私は高田未来、都内に住む23歳OL。私は物心ついた時からファンタジー系の物語が好きで、いつか現実から逃げ出してファンタジーの世界に永住したいと何度も思っていた。そしてその気持ちは今でも変わらない。

またファンタジー世界がそれだけ好きなせいか、毎晩幻想的な世界で知らない人と飲んだり、遊んだりしている夢を毎晩見る。もうここまで行くと重症レベルと周りからは思われるかもしれないけど、私はこの夢を毎晩見るのが最近の楽しみだ。それとは対照的に現実世界での会社勤務は、はっきり言って全然楽しくない。毎日やりたくもない仕事を延々とこなしては、上司から怒号が飛び交う毎日。辞められるものなら今すぐ辞めたいくらいだ。

そしてそんな憂鬱な仕事が終わって夜になり、また例の夢を見る時間が来た。さて今日はどこへ遊びに行こうかな?確か昨日の夜は居酒屋に行ったし、今日は少し気分を変えてライトアップされた桜の近くで涼みに行こうかな?そんなことを考えつつもライトアップされた桜に向かう。この場所は繁華街と違って閑散としているため人はめったに来ないのだが、今日はちょっと違った。

「お~珍しいなぁ。こんなとこに人が来るなんて~」
「…。」

見るといかにも酔っぱらっている、喋るタヌキが先客としていた。そもそも酒で酔っぱらう喋るタヌキなんて到底ありえない話だが、ここはそんな常識は一切通用しない夢の世界なので私は何も思わない。今までにも喋る系の動物はたくさん出会ってきた。オオカミにウサギに、それからおサルさんやらキリンさんなど…。ちなみに私と同じ、見た目ごく普通の人間もたくさんいる。

「なんやぁ~、嬢ちゃんもここにはよく来るんかぁ?」
「いえ…基本は繁華街で遊んでいるのですが、たまにはこうした場所でリラックスするのもいいかなと思いまして」
「そうなんかぁ~。ところで嬢ちゃん、なかなかかわええ顔してるけど、名前はなんて言うんやぁ?」
「名前ですか…私は未来って言います。」
「未来ちゃん…ええ名前やな~。にしてもここはほんま楽しい場所やな~。自分はずっとココに居たいわ~」
「…!!」

その言葉を聞いて私の中で何かが始まる音がした。そして次の瞬間、気づいたら私はこんなことを口にしていた。

「わ…私も、ずっとこの世界で暮らしていたいです!できることなら、もう二度と現実世界には戻りたくないです!だから、タヌキさんの気持ち…すごくわかります!!」

勢いで言ってしまったため、自分でも急に何言ってるんだと思い、恥ずかしくなった。すると喋るタヌキは急に笑い出した。

「がははははは!嬢ちゃん急に勢いつけて何言いだすかと思えば、めっちゃおもろい事言うなぁ!ええでええで、自分そういうおもろくて変わった人好きやからな!」

それは私のこと馬鹿にしてるのか…?と一瞬思ったが、なぜか悪い気はしなかった。そして喋るタヌキは、言葉を続けた。

「嬢ちゃんはなんでそんな風に思うんや?なんでずっとこの世界にいたいって言うんや?」
「それは…今の現実世界が辛くて、ここに逃げたいからです。」

思ったことをそのまま口に出すと、タヌキはアドバイス(?)をした。

「それならな…現実世界ですぐに行動を起こさないとあかんな」
「え…?」
「そんじゃ、自分はもう帰るわ。じゃあな嬢ちゃん、またどっかで会おうや」
「あの、ちょっと待って…」

気づいたらタヌキは忍者のようにドロンと姿を消した。何だったんだ今のはと思いつつも、私は最後に言われた言葉を反芻し続けていた。すると、急に視界が歪み始めた。あぁ、これはまもなく目が覚めて現実世界に戻る合図か…。嫌だなと思いつつも視界はどんどん歪んでいく。本当はもっとここでぼーっとしたり、この後も居酒屋で飲みに行きたかったのにな。仕方ない、また次の夜もここへ来よう。

そしてさっきのタヌキのアドバイスの意味を理解することになるのは、先の話である。