴びせる。
 
「男だからメソメソするなとは言わないけれど、お客様が大勢いらしているのに情けない姿を晒すことは許しませんよ」
 
「……ごめんなさい」
 
「お前はなんのために似合いもしない関西弁を使っているの?」
 
「え……?」
 
 橙子はゆっくり近づいてベッドに腰掛けた。
 
「この里から脱却するため、でしょう?威勢を張って自ら鼓舞するためではないの?」
 
「……」
 
「お前の大好きなお笑い芸人は、たとえ親が死んでも舞台に立って笑ってますよ」
 
「!」
 
 母の言葉に梢賢は驚いた。いつも馬鹿馬鹿しいと言っていた梢賢の好みに初めて母が理解を示してくれた。
 
 橙子は厳しい口調のままだったが、表情は少し優しかった。
 
「そうやって生きると決めたなら貫き通しなさい。雨都梢賢は、飄々としたお調子者で器用に立ち回る──そういうキャラクターなんでしょう?」
 
「母ちゃん……」
 
 だが優しくされて泣きべそをかきかけた梢賢に、橙子はすぐ苛ついて声を荒げる。
 
「立ち上がるか、ちょん切るか!3、2……」
 
「立ち上がります!!」
 
 それで梢賢は慌ててベッドから飛び降りる。橙子は満足げにしていた。
 
「それでこそ私の息子。そして楓が託した子です」
 
「オス!」
 
「駄洒落にしては面白くないわね」
 
「厳しいッ!」
 
 母の偉大さ、そしてありがたさを梢賢は噛み締めながら前を向いた。







 楠俊(なんしゅん)に連れられて藤生(ふじき)邸に着いた一同を迎えたのは剛太(ごうた)だった。
 
「おはようございます」
 
 皓矢(こうや)が挨拶すると、剛太は人見知りを発揮して所在なさげに戸惑った。
 
「あ──えっと……」
 
銀騎(しらき)皓矢(こうや)です。早い時間に申し訳ありません」
 
「剛太さん、おはようございます」
 
 皓矢の後ろから鈴心(すずね)が顔を出すと、剛太はたちまち顔を明るくさせて元気よく返した。
 
「あ!おはようございます!」
 
「……」
 
 その様子に、皓矢は笑顔のまま苛ついた。鈴心を狙う輩認定をしたようだった。
 
 (はるか)も皓矢の様子を見て、こいつと同じだとは、と複雑な気持ちになった。
 
「剛太、(あおい)のやつはどうだ?」
 
 そういう激しい心の攻防があったことなど全くわかっていない蕾生(らいお)が剛太に聞く。
 
「あ……あの子ならまだ目を覚ましてません」
 
「剛太様、こちらの銀騎殿は(ぬえ)化に関しては専門家です。診ていただいたらいかがでしょうか?」
 
「そ、そうですね!お祖母様に伺ってきます!」
 
 横から楠俊が付け足すと、剛太は弾かれたように中へ戻っていった。
 
 一同は玄関に取り残された形になったが、楠俊の計らいで奥の間へと進んだ。

 
  
