次の日、帰宅して郵便受けを見ると、差出人の名も宛名もない一通の手紙が入っていた。

もしかしたら、音海からかも知れないと淡い期待を抱いていたが、次の瞬間それは粉々に砕け散った。

手書きのアルファベットの筆記体で、急いで書いたような文字だった。目に入ったのは、ローマ字で記された自分の名前。

胸騒ぎがして、息が止まりそうになった。

スマホの翻訳アプリを開いて、辿々しくアルファベットを打っていく。訳を見た途端、衝撃が走った。

“計画の変更 プランD H計で行く事 早急に応戦準備 Minase 変更 直ちに去り、本部まで“

どうやらそれはスペイン語のようで,癖のある文字が不安を煽る。

いや、まさか。ただの悪戯だろう。令和の今にこんな悪戯とは随分時代遅れだが,無視すればいいんだ。

もしも、もしもこれが故意に、何かを伝えようとしているものならそもそも郵便受けに投函したりはしないだろう。

何となく、捨てるのを躊躇った水無瀬は、それを自室の机の中に入れておいた。

家にはまだ誰もいなかった。何だか,急に睡魔に襲われて,ベットに倒れ込むようにして眠った。

頭がぼーっとして、だんだん熱くなってきているのを感じる。心なしか,耳鳴りもしてきた。

音海がいなくて、良かったと思う。風邪なんかうつしたら,すぐに____ぐずぐずになってしまいそうだ。

つけた画面は眩しくて、目がチカチカした。まだ1時で自分が風呂に入らず寝落ちしていた事に気づく。

せめて、清潔感だけは保ちたいという発生源のない謎のプライドがあったので,着替えを持って風呂場に直行した。

脱いでいると,玄関から物音がした。昨日までずっと侘しくて気がかりだったのに,体調のせいか、最悪なタイミングだと思ってしま

う.逃げるようにして浴室に入る。

ずっと前,玄関から入ってこないのにどうやって入ってくるのかを尋ねると,「大体__9割は窓から」と返ってきた。

「だろうね。でも、誰も入ってきていない家に物音がすると幽霊でも出てきた気がして,落ち着けないんだよ.玄関からだと,どうして

もダメ?」

そう聞くと,答えが返ってきた.

「玄関からだと、音がするだろ。」

「そうだね。なんかダメ?音が嫌い?」

「気づかれると面倒になるし__」

「何それ,こっちは首を長くして待ってるのにさ,」

自分でも,こんなセリフが出た事に驚く.水無瀬の気づいていない心のどこかで,音海が家にいない,一人の時間を寂しく思っていたの

だろうか。