「オレが君らをここに呼んだ理由なんやけど」
「話題が変わるほどなんですか?」
梢賢が少し勿体ぶって言うと、永は目を丸くして聞いた。
「うーん、君らの運命に比べたら、サイドストーリーで外野が騒いでるみたいなもんやねん」
「と言うと?」
鈴心も少し身を乗り出して聞くので、梢賢は満を持して──といった体で語り始める。
「雨都の分家に雨辺っていうのがあんねんけど、知ってる?」
「雨辺?」
「初めて聞きました」
永も鈴心も顔を見合わせて首を傾げた。
「楓婆もそこまでは言ってなかったんやね。まあ、身内の恥みたいなもんやから」
「その雨辺がどうしたんだよ」
話の機微など関係ない蕾生が続きをせかす。
「うん、実は雨都と雨辺は犬猿の仲でなあ。雨辺にも関わるとばあちゃんにこっぴどくやられんねん。でも、今の雨辺にはちょっと放っておけない親子がおってな……」
「何故仲が悪いのか聞いても?」
永の質問は想定通りだった。梢賢は頷きながら丁寧に説明していく。
「そやな、そっから話さんとな。君らも知っての通り、ウチは昔に銀騎からの呪いを受けて雨都に改名した後、身を隠した」
「そこが麓紫村ですか?」
鈴心の問いにも頷いてさらに梢賢は続ける。
「そうや。麓紫村──内部のもんは里って言うてるんやけど、里の説明は追い追いするとして、ウチは里の長に匿ってもらう形で住み始めた。雨都って名前も里長がつけてくれたんや」
「うん、なんとなく楓サンの口ぶりからそんな感じかなとは思ってた」
「ほうか、ハル坊は賢いんやな。で、雨都はその時には既に鵺を忌み嫌うまでになってた。けど、そういう極端な感情っちゅうのは時に真逆の感情も生む」
梢賢の話に引き込まれながら蕾生は首を傾げた。
「真逆?」
「簡単に言うと、鵺こそ神だー!って言う奴が雨都の親族の中に現れた」
永はそれまで遠慮がちで聞き役に徹していたけれど、それを聞いて眉を顰めあからさまに嫌悪を表した。
「まま、ハル坊の気持ちはわかる。けどな、団体っていうのはそういう異端を生むもんなんや。ましてや里から一歩も出られず、自由を制限された団体ならな」
梢賢の言葉は少し抽象的だったけれど、鈴心には充分伝わっているらしく、残念そうに俯いた。
「つまり、雨都の中に現れた異端が雨辺?」
永の理解は早かった。
梢賢は満足げに頷く。
「そう言う事。結局雨辺は里を出て行った。鵺を信仰する目的でな」
「どこに行ったんです?」
「当時の隣村。今のここや──高紫市」
「ちかっ」
すぐ足元を指差すように表現した梢賢の言葉に、鈴心も蕾生も驚いていた。
「隣村なのには理由があんねん。どうも里の誰かが雨辺を支援してるらしい」
梢賢としてはこの話題の肝はここだった。三人とも続きを知りたがるに違いないと思っていたのだが、永と鈴心の反応はその上をいった。
「ははあ、なるほど。と言うことは麓紫村にも鵺を信仰する人達がいる──つまり麓紫村は一枚岩じゃないんだね」
「麓紫村は雨都の全面的な味方という訳ではなくなっているんですね?」
そういう展開になるには、梢賢の予定では三ラリーほど後のはずだったのに。
「え、ちょっと、なんでそこまでわかるのん?怖いっ、この子達怖いわ!」
「楓から以前に少し聞いていたので、それと今の話とを照らし合わせただけです」
鈴心が涼しい顔で答えたが、永は更に思案し始めていた。
「あの時楓サンが言ってたのはこの事なのかもしれないな」
「里に限界が来てるってやつか?」
蕾生の言葉を材料に、さらに永は考察する。
「そうなると麓紫村そのものも気になるな。いくら雨都が持ち込んだからとは言え、鵺の存在を信じるだなんて。もしかして元からそういう素地があるんじゃない?」
「ええー……、鋭すぎるわあ……。オレ今どん引きしてんねんけど」
一を聞いて十を知るとは正にこの事か。梢賢は薄ら寒さすら覚えていた。
「やはりそうなんですか?」
「結論からいくと頷くしかないわあ。ただ、その辺の説明は里に行って、実際に見てもらった方がわかりやすいかなあ。──あ、わかりやすいんちゃうかなあ」
動揺し過ぎた梢賢は関西弁を忘れるような始末で、その様子に永は思わず苦笑した。