「どうぞ、お入りになって」
 
 奥の間の襖を開けた康乃(やすの)は剛太に支えられていた。表情にはまだ疲れが滲んでいる。
 
「大丈夫ですか?相当お疲れなのでは?」
 
 永が気遣うと、康乃は力無く笑った。
 
「嫌ねえ、もう年なのかしら。情けないわね」
 
「いえ、昨日のご活躍を思えば当然だと思います」
 
「確かに。昨日は凄かったもんな」
 
 続けて鈴心と蕾生も口々に褒めると康乃は少し元気を取り戻したようだった。
 
「まあ、光栄だわ」
 
 康乃に促されて奥の間に入った一同は、そこで布団に寝かされて眠る葵に対面する。
 
「失礼します」
 
 入るなり皓矢が葵の側まで行き、その額に手を当てた。
 
「……」
 
「どうご覧になります?」
 
 康乃も元から座っていたのだろう、葵の枕元に敷いてあった座布団に座り直して皓矢に尋ねた。
 
「彼はずっとこの状態ですか?」
 
「そうね。昨夜は墨砥(ぼくと)が寝ずの番で見張ってくれていたのだけれど、特に変わったことはなかったそうよ」
 
「あ、眞瀬木(ませき)の人が来てたんですね」
 
 永が言うと、康乃は穏やかに頷いた。
 
「ええ。一晩何もなかったから、帰って自主的に謹慎しているわ」
 
「それは殊勝なことで」
 
 息子があんな事になったのに役目を忘れない墨砥の律儀さに、永は舌を巻いた。
 
「お兄様、どうですか?」
 
「……うん。キクレー因子は落ち着いているようだ。星弥(せいや)の状態と比べても変わらないように思える」
 
 集中して葵の様子を探っていた皓矢は、一旦手を離してから鈴心の問いに答えた。
 
 すると康乃が首を傾げて自身が耳慣れない言葉を反芻する。
 
「キクレー因子?」
 
「私の祖父が名付けたDNAで、(ぬえ)由来のものです。こちらでは単に鵺の妖気と呼ばれているものに相当します」
 
「まあ、そうなんですか。それがどなたのと変わらないって?」
 
「私の妹です。彼と同じくキクレー因子を保有していますが、永くんや蕾生くんのものと違って普段は因子が眠っている状態です。彼──葵くんの状態もそれに似ています」
 
 皓矢は躊躇なく説明した。
 星弥のことはぼかす事もできたのにそうしなかったのは、こうなった原因が少なからず銀騎(しらき)にもあることを皓矢が償いたいと思っているからだ。
 
