「雄介、あんたまたパチンコ行くの!?いい加減自分の人生について考え直したらどうなの?」
「うるせぇな、俺の人生に口出ししてんじゃねーよ!」
「あなた、本当にこのままでいいの!?お母さんもお父さんもずっとこの世にいるわけじゃないんだから、そのことちゃんと理解しなさいよね?」

俺は佐々木雄介。見てのとおり絶賛ニート中の25歳だ。1度は高卒で就職したのだが会社の先輩同期とウマが合わずに揉め、感情任せで退職してしまったなんともまあ、情けない男だ。そんでそれからはやりたいことも特になく、パチンコに行っては家に帰って寝るような生活。マジで絵にかいたような堕落人生だ。

ついさっき母親と揉め、いらいらしながらもパチンコ屋に向かっている途中だ。本当は母親の言ってることが正しいことくらい、内心ではちゃんと理解している。けど会社員時代のトラウマなのか俺自身のプライドなのかが、「変わりたい自分」を妨げようとしてくる。

そんな時だった。ふと後ろから声がしたような。

「あんちゃん、またおかあちゃんとケンカしてストレス解消のためにパチンコ打ちに行くんやな」
「あぁ、まじでむしゃくしゃするz…は?」

思わずびっくりした俺は、素早く後ろを振り返る。誰だ今の…!?しかし声はすれど姿は見えずだ。だがそれ以上にびっくりしたのは自分の本音をばっちり正確にいい当てられたことだ。焦りながら周囲を見渡しているとまた声が聞こえてきた。

「はっはっは、どこ見てるねん、ここやで」
「な…!?」

今度こそ姿をとらえた。なんと声の主は人間ではなく、よく見るようなタヌキだった。帽子に酒の瓶と将棋の駒(?)を両手に持っており、どこかの地域ですごく有名なタヌキそのものだった。しかも喋っているということに俺は理解が追いつかない。そうして頭が混乱している最中に、タヌキはさらに話しかけてきた。

「あんちゃん、人生行き詰ってて困ってるみたいやな。良かったら自分が相談に乗ろうか?」
「その前に、なんだよお前?いきなり俺の前に現れただけでなく、現状まで言い当てやがって。」
「これは失礼。自分はタヌキ。ただのタヌキや」
「いや宙に浮きながら喋るただのタヌキなんかいるかよ…」

思わず俺は突っ込んだ。しかしこいつはそんな扱いは慣れているのか、軽く受け流しやがった。

「あんちゃん、ところで旅は好きか?」
「あぁ?いきなりなんだよ?」
「旅好きかって聞いてんねん。逆質問はあかんで?」

まじで調子狂うなこいつ…。そんな質問してなんの意味があるっつってんだ。

「まあええわ。旅好きってことにしといたるわ。というわけでな、えいっ!」

バチッ!!

「いって!?おい、何しやがったこの野郎!」

突然俺の体に電気が走るような痛みが伴った。こいつほんとにふざけに来たのか!?いいぜ、ならぶっとばしてやる。

「おい、やりやがったなお前?」
「はっはっは、ごめんごめん。ちょい痛かったかな。まあ自分が今何したかは、明日になったら分かるわ」
「わけのわかんないこと言ってんじゃねぇぞ?殴ってやるからツラ貸せ。」
「ええけど、多分自分のことは殴れないと思うで。」
「あぁ?あんま調子乗ったこと言ってんじゃ…」

そして俺が殴ろうとしたが、まるでそれはむなしくも空を切った。!?こいつ…どうなってやがる?

「言ったやろ?殴れないってな。あとなあんちゃんのおかあちゃんが言ってたように、もうパチンコなんかやめとき。これ以上人生壊したくなかったらおとなしく踵を返して家に帰って、早く寝る準備しぃや」
「てめ、この…!?」

その次の瞬間、やつは急に姿を消した。まじで何だったんだ今の…!?え、夢…じゃない。すごいイライラしているという状態がはっきり認識できているんだから。おまけにさっき殴ろうとした感触が消えていない。もしかしてずっと働いていなくてついに頭おかしくなったのか俺は…いや、元から頭おかしいか。

正直さっきの胸糞悪い出来事のせいでパチンコに行く気も無くした俺は、そのまま家に帰ることにした。…なんかあいつの言うとおりにしてるみたいですごく癪に障るが、まじでやることのない俺は、そうするしか選択がなかった。

そして翌日になり、俺は自分の体の状態を鏡などで確かめた。あのタヌキは「明日になったらわかる」とか言ってたが、どうせ嘘だと思いながらも一応確かめてみる。…うん、やっぱなんもないな。はっはっは、何が明日になったら分かるだ。実にばかばかしい。…と思っていられたのも今日の朝まで。昨日のアレが俺の人生を天地がひっくり返るほど激変させることになると気づいたのは、少し先の話。