「話題が変わるほどなんですか?」
梢賢が少し勿体ぶって言うと、永は目を丸くして聞いた。
「うーん、君らの運命に比べたら、サイドストーリーで外野が騒いでるみたいなもんやねん」
「と言うと?」
鈴心も少し身を乗り出して聞くので、梢賢は満を持して──といった体で語り始める。
「雨都の分家に雨辺っていうのがあんねんけど、知ってる?」
「雨辺?」
「初めて聞きました」
永も鈴心も顔を見合わせて首を傾げた。
「楓婆もそこまでは言ってなかったんやね。まあ、身内の恥みたいなもんやから」
「その雨辺がどうしたんだよ」
話の機微など関係ない蕾生が続きをせかす。
「うん、実は雨都と雨辺は犬猿の仲でなあ。雨辺にも関わるとばあちゃんにこっぴどくやられんねん。でも、今の雨辺にはちょっと放っておけない親子がおってな……」
「何故仲が悪いのか聞いても?」
永の質問は想定通りだった。梢賢は頷きながら丁寧に説明していく。
「そやな、そっから話さんとな。君らも知っての通り、ウチは昔に銀騎からの呪いを受けて雨都に改名した後、身を隠した」
「そこが麓紫村ですか?」
鈴心の問いにも頷いてさらに梢賢は続ける。
「そうや。麓紫村──内部のもんは里って言うてるんやけど、里の説明は追い追いするとして、ウチは里の長に匿ってもらう形で住み始めた。雨都って名前も里長がつけてくれたんや」
「うん、なんとなく楓サンの口ぶりからそんな感じかなとは思ってた」
「ほうか、ハル坊は賢いんやな。で、雨都はその時には既に鵺を忌み嫌うまでになってた。けど、そういう極端な感情っちゅうのは時に真逆の感情も生む」
梢賢の話に引き込まれながら蕾生は首を傾げた。
「真逆?」
「簡単に言うと、鵺こそ神だー!って言う奴が雨都の親族の中に現れた」
永はそれまで遠慮がちで聞き役に徹していたけれど、それを聞いて眉を顰めあからさまに嫌悪を表した。
「まま、ハル坊の気持ちはわかる。けどな、団体っていうのはそういう異端を生むもんなんや。ましてや里から一歩も出られず、自由を制限された団体ならな」
梢賢の言葉は少し抽象的だったけれど、鈴心には充分伝わっているらしく、残念そうに俯いた。
「つまり、雨都の中に現れた異端が雨辺?」
永の理解は早かった。
梢賢は満足げに頷く。
「そう言う事。結局雨辺は里を出て行った。鵺を信仰する目的でな」
「どこに行ったんです?」
「当時の隣村。今のここや──高紫市」
「ちかっ」
すぐ足元を指差すように表現した梢賢の言葉に、鈴心も蕾生も驚いていた。
「隣村なのには理由があんねん。どうも里の誰かが雨辺を支援してるらしい」
梢賢としてはこの話題の肝はここだった。三人とも続きを知りたがるに違いないと思っていたのだが、永と鈴心の反応はその上をいった。
「ははあ、なるほど。と言うことは麓紫村にも鵺を信仰する人達がいる──つまり麓紫村は一枚岩じゃないんだね」
「麓紫村は雨都の全面的な味方という訳ではなくなっているんですね?」
そういう展開になるには、梢賢の予定では三ラリーほど後のはずだったのに。
「え、ちょっと、なんでそこまでわかるのん?怖いっ、この子達怖いわ!」
「楓から以前に少し聞いていたので、それと今の話とを照らし合わせただけです」
鈴心が涼しい顔で答えたが、永は更に思案し始めていた。
「あの時楓サンが言ってたのはこの事なのかもしれないな」
「里に限界が来てるってやつか?」
蕾生の言葉を材料に、さらに永は考察する。
「そうなると麓紫村そのものも気になるな。いくら雨都が持ち込んだからとは言え、鵺の存在を信じるだなんて。もしかして元からそういう素地があるんじゃない?」
「ええー……、鋭すぎるわあ……。オレ今どん引きしてんねんけど」
一を聞いて十を知るとは正にこの事か。梢賢は薄ら寒さすら覚えていた。
「やはりそうなんですか?」
「結論からいくと頷くしかないわあ。ただ、その辺の説明は里に行って、実際に見てもらった方がわかりやすいかなあ。──あ、わかりやすいんちゃうかなあ」
動揺し過ぎた梢賢は関西弁を忘れるような始末で、その様子に永は思わず苦笑した。