塾の帰り、外は土砂降りの雨が降っていた。

ザー、という、雨水が地面に打ちつける音に嫌悪感すら感じる。

そして、水無瀬は大変な事に気づいてしまった。

傘、折り畳み傘しか持ってきてない____

折りたたみでも普段は普通の傘と変わりはない。しかし。

この貧弱な折り畳み傘が、叩きつける大量の雨水と強風に耐えられるとは思えない。

ないものはないし、四次元ポケットも持っていないので仕方なく小さな折り畳み傘を開いた。


凹みに溜まった雨水を踏まないように俯いて歩いていたら、ある大きな水たまりに一つの影が写っていた。

大きな水溜まりの中でしゃがみ込んだ人影は、自分と同じ制服を着ていた。

もしかして、知り合いかもしれない

そう思って、彼を見た水無瀬と、彼が振り向いたのは同時だった。

知らない顔だった。何となく、記憶の奥深くまで探したら見たことのありそうな気もしたが、

今思い出すべきではない、と勘づいた。

胸には、水無瀬と同じ青いネクタイをしていたからきっと同級生なのだろう。

あれ、と首を傾げても、彼は目を離さなかった。

沈黙の中、雨の中で二人きりというシチュエーションは、よくある別れ話で会話が途切れてしまい、気まずくなったカップルのうちの一

人になってしまった気持ちになる。

「傘、ないの?」