「そうですか……では未だに目覚めないのは、精神的な?」
 
「かもしれません。聞けば母親が目の前で石化したとか。それが原因で鵺化したようですから、彼が心の整理をつけるまでは……」
 
「そう……時間が解決してくれるとよいのですけど」
 
 康乃は沈んだ面持ちで俯いた。







 鈴心(すずね)は気になっていたことを康乃(やすの)に聞いた。
 
「あの、(あおい)くんはどうなるんですか?」
 
「もちろん目覚めるまではここで看病しますよ。その後は藤生(ふじき)で暮らしてもらえたらと思っているけれど、彼の気持ちを尊重します」
 
「そうですか」
 
 鈴心が安心していると、今度は(はるか)が康乃に話しかける。
 
「あの、康乃さんはあの時(あい)ちゃんと話しましたよね?」
 
「ああ、あの子……」
 
 (ぬえ)化した葵を元に戻して消えていった少女の姿を康乃は思い出していた。
 
「僕らは彼女は葵くんの双子の姉だと思っていましたが、本当はイマジナリーフレンドだったのでは?」
 
「……かもしれないわね」
 
「なんだ、それ?」
 
 蕾生(らいお)が聞くと、永は手短に説明した。
 
「小さい子が、理由はそれぞれなんだけど、自分だけに見える友達を妄想して、あたかも本当に存在しているように振る舞うことだよ」
 
「それは、他人にも見えるもんなのか?」
 
「いや、普通は自分にしか見えない」
 
「じゃあなんで藍は俺達にも見えたんだ?」
 
 蕾生の疑問に皓矢(こうや)が自身の見解を述べた。
 
「もしかすると彼の中のキクレー因子が作用したのかもしれない。眞瀬木(ませき)(けい)によってその潜在能力を高められていたんだろうからね」
 
「キクレー因子はそんなこともできるんですか?」
 
 鈴心が驚いて聞くと、皓矢は眉を顰めて首を捻る。
 
「さあ……僕も初めて聞く症例だよ」
 
 すると康乃もまた自身の見解を述べた。
 
「私の想像なんだけれど、葵くんは本当に双子だったのかも。けれど片方は生まれる前に消滅してしまった。でもその魂は常に側にいたのかもしれない」
 
「そのお考えの方が合理的ではあります。雨辺(うべ)(すみれ)氏がいない今では確かめる術はありませんが」
 
 軽く頷きながら言う皓矢の後に続いて、鈴心が寂しそうに結んだ。
 
「菫さんは藍ちゃんのことは常に無視していました。彼女が実は存在しないことを知っていたんですね」
 
「そうだね……」
 
 永もしんみりと頷く。蕾生は鵺に変化していたけれど、あの場で藍が頑張ったことはちゃんと覚えていた。
 
 藍は確かに存在したのだ。真相はどうあれ蕾生達は覚えているし、何より葵の心の中に必ずいるだろう。

 
 
「その枕元にあるのは──?」
 
 皓矢が注目したのは、紫色の水晶のような石だった。無機物とは思えないほどの存在感を放つそれに皓矢は警戒せざるを得ない。
 
「ああ、それが石になった菫さんです。姿は変わっても我が子の側にいたいでしょうから」
 
「……」
 
 皓矢がしばしその石を見つめていると、部屋の外でバタバタと喧しい足音がした。
 
「すんません!すんませーん!」
 
「あの声は──」
 
 永はその声の持ち主をすぐに理解し、弾んだ声を出す。
 
「お邪魔しまああす!」
 
 大声で襖を開けたのは梢賢(しょうけん)だった。
 康乃は少し驚いたがやはり声を弾ませる。
 
「まあ」
 
「梢賢!静かに!」
 
「す、すまん!」
 
 怒鳴った鈴心もその顔は明るかった。
 
「梢賢くん」
 
「随分と寝坊だな」
 
 永も蕾生もニヤニヤ笑いながら揶揄った。
 梢賢は頭を掻きながら一礼する。
 
「いやあ、申し訳ない!──とと、葵くんは?まだ起きひんの?」
 
「ああ。彼の中のキクレー因子は落ち着いているから、後は心の問題だね」
 
 皓矢にそう言われて少し安心した梢賢は、実にふっきれた顔で宣言する。
 
「ほうか……でもちょうどええわ!葵くんにも聞いてもらわな!」
 
「?」
 
 蕾生達が首を傾げていると、梢賢は康乃に向かって土下座した。
 
「康乃様!」
 
「なんです?」
 
「この度は本当に申し訳ありませんでした!雨辺が暴走したのはオレのせいです!」
 
「まあ」
 
 康乃は少し目を丸くして梢賢の話を聞いていた。
 
「ここまでのことしといて、何言うてんねん思わはるかもしれませんけど、昨日の件で墨砥(ぼくと)のおっちゃんと瑠深(るみ)には何の落ち度もありません!」
 
「そうねえ」
 
「ですから眞瀬木(ませき)の責を負うのはオレにお願いします!」
 
「……具体的にはどう責任を取ると?」
 
 少し厳しい声で康乃が尋ねると、梢賢は伏せていた顔をガバと上げてハッキリ言った。
 
眞瀬木(ませき)(けい)は、オレが首根っこ掴んで連れ戻し、必ず康乃様の前に土下座させます!」
 
 それは、梢賢が新たに立てた誓いだった。
 
「梢賢……」
 
 蕾生はそれを聞いて安心し、永は変わらずニヤニヤ笑い、鈴心は安堵の溜息をもらす。
 
「ですからどうか!眞瀬木墨砥、瑠深、並びに八雲(やくも)を放免してください!」
 
 真っ直ぐに康乃を見て訴える梢賢の瞳には揺るぎない光が宿っていた。
 
「いいでしょう」
 
 康乃は満足げにニコニコ笑って頷いた。永は相変わらずこのおばちゃんは軽いなあ、と苦笑する。
 
「ありがとうございまっす!」
 
「おい、梢賢」
 
「何や?」
 
 蕾生もその晴れた顔を讃えた。
 
「見直したぜ」
 
「──おう!」
 
 戯けるでもなく、含みがあるわけでもない、心から笑う梢賢の顔を蕾生達は初めて見た気がした。