そして相棒と言える俺のメインの武器は壁に立てかけてある両手、片手両用の大剣バスタードソードだ。

斬ることも突くこともできる万能タイプの剣で、重武装の相手には片手による刺突で、軽装の敵は両手で持ちパワーで薙ぎ払う。

取扱いにそれなりの筋力と修練を要するが、それに見合うだけの価値がある武器だ。

このバスタードソードは刀身に柄、はては鞘にいたるまでが全て漆黒に染まっているがこれは別に俺の趣味というわけではない。

最後にハンガーにかけてあるマントを羽織ろうとしたとき、扉の外からキルシュが呼びかけてきた。

「ザイ、準備はいい?」

「はい、お待たせしました」

装備を整えて納戸から居間に出ると、キルシュも装備を終えていた。

若草色のローブにマントという軽装だが、布地には金糸による見事な刺繍が施されておりキルシュの色白の肌によく合っている。

そして右手には、彼の身長並みの長さがある木製の杖が握られている。

この世界の中心にあるという伝説の世界樹ユグドラシルより与えられた枝の一本から創られたそれは、魔法文字と呼ばれる金色のルーンがびっしりと刻まれている。

アーティファクトと呼ばれる魔法の遺物である。

魔法は魔術の域をはるかに越えた奇跡を発現する魔の法則であり、現代の魔術師では再現することのできない強大な力を秘めている。

それが証拠にこの杖はすでに千年を超えて存在しているが、傷一つなく籠められた力の減退も一切ないという。

現代の魔術師の技術では、魔を帯びた品を作るだけでも大変な労力が必要な上に、その力は百年を待たずして失われてしまう。

今から千年以上も昔にこの世界に栄えていた古代魔法帝国アヴェルラーク。

その最高峰に位置した“魔法使い”に創られた遺物だけがアーティファクトと呼ばれるのだが、最近の冒険者たちの間では、遺跡から発掘された魔法の品全てがアーティファクトと呼称されるようだ。

ドラウプニルと呼ばれるこの杖に果たしてどのような力が秘められているのか、その全貌は不明だ。

それはまだキルシュから教えてもらっていないことだが、彼が俺に教える必要がないと判断していることをわざわざ訪ねるつもりはないし、知る必要性も感じない。

分かっていることは彼の装備はどれもアーティファクトであり、ローブ一つとって金属鎧並み(もしくはそれ以上)の防御力を誇る

キルシュは俺の装備をまじまじと見つめて、感想を口にした。

「その姿を見るといつも思うけど、完全武装した時って全身黒づくめになるよねザイ」

「ゴルトベルク先生から戦士が戦場で目立つ必要はない。確実に敵を倒すことだけを考えろと言われていましたからね。屋外で身を隠すときにも役立ちますから、先生が選ぶ色はいつも黒系統でした」

俺の装備の大半は先生から譲り受けたものだ。

農村出身で冒険者上がりの護衛士である俺には、装備を整える金しかなかったため実用的であればデザインや衣装などはどうでもよいと特に気にもしてこなかった。

「ボクはその色好きだよ。ザイにとっても似合っててかっこいいからね」

え……?

俺のことが好きなのではなく黒い色が好きと言っていることはわかっているが、それでも彼から好きといってもらえただけで胸がときめく。

「あれ、ザイ顔が赤いよ? もしかして風邪を引いたのかな。薬処方してあげようか」

「い、いえ、大丈夫です。なんでもありません」

自然に声が上がってしまったが、どうしようもない。

「そう? 無理すると良くないからね。本当に体調が悪いならすぐ言ってよ」

「はい、大丈夫です。さぁ、そろそろ出立しましょう」

とりあえずここは誤魔化して先に進むしかない。

護衛士として仕える立場である俺が、主である魔術師のキルシュにこの気持ちを告げるわけにはいかないのだから。

ティツ村の周辺にはナラなど広葉樹の木による森が広がっている。

そしてドングリはリスや鳥、そしてイノシシなど森に暮らす動物たちにとって栄養豊富な食料資源である。

村人たちにとっても、ナラの木は家具などに使う木材として重宝されている。

準備を終えた俺たちはヴァンキッシュに襲われたであろうイノシシの死骸が発見されたという地点を目指して、森に分け入っていた。

「この森を見ていると、ちょっと親近感が湧いてくるね」

ごつごつとして大きく広がった枝をもつナラの木を目にして、穏やかな表情を浮かべるキルシュが俺に向けていった。

「親近感、ですか?」

「ボクたちエルフは森の神から創り出された存在だからね。本来は文明よりも自然を愛するようにできている。人間が文明を築きあげていく間、ほとんどのエルフは太古の森に引きこもり外の文明と交わろうとはしなかった」

「……」